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1章-14

14話「第1章14話」


[前回のあらすじ]

宿敵ディ〇を倒しにエジプトを旅するジョー〇ターたちだったが、ダニエル・J・ダービーの策略にハマりギャンブルでの勝負をすることになってしまう。イカサマの達人ダービーの前にポルナレフ、ジョセフが倒れ、残されたアヴドゥルと承太郎はダービーとポーカーを勝負することになってしまう。果たして承太郎たちに勝機はあるのか…?



忍者がしたり顔で賢者に尋ねる。

「あらすじはこんな感じでどうだろう。」

賢者がすかさず突っ込む。

「ダメに決まってるだろ。それと、伏字を途中で諦めるな。」


一行は洞窟を進んでいく。

奥に潜るほど、地面や空中には地上では見かけない生き物たちが徐々に増えていく。

黒魔術師が思わず感想を漏らす。

「ようやくファンタジーっぽくなってきたね。」

白魔術師が狩人に振る。

「これだけいれば新種の生き物もいるんじゃないの?」

狩人は自分の持収納を探る。

「ちょっと調べてみようか。」

狩人はタブレットのような物を取り出す。

「これは撮影した生き物を解析して王都のデータベースの情報と照合して新種かどうかを判別してくれるんだ。

新種なら登録することも可能だよ。発見地の座標なんかも自動で記録してくれる優れものだ。」

黒魔術師が小声でつぶやく。

「せっかくファンタジーだったのに…。」

狩人はタブレットを構えて空中の生物撮影するとタブレットを操作する。

「…ダメだ。ここ圏外でデータベースにアクセスできない。」

忍者が黒魔術師の肩に手を置く。

「ファンタジーは守られた。よかったな。」

「いや、圏外の方が嫌だよ!

まだ、不思議な力でアクセスできる方がマシだよ!」


洞窟を進むと水たまりがたくさんある場所に到着する。

ナイトが水たまりに目をやる。

「これって全部海水なんだろう?

洞窟の生物は海水から水だけ取り出す機構を備えているのか?」

狩人が答える。

「先に言っておく。ここの水は3種類ある。

海水と真水と魔物だ。

海水は察しの通りのものだ。どうして洞窟が海水で溢れて浸水しないのかは謎だけどな。

真水も外の海水がしみ出しているもの、のはずなのだがどうやって塩分が消失しているのかは謎だ。

最後は魔物だ。水たまりに擬態したウンディーネという魔物で、水と間違えて飲もうと近づいた生物を逆に呑み込んでしまう。

水は飲んでも飲まれないように気をつける必要がある。」

賢者が突っ込む。

「酒についての標語みたいに言うな。」

狩人が説明を続ける。

「ウンディーネは体のほとんどが真水だ。コイツが塩を除去する役割をしているのではないかと言われることもある。

倒して魔物としての機能を失わせれば、ちょっと粘り気があるだけのただの水と化す。

ちょうどあんな風に。」

狩人が指差した先には透明なゲル状の物体が落ちていた。

「コイツらは大きさによらず体の中心線、正中線上にオレンジ色に光る急所がある。武器を正確に扱えるなら、うっすらとは言えオレンジ色に光る急所をつくのはある程度経験を積んだワーカーには難しいことではない。粘度の高い水の中に武器を通すことにさえ慣れることができればな。」

