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  作者: たかはしえりか
15/55

14

私はその時初めて壮太の父親の存在を知った。

祖父母の話しか聞いていなかったので、親はいないと思い込んでいたのだ。

何と言っていいかわからず、でも黙っている事も出来なくて

「いつ?」   

と聞くと

「さっき。家を出る直前に電話が鳴って、えり子かと思って出たら鳥取からだったんだ」

と低い声で答えた。

「脳腫瘍だってさ。突然だったからびっくりしたよ」

「そう」

「ごめんな。最終戦だったのに」

「いいよ。そんなの。場合が場合だもん」

「さすがにショック受けたよ。たった一人の肉親だったから」

私はまた何も言えなくなってしまった。

それから暫くの間、二人とも何も言わずに座っていた。

時計が四時を指したので、私は立ち上がって

「壮太、そろそろ準備しよう」 

と言った。

でも壮太は動こうとしなかった。

「ショックなのはわかるけど、今日中に着かなきゃいけないから。ね、支度しよう」

「う・・・ん、オレ、やっぱり行かなきゃダメかな?」

とんでもない事を言い出すのでびっくりしてしまった。

「あたりまえじゃない?」

「だけど、おれ、葬式用の服とか持ってないし・・・」

「そんなの、どうにでもなるよ」

「どうにもならなかったら? それにオレが行ったってしょうがないよ。もう死んでしまったんだから」

そう言って壮太は拗ねたように膝を抱えた。

喪服の事は言い訳に過ぎず、鳥取へ帰るのがいやなのだ。

でも事情はどうあれ父親なのだから、最後のお別れをきちんとしておかないと、後で悔やむ事になるに違いない。

だから何としても壮太を行かせなければと思った。

「電話借りるね」

私は子機を持って外の廊下に出て航空会社の番号を調べ、鳥取行きの出発時刻と空席を確認した後、自宅に電話をかけた。

幸い母が出たので状況を説明し、羽田まで二人分の喪服を持って来てほしいと頼んだ。

壮太と一緒に鳥取へ行くと言っても母は反対しなかった。

それから壮太を急き立てて支度をさせた。

就職活動時に買った濃紺のスーツに身を包んだ壮太は口の中でモゴモゴと

「オレ一人で大丈夫だよ」

と言ったが、その目はいかにも心細げで、実は私がついて行く事を強く望んでいるように思えた。

羽田に着くと、母が先に来て待っていた。

荷物の中には香典と喪服の他に、紺の地味なワンピースと黒いエプロンも入っていた。

航空券は先に買っておいてくれた。

あまり時間がなかった事もあり話は殆ど出来ず、慌しく搭乗口に入った。

ロビーの方を振り返ると、心配そうに見送る母の姿が見えたのでバイバイと手を振った。

母は困ったような微笑を浮かべて頷いた。


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