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  作者: たかはしえりか
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肌を合わせたせいなのか、それともお互いクイズ好きと判明したからかは正直な所わからないけれど、とにかく壮太と過ごす時間は以前よりずっと増えた。

私はクイズ好きと言っても、元々スポーツ芸能ネタとサブカルチャーと文学以外の問題が出るとお手上げだったのだが、壮太にバカにされたくないが為に新聞を取り始め、政治経済面も読むようになった。

壮太は全般的に穴がなかった。

意外と負けず嫌いで、たまに私の正解数が上回った時には本当にくやしそうな顔をした。

あひるっぽい唇を尖らせて拗ねたように私を見る顔が本当に可愛らしかった。

ウィークデイに放送されるクイズ番組もそれぞれの自宅で電話をしながら見て、答えを言い合った。

時々夜中に電話が鳴った。

最初の頃、もしや実家で何かあったのでは?と恐る恐る出ていたが、それはいつも壮太で、眠れないとか、寂しいとか、甘えた声で言うのだった。

私は腹を立てているふりをしながら、内心とても喜んでいた。

物心ついてから高校を卒業するまでの十数年はずいぶん長かったように感じられるのに、大学に入ってからの年月はなんでこうも早く過ぎるのだろう?

二十七から三十までの三年間なんて、本当にあっという間だった。

壮太は役付きになり、それなりにお給料も上がったので、派遣社員で昇給の殆どない私を気遣い、外食やチケット代など、全て壮太が出してくれるようになった。

兄は二人の子供の父親になった。

下の男の子が生まれて間もなく、祖父が脳梗塞で倒れた。

休みの取りづらい母に代わって、私が仕事を休んで付き添った。

壮太は毎日のように病室に顔を出して、リハビリに付き合ったり、進んで下の世話までしてくれたりした。

病気で気が弱くなった祖父は壮太の優しさに感激して涙を流した。

壮太との関係に変化があった事を私の両親はうすうす感づいており、口には出しては言わなかったけれど、結婚するでもなく別れるでもない状態に苛立ちを覚えていたような時期があった。

でも病院で家族以上に献身的に祖父の世話をする姿を見て、壮太の好感度は復活した。

両親は祖父の退院祝いの席にも壮太を招待した。

壮太が私の実家に来るのは七年ぶりだった。

以前の五人家族に兄嫁と二歳の姪、ゼロ歳の甥が加わり、改築をしてすっかり様子が変わった家の中で、壮太は私の大好きな、ちょっとはにかんだ微笑を浮かべていた。

みんな、とても嬉しそうだった。

本当の家族みたいに見えた。

いつか本当の家族になりたいと思った。

その日の帰り、祖父が倒れて以来初めて壮太と二人きりになれた。

私たちは地下鉄の駅まで黙って歩いた。

私は幸せをかみしめていた。

祖父が倒れた時の不安も、大事に至らなかったとわかった時の安堵も、退院の喜びも、全部壮太と分かち合えた事が嬉しかった。

ほどなくして駅に着いてしまった。

ここからは別の路線になる。

もう少し一緒にいたくて、改札の前でモジモジしながら見上げると、壮太は私の頭をポンポンと叩き

「久しぶりにちょっとだけ、お邪魔しようかな」

と言った


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