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1章-11

11話「第1章11話」


【たまにはガチな前回のあらすじ】

一行は、前回のラストで捕まった説明会から抜け出せずにいた。


説明が長々と続く中、ナイトと狩人は互いに紙切れを5枚ずつ持って小声で何かを言い合っている。

狩人が静かに告げる。

「…ブラックゴブリン。」

ナイトは自分の手元の紙をチェックする。

「セーフだ。私が設定したNGワードのモンスターには引っかかってないぜ。」

ナイト自分の紙を下に下ろすと息を整え静かにコールする。

「…ムーバー。」

狩人は少し驚く。

「メジャーな所に来たな。セーフだ。」

狩人は自分の紙をチラッと見た後、すぐにまた伏せる。

「次は私だな。

…しょうたいふめいのガイコツっぽい奴。」

ナイトが抗議の声をあげる。

「F◯5にはその名前のモンスター4、同じ形の別モンスターを分けたら5種類いるだろ。それは無しだろ!」

狩人は落ち着いた様子で答える。

「そんなルールは無いぜ!このゲームにあるのは、互いにドボンのモンスターを5つ決めて互いにF◯5のモンスターを言い合って相手にそれを言わせたら勝ちってだけだ。

まあ、次の試合からは同名は全部一緒ということにしてもいいが、今回のゲームはこのままやらせてもらうぜ。これで5ターン貰ったも同然だな。」

ナイトが鼻を鳴らす。

「いいだろう。だが5ターンも逃げを許すわけにはいかないな。こっちからも潰させてもらう。

…しょうたいふめいの皮膚っぽい奴!」

狩人はそれを聞くと素早く自分の紙の内の1枚をナイトに見せる。

「かかったな、マヌケめ!」

ナイトは悔しそうに拳を固く握る。

「やってくれるじゃないか。じゃあ、次はFF10で勝負だ!」

狩人は余裕の笑みを見せる。

「ああ、かかってきなよ。返り討ちにしてやるさ。」

そんなことを話していると、職員が近くに駆け寄ってくる。

「あの、業務内容の説明中ですのでお静かに願います。」

メンバーからクスクスと笑いが起こる。


仕事内容の説明会が終わると白魔術師が伸びをする。

「はあ…。やっと帰れる。」

賢者がメンバーに呼び掛ける。

「さて、今度こそ帰ろうか。」

忍者がシーフに歩み寄る。

「この仕事、降りた方がいい。」

シーフが当然疑問をぶつける。

「唐突だね。なんで?」

忍者がふざける様子もなく答える。

「さっきアローワークで聞いた時には気付かなかったが、おかしい所が多すぎる。

説明を聞き流している間に暇だったから聞いた内容を思い返してみたんだ。」

賢者がすかさず突っ込む。

「説明聞いて思ったんじゃないんかい!」

忍者は説明を続ける。

「今回の依頼内容は、盗賊団『月夜の明星』の襲撃を事前察知したから奴らを待ち伏せて返り討ちにする、という仕事だ。

我々はちょっとここに立ち寄るだけのつもりだったから気にしていなかったが、この時点でおかしな話だ。」

白魔術師が乗り気で尋ねる。

「なんで?別におかしくないと思うけど。」

忍者が続ける。

「待ち伏せなんて相手にバレたらアウトだ。だから仕事を受けるつもりの無い我々に明かされるなんて普通に考えたらあり得ない。

支店長はハッキリと、秘密ではない、と言っていたし、我々に口止めもかけられていない。」

忍者は更に続ける。

「それに、only deadなんて条件、聞いたことがない。敵のアジトを聞き出すために最低でも1人は生きたまま捕らえろ、という条件なら分かるが、皆殺しのみなんて尋常じゃない。

まるで口封じが目的であるかのようだ。

今分かるのはこの程度だが、かなり怪しい案件だ。

現状は情報が少なすぎてこの位しか分からない。

詳しい業務説明が聞けたらもっと分かるかもしれないのだが…。」

賢者がすかさず突っ込む。

「だから、そんなに気になったなら、なんで説明聞いて無かったんだよ。」

黒魔術師が賢者に尋ねる。

「ノルドは聞いてたの?」

賢者は口ごもる。

「いや、私も聞いてなかったけど…。」

賢者はメンバーを見渡す。

「誰か聞いてた人は?」

しかし誰も反応しない。

賢者はシーフに尋ねる。

「サニアは?」

シーフは申し訳無さそうに答える。

「実は私も…モンスターの名前対決しか見てなかった…。」

賢者が突っ込む。

「なんだ、この状況!7人もいて誰一人として聞いてなかったんかい!」


一同がそんなことを話していると職員がやって来て書類を手渡す。

賢者が職員に尋ねる。

「これは?」

職員は慣れた様子で答える。

「今の説明の内容を記載した紙です。結構説明を聞き流す方が多いので…。」

賢者がすかさず突っ込む。

「これ配るなら説明会いらなかっただろ!」

職員は事務的に答える。

「あそこのベンチにも同じものが置いてありますので好きなだけお持ち下さい。」

ナイトが職員に尋ねる。

「あんな所に置いたら部外者が持ち出し放題だろ。いいのか?」

職員が不思議そうに聞き返す。

「何か問題でも?」

ナイトが答える。

「なるほど、理解した。引き留めて悪かった。」

職員は会釈すると、書類配りの仕事に戻っていく。

ナイトはシーフの方に振り返る。

「私からも、この仕事から手を引くことをおすすめするよ。」

シーフは首を横に振る。

「それはできない。盗賊団の活動を止めることは私の目標のひとつだからね。」

白魔術師は職員から受け取ったレジュメに目を通す。

「ふむふむ。」

読み終えるとレジュメをきれいに折り畳む。

皆が白魔術師の言葉を待ち白魔術師の方を見るが、白魔術師はそれを見返すのみで何もしゃべらない。

賢者が思わず突っ込む。

「なにかしゃべれよ!