狩人は少し離れた場所にある開封済みの宝箱を指さす。

「事前にそういう魔物がいると知って近づくなら対処のしようはいくらでもあるが、知らないで近づくと何が起きたか把握する間も無くやられてしまうことも少なくない。

うちの国から出発する時にもらった注意書きにも、水には近づくなと書いてあるだろう?」

ナイトが開けられた宝箱の方に視線をやる。

「腕を過信したか、注意書きを読まずに不意打ちを食らったか、か。」

忍者が付け加える。

「あるいは、外国の兵士が無理やり検問を抜けた結果その注意情報を得られなかったか、だな。」

賢者が狩人に確認する。

「それで、通路の近くの注意が必要そうな所にはその魔物はいるのか?」

狩人が洞窟のモンスターの気配を確認する。

「通路の周辺と宝箱までの道のりには一匹もいないな。

きっと優秀なシーフがモンスターをなぎ倒しながら宝箱を回収し、後続の人のために通路周辺のモンスターも倒したんだろうな。」

狩人が付け加える。

「あとそれと、この先のフロアに誰かが倒れてる。」

賢者が落ち着いた様子で尋ねる。

「食べ物の用意は?」

狩人が答える。

「もちろん大丈夫だ。

クロワッサンを用意してある。」

白魔術師が大きく伸びをする。

「やっと合流か。長かったね。」

黒魔術師がつぶやく。

「初回はみんな焦ってたのに、慣れって怖いなぁ。」


水たまり地帯をゆっくり徒歩で抜けると、案の定、見なれた人物が倒れていた。

狩人はゆっくり歩み寄ると、シーフの口にクロワッサンを詰め込んでいく。

「はむはむ…もぐもぐ。」

クロワッサンを食べ終えるとシーフは上体を起こす。

「助かった。危うく倒れるところだったよ。」

全員が突っ込む。

『倒れてただろ!』

『倒れてたでしょ!』

シーフは立ち上がる。

「まずは言わせて欲しい。

おいしかった。そして、助けてくれてありがとう。」

賢者が応じる。

「普通、味の感想より感謝が先な気もするけど…まあ、いいや。

どうしてここに?」

忍者が割って入る。

「パンを食べる時に、喉を詰まらせそうになってむせる、というネタをやらなかったのは、なぜだ?」

「そりゃ、パンに失礼だからねえ。」

忍者は困惑する。

「お、おう。そうだな…。」

おとなしく引っ込む忍者に賢者が声をかける。

「何しに出てきたんだよ…。」

ナイトが話を元に戻す。

「それで、なんでここに?」

シーフは目の前を飛ぶ光る虫を手で捕まえると、口の中に入れて素早く噛む。

白魔術師がたまらず尋ねる。

「それ、食べて大丈夫なの?」

「ん?ああ、この虫?

入り込まれる前に噛み切ってしまえば平気だよ。」

シーフは虫を食べ終えるとふうと息を吐く。

「まずは前回の盗賊退治の顛末から話さないとね。

あの後ね、色々芋づる式にある程度逮捕できてね。

幹部が5人いることとか結構な情報が得られたんだよ。

その内のひとりミラーっていう黒魔術師が森の大陸にいるらしい。」

シーフは続ける。

「次に私がここに来た理由を話すね。

森の大陸に盗賊団のとある幹部がいるって話を聞いたからなんだよ。

その人物はね、ミラーっていう黒魔術師でね、盗賊団の幹部なんだよ。

そいつを捕まえるために来た。

 そしてもしかしたら盗賊団のトップも同行しているかな、なんて淡い期待も持ってる。」

賢者が突っ込む。

「ひと続きの話じゃないか。なんで話を2段階に分けたんだよ。」

忍者がシーフに尋ねる。

「そいつは知り合いか?」

シーフが少し間をおいてから答える。

「直接話したことはないけど、向こうは真夜中のミッドナイトの中でも指折りのクズ…いや犯罪者で、犯罪者ってのは例えじゃなくて当時からガチで犯罪者だった。

師匠であるライト様からはかなり早い段階で破門を言い渡されたけどのうのうとチームに居座り続けて、やりたい放題だった。」

黒魔術師が尋ねる。

「ライトって人は誰なの?」

なぜか狩人が答える。

「真夜中のミッドナイトの最高幹部のひとりで、幹部の中では唯一まともな人間だった。

黒魔法の腕は折り紙つきで、炎と雷の2属性のレベル5まで使いこなす実力者だよ。

行方不明ということになってるけどな。」

シーフが説明を再開する。

「幹部を含め、メンバーの中にはシーフじゃない人も結構な数いるみたい。

シーフ以外もメンバーにいるのは知っていたけど、まさかそんなにいっぱいいるとは思わなかった。残念だよ。」

ナイトが尋ねる。

「当初はシーフだけで固めるつもりだったけど戦力不足で色々手を出し始めたって所じゃないか?」

忍者がシーフに尋ねる。

「それで、盗賊団の勧誘の宣伝文句は何だ?まさか泥棒をしたい奴集まれ、なんて掛け声でそんな多くのメンバーが集まるわけ無いだろう?」

ナイトが不思議そうな顔をする。

「そんなことサニアは知らないんじゃないか?」

忍者が答える。

「質問を質問で返すと爆破されるぜ。」

ナイトは困惑する。

「え、おう。そ、そうだな…?」


シーフが静かに話し始める。

「私と盗賊団のリーダーのフライエは真夜中のミッドナイト時代の同期だった。

だいたいいつも一緒に行動していて比較的仲もよかった。

スネ○とノビ○ぐらいの仲の良さと思ってくれればいい。」

賢者がすかさず突っ込む。

「微妙な例えを出すんじゃない!

あの二人にそれほど直接の絆は感じないだろ。」

シーフは続ける。

「チームにいた時は本当に苦しかった。

上はロクでもない連中ばかりで、最下層の我々にはチームの稼ぎはわずかしか回って来なくてその日に食べるものに困るぐらいだった。」

忍者が付け加える。

「ただし食べものの量はサニア基準です。」

賢者がすかさず突っ込む。

「おいバカ、やめろ!」

シーフは続ける。

「少ない食料を2人で分けあった。

1日に50cm位のフランスパン3本しか買えない日もあった。」

賢者が突っ込む。

「そこそこ量あるな。

本当にサニア基準じゃないか。」

シーフは続ける。

「チームが夜襲失敗で崩壊したあの夜、我々下っ端は、サイベリアンまで生きて戻られたライト様を国外に逃がすため半ば強引にライト様を連れ出した。

あの人だけは我々底辺にもよくしてくれたからね。死なせたくなかった。

ちなみにその日は魚肉ソーセージを食べたよ。」

賢者がすかさず突っ込む。

「どうでもいい補足情報を入れるな。」

シーフは続ける。

「親密な国が相手だと見つかって送還されるかと思い、南の2か国は避けて北の3国のどれかに連れていくことにしたんだけど、戦地や王都を抜ける勇気は無かった。

西の真ん中の山岳地帯を北に抜けるつもりで南西のサイアミーズに到着したら、ちょうどもうひとりの賢者様パーティが出発直前だったから、ご一緒させてもらった。

渡りに船、いや、登山にヘリコプターだった。」

賢者がすかさず突っ込む。

「もうそれ山登ってないだろ。

登山としてギリギリ許されるのはケーブルカーまでだよ。」

シーフは続ける。

「北西のジャンフォレストに到着後、ライト様を普通に検問所からこっそりと出国させた後、私たち2人は本能寺の変セカンドを横目にジャンフォレストを後にして、あてもなく北部の都市を渡り歩いた。

