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紺碧のサジタリアス  作者: はちろく
5/5

緊急出港

ローゼンルシア空軍 トリグラフ隊

トリグラフ1 ジェラービナ・エブゲーニヤ


ベーリング海上空ー


「こちらAWACS、レーダーに感有り。ローゼンリア籍のMig-29が2機。」

「こちらトリグラフ1。接近するか?」

「司令部の指示を待つ。」

ローゼンルシア内で反乱が起こるのは珍しいことでは無い。

だが、空軍基地が占領されたとしたら話は別だ。

その真偽を確かめるべく派遣されたのだが今のところ何も起きていない。

ローゼンルシアとローゼンリアは同盟国ではあるが少し、いや、かなり仲が悪い。

全部ローゼンリアの前の大統領のせいである。

あまり政治には興味が無いから詳しいことは分からないが勝手にローゼンルシアの戦闘機を改造したり設計図をローゼンルシアから盗んだりと軍部に関しては黒い話しか聞かなかったのは確かだ。

ついさっき日本から連絡があったローゼンリア海軍のSu-75ライクな戦闘機のせいで軍部は慌てふためいたのに、こんなことが重なったもんでろくに連携が取れていない。

「こっちはSu-57だぞ。Mig-29なんかに怯んでどうするんです?」

「そういう訳じゃない。」

「軍部に問い合せたところで今は何も返ってきませんよ。」

「…」

「もしもし?」

「…」

「AWACSとの交信が途絶えた。」

それに合わせてデジタル計器が点滅を始める。

「トリグラフ3、ミサイル警報装置が作動した!?」

「はぁ?」

「フレア間に合わない…!」

「…!?なんでMig-29が真後ろに?なぜこっちが分かる!?トリグラフ3!」

右を向くと火を吐きながら分解していくグレーの機体が見えた。

「トリグラフ3撃墜されました。脱出は確認できません…。」

あっという間の出来事で何が起きたか分からなかった。

このSu-57がMig-29ごときに撃墜されたのだ。

だが、敵を撃墜しなければならないということだけはファイターパイロットの本能で理解した。

「畜生、トリグラフ3の敵討ちだ。Su-57を舐めるな!」

操縦桿を左に倒し一気にミグに詰め寄る。

だが、確実に動きが鈍い。

「なんだよこれ!?」

機体が安定しない上エンジン出力もまばらだ。

「トリグラフ2、4無事か?」

無線にも応答は無い。

編隊は散らばり何処に誰がいるかも分からない。

機首を下げて右へ捻り混む。

「!?」

私の機体の前を白い光が通り過ぎ、少し遅れて空を切り裂かれた。

「トリグラフ2!」

灰色のデジタル迷彩を纏ったSu-57が一瞬にして目の前から姿を消し炎と黒い煙が私の視界を遮る。

「何だよ、何なんだよ!」

勢いそのままキャノピーを殴った。

破片を吸い込んだのだろうか、火を吹き出して右エンジンが停止する。

何とか消火出来たものの戦える状態では無い。

「逃げてたまるかよ!」

私がラダーペダルを踏み込んだ瞬間、急にレーダーが復活した。

「はぁ?」

レーダー画面には私の真下にミグが写っている。

「この野郎!」

反応の鈍い操縦桿を思い切り倒して機体を反転させる。

「どう考えても居ねぇよな…。」

機体を水平に戻した瞬間、甲高い音でミサイル警報装置が作動した。

「なんでそうなるんだよ!?」

フレアを撒いて機体を降下させると、2秒も経たずして後方から爆発音が聞こえた。

「後ろにいるのは分かってんだ!」

こんな屈辱を味わわされたからには何としてでもMig-29を撃墜しなければならない。

だが、今までに経験したことがないほど全身が震えている。

空戦において撃墜される恐怖を感じたのはこれが初めてかもしれない。

だが、少しでも視界に入れば私の腕をもって撃墜出来るはずだ。

「出てこいミグ!」

エアブレーキを開き操縦桿をめいいっぱい手前に引いてマニューバを仕掛け機種を真反対に向ける。

