17
翌日お葬式の前に壮太が迎えに来てくれた。
私と岩村はお通夜同様、親族席に座った。
お葬式の後、繰上げで初七日の法要と、火葬、納骨までが行われた。
それが終わると、他の親族と一緒に葬祭業者のバスに乗り、壮太の自宅へ向かった。
そこで精進落としという食事をして終了と係りの人から聞かされていた。
継母は一番にバスを降りると、さっさと家の中に入った。
彼女は終始不機嫌そうで、前日にも増して刺々しかった。
昨夜弁護士が来て遺言状の中身が明らかになってからずっとあの調子だと、岩村がこっそり教えてくれた。
私たちは最後にバスを降りた。
壮太は私と岩村を門の所に待たせ、一人で敷地内に入って行った。
最初に来た時は夜だったのであまりわからなかったが、壮太の家はかなり大きな日本家屋だった。
壮太は庭に立ち止まって、自分の家を眺めた。
「八年ぶりだもんな」
岩村が呟いた。
「思い出いっぱいあるんでしょうね」
「うん。いやな思い出ばかりだろうけどね」
「そうなの?」
「引き取られた当初から、相当ひどい目に合ったみたいだよ」
私は引き取られたという言葉に少し驚いた。
「壮太はずっとこの家で育ったんじゃないの?」
「違うよ。壮太から何も聞いてない?」
「うん。鳥取の事はあまり話したくないみたい。おじいちゃんとおばあちゃんに育てられたという事だけは聞いたけど」
「そっか。まあ、いろいろあったんだよ」
岩村が鼻をグスッと鳴らした。
縁側から和也が意地の悪い視線を向けているのが見えた。
ゆっくりした足取りで庭の中を歩き、家の裏側を回って戻って来た壮太が
「オレたちはここで失礼するよ」
と声をかけると、和也はガラス障子を閉めて室内に入り、内側の障子もぴしゃりと閉めた。
一人のおばあさんがよたよたと危なっかしい足取りで家の中から出て来た。
「壮ちゃん、せっかく来たんだけえ、ちょっとぐらい上がって行きんさいよ」
数少ない壮太の父方の親戚だった。
私はその時初めて、鳥取弁を温かいと思った。
壮太は
「ありがとう、おばちゃん」
と言って、おばあさんの両肩に手を置いた後、踵を返し、その後はもう振り返らずに無言のまま大股でずんずん歩いて敷地の外に出た。
私と岩村もそれに続いた。
壮太がようやく口を開いたのは住宅街を抜けて大きな通りに出てからだった。
「やっと身軽になったよ」
壮太はせつなそうに笑った。
その肩を岩村がポンと叩いた。