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1章-5

5話「第1章5話」


『今回のあらすじ』

別の大陸に渡り旅をする算段を立てていた所に依頼が入り、急遽町の外れにある農園の近くの洞窟に挑むことになった一向。

薄暗い洞窟を奥へと進んでいくと、その中は珍しいモンスターの巣窟と化していた。

手持ちの対抗策が乏しかったので一旦退却することにしたが、モンスターの群れに囲まれてしまう。



「…出だしはこういう感じでどうだろう。」

自信満々の忍者に賢者はいつも通りに対応する。

「ほぼ前々回のコピペだな。てか今回のあらすじって何だよ。ただのネタバレじゃないか。」


狩人が奥へと繋がる道を偵察し終えて戻ってくる。

「暗くて何も見えなかった。」

お約束のボケに賢者がお約束の突っ込みを入れる。

「じゃあ何しに行ったんだよ。」

狩人は続きを話し始める。

「まあ、慌てるなって。ちゃんと分かったこともある。

この先からは魔物が出る。」

一同に緊張が走る。

忍者が尋ねる。

「魔物って、どんな奴だ?」

「形を変えながら移動しているから、恐らくはスライムだろう。気配を探れる範囲だけでもそれなりの数がいるようだ。」

ガイドが条件反射のように反応する。

「あの青色のプニプニの弱い…。」

賢者が食い気味に否定する。

「違う。」

忍者がガイドに説明をする。

「この世界はド○クエがベースじゃない。どちらかと言えばファ○ナルファンタジーがベースだから気を付けろよ。」

賢者がすかさず突っ込む。

「誰目線の解説だよ!」

狩人が説明を続ける。

「もう敵の勢力圏内だから重要なことだけ言っておく。

武器は使えないと思ってくれ。」

白魔術師が尋ねる。

「なんで?」

狩人が答える。

「奴らの体は核となる器官の周りを魔力で具現化したゲル状の物質が保護することで形成されている。核を破壊すれば倒せるのだが、問題はゲル状の体の部分だ。触れたものを何でも溶かしてしまう。服も肉体も両方ともだ。服だけ溶かす配慮が必要な感じにはならないので安心してくれ。」

