1章-13
13話「第1章13話」
[前回のあらすじ]
ウナギ喰った。
「という訳で、あれから2日経ちまし…た、と!」
そう宣言する忍者に賢者がすかさず突っ込む。
「記載は省略したけどそういうテイで進めます、みたいな感じだすのやめろ。
まあ、いいや。
そんなわけで、これから陸路で北西の森の大陸に向かうけど、言っておきたいことがある人はいるかい?」
狩人が手を挙げる。
「前回あんまりしゃべる機会が無かったから、山ほど喋りたいな。」
賢者は困惑する。
「お、おう。新しいタイプの答えだな。
別にいいけど、ほどほどにな。」
一行は町を囲む3重の壁の検問所を3つとも通過する。
黒魔術師は壁を振り返る。
「この町ってこんな3重にガードされてたんだね。長らく暮らしていたけど知らなかったよ。」
狩人が素早く駆け寄り解説を始める。
「ジャンフォレストは北のならず者国家である水の大陸の海賊やこれから向かう森の大陸の海賊がたまに侵攻してくるからね。この国有数の農業都市だし、守りが厚いんだよ。
もっとも、閉めきったり常時検問したりするると不便だから、戦時中以外は東門は常時開放でノーチェックだけどね。」
ナイトがため息交じりにつぶやく。
「やっぱり地下洞窟を抜けていかないとダメか。」
狩人が素早く駆け寄り解説を始める。
「昨日話したじゃないか。
水の大陸周辺でクラーケンが暴れているから船は西に大きく迂回しなきゃいけなくなっていて、そのせいで便数が減り一ヶ月待ち。
そんなに待てないから、あんまり使われない地下洞窟で徒歩で渡ろうって。」
白魔術師が周囲を見渡す。
「この辺ってどんなモンスターが出るんだろう?」
狩人が素早く駆け寄り解説を始める。
「この先は湿原になっていて、そこには沼に生息するスワンプサハギンというモンスターがいる。
水中、地中のどちらの表現が正しいか分からないが、とにかく、地面の下を素早く移動したり地中に引きずり込んだり出来るから気をつけろ。
ジョ○ョの第5部のセッコかハン○ーハンターのミミズの人をイメージすればいいだろう。」
忍者が疑問に思ったことを口にする。
「この先に入出国手続きする施設があるんだろう?職員は魔物地帯を抜けて通っているのか?」
狩人が素早く駆け寄り解説を始める。
「沼地を迂回すれば時間はかかるけど安全だからな。念のため魔除けのアイテムは持つだろうけど。」
狩人は息を切らせながらメンバーに呼びかける。
「みんな、そろそろ疲れてきてないか?」
賢者が静かに突っ込む。
「…お前だけだよ。」
一行は沼から少し離れた地点で休息を取る。
忍者が狩人に尋ねる。
「この先に出るモンスターはどう対処したらいい?」
狩人がいつも通り淡々と答える。
「この先には魔物はスワンプサハギンというサハギンしかいない。スワンプとついているが、生息地が違うだけで魔物としては普通のサハギンと同一種だ。
主食はワカサギやブルーギルだが、縄張りに入った動物への攻撃性は高く、注意が必要だ。
水や湿った柔らかい土の中を自在に泳ぐからそれは頭に入れておいてほしい。
この先は地面が固い部分を歩いていくから、真下からの攻撃は無いと思っていい。
ルートを外れたり大雨が降ったりしなければ、な。」
賢者がすかさず突っ込む。
「変なフラグ立てるのやめろ。」
狩人が黒魔術師に尋ねる。
「この大陸とは、しばしの別れになる。
今のうちに聞きたいことはあるかい?
→国民証明証について
太陽光パネルの墓場について
夜間銀行について
エンディングサポートについて
内戦の話[後半]
」
黒魔術師が突っ込みつつ尋ねる。
「なんでゲーム風なの?
