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  作者: たかはしえりか
14/55

13

卒業して四度目の秋、少しだけ壮太の背景がわかった。


秋季リーグ最終戦の日、球場近くの駅で待ち合わせをしていたが、いつも先に来ている壮太が約束の時間を三十分以上過ぎても姿を現さなかった。

今にも雨が振り出しそうで、十一月に入ったばかりとは思えないくらい寒い午後だった。

当時はまだ二人とも携帯を持っていなかった。

自宅に電話をかけると、十コールあまりで壮太が出た。

声の感じがいつもと違っていて、何かあったのだとすぐにわかったが

「今日行けなくなった。ごめん」 

と言ったきり、理由も何も言わず

「体調悪いの?」

と聞いても

「そういうわけじゃない」

とか細い声で言うだけだった。

いつにも増して、はかなげだった。

元々透明感のある壮太が本当に徐々に透きとおって、そのまま消えてしまいそうで、不安になった。

私はすぐに電話を切って壮太のアパートに向かった。

焦って乗り継ぎを間違えたせいで随分時間をロスし、ようやく着いた時は三時を回っていた。

風邪を引いた壮太を見舞って以来、約三年ぶりの訪問だった。

あの時と違い、ノックしても応答がなかった。

ノブに手をかけると鍵はかかっておらず、カチャリという乾いた音がした。

私はもう一度ノックをして声をかけてから、ドアを開けた。

次の瞬間、私は思わず小さな悲鳴をあげた。

壮太が靴を履いたまま玄関に座りこんでいたのだ。

膝を抱えて顔を埋めていたせいで表情はわからなかった。

ショルダーバッグと子機が傍に転がっていた。

「大丈夫?」

腰をかがめて肩に手をかけると、壮太はビクッと体を震わせて顔をあげた。

無表情で焦点が定まっていなかった。

「壮太、大丈夫?」

強く両肩をゆさぶると、かすかに頷いたが

「どうしたの?」

と聞いても何も答えなかった。

ちょうどその時隣りの部屋の住人が帰宅して、いぶかしげな視線を向けた。

私はドアを閉めて中に入り

「上がってもいい?」

と聞くと、壮太は無言のまま体を少しずらして、私が通る場所を作った。

部屋の中の様子は前に来た時と変わっていなかった。

私は球場で一緒に食べようと、手作りのサンドイッチと保温容器に入れたスープを持って来ていた事を思い出し、マグカップにスープを移して、レンジで温め直した。

部屋の中にかぼちゃの甘い香りが漂った。

「こっちで一緒にスープ飲もう」

と声をかけると、壮太はようやくのろのろと立ち上がった。

私は一緒に持って来たコーヒー用のクリームをスープの表面に垂らし、ベッドにもたれて座った壮太にカップを持たせた。

「ほら、飲んで。あったまるから」

壮太は両手で持って黙ってすすった。

叱られた子供のように見えた。

カップが空になったので

「お代わりあるよ」

と言ってみたが、力なく首を横に振るだけだった。

私はカップを洗ってから、壮太と並んで座った。

「何があったか、聞かない方がいい?」

そう聞くと、壮太は数秒黙った後かすれた声で

「親父が亡くなった」

と言った。


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