苦しい旅だった。

悪名高いチーム出身のシーフ2人を信用してくれる人なんていなかった。

豆腐12丁で1日を過ごさなきゃいけない日もあった。」

賢者がすかさず突っ込む。

「それはどのぐらいのツラさなんだよ。」

狩人が補足する。

「豆腐って意外と腹に溜まるんだよ。

やってみりゃ分かるけど3丁食べるのも結構厳しい。」

ナイトがつぶやく。

「結構食ってるじゃないか、という感想しか湧かないんだよなぁ…。」

シーフは続ける。

「北東のアビシニアンから南下しているときに、ついに私は空腹で倒れそうになった。」

賢者がすかさず突っ込む。

「倒れそうになったんじゃない。お前は倒れていたよ。」

シーフは困惑する。

「いや、倒れてないけど…?」

賢者は間髪入れずにシーフの反論を否定する。

「いいや、お前は倒れていた。」

シーフは更に困惑する。

「そんな…現場を見たわけでもないのに。」

賢者は重ねて言う。

「間違いなくお前は行き倒れていた。倒れたお前を相方がおぶって食料を恵んでくれと訴えながら歩く絵しか思い浮かばない。」


シーフは続きを話す。

「そのあとどういう経緯かなぜか記憶に無いけど、私たちはシャルミエール寺院に助けてもらった。

当時の大司教様は私たちに良くしてくれた。

自分たちだけで働けるようになるまでの修行期間はずっといてもいいとまで言ってくれた。礼がしたければ生活に余裕が出てからでもいい、と。

私はその厚意に応えるべく、戦闘能力を得るため寺院に置かれていた槍を使って竜騎士の修行を始めた。

魔法使いと違ってある程度の下地が無いと戦士系のジョブにはなれないからね。

私は毎日頑張った。雨が降らない日、風が強くない日は。」

賢者がすかさず突っ込む。

「雨にも風にも負けてるじゃねーか!」

シーフは続ける。

「受けた恩を返すんだと思えばつらくはなかった。

早く自立できるようになるんだ、と必死だった。

…私は、ね。」

シーフは少しの間目を閉じる。

ゆっくり目を開けると意を決したように話す。

「そんなある日、あいつは突然行動を起こした。

世話になっている寺院のカネを盗んで逃げたんだよ。

みんな総出で探し回り、30分後にようやく正面口に立つフライエを発見した。」

賢者がすかさず突っ込む。

「なんでそんな分かりやすい所にいたのに30分もかかってるんだよ!逆にどこを探してたんだよ!」

シーフは続ける。

「私は呼び掛けた。そんなことはやめて真っ当に生きようと。

だが、アイツは聞き入れなかった。そして逆に私に訴えた。

我々が真っ当に働いたところで他のシーフは救われない、力を合わせて苦しまずに生きよう、と。

そして、共に来て欲しい、と。」

シーフは一呼吸おいたが、賢者は突っ込みどころが無かったのでだまっていた。

シーフは続ける。

「話は平行線をたどり、最後は『勝手にどこへでも行けばいい』という大司教様の言葉で、アイツはどこかへ消えていった。

それっきりだよ。」

賢者がすかさず突っ込む。

「どこにでも行けっていうセリフお前が言ったんじゃないんかい。」

シーフが忍者の方に向き直る。

「盗賊団の狙い、だったよね。

 ひとつはシーフ同士手を取り合って良い暮らしをすること、もう1つは真夜中のミッドナイトの元メンバーの居場所になることだよ。

 勝てば官軍とは言うけど、その逆も然り。

 内戦のちょっと後ぐらいまで、真夜中のミッドナイトの元メンバーというだけで敬遠されて見張りの仕事を得るのが難しい時期があった。

 そうして路頭に迷う者たちを迎え入れ、やむなく犯罪に手を染めさせているんだよ。

 その他にも単なる犯罪者や色々と仕事がうまくいかない人も合流したみたいだから一概には言えないけど、シーフ以外が多いってことは、元メンバーというだけで社会から除け者にされた人が多かったってこと。それが残念でならない。」


白魔術師がシーフに尋ねる。

「それで、盗賊団のリーダーをどうしたいの?

聞く限り恨みや憎しみを持っているって訳じゃないんでしょ?」

シーフは少し考えてから答える。

「そうだねえ…。

もはやアイツは死罪を免れられない大罪人。

特にどうしたいってのは無いかな…。」

ナイトがシーフの答えを否定する。

「違うな。関心が無いならわざわざこんな所までは来ないだろ。

もう一度、会って話したいんだろう?