白魔術師がさらに尋ねる。

「じゃあ、どうやって倒せばいいの?」

狩人が再び答える。

「基本は属性魔法、つまり黒魔法だな。黒魔術師さえいれば、たとえ新米で使える黒魔法のレベルが低くても割りと戦える。

まあ、うちには黒魔術師はおろか黒魔法を使える者もいないわけだが。

となると、スライムをダメージを与えられるようなアイテムか対策がされた武器が必要となるわけだが、それは私からよりも専門家から説明した方がいいだろう。」

ナイトが待っていましたと言わんばかりに嬉しそうに引き継ぐ。

「属性系のダメージを与えるアイテムが有効だと思うが、あいにく持ち合わせは無い。属性攻撃しか効かないモンスターなんて稀だからな。

爆発するアイテムも有効だとは思うが、スライムの欠片が飛び散ったり洞窟にダメージを与えたりするから危険で使えない。

そうなると呪いの武器しかないな。

あんまりコレクションの自慢みたいなことはしたくなかったけど、仕方ないな。

うん、仕方ない、仕方ない。」

そう言うと数本の武器を取り出す。

「まずは、これ。その名もプリンカッターだ。

この武器の製作者が病院でプリン体を控えろと言われたことを気にし続けたまま鍛え上げたせいで生まれた武器だ。

ゼリー状の物に対して切り口からの再接合を防ぎ、かつ敵の体の成分による腐食を遮断するという優れものだ。

ただし、もちろん悪い面もある。

一度装備すると8年間プリン体の多い食べ物が食べられなくなってしまう。該当する食べ物が食べ物に見えなくなってしまうそうだ。

食事の幅がとてつもなく狭まるがスライムが相手ならこれ以上の特効武器は無いだろう。

誰か使いたい人はいるかい?」

ナイトからの問いかけに誰も応じないのを見てナイトは出した武器たちをしまう。

「一番リスクが軽いやつでこの様子なら使われる可能性はゼロだな。」

賢者が突っ込みを入れる。

「それで一番軽いんかい!」

ナイトは武器をしまいながら補足する。

「対抗手段が無いわけでもない。リン、お前の武器ならいけるだろう。

この前オーガと戦ったとき、リンの武器からなにかエネルギー的な物が出ていて武器自体は相手に接触してなかったことに気づいた。

お前の武器、というよりあのオーラ的な物ならなんとかなるんじゃないか?」

白魔術師は得意気な様子で武器を肩に担ぐ。

「いよいよ私の時代か。スライムなんぞ全部叩き潰して液状にしてやるんだから。」

忍者が呟く。

「それで潰れたやつがバブルス○イムの起源か…。」

賢者が素早く突っ込む。

「おい、やめろ。」

賢者は突っ込みを入れるとそのままの流れで狩人に尋ねる。

「相手はどんな攻撃をしてくるんだ?無視して進むことは出来ないのか?」

狩人は少し考えた後、静かに答える。

「奴らは動きは遅いが中距離から体の一部を飛ばしてきたり、距離が近ければ意外と素早く跳び跳ねて体当たりしたりしてくる。

やり過ごせれば追いつかれる心配は無いが、洞窟内で脇をすり抜けるのは難しいと思う。

奴らの体は濃硫酸みたいな物だとイメージして欲しい。

体当たりや体の一部を飛ばすという攻撃は浴びれば致命傷だ。

攻撃に気を付けながら確実に倒しつつ進むしかないだろう。」

賢者が渋い顔をする。

「全部相手をしないとダメ、か…。」

狩人が身じたくをする。

「ぼやいたってしょうがないだろ。敵の勢力圏内で時間を費やしても有利にはならない。今やれる範囲でやるしかない。」

白魔術師が鼻を鳴らす。

「ふふん。私にすべて任せて着いて来なさい。」

そう言うと手にしているメイスを振り回す。

振り回されたメイスは壁に派手に衝突し轟音を立てる。

全員呆気にとられ、しばらく誰も反応できずにいたが沈黙を破るように賢者が静かに諭す。

「洞窟、壊すなよ?」

白魔術師は無言で二度三度大きくうなずく。


全員奥に向かって歩き出す中、忍者はナイトのもとに駆け寄る。

「一応言っておくが。」

忍者は一呼吸置くと続ける。

「いろんなパーティと組んだことのあるお前なら分かっていることとは思うが、回復担当が魔法を使い続けなきゃいけないこの状況は普通なら撤退しか考えられない状況だ。」

ナイトは当たり前のことを言われて拍子抜けしたが、一応きちんと応じる。

「でもうちは回復魔法を使える人間が2人いるから余裕があるってことだろ?私の回復薬もあるしな。」

忍者は軽くうなずく。

「それはそうなんだが、一応うちも黄色信号ぐらいは灯っている感じだ。

だけど言いたいのはそこじゃない。うちのパーティでも撤退一択になるケースについてだ。」

ナイトは足を止める。

「どんな場合なんだ?」

忍者は足を止めず、歩きながら答える。

「ノルドの方が魔法を連発しなきゃならないケースだ。この場合はリンの余力どうこうは関係ない。

即レッドカードだ。」

ナイトは小走りで忍者に追いつくとすぐに疑問をぶつける。

「それはどういうことだ?説明してくれよ。」

忍者は足を止めずに答える。

「最初は黄色信号と言ったのに次は赤信号じゃなくてレッドカードと言う、というボケだ。」

「聞きたいのそこじゃねーよ。」

「…説明してやりたいのは山々だが。」

忍者は先頭集団を指さす。

「今ルーネイトがスライムという種族の歴史を解説中だ。聞いてやってくれ。」

「…それは別にいらないよ。」


しばらく進むと狩人が一同を制止する。

「静かに。」

賢者が反射的に突っ込む。

「さっきからお前しかしゃべってねーわ。」

数秒の静寂の後、狩人が告げる。

「ここから先が本番だ。リン、頼んだよ。」

先頭に移動する白魔術師に狩人が声をかける。

「敵は2匹。正面の奥だ。

武器の安全より自身の安全を第一に考えろよ。一撃喰らうだけで致命傷だよ。」

白魔術師は静かにうなずく。

賢者も声をかける。

「ちからを込めすぎて洞窟を壊すなよ?」

白魔術師は無言でうなずくと歩き出す。

「それじゃあ、行くよ。」


洞窟を進むと、少し開けた場所に出る。

奥の方に魔法で作られた光を向けると、半透明な高さ30cmくらいの大きさの物が3つうごめいている。

「あれね。」

白魔術師はそう言うやいなや、駆け出し一気に距離を詰める。

そして、1m位の距離で足を止め様子をうかがう。

狩人が慌てて声をあげる。

「そこはもう相手の攻撃圏内だ!様子を見るならもっと離れろ!」

白魔術師は即座に後ろに飛び退くが、それとほぼ同時にスライムのうちの一匹が体の一部を白魔術師に目掛けて飛ばす。

白魔術師は自分目掛けて飛んできた塊に対して反射的に武器を振る。

塊にぶつかった武器は塊の大部分を消し飛ばすが、消しきれなかった飛沫が白魔術師のローブに向かって飛んでいく。

飛沫は白魔術師の体の回りに展開された結界に触れると蒸発するように消えていく。

白魔術師は軽く自分の体を見回しダメージを受けていないことを確認すると攻撃してきた個体に向かって大きく踏み込むと武器を思いっきり振る。

フルパワーで振りきられた武器はスライムをあっさりと消滅させるとともに、衝撃波が洞窟の壁にぶつかり凄まじい轟音を立てる。

白魔術師はそのままの勢いで近くの個体に襲いかかる。

スライムが反応することも許さぬほどの速度で間合いに入ると力強く武器を上から振り下ろす。

スライムを消失させるとともに地面に大きなへこみを作り上げ、地震かのような大きな振動を引き起こす。

白魔術師は手を休めることなく少し離れた壁際にいた3匹目のスライムに向かって突進する。

 あっという間にスライムを射程にとらえると、壁に押し付けるように武器を突く。

壁には武器の軌道の形に大きなえぐれが産み出される。

一連の攻撃の後、洞窟は悲鳴をあげるかのように天井から小さな石をパラパラとこぼし始める。

一同は洞窟がどうなるか不安な様子で四方八方を見回していたが、揺れが収まりしばらくすると、天井も落ち着きを取り戻し落石が止まったことでひとまず安心する。

何事も無かったかのような様子で戻って来た白魔術師に賢者が真っ先に声をかける。

「壊すな、って言ったよね?」

白魔術師が即座に反論する。

「壊したんじゃない。敵と戦ってたら壊れたんだよ。」

賢者が即座に返す。

「自然に発生した現象みたいな言い方すんな!

