18
次の年のゴールデンウィークに、私と壮太は再び鳥取にやって来た。
二人揃って岩村の結婚式に招待されたのだ。
前日の午後に鳥取入りし、岩村と三人で夕食を取った。
八時過ぎにホテル内のレストランを出た後、岩村から上のバーで飲もうと誘われたが、男同士の話もあると思い、私は先に部屋へ戻った。
ゆっくりお風呂に浸かった後パックをしたりして十一時過ぎにベッドに入った時、隣の壮太の部屋のドアが開く気配がし、続いてバタンと乱暴に閉まる大きな音が聞こえた。
普段の壮太なら決してそういう閉め方はしない筈なので、ちょっと心配になって内線電話をかけてみると、すぐに出た。
「大丈夫?」
「何が? 全然問題ないよ」
呂律が怪しかった。
やはりいつもと違う。
「飲み過ぎたんじゃない?」
「そうでもないよ」
「もう少し早く切り上げればいいのに・・・」
「うー」
うん、と答えたつもりだろうが、声が鼻にかかって、うー、としか聞こえなかった。
「明日十時からだから、寝坊しないでね」
私はそう念押しして、受話器を置いた。
友達の結婚は嬉しい反面、寂しいものだ。
壮太にとって岩村はたった一人の親友なのだから、尚更である。
私は子守唄でも歌って、優しく寝かしつけてあげたいと思った。
もちろん実行には移さなかったが、壮太の心中を思うと切なくて、なかなか寝つけなかった。
結婚式は同じホテルのチャペルで行われた。
相手は大学時代から付き合っていたという同郷の女性だった。
爽やかで精悍な新郎ときりっとしたスレンダー美人の新婦は事ある毎に見つめ合い、私まで幸せな気分になった。
夫婦で不動産会社を立ち上げ、夫の死後は社長として会社を切り盛りして女手一つで岩村を育てた母親の嬉しそうな、それでいてちょっと寂しそうな笑顔も印象深かった。
これを機に母親は第一線を退き、一年ほど前から家業に従事していた岩村が本格的に会社を継ぐ事になっていた。
披露宴は代議士や元プロ野球選手まで出席する華やかなものだった。
壮太と私は高校大学の野球部の仲間と同じテーブルについた。
女子マネージャーも来ていて、みんなで野球談義に花が咲いた。
壮太は上機嫌でいつになく饒舌だった。
おいしいおいしいとワインを何杯もお代わりしていた。
一つ隔てたテーブルには小中学校の同級生たちが座っていた。
壮太も同じ学校だった筈だが、声をかけて来る者はおらず、壮太の方からも近づかなかった。
最後に新郎新婦に見送られて会場を出る時、岩村が私の手を握って
「壮太の事、頼むな」
と言った。
私は岩村の目を見て大きく頷き、
「岩村くんも壮太の事、忘れないでいてあげてよ」
と念を送った。