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午後になって雨脚が激しくなった。
私たちはまだベッドの中にいた。
心地よい疲労を感じながらぼんやりしていると、壮太が
「えり子、テレビつけて。もうすぐクイズが始まる」
と言った。
これまでにない甘えが感じられて、嬉しかった。
画面にはクイズの前の番組が映っていた。
人気落語家が司会を勤める視聴者参加番組だった。
私は大学時代の飲み会の時の事を思い出した。
「壮太、YES/NO枕って知ってる?」
「知らない。ナンだ、それ」
「この番組の賞品。枕の表側にYES、裏側にNOって書いてあって、どっちの面を上にするかで、その日エッチする気があるかないかを相手に伝えるっていう物なんだけど、ゼミの飲み会の時、何がきっかけだったか、ある男子がそれを話題にしたの。その人、小学生の時にいったいどういう意味があるんだろう?ってすごく興味を持ったんだけど、大人には聞いちゃいけないと子供心に思って、ずっと疑問のままだったのね。で、中学生になってまもなく、ごく自然にその使い道がわかって、大人に聞かなくて良かったぁって思ったんだって。私なぜかその話、やけに印象に残ってるんだ」
「へえ、えり子も案外スケベだね」
「なんで?」
「いつも受身じゃなくて、自分でも意思表示したいんだろ?」
「違うよ。ただちょっと思い出しただけ」
私は赤くなって弁解した。
「別に恥ずかしがらなくてもいいじゃん。おれたちもそれ使おうよ。それとも黄色いハンカチにするか?」
壮太の声は笑いを含んでいた。
「しません」
そう言って私は起き上がろうとしたが、壮太の腕が首に巻きつき、引き戻された。
その時初めて、壮太の肘の下辺りから手首の少し手前あたりに、火傷の痕と思しき盛り上がった傷がある事に気づき、ハッとなった。
壮太にもすぐそれが伝わったようだった。
私はその傷痕にそっと手を触れ、静かに撫でた。