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1章-8

8話「第1章8話」


前回までのあらすじ


こんばんは。リンです!

前回はなんかね、成り行きでテスが仲間になった時に支店長に呼び止められてなんか小難しい話聞かされた。

話が長くて途中で飽きちゃってよく分かんなかったけど、エリアが解説してくれたから助かった。

なんか悪い人が悪いことしてるらしいよ。世の中、恐いよね。

内容的にルーネイトが、企みを止めようぜ、とか言い出しそうだったけど、そうはならなくて安心したよ。いやぁ、ヒヤヒヤしっぱなしだったね。

その後、新しく入った2人と買い物に行ったよ。何を買いに行ったか忘れたけど、レスターによると選択すると、呪いって解除じきるものもあるらしいよ。

それで、今日までの残りの期間はずっと公園の片隅でテスの修行の付き添いだね。といってもほぼ、近くで見てるだけだったけどね。

他のみんなも色々準備してたみたいだよ。エリアとレスターは武器になんか仕込んだとか言ってた気がする。

そんなこんなで今日。雨が降ってたんだけど止んだから傘を収納してたらね。テスが騒いでいたから見たんだよ。そしたらね、飴が降ってきたよ。私にもそんな時期があったなぁ。

いざ洞窟に入ろうとしたら尺が足りなくて続きは今回って訳。

そんな訳でスタート!


「…前回の最後の話をやり直す所からでいいんだよな?」

忍者の確認に賢者は渋々頷く。

「…まあね。急いでいるんだから手短にな。」

忍者は狩人に尋ねる。

「どの味の飴だった?」

賢者はすかさず突っ込む。

「その話は終わっただろ!その次から始めろ!」


狩人が説明を始める。

「洞窟の周りに生えているのは、レイジュという木だな。

この世界、いや、この大陸の固有種だ。

わりとどこにでも生えている木で、街路樹にも使われている。」

忍者が尋ねる。

「街路樹?沖縄で言えばフクギみたいなもんか。」

狩人が答える。

「東京でいうイチョウみたいなポジションだな。」

賢者が耐えきれずに突っ込む。

「この世界にない地名で例えるのやめろ!

どうでもいいけど、なんで実が近所迷惑な植物で揃えたんだよ。」


狩人が説明を続ける。

「この植物の特徴は、なんと言っても霧を生み出すことだな。

虫や野生動物が嫌う霧を24時間発生し続ける。

霧を出し続けるために、地中に粘性が高い液体を溜め込む。この粘液は直に触ると体調を崩す毒だから絶対に触るなよ。

といってもそんな地中にある粘液に触れる機会なんてそうそう…。」

狩人はそこまで言いかけるとハッとして動きを止める。

ナイトはわざとらしく狩人に声をかける。

「どうした?何か楽しいことに気づいたのか?」

狩人が呼応する。

「ああそういうことか。レイジュの樹液に触れ続けると人間離れできるかもしれないぜ。すごいだろ?」

白魔術師が答える。

「いやあ、人間離れした力は魅力かもしれないけど、人間から離れるのはちょっと…。」

などとのんびり話していると、近くから声が聞こえてくる。

「ねえ、助っ人を待たせてるんでしょ?忘れてない?急がなくていいの?」

忍者は驚いた様子で声の主の方を見る。

「…テス、いたのか。全然しゃべらないから気づかなかった。」

「あ、忘れられてるの私の方だった…。」


一行はようやく洞窟の入口にたどり着く。だが、近くを見渡しても誰も見当たらない。

忍者は地面の土を指でつまむ。

「湿っている…遠くない過去に雨が降ったに違いない!」

賢者がすかさず突っ込む。

「そりゃさっきまで降ってたからな。」

忍者は土を指でひとつかみする。

「これはいい土だ。」

賢者がすかさず突っ込む。

「副業でアイドルやってる農家みたいなこと言うのやめろ!」

黒魔術師が怪訝な顔をする。

「ねえ、人を待たせてるんじゃないの?」

狩人が何かを発見する。

「あそこに書き置きがあるみたいだ。」

狩人はそう言うと少し離れた所に歩いていき、落ちていた紙を拾い上げる。

拾った紙を広げて中を確認した後、歩いて戻ってくる。

ナイトが狩人に確認する。

「なんて書いてあった?」

狩人はひと呼吸おいてから答える。

「暗くて読めなかった。」

白魔術師が反応する。

「そういうと思った。」

賢者が続く。

「同じネタを短期間に使いまわしすぎなんだよ。」

狩人が申し訳なさそうに応じる。

「…ごめん。気を付けるよ。」

黒魔術師が怪訝な顔をする。

「ねえ、人を待たせてるんじゃないの?」


一同が注目する中、狩人が紙を広げる。

開かれたまっさらな白い紙には大きな赤字で1文字だけ書かれていた。

『 中 』

賢者がすかさず突っ込む。

「麻雀牌か!」

ナイトが、賢者の素早い突っ込みに驚きつつも述べる。

「奥に潜って行ったってことだろ?

