1章-6
6話「第1章6話」
賢者はガイドに書類を見せる。
「こっちの書類は農園との契約解除の書類で、これを持って役所に申請すれば公民権その他についての制約はほぼ無くなる。つまり自由の身というわけだ。
それでこっちは健康保険の加入用の書類だ。そしてこっちの書類は…。」
隣のテーブルでは残りの4人が定規をテーブルに置いて真剣な表情をしている。
白魔道士は定規のひとつにボールペンの腹の部分を押し当てる。
白魔道士はテーブルの端の方に置かれた別の定規に狙いを定めると、ボールペンをテーブルに向かって押し込む。
すると、手元の定規はテーブルの上を滑っていき、目標の定規を衝突し相手をテーブルの外に弾き飛ばす。
「あっ、やられた!」
思わずナイトが声を上げる。
白魔道士は得意気な顔をする。
「ふっふっふ。狙い通り。」
狩人がテーブルの横に回り込む。
「喜んでいられるのも今の内だけだぜ。」
狩人は白魔道士が動かした定規とは別の定規にボールペンをあてがう。
「狩人の本領って奴を見せてやるよ。」
狩人はペンに力を込め、手元の定規を発射する。
定規は白魔道士が動かしたものの方に滑っていくが、途中で軌道が曲がり、白魔道士の定規をかすめるように横を勢いよくすり抜けてそのままテーブルから落ちてしまう。
「くっ、テーブルの微細なおうとつを見逃したか。」
白魔道士は勝ち誇る。
「あんたじゃ役者不足だったようだねえ。」
忍者が白魔道士の定規の反対側に回る。
「まだ祝杯をあげるのは早いぜ。」
忍者はそう言うと、テーブルの中央に置かれた定規にボールペンを当てる。
「距離およそ20cm、方角は北北東。
…発射!」
弾き出された定規はまっすぐ滑らず、回転しながらずれた方向へ進み、半分がテーブルの外に飛び出た状態で止まる。
それを見た白魔術師は足早に先ほど動かした定規の所に戻る。
「ちょうど半回転位させれば落とせそうな位置に来てくれたね。
遠慮なくいただくとしましょうか。」
白魔術師は定規にボールペンを当てる。
「それじゃ、いくよ。」
白魔術師が定規を弾くと、定規は狙い通り回転し、もうひとつの定規をテーブルから押し出す。
「どんなもんよ!」
4人が楽しんでいると、各種手続きを終えた賢者がやってくる。
「私が仕事をしている時に随分と楽しそうだねえ。」
忍者が応じる。
「悪いなノルド、この定規4本しか無いんだ。」
「ド○えもんのス○夫みたいなこと言うな!というかそれがやりたくて来たわけじゃねーし。
…そんなことより今後についての会議をするよ。」
「さて、色々と書類を申請したのでテスはもう農園に戻らずに済むようになったわけだが、これから独立暮らしていくには何か仕事を見つけなきゃいけない
…とさっきノルドが言っていた。」
忍者の謎の受け売りには触れずに賢者が皆に問いかける。
「すまない、解放後のことまでは考えてなかった。何かアイデアがある人はいるだろうか。」
すると賢者の後ろから声が上がる。
「そういうことなら我々アローワークにお任せください。」
賢者が後ろを振り返ると、いつの間にか受付が立っていた。
賢者は少し驚いたが、受付に対し当然の問いを投げかける。
「いつの間に、というかなぜここに?
ていうか普通、部外者がそんな不自然に会話に割り込んで来るか?」
賢者の突っ込みに対してナイトが得意気に話す。
「さっきお前たちの会話を聞いていたからあらかじめ呼んでおいた。
定規を早く落とされたが、逆にその状況を活かしてやったぜ。」
賢者が突っ込む。
「定規の方がメイン行事みたいな言い方するんじゃない!」
受付が事務的に語り出す。
「さっそくですが、求職のお話に入らせていただきます。
実は最近テスさんの年齢の未経験者の求人は最近とても多いのですよ。
まだ不景気ですが、将来の景気回復を見越した採用が多いのです。
即戦力だと今は余剰戦力になってしまうので、今は新人を囲ってじっくり育てようとする動きが活発化しているんです。」
狩人が尋ねる。
「具体的にはどんな職種があるんだい?」
受付は早口で答える。
「エキショクインジテンシャセイビチョウリシガソリンスタンドテンイン…。」
賢者が制止する。
「そんな量を口頭で言われても把握できない。悪いけど印刷してくれないか?」
受付は残念そうに答える。
「せっかく暗記したのですが…仕方ありません。分かりました。少々お待ちください。」
受付が席に戻りしばらくするとプリンタの機械音が鳴り始める。
『ザッザッ…ザザッザッ…ザッ…。』
一行ずつ印刷しているかのようなあまりの遅さに思わず賢者が突っ込む。
「遅すぎるだろ!家庭用か!」
受付が驚いた様子で答える。
「ええ、その通りです。…どうして分かったんです。」
「本当に家庭用だったんかい!使用頻度が高いんだから業務用を買え!」
賢者の突っ込みに受付は淡々と答える。
「経費をかけると無駄遣いだと苦情がうるさいので…。」
賢者が更に突っ込む。
「明らかに業務効率落ちてるだろ!