読み上げるか、要旨をかいつまんで説明するかしろ。

お前の中だけで完結するな!」

白魔術師は面倒臭そうに紙を開き、読み上げる。


白魔術師がレジュメを読み終えると、賢者が苦笑いを浮かべる。

「突っ込み所が多すぎて逆に何も言えないな。」

狩人が内容をまとめる。

「相手のターゲットはオカクン証券ジャンフォレスト支店。

敵の作戦開始は夕刻の17時。

それまでに従業員が念のため現金をすべて市の庁舎の裏の公園に運び出す。ずいぶんと遠い場所を選んだものだ。

エントリーしたワーカーは全員支店に待機して全員漏らさず討ち取る。

大体こんな感じか。」

ナイトが鼻で笑う。

「資金を全額、持ち出しやすいように店の外に運び出し、ワーカーは全員そこから遠く離れた場所に隔離、か。

狙いが分かりやすくていいじゃないか。」

シーフは残念そうにつぶやく。

「狙いが見えていても、契約で支店の方に待機せざるを得ない…。」

賢者がすぐに応じる。

「アローワークで契約を交わしたお前は、な。」

賢者はメンバーを見渡す。

「なあみんな。今回の仕事、手伝ってみないか?

契約を交わしていない我々なら自由に動けるから資金の方を守れる、というか我々にしかできない仕事だ。どうだろう?」

忍者がすぐに反応する。

「やろう。」

他のメンバーは何も言わない。

忍者が少し焦って周りをキョロキョロと見回す。

狩人が気まずそうに応じる。

「その一言だけか。

エリアのことだから、そこからボケて来るのかと思ってみんな待ってたんだが…そうじゃないこともあるんだな、って。」


賢者が忍者に確認する。

「我々6人は公園で資金の防衛に当たるってことでいいんだよな?」

忍者は考え込む。

「最初はそう思ったが、証券会社で起きることが全く読めないからそっちにも人員を回そう。公園の方を盗賊団が襲うとしてあっちはなぜ全員討伐などという滅多に見ない怪しい条件をつけたのか。

あの条件がなければ向こうの作戦に気付けていなかった可能性も十分あったくらいの、ミスと言ってもいいくらいの物だ。

わざわざこんな条件を付けたのはなぜなのか…。」

シーフが手を挙げる。

「はい!その辺の細かいことはお昼ご飯を食べながら考えればいいと思いまーす!」


狩人は収納から保冷バッグを取り出しそこから冷凍チャーハンを取り出す。

「さて、今日は冷凍チャーハンにでもするかな…。さすがに電子レンジは無いから鍋で加熱していくよ。」

狩人は手際よく鍋でチャーハンを炒め終わると各自の皿に盛り付ける。

そしてそのまま手早く鍋に水を注ぐと調味料をいくつか加えてスープを作り上げる。

スープを各自のスープ茶碗に取り分けると全員に告げる。

「どうぞ召し上がれ。」

シーフはチャーハンを口に運ぶ。

「うん、安定しておいしいね。高レベルで味を安定させられるのが冷凍の強みだよね。」

続けてスープをレンゲで掬う。

「これは、町中華でよく見るスープかな。

調理に使ったものは特別なものは無かったけど、そんなに簡単に作れるものなの?」

白魔術師が答える。

「飲んでみればどうなのか分かるよ。」

シーフは息でスープを冷ますと、口の中に流し込む。

「!!

こ、これは、中華屋のスープそのものだ!

口の中に入れるとすぐ、醤油の持つ強い塩味が食欲を掻き立てる。

準備が出来上がった所に間髪を入れずに醤油の持つ優しい香りが広がり、醤油の甘味、それと、鶏ガラスープ、だと思うけど、その旨味が追いかけてくる!