並大抵の戦闘機じゃ出来ない、推力偏向ノズルの賜物だ。

「見えた。」

薄いの雲の中を飛んでいるMig-29が見えた。

スロットルを最大まで押し倒し、片方のエンジンに全てを任せ突き進む。

「どんな魔法を使ってんのか知らねぇけどお前らに負けることはねぇからな!」

Migとの距離は一気に縮まり、シーカーは機体を完全にロックオンした。

「くたばれ!」

ウェポンベイからほおり出されたミサイルが火を吹き出して前方のミグに突き進む。

完全に捕らえたはずだった。

「…!?」

ミサイルの挙動が奇妙だ。

やけに速度が遅い、いつもは母体を置き去りにして一瞬で視界から消えるミサイルがやけに遅い。

「不味い、追いついちまう!」

慌てて操縦桿を左に倒し何とか接触を回避した。

「気味が悪くなってきた…なんなんだよ!」

どうしようも無い状況に少泣きそうになっていた時、またミサイル警報装置が作動した。

「辞めてくれ…やめろ!まだ死にたくないんだ!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

米海軍第七艦隊巡洋艦シャイロー CIC

1等海尉 フェリシア・G・ミドウスジ



「あの、艦長?」

「どうかしたのかこんな時に。」

「さっきからこの辺りでなんか動いてるんですよ。」

CICメンバーの一人がレーダーの端を指さす。

「他国の空なんてどうだっていい。今は祖国の心配をしろ。」

いつもと違いやけに焦った様子でうろちょろするジェンキンス艦長。

「艦長、第七艦隊司令官がお呼びです。」

「なっ…。」

「相当慌ててるわね。ジェンキンスさん。」

シャーロットが呑気に紅茶を飲みながら私の腕を掴みに来た。

「艦長は自分の艦が被弾するなんて考えてなかっただろうからな。」

「司令官に何て説明するのかしらね。」

無糖の紅茶の香りが漂ってくる。

あまり好きでは無いが、この香りが無いとどこか寂しい。

ジェンキンス艦長は副官長に連れられてCICを後にした。

「外の様子でも見てこようかしら?あなたも来る?」

「え?あぁ。行くよ。」

一気に紅茶を飲み干すと自分の持ち場にカップだけ置き去りにしてCICの扉をくぐり抜けた。

前には艦長が服装を気にしながら歩いていた。

よく見ると副艦長の手を右手を手のひらでギュッと掴んでいる。よく見ると恋人繋ぎだ。

顔は見えないがちょっと萌えた。

「わ、私どうなるの??」

艦長が副艦長におどおど訊ねる。

「緊張しなくていいですよ。」

「艦を降ろされるのか?」

「それは分かりませんが…。」

産まれたての小鹿に似た様子でおろおろしている。

「やっぱり可愛いわね。艦長さん。」

シャーロットが私に耳打ちする。

普段はポーカーフェイスで何を考えているか分からない艦長だが副艦長には唯一素を見せるとがある。

そんな彼女を見ていると何故か自分に素直になれる気がするのだ。

まぁ本人は本気でガタガタなのなろうが。

ニヤニヤしながら彼女を見ていると、何か察したのかジェンキンス艦長が振り向いた。

「な、なな何で着いてきてんだ!?」

「いやぁ、我が栄光の第七艦隊を見たいなぁと思いましてね。」

「そ、それぐらいいつでも見れるだろう!」

顔を真っ赤にした彼女は目そう言って目を瞑りながら腕を無茶苦茶に振り始めた。

「落ち着いて!パトリシア!」

副長のなぐさめは虚しく振り払われてしまった。

「何も心配する必要ないのに。」

シャーロットが今までに無い優しい口調で艦長に語り掛ける。

「あなたならきっと大丈夫よ。」

全く中身が無いがいつも通りのシャーロット構文だったが、こういう時は意外とこんな言葉に助けられたりするのだ。

「え…?」

艦長の幼児退行が止まり、シャーロットの方をじっと見てきた。

「艦長のそんなとこも嫌いじゃないけどね。」

私もその場のノリで適当に呟く。

「え、えへへ。」