相手は賞金首だ。他のワーカーに見つかればその場で命を奪われる可能性が高い。

だから、生きて出会うにはお前自身が捕まえるしかないんだ。

魔法使いが単独行動ってのは考えにくい。森の大陸に渡った幹部が黒魔術師ってことを考えると仲間がいる可能性が高い。そしてそれは下っ端ではないだろう。

目的の人物と出会える可能性が一番高いのが森の大陸だと思って来ることにしたんだろ?他に見つかる前に自分で出会うため船の順番を待たずに徒歩でこのルートに来た。違うか?」

なぜか忍者が腕組みをしながら答える。

「だいたい正解だ。」

シーフがうなずく。

「おおむねエリアの推理通りだよ。」

ナイトが慌てる。

「いや、なんでエリアの手柄みたいになってるんだよ!」

シーフが姿勢を正す。

「可能な範囲でいい。もしアイツと出会う機会があったら生け捕りにして欲しい。

そして、国の機関に送る前に私と引き合わせてくれないだろうか。

どうしても生きている内に仲直りしたいんだ。

何でもしますから!」

忍者が待ち構えていたかのように反応する。

「ん?今なんで…。」

狩人がセリフを遮るようにシーフに駆け寄りリーフの両手を強く握る。

「必ず私たちが会わせてやる!任せておけ!」

狩人は賢者の方に振り返る。

「というわけで、よろしく!」

賢者はすかさず突っ込む。

「よろしく、じゃねーよ!お前も少しは自分で考えろ!」

忍者はため息をつく。

「ネタが潰されたよ…。」

白魔術師が鼻で笑う。

「よかったじゃない。何十年も前の、もはや誰も笑わないネタで苦笑いされるよりはマシでしょ。」


賢者がメンバーを見渡して提案する。

「現在サニアを入れると前衛が4人で後列が3人となるわけだが、洞窟のスペース的に4人は狭いだろう。前衛のうちの2人を最後尾に回そうと思うがどうだろう。最後尾は戦闘機会が減るだろうがそこは我慢してくれ。」

皆がうなずくのを確認すると、賢者は白魔術師に告げる。

「というわけで、最後尾よろしく。」

白魔術師が抗議する。

「えっ、ちょっと!なんでさ?」

賢者が当たり前だという様子で答える。

「ここ、壁を破損すると危ないから。」

「壁を壊すって、そんなこと今まで…

無くはないけど。

まあ、その…仕方ない。今日はおとなしく引き下がる。」

白魔術師は最後尾に移動する。

賢者がシーフに確認する。

「竜騎士って天井があって高く飛べない所でも戦えるのか?」

シーフはうんざりした様子で答える。

「みんなそれ聞くんだよね。

実際は天井がある所の方が戦いやすいんだよ。

天井を足場にした下向きの跳躍が竜騎士の攻撃の中で一番威力が出るんだよ。

床に衝撃で大きな窪みができるぐらいさ。」

賢者が納得する。

「そうなのか。

地面に大きな窪み、ね…。

サニア、最後尾!」

シーフは残念そうに最後尾に移動する。

「監督は厳しいなあ。」

「誰が監督だ!」


一行は、洞窟の一番低い場所にたどり着く。

所々に水たまりがありジメジメとした一帯にはたくさんの宝箱が点々と散らばっていた。

狩人がメンバーに呼びかける。

「いま見えているものは基本的に全部モンスターだからな。迂闊に近づくなよ?」

黒魔術師が尋ねる。

「あの宝箱っぽいのも魔物なの?

もしかして、よくファンタジーで出てくるミミックって奴?」

狩人が解説をする。

「そう、ミミックって奴だな。

中から舌を出したり開けると中から透明なモンスターが出たりとか世界観に応じてタイプは色々だが、うちのは、イソギンチャク型で、獲物、この場合は人間になるが、自身の姿が獲物にとって欲しいものに見えるようになる幻術を使用する。

ダンジョンで人間がイメージする宝といえば宝箱だから基本的には宝箱の姿をしているが、強く念じれば欲するものの姿になるらしい。あくまでも噂レベルだけどな。」

黒魔術師は目を輝かせる。

「へえ、そうなんだ!」

そう言うとミミックのひとつの方に掌を向ける。

「ポーションになるがいい!」

しかし、ミミックは何の反応も見せない。

賢者が突っ込む。

「なんでそんな安物なんだよ。もっと欲しくなるもので念じろよ。」

白魔術師がミミックの方に掌を向ける。

「毒消しになるがいい!」

しかし、ミミックは何の反応も見せない。

賢者が突っ込む。

「なんで毒消しなんだよ。今誰も毒にかかってないだろ!

ていうか、それも安物じゃねーか。」

忍者がミミックの方に掌を向ける。

「沙悟浄の槍になるがいい!」

しかし、ミミックは何の反応も見せない。

賢者が突っ込む。

「沙悟浄が持ってるアレは槍なのか?

ていうか、なんでそれが欲しいんだよ。お前装備できないだろ。」

ナイトがミミックの方に掌を向ける。

「死者の指輪になるがいい!」

しかし、ミミックは何の反応も見せない。

賢者が突っ込む。

「明らかに呪われてそうなアイテムを望むんじゃない!