それと内戦の後半はもう聞いたよ。
あと、その矢印はどう発音してるの?」
黒魔術師は少し悩んでから答える。
「特にどれが聞きたいってこともないけど…じゃあ、一番上のやつで。」
狩人が話し始める。
「国民証明証ってのは役所に行ったときに各窓口で必要書類が減らせて、時間も短縮できるっていうカードだな。
正式名称は国名であるセントラルを冠して『セントラル国民証明証』。うちの国、セントラルの国民であることを証明するカードだ。
今ではほぼ全員が持っているカードで、選挙権を得たときに更新するのが一般的だ。選挙権の有無とかによってカードの色が変わるからね。
だが、こいつの一番押さえておくべき点は、定着するまでに異常な月日と金がかかったってところだな。」
黒魔術師が尋ねる。
「どういうこと?」
狩人が黒魔術師に聞き返す。
「例えば、パン屋で会計をしているときに『個人購買情報収集カードを作りませんか』って言われて作ろうと思うかい?」
黒魔術師が答える。
「え、なにそれ怖い。そんなの作るわけないじゃん。」
狩人がさらに尋ねる。
「20回買い物したら好きなパンをひとつプレゼント、と言われても?」
黒魔術師が答える。
「イヤだよ。情報が転売とかされてそうだし。」
狩人がもう一度尋ねる。
「じゃあもし最初の質問が、ポイントカードを作るか、と聞かれていたらどうかな。20回買い物したら好きなパンをひとつプレゼントしますよ、と。」
狩人が続ける。
「簡単に言えば、人間は馴染みの無いもの、何なのか分からないものには疑念から入るから受け入れられにくい、ってことだ。
それを頭に入れた上で本題に入ろう。」
狩人は件のカードを取り出す。
「こいつの最初の名前は、住民情報台帳カードだった。」
黒魔術師が思わず突っ込む。
「もう名前からして負け筋しか見えないね。」
狩人がうなずく。
「その通り。全く利用は拡がらなかった。
ちなみに、カードの名前の由来は役所内でのシステムの名称だ。」
狩人は説明を続ける。
「あまりに流行らなすぎて、一回システムを全部捨てて新しくすることにした。もっとも、名前を変えただけで中身は全く同じだけどな。
二代目の名前は、マインナンバーカード。
ちなみにカードの名前の由来は役所内でのシステムの名称だ。」
黒魔術師が思わず突っ込む。
「まるで成長していない…。」
狩人は説明を続ける。
「さすがに2回も続けて失敗で終わらせる訳にはいかない、という謎の意地のせいで、ここから悪夢の沼を突き進むことになる。
初手から信じがたい手が打たれる。
『カードを作ったら現金と同等のポイントあげます』という、形を変えた、いや、形を変えてもいない『買収』だ。」
黒魔術師が驚く。
「法律的に大丈夫なの?」
「どうだろうね。この唐突に始まった期間限定キャンペーンはたしかに一時、発行現場が疲弊するほどの効果を上げた。しかしこの時点では、ほとんど誰も気づかなかったが、すぐにこのばらまきは悪手も悪手、最悪手だったことが分かる。
当たり前の話だが、キャンペーンが終わればほとんど誰もカードを作らなくなった。
『いつキャンペーンをやるか分からんから今作ると損。』『普及率が下がればまた金を配るだろう。その時を待つ。』
というキャンペーン目当て、キャンペーン待ち状態になり、もうこの初手だけで政府が金を払い続けることでしか成り立たないという状態に陥ってしまった。」
狩人が続ける。
「策に事欠いた政府は、次の一手として止めの一撃を放つ。
カードを持ってないと病院で診察を受けられなくする、という、サービス業にあるまじき、利用者、つまり客にダメージを与えるという作戦に打って出る。
この国民漏れなく全員に対して喧嘩を売る政策を打った担当大臣ジョウジは、苛政、民を苦しめる政治という意味の単語を使って苛政人と揶揄され、民間なら優越的地位の濫用にあたるのではという指摘が相次ぎ結局頓挫。
数年後には制度自体の破綻を指摘する声を抑え切れなくなり、カードを一旦廃止して作り直す、ということを与野党共に公約に挙げるという形でそのまま2代目も廃止。
結局2代目は、マーケティングにおける失敗を学ぶ教材を大量に産み出しただけで終わった。」
狩人が手の中のカードを回転させながら軽く投げ上げてキャッチする。
「最終形態がこのセントラル国民証明証だ。
過去の反省を生かし余計な機能は付けず、この証明証の効果は行政機関における身分証。その1点のみだ。
宣伝もそれが実際にどの場面で役に立つか、とか書類発行が無くなることでの手数料減免といったことだけを前面に押し出してアピールした。
そして取得の申し込み率は驚くべきことに最初の1か月で99%をオーバー。結局殺到する依頼をさばききることが出来ず、国民全員に配布という形に落ち着いた。
どうせこうなるなら、何十年もかけずに最初から配れ、との批判の声が相次いだ。だが、計画の責任者たちは、全く気にする様子はなかった。この成果は自分たちの政策がうまくいったからだと信じて疑わなかったからだ。その成果を形として確認したいと考えた責任者連中は、各メディアにカードを取得した理由を聞くように要請を出した。
しかし、その問いに対する世間一般の答えの多くは、責任者たちの期待とはまったく違うものだった。
『持ってないと非国民っぽい感じがする名前だから』
結局、名前は年月やカネよりも重い、っていうオチだったとさ。」
ナイトがつぶやく。
「これから出国手続きをするんだから例の証明証が必要になるな。
期限が切れてると色々出国関連の書類を書く必要があって時間がかかるからね。
有効期限切れでみんなを待たせたくはないものだ。」
全員がカードの有効期限を確認する。
賢者は全員を見渡し問題がある者がいないことを確認する。
「フラグ立ったのに全員大丈夫なんかい!
…いや、それでいいんだけどさ。」
一行は湿地帯の中を移動していた。
ナイトがつぶやく。
「だんだん地面が柔らかくなってきたな。」
白魔術師が疑問を投げかける。
「川のようなものは見当たらないけどどうしてこんな所で水分が多くなっているの?」
狩人が皆を制止する。
「いよいよ、お出ましのようだ。
それと、この辺りは地下水が浅い所を通っていて地表に染み出しているから湿度が高いんだよ。」
賢者がすかさず突っ込む。
「警告と解説を混ぜるな。」
もうしばらく進むと、前方の少し先にサハギンたちの姿が見えてくる。
忍者は刀を抜くと、サハギンの方へ向かう。最初は通常の歩幅で距離を詰めていくが、ある程度まで近づくとそこからは歩幅を縮めながらゆっくりと距離を詰めていく。
10mほどの距離まで辿り着くと、一番近い所にいる2匹が忍者の方を注視し始める。
更に間合いを詰めていくとサハギンたちは一斉に近くの水溜まりに飛び込む。
忍者は賢者たちの方を振り返りなぜか短冊に俳句を書くジェスチャーをする。
賢者が突っ込む。
「全然風流じゃねえわ!