時間浪費の積み重ねの損失をカウントしないのやめろ!
そういう不合理なクレームはスルーしろよ!」
賢者が突っ込み終わると全員沈黙し、プリンタの印刷音だけが響き渡る。
『ザッザッ…ザザッザッ…ザッ…。』
みなそれぞれ手持ち無沙汰となり外を眺めたり持ち物を確認したりと思いおもいに過ごしていたが賢者が耐えきれず突っ込みを入れる。
「なんだよ、この究極に無駄な時間!」
受付が書類の束を持ってくる。
白魔術師が書類を受け取るとテーブルに置く。
「よっこら…しょういち!」
すかさず賢者が突っ込む。
「そのネタはヨッコイじゃないと通じないだろ!」
忍者が反応する。
「恥ずかしながら、元ネタが分からん。」
賢者が素早く突っ込む。
「嘘つけ!恥ずかしながらっていうワードが出てる時点で絶対分かってるだろ!」
ガイドが狩人に尋ねる。
「今のはどういうネタなの?」
狩人は咳払いをし、説明を始める。
「今のは太平洋戦争の…。」
賢者が割って入る。
「異世界のネタを広げるのやめろ!」
ナイトが書類の何枚かに目を通したあと呟く。
「本当にたくさん求人あるんだな。選び放題じゃないか。」
白魔術師がガイドに尋ねる。
「何か希望の職はあった?」
ガイドは申し訳なさそうに答える。
「せっかく印刷してもらったけど実はもうやりたいことは決まっていて…。」
忍者がそれを聞くと書類をテーブルに置く。
「ということは我々の仕事は終わりか。」
忍者はそう言うと定規を取り出す。
賢者が当然のごとく止める。
「聞いてやれよ!ていうか仮に仕事が終わったとしても定規のターンは来ねーわ!」
話の腰が折られ沈黙が場を支配する。
忍者は少し思案した後、口を開く。
「…時を戻そう!」
そう言うと、テーブルに広げられた書類を集め受付に手渡す。
「申し訳ないけど、カウンターに一回戻ってもう一度持ってきてくれ。」
小声で告げると何事も無かったかのように席に戻る。
受付は困惑しながらも一回自席に戻ると再び一行のもとに書類を抱えてやって来る。
忍者が困惑する白魔術師に指示する。
「受け取ってテーブルに置けばいいんじゃないかな。」
白魔術師は二度三度細かくうなずくと、書類をテーブルに置く。
「よいしょっ、と。」
ナイトが素早く何枚かの書類を手に取り目を通した振りをする。
「本当に求人いっぱいあるんだな。」
狩人が語り出す。
「太平洋戦争が終わったことを知らずに長い年月…。」
賢者が素早く突っ込む。
「今回はそのくだり無かっただろ!」
会話の流れが断ち切られ、気まずい空気が場を支配する。
忍者は少し思案した後、口を開く。
「…時を戻そう!」
賢者がすかさず突っ込む。
「もういいだろ!無限ループか!」
白魔術師がガイドに確認する。
「それで、やりたいことって何なの?」
ガイドはうつむきながら答える。
「お屋敷には古いけど漫画や雑誌がいっぱい置いてあって…。」
賢者が反射的に突っ込む。
「古い漫画だらけとか、ラーメン屋とか町の病院の待合室か!
…すまない。続けて。」
ガイドは気を取り直して話を続ける。
「そこで読んだ数々の冒険物語に想いを馳せてたんだよ。いつかは自分も大陸中を旅して回りたいと。」
狩人が尋ねる。
「具体的にはどんな物語を読んでいたんだい?」
ガイドは指を折りながら答える。
「ワ○ピース、ル○ン三世、他人の家に入って壺を割りタンスを漁るドラゴン的な勇者の話…。」
忍者が反応する。
「全部犯罪者じゃないか!」
賢者が素早く突っ込む。
「3番目を犯罪者呼ばわりするのはやめて差し上げろ!
国民的ゲームを敵に回すと命に関わるぞ!」
ガイドは慣れたのか気にする様子も無く完全にスルーして続きを話す。
「だから私もみんなと同じく、えっと、冒険者…だっけ?