それと、このコク、つまり鶏ガラとは別の旨味は、表面に浮いている、これはラードかな。これがスープを一段高い所に導いている。

スープを飲み込むと残った塩の余韻が米を求めてくる。

チャーハン用、いや、中華屋の米の系統を引き立てる最高のスープだよ!」

賢者は半分呆れるようにつぶやく。

「お、おう。相変わらず絶好調だな。」

狩人は帽子を目深にかぶり直す。

「まあ、その気に入って貰えたならよかった、というか…なんというか…。」

賢者は半分呆れるようにつぶやく。

「お前は誉められ耐性がないな。」


「それで、メンバーの割り振りだが。」

忍者が切り出す。

「盗賊団と鉢合わせる可能性が高い公園組はルーネイト、レスター、テス。

何があるか分からないが命のやり取りが起きそうな証券会社の店舗の方にはサニアと共にノルドとリンと私が行く。」

ナイトが尋ねる。

「割り振りの理由は?」

忍者はうなずくと答える。

「盗賊団とぶつかる方は当然、狩人のルーネイトを入れた。」

疑問が解消してなさそうな黒魔術師を見てシーフが補足する。

「盗賊団はほぼ全員シーフだからねぇ。

シーフの天敵が狩人なんだよ。

意識外の場所から来る矢は罠感知にかからないし、軽装備しかできないシーフに矢を防ぐ術が無い。

おまけに、シーフのスキルで気配を消していても狩人の探知能力の方が性能が上だから正直完全にお手上げなんだよね。」

忍者は説明を続ける。

「店舗の方にはルーネイト以外で出来るだけの戦力を割いた。テスには公園に残ってもらうから、レスター。お前はその護衛だ。」

ナイトが尋ねる。

「こっちは2人でなんとかなる。テスはそっちの方が安全なんじゃないか?」

白魔術師がため息混じりに答える。

「仕事始めてからまだ一週間も経ってないのに人が死ぬ、いや、殺さなきゃいけない可能性が高い現場に連れて行く訳にはいかないでしょ。

そっちの相手は金品運搬員ばかりで戦闘要員なんてそういないだろうからあんたたちなら上手いことやれるでしょ。」

忍者が驚く。

「リンお前、まともなことも言えるのか…。」

白魔術師は笑って答える。

「アハハ。

 …なんだと、このやろう。」


一行はデザートのイチゴを頬張る。

黒魔術師が説明会のレジュメをぼんやりと眺める。

「月夜の明星ってのはどんな盗賊団なの?」

狩人は口の中のイチゴを飲み込む。

「この前の内戦の後に結成された、構成員のほぼ全員がシーフの盗賊団だ。

チーム名からして内戦で壊滅したワーカーチーム『真夜中のミッドナイト』のメンバーが設立したと言われているが、それ以上の詳しいことは私も知らない。」

黒魔術師がつぶやく。

「うわぁ、名前ダサい…。」

狩人が説明を続ける。

「真夜中のミッドナイトは内戦前は最大のワーカーチームだった。トップ5人を頂点とした実力に基づくピラミッド構造の組織だったらしい。トップが内戦の最中に4人やられて1人は行方不明になって、自然と崩壊したんだよ。」

黒魔術師がつぶやく。

「あんまりあの内戦のこと知らないんだよね。知りたくなかったってのもあるけど。」

狩人が反応する。

「いい質問ですねぇ。」

賢者がつぶやく。

「長くなりそうな気しかしないな。だが今日はタイムリミットがある。仕事の時間が来たら途中でも切り上げろよ。」


狩人は説明を始める。

「元々の原因は王位継承権を巡る争いだった。いや、発端はもっと前。双子の王子が生まれてからずっと、どちらに継がせるかを決めるのを先延ばしにした所からだろうな。

ずっと先延ばしにし続けていたが国王が高齢になり、いよいよ跡継ぎを決めなければならないという段階で初めて、どちらが継ぐかの話し合いが行われた。

話し合いは王都にある王国飯店という中華料理屋で行われた。」

黒魔術師が尋ねる。

「王国飯店?」

狩人がうなずく。

「王国飯店は…。」

賢者が割って入る。

「さすがにそれはいいだろ!」


狩人が説明を続ける。

「話し合いは決裂した。お互い王位の継承を嫌がり押し付け合い、結局武力で争い勝った方が自由の身を手にすることに決まった。

この、お互いに嫌がっていたというところが周りに伝わっていなかった所も被害を大きくした原因の1つだろう。

兄のエドガーランプはここジャンフォレストに本拠を構え、弟のマッシューはサイベリアンに…。」

思わず黒魔術師が止める。

「ちょっと待って!

…その名前、大丈夫なの?エドガーとマッシュって…。」

狩人は平然と答える。

「人名だから偶然被ることぐらいいくらでもあるだろ。」

「ああ、偶然か。中断させてごめんなさい。」

狩人は話を再開する。

「マッシューの方は優秀な部下であるオルテガスとガイアンをひきつれ…。」

「ちょっと待って!

…その名前、大丈夫なの?どこかの三連星っぽいけど…。」

狩人は平然と答える。

「人名だから偶然被ることぐらいいくらでもあるだろ。」

「ああ、偶然か。中断させてごめんなさい。」


黒魔術師が疑問に思い尋ねる。

「私はこの街から出たこと無いから地理が分からないんだけど、そのサイベリアンってどこなの?」

狩人が答える。

「そこからか。まあいい。

まずこの国の簡単な地理なのだが、正方形より少し横長の長方形を思い浮かべてくれ。その上に田んぼの田の字を乗せる。田の9個の点のうち、左中の点とそこから伸びる3つの線を消す。これで北を上方向とした大まかな地形、都市、主要道路を表す地図の出来上がりだ。

我々が今いるジャンフォレストは左上だ。」

白魔術師が黒魔術師に尋ねる。

「左下はなんていう都市だと思う?」

黒魔術師がすぐにひらめく。

「なるほど、それがそのサイベリアンだね!」

白魔術師は申し訳なさそうに答える。

「あ、いや…。サイアミーズだよ。」

しばらく沈黙が続く。

だが、全く何も話さない白魔術師にしびれを切らし賢者が突っ込む。

「なにも追加の情報無いんかい!なんで唐突にそこを話題に出したんだよ!」

シーフが手を挙げる。

「じゃあ、私から。

サイアミーズにはおいしい茶屋があって…。」

賢者が遮るように突っ込む。

「脱線やめろ!」


狩人が話を再開する。

「両軍は、30年城の異名をもつ3重の壁に守られたここジャンフォレストと、南中に位置する、最後の砦の異名を持つサイベリアンとに分かれて戦いを始めた。

戦場となったのは東中の山岳都市メインクーンと南東の工業都市ラガマフィンだ。」

黒魔術師が当然の疑問を投げかける。

「なんでそんな所が戦場になるの?

陣取ったのは左上と下のまん中でしょ?