芭蕉のあれは静けさが支配する場所でカエルが一匹静かに飛び込むからいいんだよ!
サハギンが大量にバシャバシャやっても何も風情ねえわ!」
狩人が呆れながらつぶやく。
「よくあれだけでそこまでの突っ込みが出てくるな…。」
そんなことを話していると、サハギンたちが水中から続々と飛び出し忍者に襲いかかる。
忍者はその少し前に察知し後ろに少し退いていた。目前に現れた数匹を切り伏せると、後続を順番に軽快に処理していく。
ナイトは感嘆する。
「やっぱり凄いな。相手の攻撃のタイミングをどうやって察知しているんだ?
それと、硬い骨のある相手をあんなバターでも切るみたいに斬れるものか?」
白魔術師が不思議そうに聞き返す。
「なんで武器のことをあんたが聞くのさ。そもそも、あれはあんたがあげたやつじゃなかった?
バサバサ斬れるのは単純に研鑽と経験の賜物だよ。あんなことは私には到底出来ない。
頭が上がらないよ。
聞きたいことがあるなら直接聞いてみなよ。
絶対答えは得られないと思うけど。」
忍者が戻ってくる。
「血抜きはしてないぜ。」
賢者がすかさず突っ込む。
「食べる前提やめろ!」
なぜか白魔術師が忍者に尋ねる。
「どうして事前に攻撃を察知できたの?」
「…体の周りのオーラを薄く拡げて…。」
「オーラ…?」
「太刀の間合い4mで十分!つーかこれが限界。」
賢者がすかさず突っ込む。
「旅団で腕相撲が強くも弱くもない人やめろ!」
ナイトがつぶやく。
「なるほど、正解を聞けそうも無いな。」
狩人が重ねて尋ねる。
「一応今後の安全のために聞いておくけど、水面の動きを見ていたとかそんな感じか?」
忍者が答える。
「奴らは水を通って最後は泥の中から出てきた。水の中にいる間は魚影がよく見えたが、当然泥に入ったら見えなくなる。
だがそれは向こうにとっても同じこと。
全個体が泥地帯に入ったタイミングでこっそり移動しただけだよ。
それに水と違い泥から勢いよく出るなんてことは出来ない。地表に出てくる動き自体はとても遅い。
不意を突かれなければ見てから回避でも余裕だと思うぜ。
モンスターの強さ的には43点って所だな。」
白魔術師が更に尋ねる。
「この前のでっかいスライムは何点ぐらいなの?」
「ああ、あれか。
1041点って所だな。」
賢者がすかさず突っ込む。
「何点満点だよ!」
白魔術師が先へ歩き出す。
「私もちょっと体験してくる。
43点の世界ってやつをね!」
黒魔術師が残りのメンバーに問いかける。
「…どういうこと?」
忍者が答える。
「憧れってやつは止められねえのさ!」
「憧れ…?
43点に?」
白魔術師はサハギンの群れに対して躊躇なく距離を詰めていく。
忍者が声をかける。
「あやまちすな!こころしておりよ。」
賢者がすかさず突っ込む。
「なんで急に徒然草の高名の木登りなんだよ!
古文の授業なんて睡眠がデフォルトなんだからそんなの覚えているやついないだろ!」
白魔術師はそのままずんずんと進んでいく。
ある程度まで近づくと一番近い4匹が警戒態勢に入る。
それでも白魔術師は気に止めることもなく歩みを止めない。
サハギンたちは慌てて一斉に水の中に飛び込む。
数秒後、次々と泥の中から飛び出し白魔術師に爪や牙を立てようとするが、魔法による防御が厚く、文字通り歯が立たない。
白魔術師はゆっくりとメイスを振りかぶり力を込めると、勢いよく横に振り抜く。
メイスの軌道上にいたサハギンたちは全て派手に爆散しバラバラの肉片と化し血の雨と共に周囲に飛び散る。
ナイトが呆れ混じりにつぶやく。
「えぐいな。子供に悪影響とかいってクレーマーがいきり立ちそうな凄惨な現場だ。」
賢者がすかさず突っ込む。
「影響が気になるような幼い子供にこんな、なろうの作品読ませんな!お前の家の教育方針をなんとかしろ!」
白魔術師にサハギンの第二陣が襲いかかる。
今度は白魔術師の腕を掴んで沼の中に引きずり込もうとするが、どんなに力を入れても白魔術師はびくともしない。
逆に白魔術師はサハギンの頭を片手で一匹ずつ掴むと、そのみ力を込めて握りつぶす。
そして目の前にいる個体のわき腹を右脚で思いっきり蹴る。
するとサハギンの体は、あり得ないほど鋭角な、くの字に曲がるとそのまま2つに引きちぎられる。
忍者が苦笑いしながらつぶやく。
「いつもながら、あいつの戦い方を見ていると練習とか努力というものが虚しく思えてくる。」
白魔術師の周りにはまだいくらかサハギンが残っていたが、白魔術師はそいつらをボロ雑巾のように次々と肉塊へと変えていく。周りを取り囲んでいたサハギンたちは眼前の光景に恐れをなし退散していく。
賢者が狩人に尋ねる。
「あいつらはどう猛なんじゃなかったのか?