…まあ、いいや。それで、戦ってみてどうだった?」

白魔術師は自分が作り出した闘いの跡の方を見ながら振り返る。

「そうだね。まず言えることは、向こうの攻撃は防ごうと思わないほうがいい。

さっきほんの少しだけ攻撃を浴びたけど、魔法で作った防御の一割近くを持っていかれた。

相手の攻撃の大部分を相殺していたからよかったけど、相手の全力の攻撃が直撃していたら防御を突破されてたかもね。

ても、弱点も見つけたよ。

動きは思ったより早いけど、反応速度は遅い。

素早く近寄って叩けば呆気なく倒せるみたい。

さっきは安全を考慮してちょっと力を入れすぎたけど、もうちょっと節約しても十分倒せる。」

そこまで言うと白魔術師は一呼吸置く。

「でも…。

40、50も相手することはできないよ。

防御は常に全力、攻撃の方はどの位の力を割く必要があるか分からないけど、ゼロってことは無いからね。

この洞窟にはあと何匹ぐらいがいるの?」

狩人が答える。

「数は分からない。全部がスライムかどうかも分からないが、今頃感じ取れるだけでも5、6匹いるな。

 こっちの準備が足りなすぎる。途中のどこかで引き返さなきゃいけないのは確定だな。

それはそうと、今のスライムだが、正面の二匹は事前に感知できていたが、離れた所の奴は感知できなかった。

引き返す前に原因を特定しておきたい所だが…。」

ナイトが回りを見回す。

「わざわざそう言うってことは、ダンジョン自体に原因らしいものは無くて何者かが探知を阻害しているってことだろ?」

忍者が周囲を警戒しながら補足する。

「その可能性もあるが、何も無い所に突然出現したという可能性もある。リンには戦いに集中してもらってそれ以外のメンバーは周囲の警戒をしながら進もう。見るべきは壁だけじゃない。天井も忘れないようにな。」

白魔術師が真面目に答える。

「じゃあ、私は主に右の方と天井を見ておくね。」

困惑の声が各自から上がる。

「えっ?」「?」「?」「?」

白魔術師は少し考え込んだ後、ようやく皆の反応の意味に気づく。

「わ、わざとだよ!場を和ませようと軽く冗談を言っただけ!さあ、先に進もうよ。」

白魔術師は足早に下り坂を進んでいく。


しばらく坂を下っていくと、狩人が皆を制止する。

「この先の開けた場所にスライムが5体いる。

右に3体、左に2体だ。」

白魔術師は全員に尋ねる。

「誰か、壊れてもいい武器持ってない?よく考えたら普段使いの武器を危険にさらす必要無かったわ。

いっそ武器じゃなくてもいい。長い棒なら何でも。」

賢者は槍を取り出す。

「山奥で焼け残った店で買い取ってくれなかった槍なら…。」

白魔術師は槍を受け取る。

「ありがとう。ていうかこんなのまだ持ってたんだ。」

狩人が再び皆に告げる。

「訂正だ。右に3体、左に2体、そして正面の壁際に1体だ。…さっきまではいなかった、か探知できなかったんだがな。」

一同に緊張が走る。

狩人が軽い口調で続ける。

「こんなところで止まっていたって仕方ない。さっさと敵の顔を拝みにいこう。」


洞窟を進み、開けた場所に出るとそこには事前情報の通り6匹のスライムが待ち構えている。

白魔術師が武器を構えながらスライムの方へ突っ込んでいく。

「現れたな、魔物めっ!」

白魔術師の掛け声に賢者が反射的に呟く。

「向こうは待機していただけで、現れたのはむしろこっちだけどな。」

白魔術師が順調にスライムを潰していく中、忍者が賢者の肩をトントンと叩く。

「あそこ見ろよ。」

忍者が指差した先の壁には魔法陣のようなものが出現していた。

魔法陣の中心には影のような塊があった。塊は時間が経つと共に輪郭や色が付き始め徐々にスライムへと変化していく。

賢者が呟く。

「どうやら新しく出現している、という説が正しいみたいだな。

もう少し様子を見て…。」

賢者が言いかけたところで、白魔術師ができかけのスライムに攻撃をしかけ、消し飛ばす。

「掃討完了!なんか最後のだけ感触おかしかったけど…。まあ、いいか。」

白魔術師は自信を持った様子で告げる。

「全部片付けたよ。だいぶ力の加減が分かってきた。」

賢者は辺りを見回す。

「加減が分かってきたか。それはいいことだ。

きっとそこら中にある大きなクレーターは私の見違えなのだろうな。」

白魔術師は賢者に尋ねる。

「それで、何か分かったの?」

「ああ。どうやら何者かがスライムを召喚しているらしい。ゆっくり対策を練りたい所だが、ここは相手のテリトリー内だ。いつ敵が現れるか分かったもんじゃない。元凶の所まではまだ距離がありそうだし…。」