…実際に手に入るわけじゃないからいいけど。」

シーフがミミックの方に掌を向ける。

「干し肉になるがいい!」

するとミミックは姿を変え始め、数秒後にはほしにくに姿を変える。

「おお、変わった!」

「本当に変わるんだ!」

「すごいけど、だから何なんだ…。」


シーフが宝箱を眺める。

「お宝の気配がする。全部がモンスターってわけじゃなさそうだね。」

狩人がうなずく。

「そうだね。でもどうせ開けられないから関係ない…と思ったけど今日はサニアがいるんだったね。

左から、ミミックさん、ミミックさん、ひとりおいてミミックさんだ。」

賢者が突っ込む。

「古典漫才のつかみみたいな感じで言うな!」

シーフが端の宝箱に歩み寄る。

狩人が心配そうに声をかける。

「おい、サニア。それはミミックだぞ。」

シーフは平気な様子で答える。

「もちろん分かってるよ。」

シーフが宝箱に手を伸ばすと宝箱から無数の触手が現れ、シーフを捕食するため回りを取り囲む。

だが、シーフは気にする様子も無く、宝箱本体に噛みつき、そのまま一部を引きちぎる。

触手は痛みに悶えるかのように激しく地面を叩きつける。

宝箱本体の幻術は徐々に解けていき大きなイソギンチャクのような魔物が姿を見せる。

シーフはイソギンチャクの噛みちぎった部分にもう一度かぶりつく。

ミミックは断末魔をあげると、その触手は力を失い地面にその身を横たえる。

シーフはそんなことは気にせずミミックを咀嚼する。

「もぐもぐ…んまい!

外側の柔らかいところも程よく塩味で食べやすいけど、やっぱりこの内側が絶品だね。

タコみたいな弾力があって、食感は良好。噛むほどに中から旨味が溢れ出てきて飲み込むのが惜しくなる。

ミミックは生でも美味しいから助かる。」

シーフは隣の宝箱に手を伸ばす。

「こっちは焼いて醤油でもつけて…。」

ミミックはシーフの手から逃れようと後ろにピョンと飛び退こうとするが、あえなくシーフに捕まってしまう。

ミミックは助けを呼ぶかのように必死に鳴き続ける。あまりに必死だったためか幻術が解けてしまう。

「うるさい。」

シーフはミミックの触手の付根辺りを槍の穂先で切り裂く。

ミミックはヒューヒューと音を立てながら触手をバタバタとさせる。

シーフは槍を突き刺すと魔力を込め炎でミミックを焼いていく。

ミミックに火が通るとシーフは他の宝箱を品定めするように眺める。

ミミックたちは恐れをなし一斉に方々へと散っていく。人の手が届かない狭い隙間に逃げ込むもの、洞窟の先に進むもの、水たまりに突っ込んでウンディーネの餌食になるものなど様々だった。

黒魔術師が小声でナイトに尋ねる。

「ミミックって結構強いイメージだったけどもしかして弱いの?」

ナイトも小声で答える。

「いや、決して弱くないよ。

経験を積んだワーカーでも不覚を取ることは少なくない。

あんな風にミミックが恐れをなして逃げるなんて聞いたこと無い。

尋常ではない食への探求心の成せるわざだな。」

気がつくといつの間にか狩人がシーフの横でミミックをまな板に載せていた。

焼いたミミックの一部を切り出し醤油をたらしてから口に運ぶ。

「なるほど、醤油だけでもいけるな。

ても、焼くときに先にバターと醤油を垂らしておいた方がもっとよくなる気がするな。」

その様子を見てナイトがつぶやく。

「ここにはそんな食の猛者が2人揃ってる。

一応言っておくけど、普通のことではないからな。」

黒魔術師が答える。

「もちろん分かってるよ。」


シーフは残された宝箱を順番に開けていく。

「ねえ、また軍関係者っぽいよ。

ここまでも全部そうだったけど、何なんだろうねえ。」

忍者が尋ねる。

「軍服と武器以外には何か入っているか?」

シーフは宝箱の中身を改めて確認する。

「えっとねえ。歯ブラシと歯みがき粉とコップと空の水筒と、乾パンが入っていたっぽい空の袋。それと誰かの写真が入ったロケット。」

それを聞いた白魔術師が補足する。

「ロケットってのはペンダントの一種で宝石の代わりに小さい開閉式の構造体がついていて中に写真とか絵が入ってる物のことだよ。」

賢者がすかさず突っ込む。

「誰に向けた解説だよ!」


シーフは宝箱の回収を終えて戻ってくると、拾得物を広げる。

「ここより前のフロアで拾った物も含めてこれで全部だよ。」

ナイトがシーフに確認する。

「今さらだけどここで拾った物の所有権はどうなってるんだ?」

シーフが拾得物を仕訳しながら答える。

「自由に持っていっていいってさ。

この場所がどっちの国に属するかハッキリしないから逆に届け出られると迷惑なんだって。」

仕訳が終わった拾得物を眺めながら賢者がつぶやく。

「見た感じ、ほぼ全部兵隊の装備っぽいな。」

シーフが軍服を1枚いちまいめくりながら袖についているエンブレムを確認する。

「全部同じマークだね。ヒガンバナかな。

どこの国だろう。」

他の全員が声を合わせて答える。

『森の大陸。』

シーフが驚く。

「みんな軍事オタクなの?凄いなぁ。

それで、マークにはいくつか色違いがあるみたいだけど、これは何を表してるの?」

だが、全員下を向き答えない。

「…詳しいのやら、詳しくないのやら。」


一行はミミック地帯を後にし、森の大陸への登りの道を進んでいた。

黒魔術師は最後尾のシーフに尋ねる。

「サニアはこの前みたいに臨時パーティを組むこともあるんでしょ?