それになりたい。」
狩人は軽くため息をつく。
「冒険者か。随分と古い呼び方をするんだな。」
忍者が反応する。
「なにせ情報源がラーメン屋の古い漫画だからな。」
賢者が素早く突っ込む。
「ラーメン屋じゃねーわ!」
狩人が自分で言ったことに補足する。
「昔は冒険者と呼ばれていたらしいけど、大分前のスリーエス会議で改名したんだよ。」
ガイドは首をかしげ狩人に尋ねる。
「スリーエス会議って何?」
狩人はふうと息を吐くと大きく息を吸いやや早口で説明を始める。
「スリーエス会議。
その歴史は古く、今からおよそ1024年前。
時の6か国の間には、貿易の場面において大きな障害が存在していた。それが、単位と物の名称の不統一だ。
当時のこの国の…。」
賢者が狩人の長い話の要旨をまとめる。
「要するに、昔は冒険者と呼ばれていたけど、逃げたペットの捜索だとか屋敷の警備だとかに冒険要素は皆無だろってことで改名することになったわけだ。
臨時非正規雇用だの契約労働者だの色々と改名候補が出たが、どれも決め手に欠いた。
最後は面倒だから、候補の中で一番多く出た単語を採用することになった。
それが『ワーカー』という単語だ。
我々の職業はワーカーと呼ぶ。正式名称だ。」
狩人が補足する。
「だけど今ではあまり口に出してはいけない言葉となっている。」
ガイドは疑問を狩人に投げかけようかと一瞬考えたが、思い直し白魔術師に尋ねる。
「どうして言っちゃいけないの?」
白魔術師が答える。
「名前が決まってからだいぶ後のことなんだけど、この名称が先に超有名ラノベ作品オー○ーロードで使われている事が分かってね。
ただこちらとしてもタイトルにも使われている単語だから変更というわけにもいかず、色々と考えた末、『ばれないようにあまりこの単語を使わない』という方針になったんだよ。」
ガイドは心の中だけで突っ込む。
「(ええ…!?なにその理由?)」
狩人がガイドに問いかける。
「ひとくちにワーカーと言っても色んなジョブがあるけど、どれにするんだい?大まかには物理系と魔法系の2系統があるけど。」
ガイドは即答する。
「魔法系で。魔法でドカーンと派手にやりたい!」
ナイトが呟く。
「黒魔法を使う魔道士、つまり黒魔術師か。」
ガイドが素朴な疑問をぶつける。
「魔道士なのにジョブの名前は魔術師なの?なんで?」
ナイトが答える。
「当初は魔法の系統と『魔道士』を連結した名称だったんだけどな。でも調べてみると、『黒』と『魔道士』を連結した単語が商標登録されていることが分かってな。
泣く泣くジョブ名は全部、魔術師になっているんだよ。」
ガイドは心の中だけで突っ込む。
「(ええ…!?なにその理由?)」
賢者が話を元に戻す。
「黒魔術師か。黒魔術師に限らず、魔術師には適性があるからなあ。
先に適性検査を受けてみてはどうかな。」
ガイドは首をかしげる。
「適性検査?あるならやってみたいけど…。」
賢者が受付に尋ねる。
「検査っていくらかかるんだい?」
受付は手元のメモを見る。
「魔法適性検査は一回5,000円です。」
「そうかい。じゃあ、お願いするよ。」
賢者は受付に料金を渡す。
忍者が呟く。
「5,000円ポンとくれたぜ。」
賢者がすかさず突っ込む。
「おい、やめろ!元ネタの知名度微妙だけど、とにかくやめろ。」
忍者は続ける。
「一番気に入っているのは…値段だ。」
「だから、やめろって言ってるだろ!」
受付は困惑しながら尋ねる。
「えっと…もう準備してよろしいでしょうか。」
ナイトが代わりに答える。
「あ、はい。お願いします。」
受付は席に戻ると印刷を始める。
「準備している間、説明の書類に目を通してもらえますか?」
プリンタが印刷を開始したのを確認すると、受付は奥へと消える。
プリント音だけが響き渡り続ける中、一同は手持ち無沙汰にそれぞれに時間を過ごす。
しばらくすると、印刷音が響き渡る中、受付が試験管のセットといくつかの試薬を持ってくる。
「準備できました。」
賢者がすかさず突っ込む。
「印刷まだ終わってないけど…。」
受付は笑いながら答える。
「アハハ。別に読まなくても何の支障もありませんよ。」
「…じゃあ、なんで印刷したんだよ。」
受付は金属のトレーをガイドに差し出す。
「この上に頭髪か爪を少量でいいので置いてもらえますか?」
ガイドが尋ねる。
「髪の毛を抜けばいいの?」
賢者がすかさず突っ込む。
「切ればいいだろ。漫画とかだと軽く抜いているけど髪の毛ってそう簡単に抜けないからな?」
忍者が会話に入ってくる。
「爪を剥がすのはやめた方がいい。想像を絶する痛さだ。」
賢者がすかさず突っ込む。
「まるで経験者みたいに語るな!」
忍者は補足する。
「漫画で得た知識だ。間違いない。」
「何の漫画だよ。どうせベ○セルクだろ。」
忍者は少し驚く。
「…なぜ分かった?」
「…何年の付き合いだと思ってるんだよ。」
二人は軽くハイタッチをする。
ガイドは呆れ気味に確認する。
「えっと、先に進めてもいいかな?」
ガイドは髪を数本1cmほど切り、受付に渡す。
受付は受け取った髪の一本をピンセットでつかみ、透明な液体の入った試験管に入れる。
試験管を振ると髪は徐々に溶けていく。
ほとんどが溶けたところで受付は溶液を50mLチューブに分注する。
駒込ピペットを使い250μLほどを淡い緑色の水溶液が入った試験管に入れる。
すると、緑白の沈殿が生じ、溶液が濁った。
続いて、黄褐色の水溶液が入った試験管にも同様に液を加える。
すると、赤褐色の沈殿が生じ、溶液が濁った。
ガイドは我慢できず口を挟む。
「これ…無機化学の実験?