賢者は皆に宣言する。

「進むのはここまでだ。ここで調べられることを調べたら一旦退こう。」

狩人が天井を確認する。

「さっきのフロアもだったが天井に配線されているな。電気が通っている、または電気が通っていたのだろうか。」

忍者がスライムの跡地を観察してメンバーに呼びかける。

「ちょっと試したいことがある。次に現れたら私に回してくれ。」

ガイドがナイトの袖を引っ張りながら尋ねる。

「出口の方に箱がいくつか落ちているけどあれは何?」

ナイトは少し驚いた様子で応じる。

「テス、お前いたのか。全然しゃべらなかったから忘れてたぜ。」

「えっ、ひどくない?

それは置いておくとして、あれは何なの?」

ナイトが答える。

「洞窟内で死ぬと持ち物がああやって宝箱に入るんだよ。誰がどうやってるのか知らないが、モンスターが出る洞窟ならどこででも起きるから自然現象と解されている。」

賢者が割って入る。

「シーフがいないと開けることができないからあれそのものを気にする必要は無い。

重要なのは、ここで誰かが命を落とすような何かがあったってことだな。

おそらく農園の従業員がここでスライムにやられたんだろうな。」

ガイドが浮かんだ別の疑問をぶつける。

「普通あんな出口よりの場所に置かれる物なの?」

忍者が加わる。

「研究した人間がいるわけじゃないから有力な説というだけだが、犠牲者がやられた場所の近くに置かれるらしい。

死体置き場がきれいだったから気になって潜ってみたらモンスターがいて最初の部屋はすり抜けてやり過ごしたがこの部屋に来て敵が増えてまずいと思い引き返そうとした、がそれは叶わずやられたってことだろうな。」

狩人が周囲を警戒しながら疑問を投げかける。

「なんで上へ向かう所なんだろうな。足の速いモンスターじゃないから追い付かれたってことは無いし、回り込まれるほど時間をかけたというのも不自然だし。上に戻ろうとすると発動するトラップでもあるのかもな。」