そういうのって全部アローワークからの斡旋なの?」

シーフが答える。

「基本的には斡旋と個別パーティからの指名だね。

フリーランス登録しておくと2週間ほどフリーランス名簿に載せてくれるんだよ。そして、臨時人材が欲しいパーティはその名簿を見て必要な人材を選ぶ。

こだわりが無いパーティはアローワークに適切な人材の紹介を依頼して、アローワークが難易度とかを考慮して名簿から選ぶ。アローワークに依頼すると紹介料を多めに取られるらしいけどね。

名簿は名前とアピールポイントの一覧になっていて、それを見て気になった人物について詳細な資料を申請すれば細かいことまで見られるようになっているよ。

ちなみに私はアピールポイントは『シーフ(前衛可)』って書いている。」

黒魔術師が疑問をぶつける。

「竜騎士もやっているんでしょ?それは書かないの?」

シーフが答える。

「アピールは一点突破が基本だよ。

自分が名簿を探す時のことを考えてごらんよ。

シーフが欲しいってなった時、シーフって書いてある人を探すでしょ?その時に2つのジョブが書いてあるのを見るとどう思う?、両方できて凄いと思う人はほとんどいない。むしろシーフの割合が半分で半人前みたいに見えちゃうんだよ。何でもできますって書いてる人もたまに見かけるけど実は悪手なんだよね。」

黒魔術師が感嘆する。

「へえ、そうなんだ!」

シーフが付け加える。

「売りを絞るという観点でいうと、道具もそういう面があるんだよ。

関連する機能を複数持つのなら便利ってなるけど、ほぼ無関係な機能をくっつけると急に抵抗感が増すんだよ。

たとえばポイントカードで考えてみなよ。

ポイントカードなんて作るのにそれほど抵抗は無いでしょ?

作ることにハードルが低いポイントカードだけど、もし『クレジットカード機能もついてきます』って言われたらどうだい?

伸びかけた手を一回引っ込めるでしょ?失くしたら大金を失うリスク付きのカードなんて余分に持ちたくないもんね。

発行する方は便利な機能をつければお客の受けがよくなると思いがちだけど、くっついてくる機能が大きく重いほどお客には嫌われるんだよね。」

黒魔術師がうなずく。

「なるほど。」

シーフは国民証明証を取り出す。

「その失敗をやらかしたのがこのカードの前身の…。」

「またそのカード!?

どんだけ失敗エピソード詰まってるの?」


「というわけで、出口付近まで到着しまし…た、と。」

忍者の宣言に対し賢者が突っ込む。

「描写は省略したけど途中コウモリの魔物とかに何度か襲われたりしたものの無事撃退して出口付近までたどり着きました、みたいな感じ出すのやめろ!」

狩人が黒魔術師に尋ねる。

「さて、まもなく外国の地を踏むことになるけど、今のうちに聞きたいことはあるかい?

→召喚魔法のシステムについて

氷属性の特徴について

サブのジョブの取得方法について

森の大陸の観光名所について


黒魔術師がやや困惑しながら答える。

「なんか選択肢がまともになった…。

前回まではウチの国の大企業が半分ぐらい占めてたのに。

せっかく次の大陸に行くんだし、最後の選択肢で。」

狩人が真面目な顔でつぶやく。

「最後の選択肢…とうとうこの空欄の選択肢に気づいてしまったか。」

黒魔術師はワンテンポ遅れてから驚く。

「それ、選択肢だったの!?

ただの改行ミスかと思ってたよ。

あと、その空欄はどう発音してるの?」

白魔術師がつぶやく。

「ウチの国、セントラルの歴史の闇『封印獣』ね…。なんでこのタイミングなのか分からないけど。」

ナイトが同調する。

「まあ、知らずにやっていくって訳にはいかないからな。なんでこのタイミングなのかは分からないけど。」

黒魔術師がうなずく。

「分かった、教えてもらう。なんでこのタイミングなのかは分からないけど。」

忍者が素早く反応する。

「そこは、聞かせてもらおうか封印獣の性能とやらを、の方がよかったんじゃないか?」

黒魔術師が困惑する。

「えっと、うん…?」


いつものごとく狩人が語り始める。

「封印獣は4体、いや4組といった方がいいかな。4組とも封印獣と呼ばれるが、いずれも獣ではない。

謎の生命体、呪われたアイテム、でっかいヘビ、限度を超えてデカいナメクジの4種類だ。」

忍者が割って入る。

「兄貴、どれから話すんでやんす?