学校で同じ実験やったよ?
Fe²⁺ とFe³⁺ に水酸化ナトリウムを入れた時と同じ結果なんだけど…?」
狩人がたしなめる。
「そんなこと言っちゃダメだよ。これは魔法的なものがかけられた試薬なんだから。」
「じゃあ、違うか。ごめんなさい。」
受付は別の試験管に髪を一本投入する。
今度は髪は溶けなかった。
液を50mLチューブに分注し、ピペットマンで50μLほどを別の試験管に入れる。
すると、白い沈殿を生じた。
沈殿を生じた試験管を熱湯で湯せんしたところ、沈澱は溶解した。
ガイドは我慢できず口を挟む。
「完全に無機化学の実験だよね?
学校で同じ実験やったよ?
この性質、塩化鉛だよね!?
化学の先生がみんなの前で目を輝かせてやってたの覚えてるよ!」
狩人がたしなめる。
「そんなこと言っちゃダメだよ。あれは魔法的なものがかけられた試薬なんだから。…たぶん。」
「じゃあ、違うか。ごめんなさい。…今、たぶんって言った?」
受付は続いて、鮮やかな水色の水溶液の入った試験管を手に取る。
ガイドは我慢できず口を挟む。
「銅イオンの色だよね!?
さすがにあれは銅イオンだよね?」
狩人がたしなめる。
「そんなこと言っちゃダメだよ。あれは魔法的なものがかけられた試薬なんだから。…知らんけど。」
「知らんけど!?」
受付は青色の水溶液が入った試験管に、最初に髪を入れた方の液体を少量加える。
すると、青白い沈殿を生じた。
ガイドは言いたいことを我慢し推移を見守る。
受付は沈殿が出来た試験管を試験管ばさみに挟み、ガスバーナーの炎で緩やかに振りながら熱していく。すると、沈澱は徐々に黒色に変色していく。
ガイドは我慢できず口を挟む。
「完全に銅イオンだよね!?
水酸化銅が沈殿して、加熱したら酸化銅になったってことだよね?
濁った汚い液を加熱したら黒く汚いカスが出来て、生徒がどん引きする中、先生だけが楽しそうにしていたあの日の光景…一生忘れないよ!」
狩人がたしなめる。
「そんなこと言っちゃダメだよ。あれは魔法的なものがかけられた試薬かもしれないだろ。」
「もう否定もしてないじゃん!」
そんなやり取りを繰り返すこと数回、ようやく検査が終わる。
受付は検査結果を印刷する。
例のごとくしばらく妙な時間が流れた後、受付が印刷した紙を持って戻ってくる。
「結果が出ました。」
受付がそう告げると、忍者が声を張り上げる。
「結果、はっっぴょーーう!!」
賢者がすかさず突っ込む。
「格付けをチェックしているみたいな感じ出すのやめろ。」
やり取りが終わったことを確認すると受付は続きを話す。
「氷属性と毒属性に適性があるみたいですね。」
なんとも微妙な感じの雰囲気が場を支配する。
ガイドが尋ねる。
「この検査の結果って何が分かったの?」
白魔術師がため息混じりに答える。
「検査を待っている間、印刷された説明書を読んでおけばよかったじゃない。」
ガイドは口ごもる。
「まあ、そうなんだけど…。全くその通りなんだけど、納得いかないのはなぜだろう。」
受付が補足の説明を始める。
「黒魔法には属性というものがありまして…。
優秀な魔道士おふたりの前で私なんかが説明するのは何か気がひけますね。」
狩人が口を出す。
「それならば私が…。
属性は全部で7つあり…。」
賢者がすかさず突っ込む。
「お前が説明するんかい。
…別にいいけど。」
狩人が説明を続ける。
「中でも炎と冷気と雷が3大属性と呼ばれる。
この辺りはファ○ナルファンタジーがベースにある世界観だからなんとなく分かるだろう。」
ガイドは少しためらいながらもうなずく。
狩人は説明を続ける。
「魔道士志望の人はなぜかほぼ全員1つ以上に適性があって、黒魔術師を志望する人はなぜか必ず全員2つ以上に適性があるらしい。
適性があるから志望方向が決まるのか、志望しているうちに適性がつくのかは謎だけどな。
そしてこれも理由は不明だが、黒魔術師を志望する人の適性の1つ以上は必ず3大属性らしい。」
狩人はひと呼吸置くと続きを話す。
「要するにだ。
氷と毒に適性があるということは、普通ってことだ。
普通の中の普通。ありふれた適性だな。」
白魔術師がフォローする。
「でも2属性うまく組み合わせて活躍する人も結構いるから。炎を風でコントロールする、とか。」
ガイドは白魔術師に尋ねる。
「へえ。氷と毒ってどんなコンボがあるの?」
白魔術師は答えに詰まる。
「氷と毒…。氷…うーん…。」
ガイドがため息をつく。
「あんまりいい組み合わせじゃないってことかな。スタートラインは最後尾か…。」
ナイトがガイドに語りかける。
「気を落とすことはない。
お前はそこの魔道士2人とは違うタイプの英雄になる資格を得た、というだけのことさ。」
ガイドは首をかしげる。
「どういうこと?」
ナイトが語り始める。