一目惚れしそうなジェンキンス艦長のハスキーボイスでこんなこと言われたらからには流石の副艦長も苦笑いだ。

「頑張ってね。パトリシアちゃん♪」

「うん、頑張る。」

シャーロットに引っ掛けられたら終わりだなとつくづく感じるのミドウスジであった。

私は昔から彼女とは連れてるけどガチ恋しかけたことは5、6回ある。

その度に自分が何者か分からなくなっていた。

「行くわよ、フェリシア。」

「あ、おん。」

デレデレで溶けている艦長を横目に甲板出入口へ向かう。

それにしても罪な女だ…。

最近地味な改装が入って上辺だけ綺麗になった艦内を歩いて甲板へ続くハシゴに足をかける。

結構ガタが来ていたのだがいつまで経っても改装されないせいで前の演習の時に滑り転けた。

オマケにそのせいで下に居た砲雷長を潰した。

なんやかんな骨に損傷が入ったのは生まれて初めてだった。

「転げ落ちないでね?」

シャーロットがトラウマを掘り返してくる。

「うるせぇ。こっちはまだ痛いんだからな。」

5日前にCICの仲間とアメフトやったせいで悪化したのが回復を長続きさせている。

試合に夢中で気づかなかったが昼からの任務で痛みが悪化していることに気付き医務室で寝込んでいたのは言うまでもない。

シャーロットを睨みつけようとして振り向いたが、彼女とはかなり距離が空いていてまだハシゴに手もかけていないようだった。

私が落ちると思って距離を開けているのだろう。

だが私は同じ屈辱を二度と味わいたくない。

しっかり手すりを握りしめ、とうとう最上部に手をかけた私だったのだが。

「んがあああああああ!!」

いきなり右手に激痛が走り、思わず手を離してしまった。

全身が後ろに傾いていくのが分かった。

そう、あの時と同じ感覚だ。

私は、落ちるのだ。

海軍に入ってから10年、戦闘指揮所の人間、武器を司る身として私は誰かを守れたのだろうか。

「ぎゃああああa」


着地したのだろうか、だがあまり痛くない。

体全身を温もりが包み込む。

どこからか甘い香りも漂ってきた。

そうか、ここは天国なのだ。


「だから言ったでしょう?」

「え?」

周りを伺うとどうやらシャーロットの腕の中に居たらしい。

これは俗に言う、お姫様抱っこってやつだ。

恐る恐る彼女の顔に視線をやる。

キリっとしているがどこか甘々しい瞳。

よく幼いと言われる私と違ってオトナな顔つきだ。

「あら、上目遣い?私に媚び売っても無駄よ?」

そう言っていたずらな笑みを浮かべる。

次第に頬が熱くなっていることに気づいた。

「なんだよこの色気…。」

小声で呟いたのだがそんな自分が段々恥ずかしくなってくる。

「大丈夫か?」

彼女から目を逸らして下を向いていると上から誰かの声がした。

そうだ、私は指を踏まれてこんな始末になったのだ。

「悪い、怪我は無い?」

少し訛った英語にどこかで見た事のある風防。

「確かお前…?」

ピンと来た、ついさっき救助されたローゼンリア空軍のパイロットだ。

「出てきて大丈夫なのかよあんた? 」

「意識が戻ったんだが誰も居なくてな。礼を言うにも言えないから艦内を歩いてたんだ。」

やけに呑気そうだが記憶はあるのだろうか。

「あれだけの爆発で怪我はないのか?」

「生まれつき運が良くてね。」

少し自慢げに彼女が笑う。

運の問題ではない気がするが…。

「降ろして、シャーロット。」

「はぁい。」

彼女はそう言って私を優しい手つきで腕から降ろし、

私の身体をそっと抱き寄せて私の顔を至近距離でじっと見つめてきた。

後ろに下がろうとするが、動くに動けない。

女性らしい柔らかな右手で頬を軽く触られた。

「ふふ。」

彼女の微笑みに体全身が敏感になってしまった。

「わ、私はそういう趣味じゃない!」

彼女をどうにかして両手で振り払った。

年は同じなのにまるで私が妹みたいだ。

ローゼンリアの彼女の様子を確かめるべく私は再びはしごに足をかける。

「私のこと、助けてくれてアリガトね。」