ど真ん中を通ればいいのに。」

狩人が指をならすする。

「そう!それも最悪の結果を招いた要因の1つなんだよ。

実は、うちの国の軍隊には暗黙のルールがあって、争い事は王都とその西の山岳地帯を巻き込まないっていうルールがあって、王都とその西、つまりこの国のど真ん中とその西は避けてコの字型に戦線が展開されたんだよ。

その、軍隊の人間にとっては常識、って所がいけなかったんだが、まあそれは後にしよう。」


忍者が

「…というわけで、CMが明けまし…た、と。」

すかさず賢者が突っ込む。

「記載は省略してけどCMをやったていで進めます、みたいな感じで言うのやめろ!てか、CMって何だよ!」

賢者の突っ込みが終わると狩人は話を再開する。

「当初、戦況は圧倒的に北側が有利だった。

常に北側の国々の海賊と戦っていたからね。戦闘経験はかなりのものだった。

南は国内最大の軍事拠点サイベリアンを持つとはいえ平和そのものの地域。内戦の際に初めて兵器の説明書を読み始めた、とかそんなレベルの錬度の兵士しかおらず全く勝負にならなかった。

前線はまたたく間に本拠サイベリアンをうかがう場所まで後退していった。追い詰められた南側は禁じ手を使った。

ワーカーを雇ったんだ。

戦争でワーカーを雇ったこと自体、国際条約違反であることはもちろん、雇った相手もまずかった。

南軍は3組のチームを雇った。

うちじゃない方の賢者パーティと、水虫キックボクサーことバウス率いるチームと、そして、天下のならず者集団、真夜中のミッドナイトだ。

真夜中のミッドナイトは巨大なチームであった。だが、大半はあぶれ者をかき集めた寄せ集めチームだった。下っ端の方は謙虚で普通の連中が多かったが、上の方は法律違反の常習者ばかりのクズだらけというこのチームだ。こんな奴らは、無法状態となる戦争に関わらせてはいけなかった。」

シーフが補足する。

「私も実は当時、真夜中のミッドナイトに所属してたよ。ほとんど実戦には出してもらえず下働きの雑務しかさせてもらえなかったけど、新米のシーフなんて他に受け入れてくれる所なんて無かったからね。」

忍者が狩人に注文をつける。

「もうまもなく仕事の時間だ。そろそろ畳んでくれ。」

狩人はふぅと息を吐く。

「…というわけで、後の結末を簡単に言うと戦線に加わった真夜中のミッドナイトは内戦で総崩れとなって、その時の残党…メンバーの一部が立ち上げたのが盗賊団、月夜の明星だと言われている。

大体そんな所だな。」

忍者は素早く立ち上がる。

「そろそろ準備に取りかかろう。

チーム分けはさっきの通り。以上!」


メンバーが2チームに別れると、支店班のシーフが公園班に駆け寄る。

「あの盗賊団は前身のチームの流れをくんであぶれた者を寄せ集めたグループ。実際、一番最初誘われたのはチームが解散して行くあての無かった私だった。もちろん断ったけどね。