縄張りへの侵入者に対して逃げていくぞ?」
狩人が困惑しつつ答える。
「そんなこと言われても…。どうやら圧倒的な相手の前では逃げることもあるようだ、としか言えない。」
白魔術師はメイスを高く上げて力を込める。
「このまま逃がすとでも思ったか!
てやーっ!!」
白魔術師が泥の沼にメイスを振り下ろすと、一瞬地面に大きなクレーターのようなものができ、そこから放射状に衝撃波が拡がり水とその中にいるもの全てを蒸発させていく。
黒魔術師がつぶやく。
「うわぁ。リアル『沼の水全部抜きました』状態になっちゃったよ。」
狩人が続く。
「こっちは外来種も在来種も区別なく全て一緒に葬ってるがな。」
白魔術師は満足するとようやく仲間の方へ歩き始める。
ナイトがつぶやく。
「やっと戻ってくるのか。
それにしても地獄絵図だな。
そこから返り血まみれで戻ってくるとか、なかなかやべぇ奴に見えなくもない。」
狩人がフォローする。
「その心配は無い。見てなよ。」
白魔術師は何らかの魔法を使用する。
すると、衣服や武器の汚れがみるみるうちに消えていく。
「ほら、大丈夫だろ?」
ナイトがつぶやく。
「たしかに本人の見た目は問題なくなったけど、後ろの惨劇の跡が強烈すぎて…。」
合流した一行は魔物を掃討した道を進んでいく。
白魔術師が干上がらせた沼に差し掛かった所で白魔術師が気づく。
「沼の底に誰かの衣服が落ちてるよ。」
沼の跡地を見ると、兵隊風の衣類が数人分落ちていた。
賢者が狩人に尋ねる。
「見たことないデザインだけどうちの国のものか?」
狩人は体の左右で手のひらを上に向け首をすぼめる。
「さあ?軍事オタクではないんでね。アイテムの鑑定スキルでもあれば…。」
狩人が言い終わる前にナイトは服の鑑定を始める。
「これは、古着としての価値は無い。
古着屋に持っていっても受け取り拒否か、あるいは引取料を取られるだろう。」
賢者が突っ込む。
「値段はどうでもいいんだよ!由来を教えろ。」
忍者が軍服を上から下まで観察する。
「この爪あとを見る限り、サハギンにやられたと見ていいだろう。
どの位前の物かは謎だが、腕試しか何かで兵隊が1人でここを通ってみたら不覚をとった、とかそんな感じじゃないか?」
狩人がすぐに指摘する。
「だけど服は何人か分ある。1度に何人も同時にやられるなんてことあるか?
敵も集団とはいえ大した強さじゃないだろう?」
忍者が答える。
「同時かは分からないだろ。こういう地中から出たものは場所が近くても時期が何年、化石なんかだと何万年も離れているなんてザラだからな。」
白魔術師が服の紋章に気がつく。
「あの柄は…リコリスかな?」
賢者が突っ込む。
「なんで学名なんだよ。ヒガンバナでいいだろ。」
白魔術師は紋章を眺める。
「それにしても色々な色があるね。こっちは青いヒガンバナか。珍しいカラーリングだね。」
狩人と忍者がほぼ同時に反応する。
「日光を克服できそうだな。」
「よくやった! 1/4天狗!」
ネタがかぶった狩人と忍者は互いに顔を見合わせる。
一行は更に先へと進んでいく。
しばらくすると、道端にサハギンの死体が転がっているのを見つける。
忍者が近寄って死体の様子を観察する。
「刃物で急所をひと突きか。細い剣か槍だな。
おそらく、クマやライオンの仕業ではない。」
賢者がすかさず突っ込む。
「そりゃそうだろ。」
忍者は更に死体を調べる。
「脇腹にかじった跡がある。
かなり小さい。クマやライオンではなさそうだ。
人間…?まさかな。」
白魔術師が更に先に別のサハギンの死体があることに気づく。
「あっちにもあるよ。」
忍者は2つ目の死体を調べる。
「これも一撃で仕留めているな。今度はさらに首のところが切られている。血抜きか?