そんな話し合いをよそに白魔術師はひとりで壁を叩きながら歩いていた。

「なんか壁湿ってるよ。結露的なものかな?…コンコン、入ってますか~?」

賢者が遠くから突っ込みを入れる。

「仮に中にいたとしても、返事できるモンスターじゃないだろ。」

白魔術師はそのまま作業を進め、徐々に出口の方へ近づいていく。

ナイトが呟く。

「あのままだと上への通路に行くぞ。不用意に近づいて大丈夫か?」

狩人がすぐに白魔術師を呼び止める。

「リン、一旦ストップ。戻ってきてくれ。」

白魔術師は作業を止める。

「分かった、今行く。」

駆け出した白魔術師は足元の小石を蹴飛ばしてしまう。

小石はコロコロと転がっていき上への坂道に侵入する。

そして、小石が止まると通路の壁一面に魔法陣がビッシリと出現する。

魔法陣からは次々とスライムが現れ、あっという間に通路を塞いでしまう。

白魔術師が平然とした様子で仲間のもとに戻る。

「…エリアがスライムを連れてこいって言うから連れてきたよ。」

珍しく忍者が突っ込みに回る。

「いや、いくらなんでも多すぎるだろ!」

狩人が周囲に警戒しながら忍者に声をかける。

「何か調べておきたいことがあるんだろ!早くしろよ!」

忍者は地面に落ちていた石をスライムに向かって投げつける。

石はスライムの体内に入り、その粘性にとらわれて勢いを失いスライムの体の中で止まる。

石はスライムの体の対流にあわせて緩やかにスライムの体を巡り始める。

「やはり地面の石は溶かさないか。地面にあいつらの移動で溶けた痕跡が無かったから石や、もしかしたら石でできた武器なら大丈夫かもな。」

賢者が忍者に尋ねる。

「お前のことだ。当然それだけじゃないんだろ?次は?」

皆の期待の目が忍者に集まる。

「次…?次か。

………。

調べたいとがあるとは言ったが、今回その場所と時間までは指定していない。つまりその気になれば…。」

賢者が突っ込む。

「無いなら無いって言えよ!」


ナイトが回りを見回しながら武器を構える。

「いつの間にか周囲も追加で召喚された奴らに囲まれてるぜ。どうする?ダメージ覚悟で出口に突っ込むか?」

狩人が即座に否定する。

「そんなことをしたら先駆者と同じ運命を辿るだけだ。素直に脱出するしかないだろうな。」

「いや、だからどうやって出るんだよ。」

忍者が考え込むように呟く。

「上に上がるとペナルティがある…。上昇でかかる負荷…。よし、名付けて、上昇負…。」

忍者の言葉を賢者が遮る。

「おい、やめろ。子供を解体してケースに詰めてダメージを肩代わりさせる漫画のワードを出すんじゃない!」

白魔術師が小声で呟く。

「あれ、よく地上波でやれたよね…。」

ナイトが焦った様子で訴える。

「なんでみんなそんなに余裕なんだよ。

囲まれてるけど大丈夫なのか!?」

忍者が落ち着いた様子でたしなめる。

「大丈夫だから心配するな。

ノルド、ここから脱出するとどこに出るんだ?」

賢者も落ち着いた様子で応じる。

「ジャンフォレストの中心部から少しはずれた場所だよ。」

「それで、今後の予定は?」

「まずはアローワークに行って大急ぎで報告をする。その後すぐに農園に飛ぶ。といっても洞窟の入口だけどな。

詳しくは説明している余裕が無い。

さて、ここでやり残したことはもう無いか?」

そう言うと、賢者はなにやら魔法を準備する。

忍者が答える。

「もうここには用は無いが、洞窟。出た後に新入り組には説明が必要だろう。

町には少し遅れて行くからみんなは先に向かってくれ。」

賢者がうなずく。

忍者がナイトとガイドの2人を手招きする。

「絶対に陣から出るなよ。」

忍者がそう言いしばらくすると、賢者を中心に地面に魔法の円が描かれ始める。

忍者が繰り返す。

「絶対に陣から出るなよ。

振りじゃなくて本当に命に関わるからな。

絶対に出るなよ。

…大事なことなので二回言いましたよ。」

ナイトは呆れた様子で答える。

「分かったよ。ネタじゃなくてリアルだと言いながらもボケをねじ込んでくるお前にはいつも驚かされるよ。」

賢者は見回して全員が範囲内にいることを確認すると魔法を発動する。

魔法が発動した瞬間、エフェクトや音の演出は一切なく、一行は洞窟の外に転移する。

ナイトは色々と覚悟をしていたがやはり頭が追い付かずに周囲を見回す。

白魔術師が同じように周囲を見渡す。

「あれっ、私たちは洞窟にいたはずでは…これは一体?」

すぐさま賢者が突っ込む。

「なんでお前が初見みたいな反応なんだよ!」

忍者が視線を賢者の方に移す。

「本来はここで私がネタを被せるべきだが、急ぐんだろ?先に行けよ。」

賢者はうなずく。

「分かった。レスターとテスを連れて追いかけて来てくれ。

ていうかネタを被せるべきって何だよ。」

そう言うと賢者たちは街の中心部に向かって駆けていく。


駆けていく賢者たちの姿が小さくなると、ナイトが忍者に尋ねる。

「で、これは何が起きたんだ?」

忍者はナイトの方を振り向く。

「なんで初見みたいな反応なんだい?」

「初見だよ!」

ナイトは思わず突っ込んでしまったあと気を取り直して再び尋ねる。

「ノルドの魔法で洞窟から脱出したってことだろ?

たしかここはジャンフォレストの中心部からはずれた所って言ってたな。瞬間移動的なことか。」

忍者は街の中心部に向かって歩き出す。

「そこまで分かっているなら、私から言うことは何も無い。」

ナイトが思わず突っ込みを入れる。

「あるだろ。説明してもらいたいこと山ほどあるよ。」

忍者は一旦足を止める。

「まず最初に言わなきゃいけないことは…。

あらすじ部分を無事にこなせたってことだな。」

「それは一番どうでもいいよ…。」


忍者は歩きながら説明を始める。

「察しの通り、洞窟を脱出できたのはノルドの魔法のおかげだ。一定範囲内の対象の座標を事前に記憶した座標に変更する、とか言ってたな。

記憶にストックできるのは二ヶ所までで、記憶させるには地面に手で触れる必要がある。

洞窟に入る前に地面を触ってたのを2人も見ただろ?」

「見てない。」「見てない。」

忍者は説明を続ける。

「万能な移動魔法にも思えるが、記憶しておく場所が人や物の往来が少ない場所じゃなきゃダメという欠点がある。」

ナイトが尋ねる。

「なんでだ?その魔法の存在をあまり大勢に知られたくないとかそういうことか?」

忍者は少し意外そうな反応をする。

「なるほど、そういう視点もあるのか。気づかなかった…。

正解か不正解か、どっちだと思う?」

「その反応で正解ってことは無いだろ。さっさと正解を教えてくれよ。」

忍者が説明を再開する。

「人通りが多い場所を復帰ポイントにすると、恐ろしい事が起きる可能性がある。

『石の中にいる』という言葉を知っているか?

転移先が壁だと壁の中にハマってしまう現象だ。

それが人間同士で起きる。

転移された方がダメージを受けるのか、転移してきた方がダメージを受けるのか、あるいはその両方か。

実際に起きたことが無いからわからないが、いずれにせよ大惨事だ。

だから2人が見たように、転移先の登録は人や物が通らない場所に指定するんだよ。」

「見てない。」「見てない。」

忍者は大きく息を吸うと静かにふうと吐く。

「ここからが重要だ。絶大な効果を持つが、今言ったようにリスクがあり安易に使用することはできない。いわばうちの切り札というわけだ。洞窟の中でも説明しかけたが、これが使えなくなる事態だけは絶対にNGだ。飛び先の座標の記憶の維持だけでも少しずつだが魔力を使うらしい。だから、常に余裕を持たせておかないといけない。