洞窟のことをどれだけ把握して中に入ったのか分かったものじゃない。

早く追いかけた方がよさそうだぜ。」


一行はやや急ぎ足で洞窟の奥に潜っていく。

白魔術師が呟くように言う。

「なかなか追いつかないね。」

横を歩く忍者が答える。

「そりゃこんな序盤の何もない所で止まってくれているわけ無いからな。

追い付くとすれば、何か問題が出る地帯に入ってからだろう。」

先頭を行く狩人が皆を制止する。

「そういう観点で見るならば、意外と早く追いつくかもしれないな。」

ナイトが狩人に確認する。

「前回はこんな浅いフロアにはモンスターは射なかった気がするが?」

狩人が答える。

「理由までは分からんが、この先の開けた所に4匹いる…今は4匹、だ。」

ナイトが続く。

「このフロアでは敵の召喚は無さそうだ。

このアイテム、『魔法陣みつける君』が反応しないからな。」

白魔術師が尋ねる。

「何そのアイテム?また呪われてんの?」

ナイトは自慢気に語り始める。

「魔法道具だよ。骨董市で壊れたのがあったから買ってきて修理した。

電池も新品にしたから少なくとも今日1日は稼働するはずだ。」

狩人が感心するように応じる。

「魔法的な力で動くのかと思ったら電池なんだな。」

ナイトは再び語り始める。

「10m以内に魔法陣があれば音を出して警告してくれるぜ。こいつが静かである限りこの洞窟では不意打ちを喰らうことは無いだろう。」

忍者が問い掛ける。

「でも、お値段も、お高いのでしょう?」

ナイトが待っていたと言わんばかりに答える。

「通常価格14,800円の所、中古で故障ということで、なんと2,800円!」

忍者が大袈裟に驚く。

「これはお安い!」

賢者はやり取りがひと段落したのを確認すると、口を開く。

「…気が済んだか?」

忍者は静かに頷くが、ナイトは少し話し足りなかったのか、説明を加える。

「ちなみに音を出すモードからバイブレーションモードにできるから、相手に気づかれたくない場合も安心だ。」

賢者がすかさず突っ込む。

「携帯電話か!」

黒魔術師が怪訝な顔をする。

「ねえ、人を待たせてるんじゃないの?次のフロアにモンスターが控えているんだよね?」


賢者はメンバーに語りかける。

「みんな、それぞれスライム対策は考えて来たんだろ?

次のフロアでそれを実戦で確かめよう。

最初は誰が行く?」

ナイトが手を挙げる。

「私が行こう。ちゃんと専用の武器防具を揃えたからな。」

続いて白魔術師が手を挙げる。

「その次は私ね!力の調節は何回もシミュレーションして万全なはず。早く試してみたい!」

忍者が続く。

「じゃあ、その次で。」

狩人が続く。

「最後は私だな。」

賢者が頷く。

「それで全員大丈夫だな。よし、じゃあ突入しようか!」

黒魔術師は心の中で呟く。

「(…あれっ!?私は?)」


一行は広いフロアにたどり着く。

そこには、想定通り4匹のスライムが蠢いていた。

ナイトは一番近くにいる個体にゆっくりと近づいていく。

スライムは、近づいてくるナイトをしばらくじっと見ると、ナイトに向けて体液を吐く。

だが、ナイトはそれを避けるそぶりを見せず、大半を盾で受け止める。残った体液は鎧にかかったが、盾も鎧も溶かされることなく傷ひとつ付かない。

ナイトは盾をゆっくりと収納すると、手にした武器を両手で持ち、スライム目掛けて水平に振る。

振られた武器はスライムに当たると、スライムの体積の半分ぐらいを削り、消滅させる。

体の半分を失ったスライムは、力なくその場で崩れていき、ドロドロの液体になった後、消滅する。

「どうだい?武器も防具も完璧だろ?」

ナイトの戦いの様子を見た賢者はナイトに告げる。

「分かった。レスターは前列要員!」

白魔術師が元気よく声を出す。

「次、行くよ!」

そう言うと、2匹目のスライムに向けて駆け寄ると、素早く武器を振り下ろす。

振り下ろされた武器が纏うオーラ的な物は、スライムを2mmほど残し全てを消滅させたにも関わらず、洞窟には一切のダメージを与えていない。

「もう洞窟なんて壊さないんだからね!」

白魔術師の戦いの様子を見た賢者は白魔術師に告げる。

「リンも前列!」

忍者が刀を抜く。

「さて、出陣するぜ。」

忍者はスライムに近づくと、少し離れた所で立ち止まる。

しばらくスライムを10秒ほど観察すると観察すると、突然目を見開き、スライムに突進するように接近し、すれ違いざまに斬りつける。

スライムはその場で崩れ、液体になったあと消滅する。

「核を見きわめて斬ってやった。」

忍者の戦いの様子を見た賢者は忍者に告げる。

「時間かかりすぎ!スタメン落ち!ベンチ!」

忍者は、残念そうに戻ってくる。

狩人が矢筒から矢を1本取り出す。

「土は溶かさないらしいから、矢尻を陶器にしてやった。」

狩人は弓を引き絞ると、スライム目がけて矢を放つ。

放たれた矢はスライムに命中するとスライムの真ん中付近まで潜っていくが、そこで止まる。

スライムの体液により矢尻以外が溶かされ、矢尻はスライムの体内に漂い続ける。

「分かっていたことだが、核の位置が分からないから倒せないな。」

狩人の戦いの様子を見た賢者は狩人に告げる。

「ベンチ!

