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  作者: たかはしえりか
17/55

16

近くの喫茶店でモーニングセットを食べたら、急に睡魔が襲って来た。

駅のそばにビジネスホテルがあり、事情を話すとすぐにチェックインさせてくれるとの事だったので、シングルを二つ取って部屋で休む事にした。

私はシャワーを浴びた後すぐに眠り込んでしまった。

壮太も少しは眠れたようで、遅めの昼食を誘いに行くと、すっきりした顔をして出て来た。

食欲がなかった朝とは違い、いつものようにぱくぱくと豪快に食べたので安心した。

食事が済むと喪服に着替え、再び葬祭場に行った。

壮太の父親はもう祭壇の前の棺に納められており、継母と義理の兄、それから継母の兄弟らしき中年の男性がそばに座って、何やらヒソヒソ声で話していた。

壮太は棺に横たわる父親の姿を見て、また少し悲しそうな顔をした。

安置室のベッドに横たわっていた時とは違い、遠くに行ってしまった印象が強まったのだろう。

壮太と同い年の義理の兄、和也は母親そっくりのきつい目で私をジロジロ見た。

一応会釈をしたが、やはり返礼はなかった。

壮太が何か言いかけたのを遮るように

「ここは私たちだけでいいから、上の控え室へ行って」

と、継母が言った。

私たちは無言で顔を見合わせて、その場を離れた。

親族控え室のほぼ全員が継母方だった。

彼らは物見高い目つきと遠慮のかけらもない言い方で、壮太と私に、どうでもいいような事を根掘り葉掘り聞いた。

中には悪意むき出しで財産分与の事を言い出す者もいたが、壮太は不快感を全く顔に出さず、あたりさわりなくあしらっていたので、私も極力愛想よくするよう努めた。

暫くすると長身の男性が入って来た。

壮太の顔がぱっと輝いた。

小学校以来の親友、岩村タケルだった。

岩村は涙をうかべながら

「遅くなってごめん。出張に行っていて、今朝初めて聞いたんだ」

と言った。

「斎藤さんですね。壮太から聞いてます」

私の視線に気づいた岩村がにっこり笑って、手を差し出した。

大きな乾いた手にぎゅっと握られて、不思議な安心感を覚えた。

話をするのは初めてだったが、全然そんな感じがしなかった。

岩村の爽やかでイヤミのない堂々とした態度が、控え室の空気をガラリと変え、壮太と私の除け者感は一瞬にして消えた。

お通夜では岩村を真ん中に三人並んで親族席に座った。

参列者の中には、専門学校の教師だった故人の教え子らしき若者の姿も多数見られた。

壮太の様子は岩村が遮って見えなかった。

その夜は岩村が夜伽に付き合う事になった。

最初、継母が壮太に

「アンタはいい」

と言ったのだが、岩村が断固として壮太もいるべきだと言い、継母を折れさせたのだ。

私も一緒に残りたかったけれど、壮太が

「えり子はホテルで休んで。酔っ払いオヤジたちにセクハラされるといけないから」

と言うので、一人でホテルに戻った。


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