19
夕方の飛行機で東京に戻って来た。
壮太に軽く飲んで帰ろうと誘われ、電車を途中で降りて居酒屋に寄った。
疲れていてあまり気が進まなかったが、壮太がどうしても言うので付き合う事にしたのだ。
壮太は披露宴の時と同様にハイテンションで、飲むペースも速かった。
案の定、店を出た直後に気分が悪くなり、歩道にしゃがみこんでしまった。
私は壮太の背中をさすりながら、思案に暮れた。
もう終電間近なのに駅まで走れそうにない。
ここから壮太のアパートまでタクシーで行くと相当高くついてしまう。
実家の家族にはこんな醜態見せられない。
私は仕方なく、一人暮らしを初めて間もない部屋に壮太を連れて帰る事にし、タクシーを拾った。
壮太は車が動き出すとまもなく眠り込み、マンションに着いてもなかなか目を覚まさなかった。
いくら華奢とはいえ、自分より背の高い男性を一人で運ぶのは不可能だ。
私は料金を少し多めに払ってタクシーの運転手にドアの前まで運んでもらった。
いつかは壮太を招待したいと思っていたものの、こんな突発的なのは歓迎出来なかった。
どうにか靴を脱がせて部屋に上げたが、その際、壮太のお尻を思い切り床にぶつけてしまった。
「ってぇ・・・」
壮太は呻るような声をあげて、目を覚ました。
「ごめん。大丈夫?」
「イタイ・・・」
壮太は泣きかけの子供のような声を出した。
「ごめんごめん。意外と重かったからさ。お水飲む?」
「うん」
キッチンから水を持って戻ると、壮太は起き上がってソファに座っていた。
「ここ、どこ?」
「ウチだよ」
「えり子の、ウチ?」
壮太は少し考えて
「そっか、一人暮らし始めたんだったね」
と言い、引っ越して来たばかりでまだあまり生活感のない部屋の中を物珍しそうに見回した。
「酔い、少し覚めた?」
「うん。オレ、ここまでどうやって来たんだ? 全然記憶ない」
「そう? かなり大変だったんだよ」
壮太は本当に申し訳なさそうな顔をして
「ごめんな。道端で吐いた事までは憶えてるんだけど・・・」
と頭を振り
「悪いけど、トイレ借りていい?」
と言った。
その後結構長い時間出て来なかったので、また気分が悪くなったのではと心配したが、部屋に戻って来た時、壮太の顔色は少し良くなっていた。
「じゃあオレ、帰るよ」
時計は二時半を指していた。
「電車ないよ」
「うん。始発までどこかで適当に時間潰すよ」
五月に入ったとは言え、夜はまだかなり冷え込む。
私は壮太の体調が心配だった。
神に誓って他意はなかった。
「泊まってけばいいじゃん?」
「それはやっぱりマズイよ」
「なんで?」
「危険だ」
以前壮太のアパートに行った時の事を思い出した。
「大丈夫だよ。襲わないから」
「いや、今日はオレが危ないんだ」
「え?」
「オレがえり子を襲うかも知れない」
私はちょっと緊張した。
「襲うぞ。いいのか?」
壮太はそう言いながら、メガネを外して、にじり寄って来た。
目がそんなに真剣ではなかったので冗談だと思い、私は多分何か言おうとしたと思う。
でも突然壮太の唇にふさがれて言葉を発する事が出来ず、そのまま押し倒されてしまった。
昨日だったら、ちゃんと勝負下着をつけていたのに・・・
私は壮太の体の重さを感じながら、そんな事を考えていた。