ていうか分かっていたなら、なぜ射った。」

黒魔術師が手を挙げる。

「はい、はいっ!最後、私がやる!」

黒魔術師はそう言うと、スライムに向かって氷魔法を放つ。

バスケットボール大の氷の塊がスライムに向かって勢いよく飛んでいく。

氷の塊はスライムに直撃すると、そのままスライムを貫いて壁にぶつかり消滅する。

体に風穴を開けられたスライムは崩れていき、やがて消滅する。

黒魔術師の戦いの様子を見た賢者は黒魔術師に告げる。

「後列で魔法攻撃!」

ナイトは白魔術師に尋ねる。

「短期間にテスがこんなに仕上がるとは思わなかった。

どんな訓練をしたんだよ。」

「特別な事は何もしてないよ。1日に1,000回を目標に魔法を撃ち続けただけ。」

「なんだ、その脳筋トレーニング。」


賢者がナイトの方に目線を移す。

「レスター、さすがに我慢できないから突っ込むけど…。

 その武器、いや、手に持ってるものって、スコップだよな?」

ナイトは即座に否定する。

「そのような言い方はやめてもらおうか。

 敵をたたくための武器で、ついでにフライパン代わりにしたり塹壕を掘るのにも使えたりできる万能武器だ。

 塹壕を掘るときにぬかるんだ地面を効率よく掘るために作られた武器で、

 長時間装備すると穴を掘る衝動に駆られるという軽い呪いはついているが今回の探索には最適なスコ…武器だぞ!」

賢者はあまり興味なさそうに応じる。

「へぇ…。

 ちなみに鎧と盾は?」

「これは普通の防具だよ。

 スライムの攻撃を通さないように市販品に漆を塗っただけの物さ。

 その影響で漆を洗い流すまで素手で触るとかぶれる呪いがついたがな。」

「それ、呪いか?」


一行が次のフロアを目指して移動を始めてすぐに、白魔術師が地面に何かが落ちていることに気づく。

「地面に紙が落ちてるよ?

…よいしょ。

また書き置きだね。」

白魔術師は拾い上げた紙を広げメンバーに見せる。

『 奥 』

賢者がすかさず突っ込む。

「なんで所々メモを置いておくスタイルなんだよ!

注文の多い料理店か!」


スライムと戦ったフロアを抜け、次のフロアが見え始めた頃、突然アラートがけたたましく鳴り響く。

『魔法陣です。強い魔法に警戒してください。

魔法陣です。強い魔法に警戒してください。

魔法陣です。強い…。』

あまりにうるさい警報に皆が口々に文句を言う。

「うるさいな!」

「ちょっと、早く止めてよ!」

「うるさいな。選挙カーかよ。」

「うるさすぎだろ!それとエリアはしれっと政治家に喧嘩うるな。消されるぞ!