盗賊団と真夜中のミッドナイトで大きく違うのは中心となる実力の持ち主がいないって所。犯罪に走っているのはたしかだけど、犯罪の道しか無かったという側面がある。

真夜中のミッドナイトはメンバーが同じあぶれ者同士であるせいなのか、仲間を大事にする気持ちが強い。それが強みでもあり弱点でもあるよ。

レスターはそういうのを利用して敵と戦うのは嫌かもしれないけど、覚えておいて損は無いんじゃないかな。

じゃあね。」


シーフが戻っていくと黒魔術師はナイトに尋ねる。

「つまりどういうこと…?」

ナイトが答える。

「奴らを取っ捕まえて仲間の居場所を吐け、と言っても決して吐かないが、仲間の首にナイフを突き立てて、降伏しろ、は効果あるってさ。

…だってばよ。」

しばらく沈黙が続く。

見かねた狩人が2人に注意する。

「今は突っ込みの専門家がいないんだ。ヘタなボケは命に関わるぞ。」

重苦しい沈黙が場を支配する。

黒魔術師がつぶやく。

「うまいボケじゃないとダメってことか…。」

黒魔術師がひらめく。

「うまくボケるにはどうすればいいかエリアに聞いてくるよ。」

黒魔術師は向こうのチームに駆け寄り忍者と何やら話し込む。

しばらくすると小走りで戻ってくる。

「あのね…。ジョ○ョを読んで勉強すればいいって。」

ナイトが黒魔術師に尋ねる。

「それに対してどう突っ込めばいい?」

黒魔術師は向こうのチームの方に駆け出す。

「ちょっと聞いてくる!」

黒魔術師は賢者と何やら話すと小走りで戻ってくる。

「ジョ○ョはそんなに万能じゃねーわ、すぐにジョ○ョに頼るのやめろ、だってさ。」

狩人が納得する。

「なるほど、理解した。」

ナイトがすぐに指摘する。

「今のは何らかのジョ○ョのセリフが返すべきだったんじゃないか?」

黒魔術師は駆け出す。

「ちょっと聞いてく…ぶふ!」

黒魔術師は何かにぶつかってしまう。

見上げるとそこには賢者が渋い顔で立っていた。

「…いや、もういいだろ!仕事しろよ!」


証券会社チームは目的地に到着するとすぐに周辺地理を確認する。

白魔術師が支店を見上げる。

「上から来るってことはあるかな?」

シーフも上を見上げる。

「どうだろうねぇ。上から来ても逃げることを考えると大がかりな装置が必要になっちゃうだろうし。」

周囲を確認していた忍者が声を上げる。

「ノルド、見てみろよ!」

賢者が駆け寄る。

「どうした?」

忍者が植え込みの葉を指さす。

「カタツムリを見つけた!」

賢者がすかさず突っ込む。

「…なぜ私を呼んだ?」

そんなことを話していると、支店の職員が話しかけてくる。

「本日は当支店を盗賊団からお守りいただけるとのことで、心より感謝を申し上げます。

紹介が遅れました。私この支店の副支店長代理補佐のカナヤワと申します。

スマホのひらがなのまん中の列を縦に読んで名前を付けました。」

賢者が突っ込む。

「どうでもいいな。モブの名前とか基本的に2回以上使われないし。」

シーフが職員に尋ねる。

「さっきなんだか騒がしかったけど何やってたの?」

支店の職員は不思議そうに答える。

「現金の運び出しですよ。皆様のお仲間が警護にあたってくれたではありませんか。

思ったより量があるから20人位いないと盗み出せそうにない、とかつぶやいていらっしゃいましたが?」

忍者がふうと息を吐く。

「量が多くてよかったな。少なかったら運搬作業の途中で試合終了だったぜ。」

シーフが遠くに見える公園の方を眺める。

「やっぱり向こうが本命かぁ。

20人近く来るっぽいけど大丈夫なのかなぁ。」

白魔術師も公園の方を眺める。

「危なくなったら赤いのろしを上げるらしいから注意しておけばいいんじゃない?」

シーフは首をひねる。

「結構距離があるからねぇ。のろしに気づいてから向かって間に合うかどうか…。」

忍者が賢者に語りかける。

「スライム戦でスライム避けのスプレーを使ったのを覚えているか?」

「?…ああ、あれか。」

「あれは3つのうち2つしか使わなかったよな。」

「…それがどうした?」

「使ったやつは緑と黄色の煙だった。

今日の仕事で使うかもしれない赤いのろしはその使い残しの1個ではなかろうか。」

「…どうでもいいこと考察すんな。」


公園組は一足先に現地に到着していた。

黒魔術師は公園を見渡す。

「警護対象はどこだろう。」

ナイトが持ち物の整理をしながら答える。

「そのうち来るだろ。なんにせよ、我々2人は来た敵の迎撃、ルーネイトはあそこの離れた所から狙撃、やることはそれだけさ。」

黒魔術師は狩人が潜伏する藪の方を見る。

「あんなに離れててもうまく当てられるのかな。」

ナイトは道具の整理を続ける。

「そうだな。昨日のスライムのコアの狙撃を見ていなければ、それも不安要素だったかもな。」

ナイトは手を止める。

「さっきの続きを話しておこうか?」

「…ジョ○ョ?」

「いや、そっちじゃなくて、内戦の顛末の方だよ。」

黒魔術師は息を呑む。

ナイトは周囲を確認する。

「さっきはちょうど都合がいい所で話が切れた。

 あの話のすぐ後の最重要な登場人物は、当時の賢者パーティのあの4人。正確には、ノルドのパーティともうひとりの賢者のパーティ、という方が正しいだろう。本人たちがいると話しにくい所もあるしな。」


「南軍が雇い入れた真夜中のミッドナイトの働きは目覚ましかった。

正規軍ではやらない夜襲、民間人にも見境のない対人のトラップ、魔獣を放つ、焼き討ちなど何でもありの戦いは北軍に甚大な被害をもたらした。

正面衝突はしない契約だからその戦い方が普通と言えなくもない。

その場所がラガマフィンの町のど真ん中でなければ、だけどな。」

ナイトは続ける。

「今の政府の困窮の主原因となる大破壊を行ったあの連中は、雇い主の意向を確認することなく、いや、真夜中のミッドナイトのあまりの破壊行為に慌てて止めに入った雇い主を無視して北のメインクーンへの侵攻を企てた。東のまん中にあるあの山岳都市は、他の町と違って周りは山。ちょっと町を避けて横を通り抜けるということができない要衝からな。

両方向の通行に通行料を取るとかいうクズみたいなことを考えていたのだそうだ。」

「うわぁ…。」

ナイトはもう一度周囲を確認する。

「一応正当なワーカーグループだから、住民から直接略奪したり脅迫したりはしなかったから、荒稼ぎの手段としてはその位しか出来ないという面もあるけどな。

だが、奴らは今までと勝手が違うことに気づいていなかった。派手に動きすぎたせいで一挙手一投足が注目の的になっていた。

北への侵攻を目指していること、準備の内容と速度から、次の新月の夜中に夜襲をかけることがほぼ筒抜けも同然だった。

北軍も迎撃準備を進めてはいたが、手痛くやられた直後で不安があった。

そこで目には目を、とワーカー向けに仕事を発注した。内容は、敵のワーカーチームを迎撃してメインクーンの街を守ることだった。

だが、相手は当時最強のワーカーチーム真夜中のミッドナイト。依頼を受けるような命知らずなんていない…と思われた。」

ナイトはもう一度、狩人が潜伏する藪の方を確認する。

「察しの通り、うちの4人がその危険な依頼を快諾した。

4人は、リンとルーネイトが育った寺院、シャルミエール寺院に滞在していた。侵攻を受ける東のまん中のメインクーンとその北のアビシニアンとの間にある寺院だ。

戦争で巻き添えを食わないよう警護していたんだそうだ。

敵が、メインクーンを取ることしか考えていないなんて知る由も無い4人は、メインクーンが落ちれば続けて寺院もラガマフィンと同様に崩壊すると考えて守りやすい山岳都市メインクーンで迎え討つことにしたのだろう。

なにしろ敵の来る日時もルートも持ち合わせの装備はもちろん、おおよそのメンバーまで割れてたからな。

一方、相手はというと自分達の行動がおおっぴらになっていることにも、強大な敵が現れたことにも気づくことなく無計画のまま当日を迎えた。」


「その日のメインクーン周辺は雲ひとつ無い快晴で、空には星図をそのまま貼り付けたような星々が漆黒の闇の中でその隊列を乱さぬように、不安げにまたたいていた。」

「なんで急に地の文風になったの?」

ナイトは手元の小さな冊子を見せる。

「私が事件を知ったあとで書いた日記だよ。」

黒魔術師は納得する。

「ああ、日記ね。

…日記をそんな文体で書いてるの!?

