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  作者: たかはしえりか
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駅前でビールを買って帰り、私の部屋で改めて乾杯をした。

「壮太、ありがとう。おじいちゃんがこんなに早く退院出来たのは壮太のおかげだよ。家族以上に親身に面倒みてくれたもんね。本当に感謝してる。ありがとね」

私が頭を下げると、壮太は

「よせよ。お礼を言うのはオレの方なんだから」

と言って、おでこをつっついた。

「なんで?」

「実はオレ、おじいさんの為じゃなくて、自分の罪ほろぼしのつもりでやってたんだ」

「罪ほろぼし?」

「うん。ばあちゃんとじいちゃんに何もしてあげられなかったから」

「そうなんだ」

「オレ、ひねくれた可愛げのない子供でさ、ばあちゃんが病気になった時もじいちゃんの時も心配でたまらなかったけど、それを素直に表わす事が出来なかったんだ。それどころか、わざと邪険にして傷つけた」

壮太は天井を見上げて、大きなため息をついた。

「死んだ時も泣けなかった。もちろん悲しかったよ。だけど、自分には泣く資格がないと思ったんだ。ひどい事したから。ばあちゃんは足が悪くて、腰で反動つけながらゆっくりゆっくり歩くんだ。その事でからかわれるのがイヤで、オレ、恥ずかしいから離れて歩いてくれ、なんて言っちゃったんだ。あの時、辛そうに笑ったばあちゃんの顔、忘れられないよ。あんなに可愛がってくれて、大好きだったのに、それを伝える事が出来なかった」

私は何も言えなくて、壮太のグラスにビールを注いだ。

壮太はそれを一気に飲み干した。

「小学校入学間際にばあちゃんが亡くなって、オレはじいちゃんに引き取られたんだ。じいちゃんとは五年生まで一緒だった。男手ひとつで誰の助けも借りずにオレを育ててくれたんだよ。じいちゃんの家はあの葬祭場からもっと山の方に入った所にあって、人口が少ないから殆どみんな知り合い同士なんだ。オレどうしても町になじめなくてさ、自分から進んで仲間外れになってた。じいちゃんは昔小学校の校長をしていて教育熱心な人だったけど、勉強の事以上にオレが友達も作らず家に閉じこもってばかりいる事を心配して、外でする遊びを教えてくれたり、キャッチボールに付き合ってくれたりしたんだ」

「じゃあ野球が好きになったきっかけはおじいさんなの?」

「うん。大相撲もそうだよ」

「私もおんなじ。そう言えばウチのおじいちゃんも定年前は小学校の校長先生だったんだよ」

「そうなの?」

「もう十年くらい前の話だけどね」

「でも今もその雰囲気はあるね」

「そう?」

「においというか・・・。おじいさんに初めて会った時、なぜかとても懐かしい感じがしたのはきっとそのせいだったんだな」 

「ふうん」

「えり子はおじいちゃん子だったの?」

「そうだよ。いつも兄貴とおじいちゃんの取り合いっこしてた」 

「へえ。じゃあ今回抵抗なく、下の世話とか出来た?」

「そうだねぇ。全く抵抗がなかったと言えば嘘になるかな? そういうおじいちゃんの姿を見たくないっていうか・・・。でもおじいちゃんの方がもっとイヤだろうから、なるべく淡々と済ませるようにしてたけど」

「えらいな。オレは自分のじいちゃんの時、全然出来なかった」

「だってまだ子供だったでしょ? しかたないよ。私はもういい大人だし、たまに姪や甥のオムツ替え手伝ったりして、ある程度慣れてるから大丈夫だけど、もし子供で、いきなり尊敬してるおじいちゃんがオムツしたり、ポータブルトイレ使うようになっちゃったら、ショックですぐには受け入れられなかったと思うよ」

「オレのじいちゃんは寝たきりに近い状態になってもオムツを頑なに拒否して、亡くなる直前まで、どうにか自力でトイレに行っていたんだ。だから時々は間に合わない事もあったんだよ。そういう時、オレ、殊更にキタナがったんだ。ホントはそれほど汚いと思ってるわけじゃなかったのに、一度なんか、じいちゃんの背中を思いっきり叩いちゃってさ。出来る事なら時間を戻したいくらい、後悔してるよ」

銀縁メガネのわきから涙が一筋流れた。

「その事を謝るタイミングがないまま、何日か経って、ある日学校から帰ったら、じいちゃんが廊下に倒れてたんだ。いくら呼んでも起きなくて、一人で救急車呼んで、すごく心細かった。これからはいい子になります、じいちゃんにも優しくします、だからじいちゃんを死なせないで下さいって、心の底から神様に祈ったよ。でもじいちゃんの意識は戻らず、親父の到着も待たずに逝ってしまったんだ」

「そうだったの」

「だからえり子のおじいさんの看病を手伝いながら、心の中で何度もじいちゃんとばあちゃんに謝ってたんだよ」

「壮太の気持ち、きっと天国のおじいさんとおばあさんに届いてると思うよ」

私はそっとティッシュの箱を渡した。

壮太は鼻をチーンとかんで、ちょっと笑った。


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