あと、なんでアラートの文言はちょっと緊急地震速報っぽいんだよ!」

「えっと…うん。早く止めてほしいかな。それにしても2人はこんな時でもボケと突っ込みは欠かさないんだね。」

ナイトは慌てて魔法陣探知機から電池を抜き取る。

「…と、こんな具合に警報が鳴るんだぜ。」

白魔術師が指摘する。

「何も電池を抜かなくてもバイブレーションモードに変えればよかったじゃない。」

ナイトは少し考えてから答える。

「それもそうか。」

そう言うと、モードを切り替えるため再び電池を入れる。

『魔法陣です。強い魔法に警戒してください。

魔法陣…。』

「うるせえ!」「うるさい!」「うるさい!」


一行は次のフロアの手前にたどり着く。

狩人がメンバーに告げる。

「次のフロアが、農園が利用していた最深部、前回はモンスターが出なかった場所だ。

今回は状況が違う。

満遍なく全体に散らばって合計35体。

ただし、次のフロアへの通路への直進ルート上に敵はいない。

多分、助っ人が蹴散らした跡だろう。そろそろ追い付くかもな。」

忍者が賢者に問う。

「どうする?通り抜けるだけなら敵を全無視で行けそうだが。

追加召喚された奴に進路を阻まれると即、囲まれた状態になるけどな。」

賢者はすぐに答えを返す。

「連携の確認も兼ねてこのフロアはせん滅で行こう。

その次からは追いつくことを最優先に最小限だけを倒して行く。」

忍者は頷くと指示を出す。

「隊列はさっきの通りに。リンは左側、レスターは右をメインに。

テスは正面を担当で。くれぐれも仲間を攻撃しないように。それぞれ手が空いたら隣にシフトで。ルーネイトは新規召喚を逐次報告。

私は手が足りないところや不測の事態に対応する。

ノルドは状況を見ながら回復と補助。

以上。」

白魔術師が武器を準備する。

「要するに、いつも通りってことね。」

ナイトが呟く。

「いつも通りって言われても、自分はほぼ初戦なんだよなぁ。」

狩人が呟く。

「いつも通りって言われても、普段と全然隊列違うんだよなぁ。」


一行は、次のフロアに入るとすぐに全員が役割に応じて行動を開始する。

前衛の2人は順調に敵をなぎ倒していき、両翼から前線をどんどんと押し上げていく。

黒魔術師も、丁寧だがテンポよくスライムを片付けていく。

狩人が黒魔術師に声をかける。

「スライムは色によって弱点が違う。

紫は毒、白は冷気が弱点だから、弱点に合わせた属性の魔法の方が倒しやすいぞ。」

黒魔術師が尋ねる。

「風属性が弱点の奴は何色?」

狩人は不思議に思いながらも答える。

「風属性が弱点なのは緑色だ。」

「…分かった。」

そう言うと、黒魔術師は緑のスライムに手をかざす。

黒魔術師が手に魔力を込めると、てのひらに風の塊が発生し、すぐにバスケットボール大まで大きくなるとスライムに向かって素早く飛んでいく。

風の塊が直撃したスライムは細切れになり飛び散り、あっという間に消滅する。

賢者は仕事を終えて戻ってきた白魔術師に尋ねる。

「属性は手広くやらない方がいいだろ。数を絞って深掘りした方がレベルが上の魔法も習得しやすい。

大抵の人は1属性に絞って、せいぜいサブでもうひとつの属性を片手間に伸ばす程度だ。」

白魔術師は、スライムを魔法で蹴散らしていく黒魔術師の方に視線をやる。

「私もそう言ったんだけどね。

でも、全属性を見捨てない、かつやくのチャンスをやるんだ、って聞かなくてね。モチベーションがあるみたいだからしばらくは様子見でいいんじゃないかな。」

「…そういうことなら、まあいいか。」

仕事を終えたナイトが会話に入ってくる。

「そういうことなら仕方ないな。」

賢者がすかさず突っ込む。

「目立とうとして無理矢理セリフをねじ込もうとするんじゃない。

逆に、そんな不要度100%のセリフを放っておきながら、よく平然としていられるな。」


一行はフロアのスライムの掃討が終わると、フロアの中央付近に集まっていた。

賢者がメンバーを見渡す。

「特に問題は無さ…。」

狩人が何かに気づき、賢者の言葉を遮るように声を上げる。

「この先に誰か倒れているぞ!」

そう言うと、次のフロアの方向に走り出す。

「気配遮断を使われていたから気づかなかった…!」

他のメンバーも慌てて後を追いかける。

黒魔術師が走りながらナイトに尋ねる。

「気配遮断って何?」

ナイトは走りながら答える。

「探知されにくくなるスキルだ。

といっても、集中して探られれば見つかってしまうがな。

気配遮断はシーフのスキルだ。

予想的中だな。」


洞窟を奥に進んでいくと、何者かが横たわっている。

賢者はそのポーズに思わず突っ込んでしまう。

「サ○バイマンの自爆でやられたヤ○チャか!」

狩人は倒れた者に駆け寄り脈があるかを確かめながら賢者に呆れつつ呟く。

「こんな時でも突っ込むのか…。」

白魔術師が倒れた者に呼び掛ける。

「大丈夫!?

私の声、分かる?」

倒れた者は薄目を開けると絞り出すように声を発する。

「うう…お腹空いた…。」

忍者が即座に反応する。

「早く食べ物を口に放り込むんだ!」


倒れていたシーフはおにぎりを平らげ、ひと心地つくとパーティの面々を見渡す。

「とってもおいしかったです。」

賢者がすかさず突っ込む。

「第一声それかよ!」

忍者がすぐに賢者の言葉に否定を示す。

「第一声は『お腹空いた』だっただろ!」

賢者がすぐに反論する。

「そんなことどうでもいいだろ!」

シーフは頭を下げる。

「この度は助けていただきありがとうございます。

危うく空腹で倒れるところでした。」

賢者がすかさず突っ込む。

「実際倒れていただろ!」

シーフは自己紹介を始める。

「私の名前はサニア。みんなは私のことをサニアって呼びます。」

賢者はあえて突っ込まない。

シーフは自己紹介を続ける。

「ジョブはシーフです。サブで竜騎士もやってます。皆様、初めまして。

今回の仕事が終わるまでよろしくお願いします。」

ナイトが驚きを隠せない様子で応じる。

「あんたみたいな大物が来るとは思ってもみなかった。」

シーフは少し首をかしげる。

「…?