ていうか日記に自分が関わってない他人の事件って書く?」

ナイトは気にすることなく話を続ける。


ラガマフィンを出発した真夜中のミッドナイトは、山道の地面が少しぬかるんだ場所、いや、何者かがわざとぬかるませた道を調子よく進んでいた。

だが、突然謎の現象に見舞われた。持参した灯りが次々と自然に壊れていったのだ。

もちろん自然になんて壊れるわけは無く、実際には矢で撃ち抜かれていたのだが視界の外の完全な暗闇から高速で飛んでくる攻撃に気づける者はいなかった。

混乱する現場にどこかから爆竹が投げ込まれる。

収拾がつかなくなった所に謎のやり取りが飛ぶ。

『ネエ、ルーネイト。クラクテゼンゼンワカンナイ。』『リン、モウジュッポホドマエニデテソコデオモイッキリフリヌケ!』『オイヤメロ、ナマエヲヨビアウナ!』

そのすぐ後、何らかの信じられないほど強い打撃が地面に放たれ、その轟音に奴らは混乱しきった。そこに誰かがあり得ない指示を出す。敵に囲まれているぞ、とりあえず目の前の相手を倒せ、とな。

 声の主が連中の外側から刀で軽く攻撃を始めるとパニックに陥った連中は同士討ちを始めた。遠くから正確に撃ち抜いてくる矢の餌食になりながら、何も見えない、味方しかいない暗闇で戦い続けた。

その結果…もうこの先は言わなくていいだろう?


ナイトは日記を閉じる。

黒魔術師は大きく伸びをする。

「さすがに疲れたね。」

ナイトは収納から別の冊子を取り出す。

「さて、ここから後半…。」

「まだあるの!?」


2人が話していると、公園に一台のリアカーが大量の箱を載せてやって来る。

先頭を歩く者がこちらに気づき歩み寄って来る。

「そこで何をしておられるのです?」

ナイトは少し間をおいて答える。

「あそこに見える支店での仕事があってね。

その一環でここを守っているのさ。」

ナイトは軽いノリで答えつつも相手からは見えないように武器に手をかける。

相手は困った顔をする。

「先ほど私が、依頼を受けた方は全員現地に赴くようお伝えしたはずですが…やはり聞いておられませんでしたか。

レジュメをお配りしたのですがね。」

ナイトはため息混じりに答える。

「そうなんだけどさ。経験の浅い者を命のやり取りがある戦場には送れないってさ。」

ナイトは黒魔術師の方を振り返る。

「テス。私たち、いや、お前がワーカーになってからどのぐらい経ったか正直に教えてあげなよ。」

黒魔術師は言われるままに答える。

「まだ一週間経ってない。」

相手は安心した様子で2人に声をかける。

「なんだ駆け出しのワーカーか。ここも戦場になりかねない。別の場所に移動することをすすめるよ。」

ナイトがすぐさま尋ねる。

「戦場?ここには誰も来ないだろう?」

相手は面倒くさそうに答える。

「ほら、盗賊が来る可能性だってあるだろう?

ここにいたら口封じに殺される…かもしれないだろう?