「そこの2人は大陸中に名の知られた魔道士だ。
片方は、使い手の少ない時空魔法の使い手で、あっという間に時空魔法を極めたかと思ったら白魔法も高レベルまで使いこなせるようになり賢者となった稀代の天才。国立の魔法院を飛び出して謎の忍者と組んでワーカー稼業を始めたということが報じられた時は大陸中が大騒ぎだった。
もう片方は、白魔術師として一番期待されるヒーラー専門としての道から大きく外れた道に進み、未知のルートから高みに達した変人だ。最高レベルの白魔法まで使えるようになったというニュースが流れた時には皆が反応に困った。」
白魔術師は何か言いたそうだったがぐっとこらえる。
ナイトはそんなことを気にもとめず続きを話す。
「どちらも偉大ではあるが、決定的に足りないものがある。
それは、他の誰かに希望を抱かせる力だ。」
ナイトは周りを見回し全員の関心が自身の話に向いているのを確認するとすぐに続きを語り始める。
「才能に恵まれるというのは羨ましいことだが、そうでない者が真似しようと思っても真似できる事ではない。
リンの方は結果的には大正解とがそもそも誰も真似したいとは思わない。憧れとは程遠い。
みんなが憧れなりたいと思うのは、低い場所から正当なルートで上り詰めた者だ。
才能に恵まれなかった者たちの心に、私たちでも努力すればできるんだ、という希望の光を灯し、その希望の光はお前を照らすだろう。」
ナイトは検査の結果の書かれた紙を手に取る。
「いつかお前が並々ならぬ努力の末に高みに到達した時、きっと誰かが讃えるだろう。天才魔道士だと。
そうしたらお前は、こう答えるんだ。自分は凡才だ、と。
信じ切れない相手に満を持してこの検査書を見せてこう言うんだ。自分のスタート地点は最後尾だった、と。」
ナイトは検査の結果の紙をガイドに返す。
「伝説の一歩目を示す貴重な資料になるかもしれないんだぜ。大事にしなよ。」
受付がガイドに尋ねる。
「選択ジョブは黒魔術師でよろしいですか?」
ガイドは少し考えた後、うなずく。
「なんか騙されてるような気もするけど…黒魔術師に決めたよ。」
受付はカウンターの奥に向かって大きな声で告げる。
「黒魔術師、1人注文入りました!」
賢者がすかさず突っ込む。
「飲食店か!」
受付が手続きの準備をする間、メンバーはそれぞれ思いおもいに過ごす。
狩人が調味料セットとラードを取り出す。
ガイドはその様子を見て不思議そうにしている。
「ずっと思ってたんだけど、みんなが何も無い空間からアイテムを出し入れしてるのってどんな仕組みなの?」
狩人が調味料を整理しながら答える。
「これはワーカーなら誰でも使える、道具をしまっておくスキル的なものだよ。」
ガイドは説明が短かったことに安堵しつつも、更に尋ねる。
「いくつくらい入れられるの?」
狩人はラードを調味料のセットの中にねじ込む。
「最初はみんな一律で8個、経験を積むと32、64と増えていく。
一個、という概念も曖昧でね。複数の物から成るセットでも申請が通れば1つという扱いになる。」
「申請?」
そういうと狩人は天井を見上げ、大きめの声を出す。
「ラードは調味料に含んでいいだろうか?」
狩人はしばらく沈黙した後、おもむろに調味料セットを収納する。
「…OKだってさ。」
「それ、どういう仕組みなの!?」
狩人が補足する。
「どうせこの後すぐに使えるようになるんだ。実際にやってみた方が早いよ。」
「どうやったら使えるようになるの?」
狩人が受付の方を指さす。
「これから出てくる書類にサインすれば使えるようになるよ。」
「書類を書いてから何をすればいいの?」
「だから、書類を書きさえすればいいんだよ。」
ガイドは納得がいかず更に尋ねる。
「書類に使われている紙に何か特別な力が込められているとか…?」
狩人がプリンタを指さす。
「あのスローなプリンタが使ってるただのコピー用紙だよ。」
「もう1回聞いていい?どういう仕組みなの?」
受付が印刷した書類をガイドに提示する。
「ここにお名前を記入してください。」
ガイドは言われるがままに名前を記入する。
受付は記入が終わった書類を手に取ると名前に不備が無いことを確認する。
「以上で終了です。お疲れ様でした。」
「…えっ!?」
驚いて声を上げてしまったが、すぐに冷静になり周りのメンバーを見回す。
すると、白魔術師が声をかけてくる。
「これで正式に黒魔術師になったんだよ。おめでとう。」
狩人が続く。
「これで道具を収納するスキルが使えるようになったはず。
空中にド○えもんの四次元ポケットがあってそこに手を入れるイメージで手を伸ばしてごらん。」
言われるがままに手を伸ばすと、伸ばした手がポケットをイメージした位置から異空間のような場所へと入っていく。
にわかには信じがたい現象に困惑していると、脳内に声が流れ込んでくる。