まるで私が来ることを知らなかったみたいな口ぶりだね?」

賢者が無理矢理話題を切り替える。

「私はノルド。賢者だ。よろしく。」

「ご丁寧にありがとう。あの突っ込みの賢者…。」

「その呼び方はやめてもらおうか。」

黒魔術師はシーフの目線が自分の方に向いていることに気づき慌てて自己紹介をする。

「えっと…私はテス。黒魔術師です。

まだジョブについて数日の新米ですが、よろしくお願いします。」

「新人さんかぁ。珍しいねぇ。テスね。うん、覚えた。」


忍者が手をパンと叩く。

「これで全員自己紹介が済みまし…た、と。」

賢者がすかさず突っ込む。

「省略したけど全員分が終わったテイで進めます、みたいな感じ出すのやめろ!」

シーフは黒魔術師の方を見る。

「いや、紹介貰ってないよね。

お名前は?」

黒魔術師は困惑しつつも答える。

「えっと…私はテス。黒魔術師です。

まだジョブについて数日の新米ですが、よろしくお願いします。」

「新人さんかぁ。珍しいねぇ。テスね。うん、覚えた。」

「(2回目なんだよなぁ。)」

狩人は、目の前にいるシーフについて知らなさそうな黒魔術師に補足の説明をする。

「テス。サニアはこう見えて、一流のワーカーなんだよ。

シーフとしての腕前はもちろん、竜騎士もサブでやっているおかげで戦闘力も高い。

双槍スタイルで…。」

「葬送?」

「双槍な。

炎の槍と氷の槍の2本を使いこなし、物理的な戦闘はもちろん、それなりの魔力もあって槍の力を使えば魔道士のように戦える万能戦士だ。

パーティを組んでいないにも関わらず何でもこなせるから、どんな仕事も1人でこなせる。その分、他のワーカーにとってはあまり接するチャンスが無いから、今回はかなり貴重だよ。

ワーカーのトップ10を挙げろと言われたら確実に名前が挙がるすごい人物さ。

通り名は、『行き倒れのサニア』。」

シーフが即座に反応する。

「その呼び名はやめて欲しい。

今まで一回も行き倒れたことなんて無いし。」

「えっ!?」「えっ!?」「えっ!?」「えっ!?」「えっ!?」「えっ!?」


忍者が呟くようにメンバーに告げる。

「心強い助っ人ではあるが、サニアほどの人物が呼ばれたってことは、ここの最深部にはとんでもない化物がいるってことだぜ。

報酬が法外だと思っていたが、案外そうでもないのかもしれないな。」

シーフが呼応する。

「やっぱりそうかぁ。

名高い賢者パーティに助っ人が必要とか、相当だよねぇ。」

シーフは黒魔術師に補足を入れる。

「さっき私のことがやたら持ち上げられてたけど、あっちの4人も同じかそれ以上だからね。

ワーカーで4人の名前を知らない人なんかいないよ。」

ナイトがシーフに尋ねる。

「私は?」

シーフは考え込む。

「うーん…。

一流の中段グループって所じゃないかな?

有名人まであと一歩って感じ?

申し訳ないけど私は名前知らなかったし。」

ナイトが軽くため息をつく。

「やはり覚えられていなかったか。

私がまだそこまで実力が無かった頃だったけど一緒に仕事したことあるんだけどな。」

シーフは少し考え込む。

「…。ああ、アビシニアンの町で受けた仕事の時の…。」

「いや、ジャンフォレストの町だよ。」

「…。トレントの大量伐採の時の…。」

「いや、山賊のアジト捜索だよ。」

賢者がたまらず突っ込む。

「何も覚えてないじゃないか!」

シーフはまた考え込む。

「いや、そう言われれば、みんなうっすらと顔を見た覚えが…。」

ナイトが突っ込みを入れる。

「その当時私はソロだったから、面識があるとしても私だけだよ。」

白魔術師が唐突に話の流れと関係ないことを提言する。

「サニアが食べてるの見てたら、なんだかお腹が空いて来ちゃった。

ちょっと早いけどお昼にしようよ。

サニアも一緒に食べようよ。」

シーフは驚いた様子で答える。

「私もいいの?

もしご相伴にあずからせてくれるなら助かる。

ちょうど空腹の限界が近づいてた所だったんだよねぇ。」

賢者がすかさず突っ込む。

「なんでもう空腹が限界まで来てるんだよ!

お前の腹は四次元のポケットか!」


狩人が黒魔術師と共に料理の支度を始めると、シーフが歩み寄ってくる。

「私も手伝うよ。」

狩人は軽くうなずく。

「ありがとう。じゃあお願いしようかな。

サニアは白ネギを2cmくらい間隔に切ってくれ。

テスはエノキの石づきの所を切り落として適当に数本ずつの塊に手で分けてくれ。」

シーフは並べられた食材をひととおり見渡す。

「なるほど…すき焼きだね?」

狩人は指をパチンと鳴らす。

「正解!」

「やったすき焼きだ。楽しみー。」

黒魔術師が狩人に尋ねる。

「石づきってどこ?」

狩人がエノキダケの根元の方を指差す。

「キノコが地面…実際には大抵は木だけど、地面に接していた部分のことだよ。石づきの部分は固くて食べられないから切り落とすんだよ。

土を落とすのが面倒だから石づきの部分から少し上のこの辺りから切り落としてくれ。

しかし、学校の家庭科の調理の実習では習わなかったのかい?」

「実習はあったけど、そういう食材の基本知識みたいなことは何も習わなかった。」

「…日本の教育が心配になってきたよ。」


狩人は白菜をまな板の上に置く。

「なかなかいい白菜が手に入ったんだ。

ところで白菜はどの部分がおいしいか知っているかい?」

狩人は2人をチラリと見たあと、続ける。

「白菜の本気はこの部分。」

狩人は白菜の一番内側の葉を数枚、手でもぎ取る。

「ここには白菜が産み出した糖が凝縮されている。

冷蔵庫などで放っておくとここからどんどん糖が生命維持のために使われてしまう。

立派に成長し、かつ取れたてに近いほどこの中心部のポテンシャルは高くなる。

見たところに昨日買ったこの白菜はかなり上質だ。

今もぎ取ったこの部分を食したものは野菜の真の力を知ることになるだろう。」

シーフは真剣な顔になる。

「ご、ごくり!」

横にいる黒魔術師が心の中でつぶやく。

「(ごくり、って感嘆符付きで声に出す人初めて見た。)」

狩人は2人に尋ねる。

「食べたい人?」

シーフが光の速さで手を挙げる。

「はい!!」

あまりに食い付きがいいので狩人が少し意地悪をする。

「うーん、どうしようかなぁ。希少な部分だしなぁ。」

シーフがより真剣な顔をする。

「…春先の縄張り争いをするネコのモノマネやります!」

シーフは咳払いをすると大きく息を吸い込む。

「ア~~オ…。


ナ~~~オ…!


