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4.二千翔、無双する。そして・・・。

 二千翔は立ち上がり、長い髪をかき上げると値踏みするように、神殿にいる奴らを見渡した。

 俺は、唾を飲み込んだ。


「どうなっても知らねえぞ……」


 と言いつつ、二千翔がこのふざけた状況をぶっ壊してくれることを期待していた。


「――あっしのトランスキル、『ピーピング・トム』は、他人の情報を覗き見ることができる能力でしてねぇ」


 神官長に、俺たちのトランスキルの鑑定を命じられた外村という男が前にでてきた。


「ええ、あっしは日本では前科八犯でしたよ。罪状は窃視です、はい。いわゆる覗きでして。そんなあっしが、このトランスキル、『ピーピング・トム』を授かったことはまさに僥倖。あっしは喜びに打ち震えましたねぇ。スキルを発動するだけで、衣服が透けて見えるのですから。ええ、他にも身体のサイズなども数字となって可視化できるのですよ。ああ、所持しているトランスキルまで見えてしまうのは余分でしたが……っと、いや失敬。げへへ」

「下種野郎が……!」


 何言ってんだこいつ。俺は、嫌悪感まるだしで怯えている四織と、のほほんと座っている一乃の前に、奴の視線から遮るように立つ。

 

 二千翔は――。


「おや、まずは金髪のお姉さんからですか。ほほう、これは素晴らしい。手足がスラーっとしていて、衣服のすき間からちらりと見える肌はまるで雪のように白い。さらに、過不足ないバストに、引き締まったウエスト。モデルさんでしょうか? いやあ、楽しみですねぇ。これは覗き魔冥利につきますなぁ。では――」


 いつの間にか、外村の目の前に立っていた二千翔。あまりに自然な挙動であったため騎士の奴らも出遅れたようだ。右手には、漆黒の木刀を持っている。


「死ねよ」

「へばああああぁ!」


 横なぎ一閃。外村は血反吐をまき散らしながら、壁の際まで吹っ飛んだ。


「ひえっ! ちょっ、ちか姉!」

「あらら。随分遠くまで飛んだわねぇ」


 一拍おいて、神官長が怒号を発した。


「この者を今すぐ拘束せよ!」


 二千翔に向かって、騎士たちが殺到してくる。


「おいおい、女の子相手に何人でくんだよ。ダセぇ奴らだな」


 二千翔の大立ち回りが始まった。騎士たちは、女の子相手となめているのか、少しの躊躇をみせながら二千翔に取り掛かっていく。

 馬鹿か。二千翔だぞ? 

 そういえばあいつ、前に反社の事務所に一人で乗り込んだとか言ってたな。日本刀で切られかけたとか、銃弾がかすめたとか。結局、つぶしたらしいけど。


「もっと本気でこいよな! 腰に差してるもんは飾りか?」


 次々に、黒い木刀――黒龍丸だっけ? の餌食になっていく騎士たち。焦って抜刀した騎士たちが、目の色を変えて二千翔に切りかかっていく。


「いいねえ。そうこなくっちゃな!」


 二千翔のただのペイントした木刀に対して、騎士たちの手には艶光する真剣。騎士たちの真剣が、二千翔の振るう木刀に叩き、弾かれていく。


「あわわわわわ……ち、ちか姉……!」

「頑張ってぇ、二千翔ちゃーん!」

「気を抜くな二千翔! 囲まれてるぞ!」

「わーってるって。心配すんな」


 恐怖で震えている四織の肩を抱き、二千翔の大立ち回りを見守る。神殿の床には、うめき声をあげた騎士の連中が、ざっと二十人は倒れ伏している。残った騎士たちは怖気づき、一歩が踏み出せない様子だ。二千翔の鬼神のごとき強さに完全にビビっている。


「何たることか……! 仕方ない。トランサ民どもよ、出番だ。この者を即刻、拘束せよ!」

「ト、トランサミン?」


 神官長が命じると、白いローブを着た集団から、小太りの気の弱そうな少年がおずおずと出てきた。かなり若い。俺と同じ年ぐらいか。


「あっ、ぼ、僕のトランスキルが有効かと思われ、ます。えっと、じゃあ」


 小太りの少年が、床に両手を置いた。何をする気だ!?