「(収納ゲットだぜ!8個まで何でも自由に入れられるよ!色々な物を放り込んでみよう!)」
思わず白魔術師に訴える。
「なんか陽気な声が脳内に直接流れ込んで来たんだけど!」
白魔術師は笑いながら答える。
「あはは。それはそういうものだから!」
「どういう仕組みなの!?」
白魔術師が本棚から本を持ってくる。
「魔法使えるようになってるから、やってみなさいよ。」
受付がすかさず割って入る。
「本はお貸ししますので外でお願いします。」
白魔術師が出口に向かって歩いていく。
「じゃあちょっと外に出ようか。」
忍者が答える。
「分かった。行く。」
賢者がすかさず突っ込む。
「お前が答えるんかい。」
人通りの少ない開けた場所につくと、白魔術師は開いていた本を閉じて黒魔術師に手渡す。
「68ページに氷のレベル1の魔法が書いてあったよ。
そこに呪文が記載されているから唱えてみて。」
「うん…(開いたまま渡してくれればよかったのに。)」
黒魔術師はページをめくりながら呟く。
「まだ全然実感無いんだけど、本当に黒魔術師になれてるのかな。」
忍者が答える。
「そこは心配無い。地の文の呼び名がもう黒魔術師になってるからな。」
賢者がすかさず突っ込む。
「おい、メタなこと言うのやめろ。」
黒魔術師は苦笑いしながらページをめくる。
黒魔術師がページを見つけて緊張した面持ちで内容を確認していると、忍者が話し掛ける。
「一応、言っておこうと思う。
今我々がいるこの場所は…。」
黒魔術師は手を止め、あたりを見渡す。
黒魔術師が忍者の方に視線を向けると、忍者が落ち着いた口調で告げる。
「…さっきカタバミを摘んだ場所だ。」
黒魔術師は困惑する。
「えっと、うん…。なんでわざわざそれ言ったの?」
黒魔術師は呪文が書かれた箇所に目をやると、目を閉じ呼吸を整える。2度3度息をふうと吐き、気持ちを整えている所で忍者が声をかける。
「私たちが邪魔が入らないように気を付けるから、安心して自分のペースでやってくれ。」
黒魔術師は迷惑そうに答える。
「うん…。できれば黙ってもらっていいかな?」
黒魔術師は再び本に目をやるが、すぐに顔を上げ忍者の方を見る。
「もう3回もボケたから、これ以上無いと思っていいよね?」
忍者はため息混じりに狩人の方を見る。
「ルーネイト、あとは任せた。」
黒魔術師が即座に反応する。
「もういいって!集中できないよ!」
ナイトがつぶやく。
「緊張をほぐすつもりが逆効果か。
過ぎ足るは及ばざるが如しって言うからな。」
賢者が突っ込む。
「お前が締めるんかい。」
黒魔術師は本を見ながら呪文を唱え始める。
「アサハホタテノカラサイリヨウシタヒリョウニワニマキヒルハサイクリングデ……
…ちょっと待って!」
黒魔術師は呪文を中断する。
白魔術師が不思議そうに尋ねる。
「何かあったの?」
黒魔術師が、不思議そうにされたことを逆に不思議そうに尋ね返す。
「これ…本物?
呪文おかしくない?」
白魔術師は笑いながら答える。
「あはは。それはそういうものだから!」
「そうなんだ…。」
黒魔術師は首をひねりながらも続きを読み始める。
「イキツケノメイドキッサデジュウギョウインヲナガメナガラネツヲトオシスギタハンバーグヲショクス…
…ちょっと待って!」
黒魔術師が顔を上げる。
「なんか呪文が恥ずかしいんだけど…。」
白魔術師は笑いながら答える。
「あはは。それはそういうものだから!」
「いや、でも2人はこんな変な呪文唱えてなかったじゃん!黒魔法だけなの?」
白魔術師は笑いながら答える。
「あはは。別に呪文は声に出さなくてもいいからね。」
「先に言ってよ!」
黒魔術師は本を黙読し始める。
だが、しばらくすると顔を上げる。
「あの呪文を読んでるかと思われること自体が嫌なんだけど…。
2人も脳内で読んでるの?」
白魔術師が答える。
「うまく言葉では言えないけど、魔法ってここをこうしてあんな感じで、みたいなのが分かれば使えるからわざわざ呪文は使わないよ。
あくまで呪文は、初心者がそのパスを通りやすいようにサポートするためのものだからね。
同じ魔法を何回も使っていれば慣れて呪文なんて使わないし、魔道士としての熟練度が上がれば慣れるまでの期間は短くなるよ。
高位の魔法になるほどパスが複雑になるから段々詠唱の省略は難しくなるけどね。
なんにせよ初心者のあんたは諦めるしかないよ。」
黒魔術師は渋々、本の方に視線を戻すと小声で呪文を読み上げる。
20秒ほど読み続けると、黒魔術師の数メートル先に冷気が発生し小さな氷の塊が発生する。
皆が反応に困る中、白魔術師が手を叩いて祝福する。
「やったじゃない!ショボいとか思ってるかもしれないけど、一発でうまくいくなんて凄いことだよ。第一歩でつまずく人だって大勢いるんだから!