ワ"ァア"ア"~~ッッ!!」

狩人は慌てて応じる。

「だ、大丈夫だよ。そんなことしなくても、ちゃんとあげるから。

…ほらっ。」

シーフは、白菜を丁寧に受け取る。

「ありがとう。」

お礼を言うと、すぐに黒魔術師の方を見る。

それに気づいた黒魔術師はすぐに両手を振り否定する。

「私はそこまで欲しくはないから、私のことは気にせずサニアが食…。」

言葉を遮るようにシーフは白菜の半分を差し出す。

「テスも食べたこと無いんでしょ?

一緒に食べようよ。」


黒魔術師は恐るおそる、受け取った白菜を口に運ぶ。

白菜の芯の部分を咀嚼すると、潰れた白菜の組織の中から甘い汁が溢れだしてくる。

「えっ、何これ!おいしい!

想像を越える甘さだよ!」

シーフは白菜を口に入れるとゆっくりと噛みしめ、飲み込む。

そして、おもむろに立ち上がる。

「口に入れた瞬間は普通の白菜と全く同じ…だけど、噛みしめた瞬間、世界は一変する!

何と言っても、この驚きの甘さ!

野菜に対する常識を覆すこの糖度!!

砂糖のような尖った甘さや果物のような力強い甘さとも違う、野菜特有の優しい甘さ!

我々はこれまでの、白菜は単独だと水っぽくて青臭い、という認識を改めないとだめだね。

今日は一体何の日か、と問われれば、それは野菜の歴史に新たな1ページが書き加えられた日である、と答えなければならない!!」

黒魔術師は心の中でつぶやく。

「(うわぁ…。ワーカーの上位の方って変な人しかいないのかな?)」


すき焼きが出来上がり、食事の準備が進められていく。

ナイトが賢者に小声で確認する。

「(すき焼きがメインイベントで白菜はメインじゃないよな?)」

「(そもそも食事自体がサブイベントだぞ。

食事中の会話は食べ物関係ばかりにならないように気を付けような。)」

そうこうしている間に準備が整う。

狩人が宣告する。

「整いました!」

賢者がすかさず突っ込む。

「なぞかけか!」

シーフが両手を合わせる。

「いただきます!」

シーフはすき焼きをかきこむ。

「…おいしい!

白菜にしっかり割り下が染み込んでいて、柔らかいけど食感を失ってなくて、かみしめると割り下の甘味と旨味が染み出てくる!

ネギは柔らかく煮込まれ持ち前の甘味が出ている。

すべての食材が口の中においしさをもたらしてくれる。

この感情…ああ、これが幸せか。」

狩人が少し恥ずかしそうに応じる。

「市販の割り下の力が大きいってだけだよ。」

賢者が尋ねる。

「タレって自作より市販の方がいいのか?」

狩人が答える。

「そりゃ大抵の物は市販のものの方が上等だ。なにしろあちらはプロ集団が期間をかけて研究し尽くして作り上げた至高の品だ。

素人がちょっと調べた程度の物が太刀打ちできるわけがない。

最適な材料の選択、加熱の温度や時間、撹拌の最適なやり方や速度、ちょっと考えるだけでも我々素人が勝てない要素は目白押しさ。」

シーフが白米の塊を箸でつかみながら尋ねる。

「今日はメニューが初めから決まってたから事前にご飯を炊いておいたみたいだけど、普段は飯ごうを使ってるの?」

狩人は少し驚く。

「あれ、サニアが知らないのはちょっと意外だな。

昔はその通りだったんだが、数年前に便利な物が発売されてね。

その名もキャンプ用炊飯器。」

そう言うと狩人は炊飯器を取り出す。

「今まではキャンプではバッテリーを携行しないと電化製品は使えなかった。

重い電化製品と重いバッテリーを両方持ち歩くのは負担が大きく多くの者は諦めていた。

そんな中で現れたのがこのバッテリー、つまり充電可能な電池を内臓した炊飯器だ。

携帯電話みたいに、電池の残があれば独立で動くし、使い終わったら帰宅後に充電すればまた使えるようになる。」

黒魔術師が疑問に思い尋ねる。

「そんなの需要あるの?