「二千翔、気をつけろ!」

「ああん?」


 小太りの少年の両手が、緑色の光に包まれる。


「――トランスキル、『グラスランド!』」

「ちっ、んだよこれ! 床から草が……!」


 二千翔がいる床から、突然生えてきた草。うにょうにょとまるで生き物のように、二千翔の足に絡みつき、動きを阻害してく。


「ああ、鬱陶しい! くそっ!」


 二千翔の身体全体に、草が絡みつく。

 動きを拘束された二千翔は、バランスを崩し不格好に膝をついた。


「受けるw。お姉さんみたいな陽キャが、僕みたいなクソ陰キャに負けるなんて――草草草! これは大草原不可避www!」


 こいつ。ネット上でイキって、煽り散らかしている奴だ。現実世界ではてんで大したことない奴なのに――いや、そんな奴が、現実世界でも力を持ってしまったんだ。


「良かった、ネットで煽りスキル磨いてて! 僕を笑う奴は、みんな草生やしちゃうよwww!」

「くっ、まずいな……」

「わわわっ。気持ち悪いです!」

「あん、やだ。エプロンの中に草が……」


 少年の草は、俺たちの所まで侵食してきた。まるで草の形をした鎖だ。身動き一つとれない。


「――良くやった、ニシダよ」

「あ、ありがとうございます……神官長様」


 さっきまでの威勢はどこへ行ったのか。神官長に声をかけられた少年は、背中を丸めて下がっていった。


「ソトムラよ、いつまで寝ておる。さっさとトランススキルの鑑定を始めんか」

「……へ、へい。今、すぐに」


 二千翔にぶっ飛ばされた外村が、よろよろとやってきた。生きていたか。


「はっ。なかなかしぶといな、お前」


 草の鎖に拘束されながらも、二千翔が不敵に笑う。


「このクソあま……! よくもやってくれましたねえ! 身体の隅々まで、覗いてやりやすよ!」

「トランスキルだけでよい」

「あ、いや……へい、わかりやした。――トランスキル『ピーピング・トム!』」


 ソトムラの目が、不気味に発光する。


「どれどれ…………。ふっ、ははは。神官長様、この女、スカですよスカ。なーんもなしですよ!」

「ああん? スカ? てめえはカスだろ」

「すっからかんのスカですよ! トランスキル持ちじゃありませんよ!」

「もっかい死ぬか、カス」


 どうやら二千翔は、トランスキル持ちではなかったらしい。よくわかっていない二千翔は、子供のケンカのように言い返しているが。


「他の四人はどれどれ…………。ぷっ。あはははっ! 皆さん、そろいもそろってスカじゃありませんか! 大外れもいいとこですねぇ!」


 どうやら俺たちもトランスキル持ちではなかったらしい。ああ、そうなんだ。発現率は一割だっけか。別に特別な感慨はない。正直、知らねえよって感じだ。


「今回の転移は徒労に終わったか……。やむなし」


 あからさまに落胆の表情をみせる神官長。腹立つ。


「あ、あのぉ……。私たち、家に帰してもらえるのですかね?」


 四織が、ぼそっとつぶやいた。俺たちは、トランスキル持ちではなかった。であればもう、用済みだろう。こんなわけわからんところ、一刻も早くおさらばしたい。


「――残念だが」


 俺たちをトランスキル『ザ・トランスポート』によって、この異世界に転移させた小林が言った。


「一方通行だ。お前たちを日本に帰すために、大切なリソースを割くことはできない。異世界転移には莫大な神気が必要なのだ」

「えっ、じゃあ……ここで暮らすってこと、なのか……?」

「――神官長、どういたしましょう?」

「我々にも、メンツがある。騎士団の連中が半数以上もやられたのだ。他の四人は解放してやろう。しかし、この者は――」


 神官長が二千翔を指して、暗い声で言った。


「いや、待て。待ってくれ!」


 当の二千翔は、


「はっ。だろうな。あたしでもそうする」


 笑っている。


「――殺せ」


 神官長の命令によって騎士が一人、二千翔の前にやってきた。抜刀している。


「え、やだやだ……だめ。絶対に、だめですよおおおぉ!」


 四織の悲鳴が、神殿内に反響する。


「だめよ。小林さん、止めて!」


 さすがの一乃も、焦っている。


「ふざけんな! お前らが勝手に転移させたんだろ! 俺たちは被害者だぞ!」


 俺の声も、奴らには届いていない。

 三歩は――三歩の奴、この切羽詰まった状況にもお構いなしに、寝てやがる。


「姉弟たちは解放しろよな。約束破ったら、あの世から呪ってやるぞ」

