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15.四織、食堂でかます。

「まったく、黒スカーフの奴らはどいつもこいつも、勝手が過ぎるっ!」

「す、すみませんでした!」


 地上に降りてきた私は、さっそく地中に埋まったフレデリク君を「Re・クリエイション」で助け出した。フレデリク君は、気を失っていたけど息はあった。虫の息たけど、とりあえず生きていた。

 その後、サイデル教官に怒られた。観客席にいたプレミアム組の生徒たちは、ほとんどがガイアス君の取り巻きだったようで、すでに闘技場を去っている。

 薄々感づいていたけど、黒いスカーフは、センチュリオンクラスの証らしい。ってことは、ガイアス君もセンチュリオンクラスってことだ。


「やはりシオリも、センチュリオンクラスの例にもれず規格外であったか……。ガイアス、マイカに加えて、シオリ。同じ学年に、三人もセンチュリオンクラスが揃ったのは前代未聞だ。王国の戦力として大いに期待するところではあるが――」


 サイデル教官の口調が、一段と激しくなる。


「まずは人としての常識を身に着けることだ! ただの模擬戦で生き埋めとはやりすぎだシオリよっ! 人の心がないのか!? お主もだ、マイカ! 毎度毎度トラブルを起こしおって!」

「す、すみませんでした!」


 腰を九十度に追って、頭を下げる。

 舞香ちゃんは――腕を組んで、私と対照的にちょっとのけぞっている。


「ガイアスの奴が悪いのよ。わたしはいつも喧嘩を吹っ掛けられる側なので。さっきのなんていきなり、四織ちゃんを殺そうとしてきたりさ。あいつ、絶対、私が止める前提でやってきたんだから。ほんと、めんどくさい男だよ。サイデル教官が止めてくれたらよかったのに」

「ガイアスの力は、私の及ぶところではない。私自身は所詮、プレミアムクラスだからな。あれほどの速度で投てきされては、防ぎようがないだろう」

「だからわたしが、止めたってだけよ」


 えっと、サイデル教官でも止められなかったってことは、それはもう無法地帯ってことじゃないのかな……?


「それゆえに、お前たちには節度ある行動を心がけるように言っておるのだ。トランサ民である前に、一人の人間として――」

「はいはい、わかりましたよー。ってゆうか教官、私たちお腹すいたのでもう行きますね。今日は合同訓練もないし、いいでしょ? それじゃあねー、バイバーイ」

「ま、まて! 話は終わっとらんぞ!」


 わあ。舞香ちゃんったらとっても強気。


「行こっ、四織ちゃん」

「え、でも……。サイデル教官に悪いし……」

「もうお昼だし、食堂に案内するよ。ここの食事、絶品よ!」

「行きますっ!」


 秒で返事した。食欲を刺激されては、拒むことはできない。


「待たんかー!」


 サイデル教官、ごめんなさい。



 昼時の食堂は、生徒たちが大勢いてとても賑わっていた。食堂は広く、体育館ぐらいはありそうだ。

食事は無料で食べられるようで、カウンターに個別で並べてある様々な料理を、各々が取っていくスタイルらしい。いわゆるバイキング形式だ。

 それはいいんだけど何か……すごく視線を感じるのですが。あからさまにヒソヒソ話もされてるし、やっぱり敵意を向けてくる人もいるし。


「あ、あの、舞香ちゃん……?」

「ん? どうしたの?」

「私たち、注目の的のようです……」

「そりゃそうよ。私たちってゆうか、四織ちゃんがね」

「なんでですか!?」

「一年生で三人目、学院全体では四人目のセンチュリオンクラスだし、きっともう広まってるよ。フレデリクを圧倒して生き埋めにしたことも」

「ふえっ!? こ、困ります……」


 センチュリオンクラスなのは仕方ないとして。フレデリク君に勝ったのはたまたま作戦がはまっただけだ。決して、実力で勝ったとは思っていない。

 ううっ。このままでは中学の時の二の舞だ。

 私の実力が独り歩きして変な尾びれまでついて過剰に期待されて、結果、期待を裏切ることになって――。


 って、だめだめっ!


 弱気になっちゃだめだ。姉弟たちと会える日まで、私は心を強く持って恥じないように生きていくんだ。

 それに何より、こんな状況でご飯を食べたらおいしく味わえない。

 ここは一発、かますべきではなかろうか。


「へ、へえー。そうなんですねー。も、もう広まっちゃったかあ、私の実力がー」

「急にどうしたの、四織ちゃん!?」

「べ、別にー? た、たださ、に、睨みつけたり隠れてヒソヒソ話するぐらいならさ――かかか、かかって、こればいいのになあ、なんて……思ったりしたり、したんですよ」


 食堂の熱が、一気に上がった。……気がする。

 怖くて、前が見れない。


「あははっ! 四織ちゃん最高っ!」

「ま、まあ、かかってきても、全員、かかか、返り討ちなんですけどねー。あははははー」

「言ったれ言ったれー!」


 言ったったー! 

 舞香ちゃんの煽りも相まって、食堂中の生徒たちが私たちに怒りを向けている。うん。隠れてコソコソ言われるよりは全然ましだ。


「貴様っ、言わせておけばっ!」


 食堂にいた男子生徒の一人が、席を立って詰め寄ってきた。うっ、怖い。でも、負けたくない。でも、やっぱり怖い。


「あんた、序列何位よ?」


 舞香ちゃんが、詰め寄ってきた生徒の彼の前に立ちふさがった。


「……っ、百八十二位だ……」

「ふっ。話にならないわね! 四織ちゃんはね、在学初日で八十位なのよ? 最低でも二桁になってから出直してきなさい。ちなみにわたしは七位ね」


 私は八十位になったらしい。


「……ちっ。わかったよ……」


 生徒の彼は、舌打ちをしながらおずおずと戻っていった。


「死んでもいいって覚悟のやる奴だけ、かかってきなさいよ? あとさ、三桁の奴はお断りだから。本当に殺しちゃったら悪いからねっ!」


 食堂が一転して、静まり返った。

 舞香ちゃん、凄すぎ。私がのせちゃったせいもあるけど。

 もう、睨みつけてくる生徒もいないし、ヒソヒソ話も聴こえない。


「やっと静かになったね! さあ、ご飯食べよっか」

「そ、そうですね。もうお腹、ペコペコです」


 静寂の中、私たちは食堂のカウンターに料理をとりにいった。

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