若手が死ぬのは気分がよくない。勇敢と無謀は違う。

これが最後の忠告だ。ここを去れ。命を失うことになっても同情はしない。」

ナイトはリアカーの荷物を眺める。

「どうせ盗賊って言っても、月夜の明星の連中だろ?中身も実力も素人の集団だ。10人ぐらい来ても恐くもなんともない。

ロクな人材がいないあたり、トップの人間の人望の無さが伺いしれるな。」

相手は語気を強める。

「月夜の明星のリーダーは仲間思いの人だ!あの人がいなければ路頭に迷っていたメンバーは数知れない。

実力だって、幹部の方はそれなりだ。

漆黒の太陽事件を生き残った元真夜中のミッドナイトの上位陣が混じっている。

10人なら余裕とか言ってたな。

こんな小さな現場には幹部は来ないが、メンバーは皆、新人ワーカーの手に負えるものじゃないぜ。

首を洗っておとなしく待っていろよ!」

そう言うと相手は足早にリアカーの所に戻りメンバーと合流するとそのままどこかへ去っていく。


黒魔術師がつぶやく。

「ほぼ隠す気なかったよね。

それにしても、もし10人も来たら大丈夫なの?」

ナイトは荷物の方を見たまま答える。

「ワーカーの収納魔法は犯罪目的には使えない。中のスタッフに断られるんだそうだ。」

「中のスタッフってあのテンション高めの天の声みたいなやつ?」

「ああ。それだ。

それは置いておくとして、とにかくあそこの荷物を運ぶためにそれなりの人数がいることは予想がついていた。

こちらに対し何らかの足止めをするだけで荷物の運搬に専念されると生け捕りや情報の聞き出しは難しいと思っていた。

我々と戦いに来てくれなきゃ困る。なんとかスタート地点には立てたな。」

黒魔術師は再度尋ねる。

「でも結構な人数だよ。大丈夫なの?」

ナイトは視線を黒魔術師の方に移す。

「さっき真夜中のミッドナイトが闇討ちを狙って逆に闇討ちされたってことを話したが、真正面からぶつかっていたら奴らの圧勝だっただろう。

魔物との戦いと違って、戦い方次第で結果は簡単にひっくり返る。

どちらかと言えばこちらが待ち構えて罠を張っている側だし、おそらく素の実力でもこちらが上回っているだろう。

たが対人戦は何が起こるか分からないから油断や手を抜くなんて選択肢は無い。さっき言った通り戦略次第で簡単に結果かひっくり返るからな。

みんなはテスをまだ前線に立たせたくないみたいだったが、私は相手が人間である以上テスの力を使わないなどという甘い手を使うことは考えていない。

どうしてもダメなら次善の策を取るが、少なくとも今は大いに戦力として期待している。

もしかしたら、嫌なことをさせることになるかもしれない。だから今の内に色々と覚悟をしておいて欲しい。」

黒魔術師は静かにうなずく。

「分かった。私も戦うよ。」


黒魔術師は気になっていたことを尋ねる。

「さっきの盗賊が言ってた『漆黒の太陽事件』って何?夜襲失敗のこと?」

ナイトは時間を確認したあと、問いに答える。

「さっき中断した話の後半に出てくる2つの歴史的事件の片割れだ。

じっくり話したい所だが、そろそろそろ敵が来てもおかしくない時間だ。簡潔に話すよ。

我々パーティに一番大きく関わる話だ。

世間にとってこの時代の2人の賢者がどのような存在か、ということに繋がる部分だ。

今後、舞台背景的な過去話はしばらく出なくなるからもうちょい頑張ってくれ。」

「う、うん…?」


なんとか南東の都市ラガマフィンに戻った真夜中のミッドナイトだったがトップ5人の内4人は戦死、ひとりは行方不明。その下の戦闘員も7割ほどが失われるというひどい有り様だった。

ー なんでカギ括弧ついてないの?

ー そりゃあ、長くなるからだよ。

生き残りの証言を聞き敵が賢者チームと知ったワーカーチームの行動は三者三様だった。

もうひとりの賢者チームは衝突を避け別行動で戦うと言い残し南西の農業都市ラガマフィンに撤退した。水虫キックボクサーのチームは日本の政治家ばりに注視とだけ言って結局何もしなかった。そして主力も司令塔も失った真夜中のミッドナイトは無謀にも敵討ちの道を選択した。

ワーカー事情に疎い南軍はちょっと強い敵が出た位の認識しかできておらず、正しい判断をする能力を失った真夜中のミッドナイトと合同で正面突破作戦にうって出ることにした。

だが南軍の兵士の多くはワーカー達の撤退を受け及び腰だった。敵のワーカーチームが優秀なことは分かっているのに無策で突っ込むなど正気の沙汰ではないからな。

怖気づく軍を鼓舞するため、大将自ら戦場に立った。それがいけなかった。

南軍のシンボルのカニの旗と真夜中のミッドナイトのシンボルのメガネザルの旗を掲げセルフ猿かに合戦となった合同軍に対するは、北軍と万全の支度を整えた賢者パーティ。

初めから結果の見えていた戦いはラガマフィンからメインクーンに向かう山道の中の一番開けた所で幕を開けた。

南の合同軍の頭上に突如として巨大な黒い大きな円が出現する。

どこぞの賢者が呼び出した黒円は次第に大きくなっていき最大まで大きくなると地表にゆっくりと着陸し今度は物凄い力で地上の物体を見境なく吸引し始めた。

漆黒の太陽の強大な力の前に、直撃を受けた人間に抗うすべは無かった。

かなり手加減はしていたのだろう。それでも身を隠す物の無い平原だ。突撃した南軍の実に3割もの人員が犠牲になった。

この大惨事を『漆黒の太陽事件』という。

人によってはリアルアトモス事件ともいう。


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[アトモス]

説明しよう!アトモスとは、ファ〇ナルファンタジー5,9などに登場するモンスターだ。

大きな口の中が亜空間に繋がるという、開発してたであろう発売数年前にちょうど連載されていたジョ〇ョの奇妙な冒険第三部のヴァニラアイスのスタンドとよく似た設定を持ち、ピンク色で吸い込み能力を持つという、開発してたであろう発売の半年ちょっと前に発売された星の〇ービィのピンクの悪魔とよく似た設定をもつという、なかなか刺激的な設定を持つ。

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北軍は敵が伏兵を残しているなどの色々な想定をしていたようだが、本当にこれで決着は着いていた。

だが、決着が着いたと分かるのは、神の視点にある者だけだった。つまり、誰もそのことを知らなかった。いや、知るすべが無かった。

重力により押し潰された中に大将がいたかどうかなんて誰にも分からないからだ。亜空間の藻屑と消えたかどうかは出陣した者のリストと生還した者のリストを照合しないと分からない。しかも生存者は散り散りで全容を把握するのは困難を極めた。

北軍もまさか敵の大将が自ら戦地に出てくるとは思っていなかった。まして大規模な魔法を使える魔法使いがいると分かっている相手に対して開けた場所で突撃してくるなど想定しろという方が無理というものだ。