これも脇腹あたりに噛みついた跡があるな。
おそらくクマやライオンの仕業ではない。」
賢者がすかさず突っ込む。
「もうクマとライオンのくだりはいいだろ。」
忍者は隣の肉片に目をやる。
「今度は切り分けて火を通してるな。肉塊に空いた窪みを中心に焼けている。恐らく火が出せる武器を突き立てたのだろう。
結構な火力だったようだ。
恐らく武器は槍だな。
これもかじった跡がある。」
ナイトが推理する。
「きっとあれだな。
偶然槍を手にしたサハギン同士が争ったんだろうな。」
黒魔術師が疑問を呈する。
「サハギンが上手に槍を扱えるなんて思えないけど…。
魔法の槍使いで突然モンスターに喰らいついてもおかしくない人物っていうとサニアしか…。」
ナイトが素早く反応する。
「まだその名前を出さないでくれ。
今、友人が奇行に及んでいない可能性を必死に探っている所なんだから。」
賢者がつぶやく。
「てっきりアイツは盗賊狩りに参加しているものとばかり思っていたが、そっちは手詰まりになったということだろうか。」
ふと道の先を見ると紙が1枚落ちている。
『焼いても不味い』
黒魔術師はナイトの鎧の端を引っ張る。
「ねえ、やっぱり…。」
「うるさい、まだだ!
まだ可能性はきっとある!」
忍者が賢者に確認する。
「少し尺を取っても大丈夫か?」
「もう好きにしろよ。
今話中に洞窟後半かあわよくば森の大陸上陸とか思ってたけど誰かが際限なく喋りまくったせいで半分過ぎてまだ出国手続き前とか、もうストーリー進行はどうでもよくなった。」
忍者はかじられたサハギンを指さす。
「あれらは誤解を招くから始末しておいた方がいい。」
賢者が尋ねる。
「誤解って誰にだよ?」
「人類が滅びた後の次世代の生物の学者だよ。」
「どんだけ未来の心配してるんだよ!
当分、滅びない…よね?」
忍者は唐突に遥か未来のことを語り始める。
「次世代生物は、この星の歴史を紐解くべく世界の地層を調べていた。するとごく狭い年代の間だけではあるが、妙に繁栄した生物がいることに気づく。
その生物は調べれば調べるほど謎が深まる生物で、その生息地には自然界には存在しない物質が溢れていた。
学者たちがヒトと名づけたその生物の謎の1つが、食性だった。」
なぜか白魔術師が乗り気になる。
「へえ、それで?」
「ヒトの巣には冷蔵庫と呼ばれる設備からは野菜や肉が発見されていたが、ほとんどの巣には獲物を狩る装備が置かれていなかった。
ヒトは食べ物を一体どこで狩っていたのか、この不可解な謎に研究者たちは頭を悩ませていた。
ヒトの狩りの痕跡を血眼で探していたある日、この沼地で待望の物を発見する。
なんと、刺し傷とヒトの歯形が残されたサハギンの化石だ。
この発見から研究者はひとつの仮説を立てる。
ヒトはそれぞれの個体が自分の歯で直接噛みついて獲物を狩っていたのだ、と。
そして教科書には野生動物に襲いかかり噛みつく人間のイラストが載るようになるわけだ。」
ナイトが感想を述べる。
「今の考古学もこういう極端な事例ひとつで立てられた勘違い仮説もあるのかなあ。」
狩人が忍者に指摘する。
「そうは言ってもそんな説はすぐに否定されるだろ。似たような事例なんてそうそう出てこないだろうし。」
忍者は興が乗ってくる。
「だが、研究が進んでくると段々この説は疑問視されるようになってくる。
狩り場となり得る地域が巣から遠すぎるという問題だ。
ほとんどの巣は山からも海からも遠い場所にあり、狩りをして暮らすには不都合な場所だった。
そんなある日、とあるだいはっけんがあった。なんと武器を大量に保管した遺跡が見つかった。
研究者たちはその施設をジエータイ基地と名付けた。
基地に置かれた武器の中にはイノシシやクマ、シャチやクジラといった大型の動物を狩ることが出来そうな物もあった。
そこで研究者たちは結論付けた。
ジエータイが狩りを行ない、その獲物が運ばれて多くのヒトはそれで食いつないでいたのだ、と。
そして教科書からは動物に食らいつくイラストは消えて、ジエータイが狩った食材をスーパーと呼ばれる設備で分け合うイラストに差し替わった。」
狩人が尋ねる。
「最初より大分マシな説になったな。
でも、歯形が残ったサハギンはどういう解釈になるんだよ。」
忍者は少し考えたあと答える。
「研究者たちは、何らかの理由で群れを離れた個体が仕方なくやったのだろうと推測し、この個体をサニアと名付けた。
名前の由来は目玉焼きだ。」
賢者がすかさず突っ込む。
「ガチのサニアの名前の由来じゃねーか。」
忍者が続ける。
「通説が覆ったと思ったのもつかの間、新しい説に対して考古学の権威の爺さんが異論を唱える。
ジエータイは大きな獲物を狩ることが可能だが、それを遠くまで運ぶ手段をヒトが持っていた証拠は無い。
むしろ生活圏の中に小生物が闊歩しており、それを捕食していたと考える方が自然だ、と。
最高権威の言うことに異を唱えられる者などおらず、研究者たちはみな一様に賛同した。
こうして教科書には、街の中でハトやタヌキに自らの歯で襲いかかるヒトのイラストが載るようになってヒトの食性問題の議論は決着することになった。」