「約束する。女神に誓おう。――やれ」


 騎士の奴が、剣をふりかぶった。

 だめだ。身体に絡みつく草のせいで、動けない。

 やばい、二千翔が殺される。


「くっ、二千翔ああああぁ!」


 俺の絶叫が、空を切る。

 隣で、四つ這いの状態で拘束されている四織も震えて嗚咽をもらして――。


「ううっ。……ダメ、ダメですよ……。絶対に……絶対に!」


 熱い。四織が、熱い。


「し、四織?」


 四織の身体から、白く煌めく光があふれ出て、草の鎖がちぎれ落ちた。

 床に置いた四織の両手が、いっそう強く輝く。


「ダメですからああああぁ!」


 騎士の剣が、二千翔の首に振りおされた。


 ――瞬間。


「やめてくださいよっ!」


 騎士の剣が、突如として床からせり上がった壁に阻まれた。


「あ、あれ? 壁? 私がやったの?」


 無意識だったのか、当の四織も困惑している。

 壁に剣をはじかれた騎士は、その場で尻もちをついた。


「はっ。やるじゃん四織。助かった」

「ど、どういたしまして。私も必死で……!」


 神官長が、驚愕に目を見開いて言った。


「なんてことだ! 土壇場になって覚醒しおったか! 素晴らしい! ソトムラよ、鑑定を急げ」

「へ、へい。『ピ、ピーピンング・トム!』。…………お、おお! これはこれは、滅多におめにかかれない……! トランスキル名はっと……『Re・クリエイション』……。センチュリオンクラスのトランスキルでございますよ!」


 ソトムラが興奮気味にまくし立てる。センチュリオンクラス?

 

「なんと。女神に選ばれし者たる証左か……」


 四織が発現したトランスキルに、神官長をはじめ、白いローブを着た奴らがざわついている。俺たちはまるで蚊帳の外だ。


「おい。で、どうすんだよ。あたしの処刑は未遂の終わったわけなんだけどよ」

「そ、そうですよ! ちか姉はもう殺せませんよ! 私が阻止します!」


 そうだ。状況が大きく変わったわけではない。四織が守ってくれいるとはいえ、二千翔も俺も一乃も、ついでに三歩もいまだ草の鎖に捕らわれたままなのだ。


「ああ、それはもうよい。十分すぎるほどの収穫があったのでな」

「ああん? 収穫だと」


 神官長が、小林に言った。


「――どこか遠く……彼方の場所へでも転移させるとするか」

「……御意」


 小林が、両手を下方へ向けた。


「――この娘を除いてな」

「え。や、やめて下さい! 嫌ああああぁ!」


 どこからか、騎士の一人がやってきて四織を側方へ引っ張りこんだ。複数人で四織を取り囲み、拘束する。


「てめえ! 四織に何すんだよ、殺すぞ!」


 二千翔の怒声が、空虚に響く。

 血の気が引く。神官長は言った「この娘を除いてな」と――。


「や、やめろ! 四織は……四織はそんな立派なもんじゃないんだよ! 俺たちがいなきゃ……ダ、ダメなんだよ!」


 焦って、自分でも何言ってるのかわからない。とにかく、四織だけ残して転移するわけにはいかない!


「えっとえっと、四織ちゃんだけ残るってことかしら……?」


 一乃も、一乃なりに事の重大さに気づいている。

 俺たちが捕らわれている床に、新たな文様のサークルが浮かび上がってくる。

 動けない。何もすることができない。ただ、無様に叫ぶことしか。

 サークルの文様が一層妖しく、輝きだす。


「待ってくれ! 俺たち姉弟は一緒にいなきゃいけないんだ!」

「四織ちゃんも一緒じゃないと嫌よぉ!」

「てめえだけは絶っ対ぇ、殺す」

「……ん~。ふわあああぁ。……なんなんよ、うるさいなー」

「みんなああああぁ! ヤダよ、私だけ置いてかないでええええぇ!」


 視界が、歪んでいく。


「さらばだ。もう会うことはないが、この娘のことは我々が責任を持って預かろう」


 遠く聞こえる、神官長の声。

 重力が、失われていく。


「悪いな……。『ザ・トランスポート』」

「四織いいいいぃ!」


 小林の声が聴こえたのが最後。

 俺の意識は瞬間、ブラックアウトした。


ここまでは実質、プロローグです。

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たいへん励みになります故、是非とも!

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