調査でモタモタしている内に、もうひとつ大きなニュースが飛び込んできた。

もうひとりの賢者のパーティによって北軍の大将が討ち取られたという大ニュースだ。

もうひとりの賢者のパーティは真夜中のミッドナイトが夜襲返しで壊滅した後、南西のサイアミーズから山道を通って北に進み、誰にも気づかれることなく北西のジャンフォレストに到着し、手薄な本陣をたたいた。ノルドたちとの正面対決は避けたもののちゃんと仕事はしていたわけだ。

だが、世の中の情報を得られない山道を通ったのがまずかった。短期間に自軍の大将が討ち取られことを想定しろというのも無理があるが、山道で外界の情報を得られなかった結果起きた事件だ。もし漆黒の太陽事件を途中で知ることができていれば途中で引き返していただろう。

この事件を『本能寺の変セカンド』と呼ぶ。ちなみに、オリジナル本能寺の変はこの世界で起きた事件ではない。


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[本能寺の変]

説明しよう!本能寺の変とは、戦国時代の当時の実質的日本の国王だった人物がクーデターにより殺害された事件。事件が大きすぎて最大の被害者は巻き込まれた寺の関係者だろ、みたいな話をする者は皆無。

なんでホテルであるかのように寺に宿泊してたんだよ、という疑問が沸いた人は学校の歴史の先生に聞いてみよう。「そんなこと考えたこともなかった」みたいな答えが返ってきたら先生のいないところでこうつぶやこう。「日本の教育が心配になってきたよ」。

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ナイトは日記を閉じる。

「賢者はそれぞれの時代の大きな出来事に関わることが多いって話を覚えているか?」

黒魔術師はうなずく。

「うん、もちろん覚えているよ。」

ナイトが続けて問う。

「世にもたらす運命の善し悪しが本人の資質によらないってことも覚えているか?」

「…うん。」

「2つの事件を通じて、人々はこの時代の賢者がもたらす運命が良いものかそうでないかという問いの答えを悟った。」

黒魔術師は独り言のようにつぶやく。

「今後もそういう悪い局面に出くわすことが多いだろうから覚悟する必要があるってこと…?」

ナイトは即座に答える。

「…それは違う!」

ナイトが

少し大きな声を出したので黒魔術師は驚く。

ナイトはすぐに落ち着きを取り戻す。

「…すまない。だが、私が言いたかったのはそうじゃないんだ。

私はその悪名を覆したいと思っている。」

黒魔術師が尋ねる。

「どうやって?」

ナイトは真剣な顔で答える。

「運命がどれだけ悪いイベントを運んでこようとも、それを上回るだけのプラスの成果を上げればいい。それだけさ。

今から対峙する盗賊団は、安全第一で犯行に及ぶから、今まで末端の構成員さえ捕らえることが出来ていない。今しがた分かったことだが、役所の職員にもメンバーが紛れ込んでいるようだ。捕まえようとしても内部情報を事前にリークしているのだろう。

今日は盗賊団のメンバーを生け捕りにする絶好の機会だ。

盗賊団のメンバーを生け捕りにして芋づる式に捕まえていく。今日がその第一歩…にしてみせる。」

ナイトは改めて黒魔術師の方に向き直る。

「奴らを最低でも2人、できればもっと沢山捕まえたい。

そのために協力して欲しい。

初心者に無理なことを言っていることは承知だ。だが、数少ないチャンスなんだ。頼む!」

黒魔術師はゆっくりと目を閉じる。

「…是非もない!」

ナイトが応じる。

「言い方が古めかしいな。

まあ、いいや。我々2人…じゃなかった。3人で成し遂げようぜ。」

黒魔術師は少し首をかしげたあと周囲を見回し、視線が狩人が潜伏する藪の所にいくと、納得した様子で答える。

「そうだね。がんばろう、3人で!」

「今完全にルーネイトの存在忘れていただろ?」

「…是非もない!」

「それ使い方あっているのか?」


シーフは手に持った牌を卓の上にパチンと置くと、指を乗せたまま牌の捨て場に移動する。

「このリャンソウは通るはず…。」

卓を囲む他の3人は何その牌に対して動きを見せない。

シーフが安堵すると、賢者が山から牌を一つ取り手元に持ってくる。

「くっ、これは…。」

牌を見たまま動くを止める賢者に忍者が声をかける。

「どうした?あがってないなら早く切れよ。」

賢者は引いた牌をそのままおそるおそる牌の捨て場に置く。

賢者の指が牌から離れると白魔術師が素早く宣言する。

「そのイーピン…いただいた。」

白魔術師が自分の手持ちの牌を皆に見えるように倒す。

「ロン!」

賢者が天を仰ぐ。

「やっぱり、そうだよなー!」


遠巻きに4人を見ていたモブのワーカー2人がひそひそと話し始める。

「(おい、あの人たち何やってるんだ?)」

「(見りゃ分かるだろ。麻雀だよ。)」

「(そういうことじゃねーよ。なんで仕事が始まる直前に屋外で麻雀をやってるのかってことだよ!)」

「(知らねぇよ!そんなに気になるなら聞いて来いよ。)」

モブ2人のもとに別のワーカーが歩み寄ってくる。

「あれは賢者様のパーティだ。いつもと1人メンバーは違うようだが。2人とも見るのは初めてか?」

「ああ、あれが。」

「なるほど。確かに噂通り変わった方々のようですけど、アレは何のためにやってるんです?」

「私にも分からんが、多分ただの時間つぶしだろう。

 ただ、ひとつだけ言えるのは…。

 うまく言えないんだが、尊敬はするが憧れないってことかな。」

「同感。」

「そうですね。」

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