白魔術師が架空の人物に苦言を呈する。
「もう、おじいちゃんは引退しなよ。」
ナイトも同調する。
「老害そのものだな。」
賢者はメンバーに呼びかける。
「さすがにストーリーが進まなすぎだからちょっと急ごう。」
ナイトが尋ねる。
「急ぐってどうするんだ?」
忍者が答える。
「なあに、簡単なことよ。
急ぐんだから、走る。
それだけのこと。」
賢者が申し訳なさそうに提案する。
「それはそうなんだけど、体力に自信が無くて…早歩き位で勘弁してくれないか?」
狩人が応じる。
「お前が言い出したことだろ。
小走り位でいいんじゃないか?」
白魔術師がすぐに反応する。
「普通に走ればいいじゃん。
あそこの建物まで300m位でしょ。余裕、余裕。」
狩人がすぐに反論する。
「お前みたいに脳筋なら余裕だろうけど、こっちは技術職なんだ。同じ基準で考えられると困るな。」
白魔術師は笑って答える。
「アハハ。
…誰が脳筋だ、このやろう!」
黒魔術師が心の中でつぶやく。
「(これ時間的にも尺的にも逆に時間かかってるんじゃないかな?)」
「という訳で、出国手続きをする建物に到着しまし…た!」
そう宣言する忍者に賢者がすかさず突っ込む。
「記載は省略したけど、あれから話し合って気持ち速めに歩いて到着したテイで進めます、みたいな感じだすのやめろ。
まあ、いいや。」
建物の職員は気を取り直して話を始める。
「ここは入出国の手続きを行う施設です。
森の大陸に渡る場合普通は海ルートを選ぶのでここの検問所の利用者は少ないのですが、ここ最近はご利用いただく方が増えております。
ここに来る場合、大抵は魔物の出ない海岸沿いの道を通っておいでになられます。
皆様のように沼地を突っ切る方は稀です。
と言っても、本日は先におひとり同じルートでいらっしゃっていますが。」
職員は咳払いをして仕切り直す。
「さて、手続き方法ですが、皆様カードはお持ちでしょうか?」
忍者が質問に質問で返す。
「もし、持ってないと言ったら?」
職員は困惑しながら答える。
「カードが無い場合は手書きで書類を何枚かお書きいただく必要があります。それに伴い手数料も…。
今お持ちでないということでよろしいでしょうか?」
忍者はカードを取り出す。
「いや、あるけど…。」
職員は困惑しながら答える。
「えっ、はい。それはよかったです。
それではそこの端末の読み取り部にカードをかざしてください。」
一行は順番にカードをかざしていく。
全員が終わると、職員は洞窟内での注意事項が書かれた紙を配り告げる。
「手続きは以上で終了です。
これでもう森の大陸に渡っていただいて構いません。
それではよい旅を。」
黒魔術師はなんだか納得いかなそうな様子でカードを見つめている。
賢者はその様子が気になり声をかける。
「どうした?なにか問題でも?」
黒魔術師がつぶやく。
「いや、問題は無いんだけど…。
ファンタジーって何だっけ、と思っただけ。」
職員は黒魔術師がカードに興味を持ったのかと勘違いし語り始める。
「そのカードが生まれるまでには酷い歴史がありましてね。一代前のカードは失敗のオンパレードだったんですよ。
その中の問題のひとつにこういうものがありましてね。
通称『配布時期が偏っているせいで更新も一緒だから中間の時期は製造ラインが無駄だし製造時期はブラック残業不可避だし仕様変更があるかもしれないから作り置きもできねえし世間からは利権とか癒着とかうしろ指指されるしもう泣きそうだぜ』問題と言います。
どういう内容か説明しましょうか?」
黒魔術師は即座に答える。
「いや、いいよ。
そのラノベのタイトルみたいな長さの題名でおおよそ全部分かるから。」
忍者が職員に尋ねる。
「ここで手続きをしないで抜けようとする連中はいないのか?
例えば、外国の兵隊とか?」
職員は待っていましたと言わんばかりに前のめりで話す。
「それがいたんですよ。
数年前、数十人の兵隊の集団が沼地を通って現れるなり、水と食料を出せと言ってきましてね。
仕方ないので水道水と、常備していた乾燥ワカメ、水で戻して使うあれですね、を提供しました。」
賢者が突っ込む。
「なんでそんなもの常備していたんだよ。」
職員が続きを話す。
「ちなみに1人あたり1,200円払って貰いました。」
賢者が突っ込む。
「ぼったくりじゃねーか!」
職員が補足する。
「それとは別に、水は有料と告げずにそれぞれ800円をいただきました。」
賢者が突っ込む。
「おい、やめろ!」
職員は話を戻す。
「出国手続きをしていただこうと思ったのですが、それは出来ない、と剣を突きつけられましてね。
仕方なく1人3万円でお通ししました。」
賢者が困惑しながら突っ込む。
「お、おう。そうか。
商売上手なんだな。」
職員が訴える。
「しかし、誰も信じてくれないのです。
他国の兵士がそんなに大人数で来るわけが無いだろ、と。もし本当に外国の軍隊が侵入していたら大ニュースになっているはずだ、と。
でも、本当なんです。信じてください。