キャンプやる人ってそういうのは現地で半原始的にやりくりするイメージだけど。」

狩人が感心するように答える。

「いい質問だね。」

忍者が補足する。

「いい質問ってのは、まさにその質問内容がこれからちょうど話す内容だってことだぜ。一見ほめているようだけど、実際は話し手にとって都合がいいってだけの意味だ。」

賢者が突っ込む。

「そこは解説しなくていい!」

狩人が説明を続ける。

「こんなものに需要があるのか、と思うだろうが、それが意外とあったんだ。

米を炊くだけに焚き火セットをひとつ作るのも面倒だし、かといってメインディッシュを作る隅で加熱するのも意外と邪魔で、ユー○ューバーは特に見映えの問題で嫌がった。

そうした、狭いけど思ったよりは数がいる層に受け入れられ、思いの外ヒットしているんだよ。」

白魔術師が補足する。

「値段は29,800円でね、普通の炊飯器とあんまり変わらないものだから、ノルドが凄い文句言ってた。なんで炊く以外の機能が削ぎ落とされた劣化版みたいなものに同じ金を払わなきゃならないんだ、って。」

賢者がすぐに反論する。

「仕方がないだろ。あの頃は金に困っていたんだから。」

ナイトが参戦する。

「まるで近年は金に困っていないみたいな言い方だな。

肉の費用を惜しんで魔物の肉を使っていたのを忘れたとは言わせんぞ。」

シーフが興味津々な様子で尋ねる。

「どんな魔物を食べたの?」

狩人が自慢げに答える。

「まずは、ミニビッグルモールドラゴンだな。

 あれは肉が思ったより固くて……。」


一行は食事を終え、後片付け作業に入っていた。

ナイトと賢者はキッチンペーパーで皿の汚れを拭き取りながら顔を見合わせる。

「(結局、食べ物の話しかしてねぇ!)」


「さて、サニアが加わることだし、隊列をどうするか考えようか。」

賢者が皆に呼び掛ける。

シーフが呼び掛けに応じるように疑問を投げかける。

「みんなはスライムと戦う手段はどんなものを用意してるの?

一見すると黒魔法頼みになりそうなパーティ構成だけど。」

白魔術師が答える。

「そんなこともあろうかと、冒頭に前回の簡単なあらすじを書いておいたよ。

あらすじとそのここの数十行上ぐらいまで読んでもらえば多分、おおよそのことは分かるはず。」

シーフはうなずく。

「分かった。

ふむふむ…。


…なるほど。把握した。レイジュって意外と危ない植物だったんだね。」

賢者がすかさず突っ込む。

「視覚化不能なやりとりやめろ!」

シーフは改まった様子で話し出す。

「私からもみんなに伝えておくことがある。

私の時は落ちてきた飴はメロン味だった。

当時の仲間…いや、知り合いのシーフもメロン味だったから、飴の味は多分ジョブごとに決まっているんじゃないかな?」

賢者がすかさず突っ込む。

「もう食べ物の話はいいだろ!

しばらくは食べ物の話はダメだからな!絶対だぞ、絶対だからな!」


「というわけで、この先の攻略のための役割分担とかの打ち合わせが終わりまし…た、と。」

忍者はそう言うと狩人に確認する。

「この先はあといくつフロアがあるんだ?」

狩人が手書きのメモを広げる。

「あと6フロア攻略すれば一番奥、ボス部屋の前にたどり着く。

ボスはとてつもなく大きなスライムらしい。戦闘能力はほとんど何も分かってないらしい。

それと、次の次のフロアぐらいから、あまり壁に素手で触らない方がいいとのことだ。」

忍者は続けて賢者に確認する。

「次話にいくまでに最深部に行けそうか?」

賢者が突っ込みながらも答える。

「メタなことを言うんじゃない!

でも、それでも敢えて答えるなら、難しいとしか言えないな。

サニアと合流してからずいぶんと行数を消費したけど一歩も進んでないからな。」

賢者はメンバーを見渡す。

「何か言っておきたいことがある人はいるかい?