それで、どう?初めて魔法を使った感想は?」
黒魔術師は納得いかない様子で答える。
「凄いのかもしれないけど、実感が湧かないというか、周りの反応が薄いというか…。」
忍者が驚いた様子で応じる。
「つまり言いたいのは、氷だけに我々の反応が冷たいということか…。」
忍者が黒魔術師に拍手を送ると、他のメンバーも同調する。
「ねえ、これ何の拍手?
仮に手柄だとしても、どちらかと言うと私じゃなくてエリアのものだよね?」
賢者は困惑する黒魔術師に声をかける。
「もうひとつ属性があるだろ?毒の魔法も試してごらんよ。
でも、扱うのが毒だから念のため少し距離を取ってもらえるかな?」
黒魔術師は分かった、と言うと、10メートルほど離れた場所にかけていく。
黒魔術師が離れたのを確認すると、メンバーに問いかける。
「一応確認するけど、うちのパーティで引き取らない、なんて選択肢は無いよね?」
狩人が呆れるように答える。
「ここまでやってサヨナラは無理だろ。よっぽど強い反対理由でもあれば別だけど。」
まず白魔術師が答える。
「私はオッケーだよ。私が訓練をつけてあげてもいい。」
ナイトが続く。
「私も構わない。今後、今回の洞窟みたいに黒魔法が欲しくなる場面はたくさんあるだろうし。」
最後に忍者が意見を述べる。
「私も賛成だが、時期については考える必要があるんじゃないか?
今回の洞窟はかなり危険だぜ。
今は戦力にならない人員を守りながらの攻略がどれほどの難しさになるか分からない。
洞窟攻略が終わるまでは待ってもいいんじゃないか?」
白魔術師が反論する。
「でも相手は動きが遅くて黒魔法がよく効くモンスターだよ。経験を積むには絶好の相手じゃない?」
忍者がこれに応じる。
「そんなこと言って全滅したってしょうがないだろ。
欲張らずに一つひとつ片付けていく方が安全ってだけだよ。」
白魔術師も対抗する。
「それはその通りだけどさ。絶好の機会を逃すのはもったいないよ。
ノーリスクも結構だけどリスクも取らないとリターンは得られないよ。少しは冒険しないと。」
忍者が答える。
「機会なんてこの先いくらでも他にあるだろ。
昔から、この世はデカい宝島って言うし。」
白魔術師が素早く応じる。
「だから、今こそアドベンチャーだよ。
先送りしたってどうせやらないんだから。
いつやるの?…今でしょ。」
賢者が軽く突っ込む。
「おい、やめろ。ド◯ゴンボールは知名度高いんだからパクるとすぐバレるぞ。」
狩人が割って入る。
「別に洞窟への再挑戦は急ぐ訳じゃない。準備のために1日は必要だろ?
その間に戦力になり得る実力になれば連れていく、とかそんなんでいいんじゃないか?