あのリコリスのエンブレムは間違いなく森の大陸の軍服。うちの国の軍服と見間違えるなんてことはありえません!」
賢者が答える。
「私たちは信じるよ。嘘を言っているようには見えないしな。」
職員は手を合わせて喜ぶ。
「本当ですか!今まで社交辞令的にさえも肯定していただけたことが無くって…。
お礼と言ってはなんですが…これを差し上げます。」
職員は土嚢みたいなサイズの袋を机に置く。
「乾燥ワカメです。」
賢者は即答する。
「いらねえわ。」
忍者が職員に尋ねる。
「剣を突きつけられた状態からどうやって金を払わせる所まで持っていったんだ?」
職員が不満げに答える。
「やっぱり疑っていらっしゃいます?」
忍者が答える。
「逆だ。信じているからこそ、その兵士たちについて知りたい。」
職員は納得した様子で話し出す。
「我々のような国境で働く職員はある程度の実力は持っています。少なくともサハギン程度は軽くひねることができるぐらいの能力は全員持っています。
こう見えて私もモンクです。それなりにやれるんですよ。
あと、学生時代は剣道もやっていたので、相手に剣を突きつけられたところでどうということはありません。バックドロップ一発で沈めてやりましたよ。」
賢者がすかさず突っ込む。
「剣道関係ねーな。」
職員は自慢気に話す。
「剣道の型は得意でした。」
ナイトが応じる。
「ああ、型ね。空手とかの日本の武道にある芸術性を競う全然実戦向きじゃないやつね。長らく平和が続くとこうなるんだなって思わせる何かがあるよな。」
忍者はその話には乗らずに尋ねる。
「ここの職員ならあの沼地を踏破できるのか?」
職員は少し考え込む。
「どうでしょう。考えたことが無かったので。
ただ、4、5人もいれば誰ひとり欠くこと無く抜けることは容易でしょう。」
職員からひととおりの情報を聞きだした一行は、入った方とは逆の出入口から出る。
鉄条網で囲われた区域は森の大陸への海底洞窟へ進む以外の選択肢を拒んでいた。
賢者が突っ込む。
「鉄条網2m位しか無いじゃねーか!
脚立あれば飛び越えられるレベルだろ。
どんだけ鉄条網に信頼置いてるんだよ!」
狩人がつぶやく。
「何に突っ込んでるんだよ…。」
ナイトが鉄条網を見渡す。
「多少高くしても竜騎士なら簡単に飛び越えられそうだがな。」
黒魔術師が尋ねる。
「竜騎士?」
「ああ、竜騎士ってのは…。」
狩人が割って入る。
「竜騎士。それは、前衛ジョブのひとつで、槍の扱いに長けたジョブだ。
最大の特徴はジャンプ能力だな。
個人の技量しだいで変わるが大抵は5、6m位は跳べる。
その後は物理法則を無視して急降下とふんわり落下することが可能だ。高さを使いこなし強烈な一撃を与えつつ自分は安全に着地するなかなか優秀なジョブだ。」
忍者が補足を入れる。
「落下速度を変えるのに相手の鎧を奪う必要が無いんだぜ。」
賢者がすかさず突っ込む。
「キ○肉マンに出てくる謎理論やめろ!」
白魔術師がつぶやく。
「竜騎士なら飛び越えられるんだね…。
サニアはたしかサブで竜騎士やってたよね?
飛び越えたかどうか職員の人に聞いてくる!」
そう言うと白魔術師は施設の中へと走って戻る。
ナイトは狩人に尋ねる。
「あいつは何を確かめに行ったんだ?」
狩人が答える。
「サニアがきちんとゲートを通ったのを見た職員にサニアがゲートを通らずに通過したかを聞きに行ったんだよ。」
賢者が突っ込む。
「文字に起こすとおかしさしか見えないな。」
しばらくすると白魔術師が戻ってくる。
「サニアは普通にゲートを通ったってさ。」
賢者が突っ込む。
「そりゃそうだろ!」
黒魔術師がナイトの袖を引っ張る。
「やっぱりサニアだってさ。」
ナイトがつぶやく。
「…いや、見間違いという可能性も。」
白魔術師が突っ込む。
「カードタッチするだけとはいえ書類を作ってるんだから無理あるでしょ。」
白魔術師はもうひとつ報告をする。
「もうひとつ聞いてきたよ。
なん鉄条網の上はねえ。
魔法がかかってて飛び越えられないんだって!」
狩人が応じる。
「そりゃそうだろう。鉄条網だけだったら飛び越え放題じゃないか。」
白魔術師がムッとする。
「あんた、当たり前だから言わなかったみたいな感じでいるけど、ただ知らなかっただけでしょ。知ってたら聞きもしないのにベラベラしゃべるくせに。」
狩人が反論する。
「当たり前だから言わなかっただけだよ。たしかに知らなかったけどさ。国境警備がそんなに甘いわけないってのは常識で分かるだろ。」
白魔術師が応じる。
「嘘言うんじゃないよ。飛び越えるとか高さとかそんな話してたじゃない。」
狩人が反論する。
「私はそんなこと話してない。」
白魔術師がさらに詰める。
「ノリノリで竜騎士について語ってたでしょ。」
忍者が目の前のやり取りなど無いかのように賢者に尋ねる。
「この前の盗賊退治の報酬ってどうなったんだ?」
賢者が答える。
「そう言われれば…。正式に依頼を受けたわけじゃなかったしその辺のこと考えてなかった。
…なぜ今聞く?」
黒魔術師が唐突に魔法を発動する。
「!!