 →2000年前の天使

  1500年前の謎のマジックアイテム

  1000年前の厄災の蛇

  500年前のビッグナメクジ

賢者がすかさず突っ込む。

「お前は何のキャラなんだ。」

白魔術師が忍者の問いに答える。

「じゃあ、年代順で!」

賢者がすかさず突っ込む。

「お前が選ぶんかい。」


2000年前のある日それは突然前触れもなく現れた。

土曜日の朝、セントラルの南東の小さな集落ルケウス、今でいうラガマフィンの西の辺りにあった村に空から多数の、羽根の生えた人型の魔物が降り立った。

奴らは人々を襲い、村を破壊し尽くした。

これが一番最初の被害だった。

村を滅ぼすとそのまま近くにあったの街カーナ、今で言うラガマフィンの街へと襲いかかり、街の守備隊を蹴散らすと街を蹂躙し南東にある風の大陸へ飛び去っていった。

政府は第2波に備え守りを固める、のだが問題は相手が次にどこに来るのか、だった。

再上陸して西のサイベリアンに来るのか、北に向かい山、当時はメインクーンの街が出来ていなかったから、山を越えてアビシニアンに来るのか予測が分かれたが、山を越す可能性は低いだろうと、戦力を8:2

で分けた。

あとで分かることだが、ここは正解は存在しなかった。

とにもかくにも、守りを固めて待ち受けていると、翌週の土曜日の朝奴らはやって来た。

進路は西方向、サイベリアンだった。

たか

奴らはサイベリアンの手前までやって来るとこちらの守りが固いのを見抜きラガマフィンまできびすを返し北上。アビシニアンに向かった。

こちらも裏をかかれたとはいえアビシニアンもそれなりに準備をしていたから激しい戦いとなった。

多大な犠牲を出し2日目の夜にはアビシニアンを放棄して撤退することになったがそのかわり成果はあった。

奴らは下っ端366体、その上に指揮官が12体、一番上に大ボス2体という構成で、昼間は活発に活動するが陽が落ちると動きが鈍っていき夜には1ヶ所に集まって休息を取ること、奴らは休んでも前日までのダメージを回復しないこと、指揮官が倒れるとそいつが指揮する下っ端およそ30体も連動して消滅することが分かった。

その後はまたよその大陸に飛んでいったからその間に王都以外の都市を全て放棄。全戦力をもって王都での総力戦に備えた。この戦いは実に激しい物だったが、最終的には特盛賢者ドーグ様の命と引き換えの封印魔法でかろうじて封じ込めてなんとか終戦だ。


黒魔術師が尋ねる。

「で、封じた魔物は今どこに?」

狩人が答える。

「さあね。国家機密中の国家機密だからね。

今もどこかに『シュウマツの天使』たちは封じられているということだけは確かだ。」

白魔術師が補足する。

「シュウマツは週末ね。たまたま戦いが全部土日だったから…。」

「そうなんだ…終末であってほしかった。」

狩人が補足する。

「魔物のツートップの赤の天使と青の天使さえ倒せば全部消滅すると推定されている。

赤の方は灼熱を操る天使で、名前は『エンセフィテイロス』だ。」

黒魔術師が思わず突っ込む。

「古代ローマ人風!?」

狩人が更に補足する。

「青い方は冷気を操る天使で、名前は『ルケウスの踊り子姉妹』だ。」

「一匹なのに姉妹?それと、若干ド○クエの4章に引っ張られているよね?ちょうど作者がやってるから引っ張られてるよね?」


狩人が説明を再開する。

「今からちょうど1500年前、サイベリアン郊外に突如として謎の超高温の物体が出現した。」

黒魔術師が突っ込む。

「1500ちょうど?」

賢者が替わりに答える。

「そう言いたくなる気持ちは分かるが、本当に今年からみてぴったり1500年前なんだよ…。」

「…そうなんだ、ごめんなさい。」


鉄をも溶かす熱を発し続けて近付けもできず気温を20℃も上げるような奴を看過できる訳もなく、かといって高温すぎて近づくこともできず、封印することに即決。出現して24時間経つ前に、どんな姿かさえも分からぬまま封印というスピード解決だった。

そのせいで性質はほぼ謎だ。近づこうとすると熱線を撃ってくること、ファンネ…小型ユニットを展開してくること、どうやら本質はアイテムであることぐらいしか分かっていない。


ナイトが補足する。

「当時のアイテム師がアイテムの気配を感じたんだそうだ。」

狩人が補足する。

「封印獣の名は『ウェザーチェンジャー』。」

黒魔術師が驚く。

「名前が普通だね。」

狩人が更に補足する。

「ひとよんで『ガンガンお天気変えますよ』。」

「別名は全然普通じゃなかった。なにその星のカー○ィのコピー能力の説明文みたいな表現。」


今からおよそ1000年前、アビシニアンに突如巨大なヘビが現れた。高速で移動し締め付け、丸のみで暴れ回った。それだけでも大混乱をもたらしたが、厄介だったのは呪いを撒き散らす能力だ。