そんな短期間でどうにかできるのかは知らないが。」
賢者が場を納めに入る。
「1日か2日あれば初級…レベル1の魔法1つならなんとかなる可能性はあるだろう。
明後日の再挑戦の時に仕上がっていれば連れていく。そうでなければ待機してもらう。
それでいいか?」
全員が納得する。
「えっと、話は済んだ?」
近くで待っていた黒魔術師が声をかける。
ナイトが少し驚きつつも答える。
「テスいたのか。
魔法の試し撃ちはやらなくていいのか?」
「もうとっくに終わったよ!誰も見てない所でひとり寂しくね!」
賢者が黒魔術師に尋ねる。
「一応確認するけど、このあとどうするつもりだい。
メンバー募集しているチームを探すか、あるいはウチに入るか。
もちろんウチを選ぶなら歓迎するが、どうする?」
黒魔術師が力強くうなずく。
「ぜひ、お願いします!」
賢者が淡々と答える。
「そうか。じゃあこれからよろしく。」
黒魔術師はメンバーを見回すが、誰もそれ以上の反応をしない。
余りにも手ごたえがないので、黒魔術師はしびれを切らす。
「リアクション薄くない?」
忍者は待ち構えていたかのように応じる。
「つまり言いたいのは、氷だけに我々の反応が冷たいということか…。」
温かい拍手が黒魔術師に送られる。
「もしかしてこのネタのためにみんな黙ってたの?」
賢者が弁明する。
「いや、最初はそのまま自己紹介、っていう流れにしようと思ってたんだけど、エリアがネタを挟みたいオーラを出してたから…。」
忍者が手を叩く。
「というわけで、5人分の自己紹介が終わりました…と。」
賢者がすかさず突っ込む。
「省略したけど終わった体で進めます、みたいな雰囲気出すのやめろ!」
賢者が仕切り直す。
「まあいいや。最後にテス頼む。」
黒魔術師が軽く一回頭を下げる。
「黒魔術師になりたてのテスです!」
狩人が唐突に突っ込む。
「そこは駆け出しの黒魔術師、の方がよくないか?」
黒魔術師は咳払いをすると自己紹介を始めからやり直す。
「駆け出しの黒魔術師のテスです。今はほとんど何も出来ないけど、いずれは大陸一の黒魔術師になるつもりです。これからよろしくお願いします。」
ナイトが軽く笑う。
「フフッ、大陸一か。」
黒魔術師が少しムッとしながら尋ねる。
「何かいけなかった?」
ナイトが軽い口調で答える。
「いや、私もちょっと前まで同じレベルの目標を持ってたな、と思ってね。
ノルド、言ってやれよ。」
賢者が後を受ける。
「大陸ね。それも結構なことだと思うよ。
でもね、私たちの目指す場所はもっと先にある。
私たちが見据えているものは…世界だ。
この大陸、そして…。
この大陸を取り囲むように存在する5つの大陸全てを回る。
大陸一なんていう小さな目標を掲げたりしているようでは困るな。」
黒魔術師は少し驚くが、言葉を受け止めると笑みを浮かべながら再度自己紹介をする。
「私は駆け出しの黒魔術師のテス。いずれは必ず世界一の黒魔術師になってみせます。
これから長い付き合いになると思いますが、よろしくお願いします!」
きれいに終わったかと思われたが、忍者が口を挟む。
「ところでテス。自己紹介だが、黒魔術師王に私はなる、に差し替えた方がいいんじゃないか?」
黒魔術師は渋々自己紹介をやり直す。
「私は駆け出しの黒魔術師のテス。
…黒魔術師王に私はなる!」
だがメンバーは全員沈黙を保ったまま申し訳なさそうに下を向き、動かない。
「ちょっと!私が自己紹介してスベったみたいになってるじゃん!」
忍者が待ち構えていたかのように応じる。
「つまり言いたいのは、氷だけに我々の…。」
黒魔術師が食い気味に反応する。
「もうそのネタいいでしょ!」
賢者が仕切り直す。
「さて。我々のような職種をワーカーと呼ぶことは説明した通りだが、世界を舞台に働くワーカーのことをなんと呼ぶか分かるかい?」
忍者が腕を組みながら答える。
「ああ、もちろんだ。」
賢者がすかさず突っ込む。
「お前に聞いてねえわ!お前は知ってて当然だろ!」
黒魔術師は慣れたのか平然とした態度で答える。
「いや、分からないけど?」
賢者も何もなかったかのように応じる。
「世界、つまり複数の国で働く者のことを、和製英語的に『WorldWide Worker』と呼ぶ。
ウチのパーティはまだ条件を満たしていないが、近い内に実現予定だ。
ちなみに英単語ではないから、そこは大文字にならないだろ、とか、複数形はどうなる、みたいな議論は成立しないから気を付けろ。
そして、これはこれからお前が所属するパーティ名だ。忘れるなよ。」
忍者が呟く。
「タイトル回収。」
狩人が補足する。
「でも、絶対口にするなよ?別の異世界のホネの人に消されるからな!」
黒魔術師がうなずく。
「分かった。
てことは、タイトルもおもてには出せないってこと?」
ナイトがふっと笑うと問いに答える。
「いいじゃないか、タイトルなんて。訳あってタイトルを言えない物語。それでいいさ。」
黒魔術師が疑問をぶつける。
「この世界にはホネの人に対抗できる戦力は無いの?」
白魔術師が指折り数える。
「突っ込み担当の賢者、ボケ担当の忍者、料理担当の狩人、呪いアイテムコレクター、…。」
黒魔術師は心の中で呟く。
「(ダメだ、勝負になりそうもない…。)」
賢者はメンバーに告げる。
「さて、アローワークにメンバー変更の手続きに行こう…と言おうと思ったが尺が足りないから今回はここまでにしよう。なにか質問のある人は、いるかい?」
忍者が手を上げる。
「前回の『次回予告』に全く到達してないんだが、どうする?」
賢者が声をひそめつつ答える。
「誰にもバレてないから黙っておけば大丈夫だろう。絶対触れるなよ!絶対だぞ、絶対だからな!」