練習してた土属性の魔法が今初めて成功した!」
賢者がすかさず突っ込む。
「なんでこのタイミングの練習したんだよ。」
狩人が説明を始める。
「土属性。
黒魔法の7属性のひとつ。
上位のレベルの魔法は局地的に大地震を起こしたり地中の金属を自在に操ったり植物を任意に使役したりと強力の一言だが、レベルが下位の魔法は使いどころを見いだすのが難しいものが多い。
ちょっとした地面の隆起を作る、地面に落ちている小さい石ころを飛ばす、薄い土壁で身を守りついでに土のおかげで敵から視認されなくなることができるがこちらからも見えなくなる、と使いどころが難しい。
高レベルでもそうだが、大地がある場所じゃないと威力が著しく下がるか無力なのも厳しい。
強い魔法を使えるようになると無双状態だがそこまでの道のりが厳しすぎるという大器晩成のロマン枠。
大抵の黒魔術師は、適性のあるもうひとつの属性から習得していき土属性は後回し。場合によっては完全放置されるというどちらかと言えばハズレの属性だな。」
狩人が白魔術師の方に向き直る。
「それで、何だっけ?」
白魔術師が答える。
「…なんか、どうでもよくなった。」
賢者が皆に呼び掛ける。
「ようやく、本当にようやく洞窟に入る訳だが、何か言っておくことはあるかい?」
狩人が皆に告げる。
「この洞窟は、大昔から存在する海底トンネルで、どういうメカニズムでできあがったのかは分かっていない。
いつ崩れてもおかしくない、と言われ続けてもう300年以上。
未だ壊れる気配は皆無だが、用心した方がいいだろう。
洞窟の壁や天井に強い衝撃を与えないことを普通の洞窟よりもさらに強く意識する必要がある。」
賢者がやや早口でメンバーに告げる。
「ちょっと急ごう。こんな終盤にきて洞窟を抜けるどころか入ってもいないとか、さすがに想定外だよ。」
一行は洞窟を進んでいく。
黒魔術師は珍しいものを見るかのよに周囲をキョロキョロと見渡す。
「灯りもないのに結構明るいんだね。」
狩人が周囲を飛ぶ虫を一匹捕まえる。
「こいつのせいだな。
リヒトインセクトっていう魔物だ。
洞窟で光の魔法を使って発光し、さらに甘い匂いを漂わせることで自らを捕食させる。
こいつらは口の中に入るまではおとなしいが、口腔に入るなり素早く喉の奥へと入っていき、捕食した生物の腸に住み着く。
そして腸に届く食べ物を一部いただいて生活する。
食べ物を横取りするといっても宿主の命を脅かすようなことは全く無くて、ほんの少し取っていくだけだ。
腸の中で卵を産み、それが宿主の体内から排泄されることで外に出され、幼虫は地中の微生物やコケなどを食べて育ち、やがて成虫になる。
成虫は植物を食べて成長し、5cmくらいになると発光し…というサイクルを繰り返す。
ちなみに宿主の腸の調子が悪いと成虫が口から出てくる、という面白い光景が見られることもあるらしい。」
白魔術師が即座に反応する。
「面白くないよ、怖いよ!」
狩人が補足する。
「理由は分からないが、トウガラシの辛味成分に弱くて一定以上の辛さの食べ物を食べれば腸内の個体は死滅させられるよ。」
白魔術師が真剣に確認する。
「蒙○タンメンの北極なら大丈夫?」
「あのぐらいしっかり辛ければもちろん問題無いよ。」
「辛み増さなくても?」
「もちろん。むしろ2段階ぐらい下でも余裕だよ。」
会話がおさまったのを確認すると賢者が突っ込む。
「なんで関東の人間にしか知られていないタンメン屋が基準なんだよ!」
洞窟を進んでいくと、大きな水たまりが見えてくる。
狩人が水たまりを指さす。
「この洞窟の大きな水たまりはすべて外の海とつながっているんだそうだ。だから小魚や小型の魔物がいるらしい。」
ナイトが少し驚きつつも尋ねる。
「海底洞窟なのに外の海とつながっているって大丈夫なのか?なんで水没しないんだ?」
狩人がため息をつく。
「そう言われ続けて300年。謎の力で通行可能状態であり続ける奇跡の場所。それがこの洞窟だ。
無事な理由が分からないってことは何が原因で崩壊するか知れた物じゃないってことだ。
この洞窟の壁を傷つけないよう気を付けることの重要性が伝わったかな?」
狩人が黒魔術師に尋ねる。
「今話の尺も残りわずかだ。
今のうちに聞きたいことはあるかい?
→召喚魔法について
太陽光パネルの墓場について
夜間銀行について
エンディングサポートについて
いいニラの選び方について
」
黒魔術師が答える。
「分かんないけど、どれも結構説明に時間かかるでしょ?また今度にしてよ。
それと最後に捨て選択肢入れるのやめて。ニラの選び方って…。」
狩人が勝手に説明を始める。
「葉っぱが元気で厚いやつがいいぞ。あと、茎は太い方がオススメ。」
黒魔術師が心の中でつぶやく。
「(意外と短くて普通だった…。)」
次回予告:
さすがにもう次の大陸に着くやろ。