ノルドが魔法を連発するような状況を避けなきゃいけない理由は分かってもらえただろうか。」

ガイドが疑問をぶつける。

「さっき洞窟を出る前にあそこを転移先に更新しなくてよかったの?次回あそこから続きを探索できるんじゃ?」

忍者の代わりにナイトが答える。

「『スライムの中にいる』」

「…ああ、なるほどね。理解した。」

忍者がガイドの方を向く。

「洞窟を飛び先に指定しない理由か。少し考えればわかることだが、さっきの『石の中にいる』の話を覚えているか?」

「いいよ、もう答え分かったから!自分で何も考えずに質問して悪かったよ!」


「最後にひとつ。」

忍者が歩みを止める。

「狩人ってのは孤独で寡黙なものだ。」

ガイドが不思議そうに尋ねる。

「とてもそうは見えなかったけど…。」

忍者はチラッとガイドの方を見たがすぐに視線を戻す。

「と言っても、それは一般的な狩人の話だ。

ルーネイトはその固定観念に悩まされて来た。

なにしろあいつ自身の望みは、みんなの役に立ちたい、ってことだからな。

みんなにおいしい料理を提供して喜ばれたい、色々勉強して知識でみんなの役に立ちたい、困っている人を助けたい。そうした望みは狩人というジョブの道とは逆方向だからな。」

忍者は一呼吸入れると続ける。

「おしゃべりな奴だが、みんなの役に立ちたいという想いから来ている。

出来れば長い話でも聞いてやって欲しい。

どうしても興味を持てない内容の時は聞き流せばいいからさ。」


3人が遅れて到着すると、賢者が受付に報告をしていた。

「…それで、その石が部屋の出口に転がったと思ったら大量のスライムが出てきた。強行突破はどう考えても無理そうな量だった。実際、前に入った奴は強行突破を試みて命を落としたようだ。」

白魔術師が割り込む。

「べ、別にわざと蹴飛ばした訳じゃないんだからね!」

賢者が突っ込む。

「誰に対するツンデレだよ!」

狩人が続く。

「分かっていたことだが、矢を射ってみたが全て溶かされた。」

賢者がすかさず突っ込む。

「そんなことしてたのかよ。てか、分かってたならやるな!」

忍者が参加する。

「同じ色が4匹並ぶと消えるのかは確認できなかった。」

賢者がすかさず突っ込む。

「どうでもいいだろ!ていうか、お前たちいつ着いたんだよ。」


いつも通りの乗りに、アローワークの受付はあくまで事務的に対応する。

「分かりました。では伺った内容でご依頼主様に…。」

受付の言葉を賢者がさえぎる。

「依頼主には我々が直接報告する。報酬の話も一旦ペンディングしておいて欲しい。」

受付はやや疑問に思いながらも承諾する。

「分かりました。では報酬の話はのちほど。

ところで、依頼主の方はどんな人でした?

あそこの農園、何かいけないことをしてるという噂が囁かれていまして。あくまで噂レベルですが…。」

賢者はその問いを予想していたかのように素早く答える。

「色々と分かったけど依頼者と業務に関する内容について守秘義務がある契約だから何も話せない。」

受付は残念そうにため息をつく。

「それもそうですよね。高い塀で敷地を囲むような用心深い方が契約に秘密保持を盛り込まない訳がありませんよね。」

賢者は待ち構えていたかのように、したり顔で話す。

「そんなこともあろうかと、守秘義務を負っていない人物を連れてきた。」

賢者は後ろの方にいたガイドを受付に引き合わせる。

「この子は依頼を受けている人物ではない。

何を話しても問題ない立場だ。

我々が依頼主の注意を引き付けている、じゃなかった。調査結果を報告している間に聞きたいことがあれば存分に聞き出してやって欲しい。」

賢者がひとつ付け加える。

「我々がここに戻るまで依頼主に連絡はするなよ?

万が一、口封じに消しに来られてもこの施設じゃ対応できないだろ?」

受付は納得した様子で答える。

「なるほど、承知しました。」


一行は、ガイドを受付に任せ店の外に出る。

「さて、今度は洞窟の所まで飛ぼうか。」

賢者の提案に狩人が疑問を呈する。

「そんなに急いでどうするんだ?ゆっくり歩いていけばいいじゃないか。」

賢者が答える。

「そんなことしたら、洞窟から直接戻らず街に立ち寄ったことがバレるかもしれないじゃないか。」

ナイトが尋ねる。

「まだ何か面白い悪だくみを考えているのか?」

賢者がすました顔で答える。

「なに、どこぞの農園の主ほどじゃないさ。

さて、テスが忙しくて連れていけないうちに我々も急ごうか。」


一行は農園の屋敷に戻って主人に仕事の成果を報告をする。

「なるほど、洞窟の中はそのようになっていたのですね。

うちの社員もそのような無惨な死に方を…かわいそうに。」

賢者は出された紅茶にレモンを入れてかき混ぜる。

「それと謝らなければならないことがある。

付けてくれた道案内ちゃんだが、その…。

連れて帰ると言ったのに、ここに連れてくることができなくて申し訳ない。」

農園の主は笑いながら答える。

「ハハッ、そんなことですか。何の問題もありませんよ?