鎌首を持ち上げると黒い霧を吐き出し、辺り一体に呪いが撒き散らされる。人や野生動物、果てはアイテムなどの無機物に至るまでありとあらゆるものが呪われた。

当時は解呪の魔法が発明されていなかったから呪いは不治の病に等しかった。

命を賭して立ち向かおうとする者は少なく、やむなく封印することになった。

ヘビの名は『マキシマムスケアリータフネスマルチジャイアントツヨイクッキョウナドラゴン』。

ひとよんで『こいつはヘビィだぜ』。


黒魔術師がつぶやく。

「もっとセンスある人に名付けて欲しかった。ていうか名前のセンスの無さは伝統なの?例のカードといい。」


今からおよそ500年前、ジャンフォレストの郊外にとてつもなく大きなナメクジの魔物が現れた。

そのナメクジは触れたものをすべて吸収してしまう性質を持っていた。街の兵たちが立ち向かったものの、攻撃をすべて吸収されてしまうため、なす術が無かった。

封印しようと試みたが、サイズが大きすぎて断念せざるを得なかった。

ミヌエットの街に入る前に食い止めようと試行錯誤したが、街を助けることはかなわなかった。

だが、その代わり弱点は判明した。

知能は低く高エネルギーの方へ向かう本能に従うのみであること、塩や塩水を浴びせるとダメージを与えられること、地面に油が撒かれていると滑ることが分かった。

それを基に当時の政府は大規模な討伐作戦を立てた。

南東のラガマフィンの街の北に巨大な穴を掘り、油で地面をコーティングしてそこにナメクジを落とし、海水を引いてきて水攻めにする作戦だ。

3日におよびナメクジを誘導し続け、なんとか深さ300m、半径2kmの超巨大な穴が完成した。

そこから半日かけてナメクジを誘導してついに穴に落とすことに成功する。

ナメクジの落下を確認すると、周囲に大量に用意した水門を全開放し海水を流し込んだ。

作戦は成功。海水に沈み徐々に小さくなるナメクジを見て誰もが勝利を確信していた。

途中までは、な。

体が最初の1/4程度になった時、ナメクジは急に変形を始めた。そして、縦に長くなり体の一部を水面から出すと、そこから球状の物体を勢いよく射出した。吐き出した物体が見えなくなる頃、本体に目をやると、まるで乾燥したかのようにペラペラになり水面に浮いていた。数秒後それさえも消失し、それを見届けた人々はそこでみな我に返り気づく。

飛んでいったアレは卵に違いない、と。

その後、兵士やワーカー総動員で卵を捜索し封印した。さすがに2回戦を行う気力は残ってなかったからね。どこで封印したのかは情報統制がうまく効き今では国の上層部にしか分からない。


黒魔術師が尋ねる。

「それで、そいつの名前は?」

「『おおなめくじ』。」

「うわぁ、何の捻りもない…。」

「ひとよんで『ベトベタベトベト』。」

「…ポケ○ンの進化前後?」

忍者が補足する。

「これだけ時間を割いたんだから今後の展開にひとつも絡まないなんてことはないから安心していい。」

黒魔術師が反応する。

「うわぁ、ひどいネタバレを見た。」

ナイトが冗談気味につけ加える。

「今後、塩と油が大量に保管された施設に出くわすかもしれないぜ。」

ナイトはそう言うと、何やら考え込んでいる忍者に声をかける。

「何か心当たりでもあるのか?」

「…いや。無いよ…。

ジャガイモがあればフライドポテトができるってことぐらいだな。」


一行が再び洞窟を進んでいくと、ほどなくして出口にたどり着く。

そこは入り口と同じく、検問所がある他は何もない、低い柵に囲まれた空間が広がっていた。

先頭を歩く忍者たちはあと一歩で洞窟を出る場所で立ち止まる。

それに呼応するように後続のメンバーも全員同じような場所で立ち止まる。

黒魔術師は不思議そうに尋ねる。

「なんでこんな所で止まるの?」

ナイトは洞窟の端に窪みを見つける。

「呪いで装備品としての役を果たせなくなったから壊したアイテムがいっぱいあるんだよ。ここに埋めていくか…。」

賢者がすかさず突っ込む。

「おいやめろ。いいこと風に言ってるけど不法投棄だからな?」

黒魔術師が再び尋ねる。

「なんでこんな所で止まるの?」

白魔術師が遠くを見るような目をしてつぶやく。

「ここまで色んなことがあったなぁ。巨大なハチの退治とか…。」

シーフが続く。

「ハチ…あったねぇ。」

賢者がすかさず突っ込む。

「ハチの時お前はいなかっただろ。」

黒魔術師が再び尋ねる。

「なんでこんな所で止まるの?」

狩人がため息をつきながら答える。

「一歩先は次の章だ。こんな終わり間際で章を切り替えるわけにはいかないだろ?

今話の残りは無駄話で埋めるしかない。」

「尺稼ぎ?それならコウモリとの戦闘カットしないでよ!せっかく私も活躍できたんだからさ。」

忍者が意を決したように宣言する。

「字幕を使う!」


竜の口より生まれし者

帝国が攻めてきてなんやかんやあって

撤退しなければ ならかった。


黒魔術師が突っ込む。

「字幕ってどうやって出してるの!?

それと、ならかった、って何?」

賢者がつぶやく。

「ワーカーとしてもう何年になるだろう…色々あったなあ。」

黒魔術師がふと外の柵に目をやると、犬型の獣人が何かを話しかけてきていた。

「ねえ、次のイベント始まってるよ!」

賢者はため息をつく。

「仕方ない、テスがうるさいからこのあたりで締めるか。

はい、第1章 完。」


第1章 完


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