ボス戦の前に試したいことがあれば今のうちだよ? 」

狩人が手を挙げる。

「一匹私に回してほしい。スライムのコアが目視で確認できるかを見ておきたい。

一応、魔物中辞典(マチカ書房 12版 定価3,800円)には、目を凝らせば判別可能、と書いてはあったが自分の目で実際に確かめたくてね。」

白魔術師が尋ねる。

「そんなこと調べてどうするのさ?」

狩人が答える。

「遠距離から倒せれば安全だろ?」

「ふーん。でも今日は前列も後列も充実しているから出番は無いと思うよ。」

狩人が補足する。

「人が増えた分、時々しゃべったりアクションしておかないと忘れられるからな。」

黒魔術師が大きくうなずく。

「凄くよく分かる。」

ナイトが急に口を開く。

「この洞窟は湿度が高いなあ。」

賢者がすかさず突っ込む。

「出番を求めて不自然に発言するのやめろ!」


一行は次のフロアの直前まで到着していた。

狩人が告げる。

「次のフロアにはスライムが30ぐらいいるな。

天井にも3匹いる。」

忍者がメンバーに声をかける。

「じゃあ、さっきの打ち合わせ通りに。天井のはテスが担当な。

レスターは1匹残すことを忘れないように。

はい、じゃあ作戦スタート!」

シーフと白魔術師とナイトが勢いよく飛び出す。

シーフが槍を強く握ると片方の槍が炎を発し、もう片方の槍が冷気を帯びる。

シーフは両方の槍をそれぞれ別のスライムに突き刺す。

槍を突き刺されたスライムは炎と氷の力に溶かさせるかのようにその場で崩れ落ちる。

シーフの手際のよい戦闘にベンチ組から歓声が上がる。

前列の2人も同じく目前の敵を1体片付けると、歓声が気になりシーフの戦い方を見るために手を止める。

一方、シーフの方も他の2人の戦い方が気になり手を止める。

結果として3人はお見合いする形となる。

賢者がすかさず突っ込む。

「お前ら仕事しろ!」

忍者が声をかける。

「ほら、監督がお怒りだぞ!」

賢者がすかさず突っ込む。

「誰が監督だ!」


一行が予定通りフロアのスライムを片付けると、狩人は数歩前に出る。

「さてと、最後に残っているあの1匹は私がいただいてもいいということかな。」

そう言うと矢を1本矢筒から取り出しながら忍者に尋ねる。

「エリア、スライムの弱点はどこにある?」

「あのスライムの弱点は今は、向かって右上の方の、体の中心辺りにある。」

狩人は目を凝らしてスライムを観察する。

「ああ、あのビー玉くらいの大きさのちょっとボヤけた感じの部分か。

一回位置を教えてもらえれば、なんとかあとはギリギリ目で追えそうだ。」

そう言いながら矢をつがえる狩人に忍者が声をかける。

「あんなに小さい上に体内をゆっくりとはいえ流れ続けるものを当てられるのか?

奴の体液の抵抗も考慮しないといけないんだぜ?」

狩人は一点を見つめ続けたまま答える。

「やれやれ、ずいぶんと見くびられたものだ。」

狩人は弓をゆっくりと引き絞り静止する。

全員がその様子を固唾を飲んで見守る。

皆が注目する中、狩人は完全に動きを止め続けていたが、数秒後、おもむろに矢を放つ。

放たれた矢はスライムの深部に突き刺さったが、勢いを失いスライムの体内で止まる。

皆が、おおっ、と声を上げるのとほぼ時を同じくして、スライムは力なく崩れていき消滅する。

狩人は賢者の方を振り返る。

「どうかな?」

賢者が狩人に宣告する。

「1匹に時間かけすぎ。ベンチ!」

狩人は残念そうに戻ってきて、つぶやく。

「そりゃないぜ、監督。」

賢者がすかさず突っ込む。

「誰が監督だ!」


フロアをいくつか攻略していくと、シーフがフロアの隅にある宝箱に気づく。

「ああ、あれかぁ。農園の人の遺品じゃない

かって奴。」

白魔術師が賢者に尋ねる。

「今回の仕事って宝箱の中身ってどこに帰属するんだっけ?」

賢者は曖昧に答える。

「えっと…どうだったかな?」

シーフが代わりに答える。

「今回は我々の取り分になる契約だよ。ジョブがシーフだとその辺りはどうしても気になるから覚えているよ。」

黒魔術師が疑問に思い尋ねる。

「宝箱の中身って自由に取っちゃいけないこともあるの?」

狩人が答える。

「むしろ、洞窟やダンジョン内の物を勝手に持っていっていい、という方がまれだよ。

元々の所有者がいる場合もあるし、土地の所有者がいたり、考古学的価値の分からない人たちによって流通されるのを防ぐためだったり理由は様々だが、洞窟内の物は放置か提出が基本だ。

持ち出しが当然に許させるのはRPGの主人公ぐらいなものだよ。」

ナイトが補足する。

「逆の立場に立って考えれば当たり前のことなんだけどな。

たとえば、最愛の娘が5歳の若さで亡くなった両親を考えてごらんよ。

娘のために立派な墓を建て、生前に愛していた人形やオモチャを大量に副葬品として収め、安らかに眠れるよう侵入者を追い返す仕掛けを施して入口を封印するんだ。

だが数年後、事件は起こる。

平穏が続いたある日、探検家を名乗る集団が大々的に発表するんだ。未知の洞窟を攻略し幼女の死骸を手に入れた、と。

副葬品として納められた物は、価値のあるものは散り散りに売り飛ばされ、価値の無いものはゴミのように捨てられ踏み潰される。

そして娘の体は見せ物のように扱われる。

そんな遺族の気持ち、想像するだけで胸が痛くなる。

そして思うだろう。関係者全員呪われて苦しむがいい、と。」

黒魔術師はさらに尋ねる。

「本当にそういうので呪われた人っているの?」

白魔術師が答える。

「それが結構いるんだよ。

立ち入り禁止の場所に入ったらなんだか常に人の気配を感じるようになって、家で怪奇現象が起きるようになった、とか。

白魔法には解呪の魔法があるんだけど、この手の物は強力すぎてほとんどお手上げなんだよね。」

ナイトが補足する。

「武器防具の、製作者が意図せずに付加してしまった呪いとは訳が違う。

さすがにこの種類の呪い持ちのアイテムは私でも遠慮する。」

最後に狩人が説明する。

「散々脅かしたけど、こういう洞窟での宝箱は、帰還することがかなわず散った者たちの遺品だから、持って帰って関係者に渡してやるのが普通だ。

大抵は関係者から謝礼を貰えるから、回収する方がいい。」

忍者が賢者に確認する。

「それで、この宝箱はどうする?

ちなみに今回はもう尺が無いぜ。」

賢者が答える。

「じゃあ、続きは次話で。」

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