もし引き続き洞窟の依頼を受けて頂けるのであれば、あと何人でも際限なくお付けしますよ。」

賢者は紅茶からレモンを取り出しソーサーに置く。

「さっきは言わなかったが、どうもアローワーク、つまり政府は少し勘づいているようだよ。

職員が悪い噂が立っていると教えてくれた。

当面は子供の数を減らすのは控えた方がいいだろう。

そこで、なんだが。

案内人を連れて来れなかった詫びというわけではないが、形の上だけ、ということになるかもしれないがあの子は我々が引き取ろう。

同じ事故死をしたとしても、君たちの所に所属したまま死ぬよりは我々が引き取った後の方が疑いの眼差しはずっと少ないだろう。こう見えて我々は結構社会的信用は得ているのでね。」

農園の主は驚く。

「よろしいのですか?そちらにメリットがあるようには思えませんが。」

賢者は紅茶を一口飲み干す。

「洞窟攻略は引き続き受けるつもりだよ。

こっちのメリットの話だっけ?

よく分からないけど一般的には顧客の満足度が上がると報酬の額に反映されたりするのかな、なんて思ったりするものだけど、どうなんだろうね。」

農園の主は納得した様子で応じる。

「なるほど。なかなか悪いことをお考えになりますね。」

忍者が突然会話に入ってくる。

「フッフッフ…儂らも悪よのう。」

賢者が反射的に突っ込む。

「そんなセリフ聞いたことね―わ!」

賢者は気を取り直して続ける。

「…すまない。突っ込みを入れずにはいられない性なんだ。

とにかく、身請けをしたいから書類、が要るのかは知らないけど必要なものを頂いてもいいかな?」

農園の主は手をパンパンと叩く。

「スタッフぅ~!」

しかし誰も現れなかった。

農園の主は再度手を叩く。

「スタッフぅ~!」

しかし誰も現れなかった。

農園の主は再度手を叩こうとするが賢者が割って入る。

「もういいだろ!無限ループ地獄か!」

農園の主はため息をつく。

「それも性ですか?」

「違うわ!今のは誰でも突っ込む所だろ!」


一行が職員が書類を用意するのを待っていると農園の主が窓の外を見ながら話しかけてくる。

「皆さん、こんな話を聞いたことがありますかな?

あくまで噂なのですが、黒土の大陸の兵士がジャンフォレストの街から南下して山に入り行方不明になった、と。」

忍者が賢者に小声で囁く。

「(おい、もう終わったイベントのことしゃべり始めたぞ。突っ込まなくていいのか?)」

「(何か新しい情報があるかもしれないだろ。静かに聞いてやれよ!)」

農園の主は窓の外を眺めながら続ける。

「他にも森の大陸の兵士や火の大陸の兵士なんかの目撃例もあるみたいですが…。

最も証言が多いのが黒土の大陸の件です。

他の国の兵士が忍び込んだとあれば大事件で政府は大慌て、かと思いきや沈黙を保ったまま。

どうやら何が起きたのか分からず対策の打ちようもなく困惑している、というのが実情のようです。」

農園の主は一行の方に向き直る。

「ここからが興味深いのですが、他の国も困惑しているようです。

私の所には他国から流れてきた魔族が多数いるので他国の事情も情報として多少入ってくるのですが、彼らによると、この国以外の5つ全ての国による連合軍がミヌエットから攻めこんだらしいのです。その数、実に数万にも及ぶ大群だったとか。」

農園の主が少し間を空いたのを確認するとナイトが尋ねる。

「そんな大軍なら政府が情報を隠そうとしたって隠しきれるものじゃないだろ。外国が攻めてきたなんて話はかなり昔の歴史上の事件以外では聞いたことがない。それに風の大陸はかなり付き合いの深い同盟国だぜ。あそこだけは攻めてくるなんてあり得ないだろ。」

農園の主も同意する。

「全くもってその通りです。しかし、証言した者たちが嘘をついているようにも思えないのです。

仮に、北部中央に位置するミヌエットからの上陸が事実だとして、南西にある黒土の大陸に戻るには、南下して王都を通るか西に向かいここジャンフォレストを通るしかない。敗走兵からしてみればなるべく街は通りたくないはず。王都なんて論外でしょう。

そう考えれば、ジャンフォレストから山を抜けてサイアミーズから大陸間にかけられた大橋を通り帰国、というルートは筋が通ってはいるのです。」

忍者が呟くように尋ねる。

「国外に行って現地で情報を集めないと真相が分かりそうもない、ってことか。」

農園の主が付け加える。

「よその大陸が事態を把握しているかというとそうでもない、というより全く把握できていないようなのです。

なにしろ事件が起きたのはこの国の中、しかも民間レベルまで探っても一切情報が出てこない。

一応、黒土の大陸が山の調査を依頼したらしいのですが、いくら報酬が高額でもあんな道もほとんど整備されていないような酷い所の探索を引き受けるバカなパーティは現れないでしょう。」

賢者がワンテンポ遅れて反応する。

「お、おう。そうだな。」

忍者は少し興が乗ってくる。

「それ以外の兵士の目撃例の中ではどれが一番現実である可能性が高そうなんだ?」

農園の主は少し考える。

「そうですね。森の大陸の兵士でしょうか。

なにしろうちの従業員が直接目撃していますから。数十名規模で北西に向かったそうです。

夜中だし見間違いという可能性も十分ありますが。」

忍者が興奮ぎみに賢者に訴える。

「おい、最初に行くのはは森の大陸にしようぜ!」

賢者が呆れるようにたしなめる。

「まずは今回の仕事が終わらせてからだよ。お前はホント、都市伝説とかオカルト大好きだな。」


アローワークではガイドがパーティの帰還を待っていた。

待ち合い用の椅子にかけぼーっとしていると、外から何やら話し声が聞こえてくる。


「随分と待たせちゃったから何かお土産持っていこうよ。」

「いいけどなんでこんな直前で言うんだよ!

歩いてここに着くまでの間にたっぷり時間あっただろ!」

「そういえば洞窟の中では言いそびれたけど、スライムについての豆知識がいくつかあるんだが、どうする?」

「後でいい、というかそもそも要らない!」

「自分も、洞窟で紹介しなかった呪い装備の件が残っている。」

「そんな件は残ってない!」

「出国手続きってどんな書類が必要なんだっけか。」

「だから、今回の仕事が終わってからって言っただろ!」

一同が外でもめているのを見かねてガイドが入口の扉を開く。

驚く一同にガイドが半分呆れた様子で問いかける。

「…何やってるの?」

忍者は即座に、大きくひろげた手をガイドの方につきだしガイドの動きを制する。

「まだここのくだりが終わってない。出番はもうちょっと先だから今しばらく待っていてくれ。」

「…うん。」

ガイドは扉をそっと閉じると、元いた席に戻る。

席に座ると天井を見上げる。

「…そんな理由で人を待たせることある!?」


しばらくすると、パーティが室内に入ってきた。

狩人はガイドのもとまでくると、黄色い花を咲かせた背丈の低い雑草の束をテーブルに置く。

「お土産採ってきたよ。」

ガイドは困惑しつつも尋ねる。

「えっと…この雑草はどういうこと?」

狩人が反論する。

「その植物、知らないか?」

ガイドは植物を手に取り観察する。

植物は比較的背丈が低い植物で、茎の先端にはいくつかの葉がついていた。

葉はひとつの茎から3枚出ており、茎との付け根は細く外にいくにつれ急速に広がっていき、外周は円弧のようになっていたが、外周の中央部は大きく内側に切れ込んでいて、その形状はまさにハート型となっていた。

「もしかして…クローバー?」

狩人が間髪入れずに否定する。

「違う!断じてクローバーではない!

それはカタバミという植物だ。

別にこの世界特有の植物じゃなくて日本のわりとどこにでも生えている雑草だ。

 クローバーの葉はハートマークじゃない。」

ガイドは困惑する。

「えっ、でも名前にクローバーってつく企業や団体のロゴの葉は大体ハートマーク…。」

狩人が猛反論する。

「あれらは全部カタバミだ!

クローバー、つまりシロツメクサの葉は真ん中の大きな切れ込みがない。丸みのある形だ。トランプのクラブの柄に近い。

クローバーは断じてハート型の葉ではない!」

ガイドは二度三度小さく頷く。

「それは分かったけど、カタバミって珍しいの?」

狩人は落ち着きを取り戻し答える。

「全く珍しくない。コンクリートの隙間とかによく生えてるありふれた雑草だ。」

ガイドは首を傾げる。

「なんでそんなどうでもいい草持ってきたの?」

一同は互いに顔を見合わせる。

忍者がガイドの肩に手を置く。

「船頭多くして船山登るってやつだな。」

「それやらかした本人たちが言うセリフじゃないよね?」

忍者はガイドの肩から手を離す。

「そういえば、お前の身柄の農園預かりは解除されたよ。」

ガイドは数秒固まったあと驚いた様子で尋ねる。

「えっ、それってどういう…ていうかそんな重要っぽいこと雑草の話のついでみたいにしないでよ!」


一同はアローワーク内に置かれた待ち合わせ用の椅子にかけている。

賢者がメンバーを見渡す。

「というわけで、今日の議題は…。」

狩人が割って入る。

「クローバー詐欺について、か。」

賢者が即座に否定する。

「違う!」

忍者が狩人に続く。

「カタバミ詐称事件?」

賢者が即座に否定する。

「呼び方の問題じゃない。」

賢者がガイドの方を見る。

「農園での顛末をテスに説明する…予定だった。」

ガイドが首を傾げる。

「…だった?」

賢者が説明の続きを話す。

「尺が足りない。申し訳ないが、次回にしてくれ。」

ガイドが困惑ぎみに応じる。

「そんな理由?雑草の件と今回のあらすじが無ければなんとかなったんじゃ…?」

狩人が即座に反応する。

「カタバミのことをバカにするのは許さん。」

ガイドは半分呆れた様子で答える。

「バカにはしてないけど…。カタバミにいくら貰ったの?」


忍者がカメラ目線でしゃべり始める。

「次回予告!

準備を整え再び洞窟に挑んだ賢者たちは、洞窟の途中で行き倒れていた謎の人物と出会う。

すぐに打ち解け共にすき焼きを食べることになり、準備のため白菜をカットしていると、狩人が意外な事実を告げる…!

次回『クローバーの葉はハート型?』お楽しみに!」


賢者がすぐさま突っ込みを入れる。

「どうせ達成できないんだから予告やめろ!それと、そのサブタイつけるなら今回だろ!カタバミの話は次回には引っ張らせないからな!」

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