真ん中まで登った私に手を差し伸べ、そっと微笑むローゼンリアの彼女。

個人的にあまり東側の人達に良い印象は持っていないが、どうやら良さげな人だ。

彼女の体重に体を任せて、ハシゴをよじ登る。

「まぁ、ローゼンリア人でも海で溺れてたら海軍として助けない訳には行かないからな。」

「アメリア人にもいい人は居るんだね。」

「そこまで冷徹な機械人間じゃねえぜ。」

彼女が差し出した手をギュッと握りしめる。

「だけどよ、勝手にうろちょろするのはスパイ行為だぜ。バレないうちに早く戻ろう。」

「タイコンデロガの情報なんて当局に掃いて捨てるほどありますよ。」

「だろうと思った。」

下手したら軍法会議になりそうな会話を交えながら笑っているとシャーロットが続けてハシゴを登ってきた。

「楽しそうで何よりだけど、これはルールだから悪いけど戻ってくれないかしら?」

「あ、ごめんね。すぐ戻るから。」

気まずそうな顔をしながらシャーロットの昇ってきたハシゴに足をかける彼女。

「私がついて行くわ。あなたは意識が回復したことを艦長に伝えてきて頂戴。」

「え、あぁ。わかった。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

125航空隊 AlphaEAGLE Alpha1 雅弥かえで


今何が起きているのかさっぱり分からへん。

ウチが考えてたのは酒の肴を何にするかっちゅーことだけで戦争のことなんか愚か軍人であることすら忘れとった。

あの後やけに神妙なめーりんに連れてこられて司令官室までやってきた。

「そ、そそそそれは大変やな。どなえすればええやろか?」

この関西弁がキツイのがこの基地のトップや。

冴えない顔と冴えない髪型と冴えない喋り方、はっきり言うと副官の方が頑張っているように感じる。

だが彼女の関西弁とおろおろした喋り方は昔の自分を見ているようで好きや。まぁ彼女の方が10年上やけどな。

「ですから、早く参謀に連絡をお願いします。」

「やけど、そんなん嘘とちゃうんか?第1にそこにアクセスすること自体ええことなんか?」

「じゃあ何ですか??ミサイルが飛んできて滑走路がベコベコになって私たちはパイロットとしての意味を果たすことなく死ねって言うんですか??」

次第に

「考えすぎとちゃうんか…? 」

「とにかく連絡しやがれ!!ぶっ殺すぞ!!」

彼女は持っていたパソコンを壊れない程度に机に叩きつけ基地司令を脅した。

めーりんを怒らせると怖いのは私も知っとる。

昔アメリカ軍元コマンドー部隊の奴を素手でKOしたことは基地内で有名や。

まぁ司令官のこの態度には当然のことやろか。

「わ、わわ分かったよ、電話するよ。」

超不安そうな顔で震えながら受話器を手に取る彼女。

「…ん、もしもし…?伊丹の萱島成美やけど、なんかローゼンリアの方で大変なことになってはるとか…。え、えぇと、隊員さんが情報を入手したとか言うとります。」

しばらく間を開けて凛々しい声が聞こえてきた。

『あぁ、私も耳に挟んでいた。その件については米軍が管轄していて第七艦隊を派遣しているらしい。確かでは無いがな。向こうは日本に関与して欲しく無さそうなんだ。』

「そ、そうですか…。それじゃあ…。」

「你在做什麼?等一下!!」

強烈な口調で母国語を吐いためーりん。

司令官は唖然として電話機を持ったまま硬直してしまった。

いつもの何も喋らないおしとやかな彼女だが、こうもなればただ事では済まへん。

めーりんは受話器を奪い取りさっきの大声とは全く異なるいつもの冷静沈着な声で話した。

「152航空隊の楊美鈴です。萱島司令に変わってお話します。情報の確証を得るため、先程アメリア国防総省のデータセンターに侵入しました。」

しれっと恐ろしいことを言っためーりん。

「既に米艦隊に被害が及んでいるそうです。横須賀港を母校とするアメリア海軍イージス艦シャイローがローゼンリア空軍機に攻撃を受けたそうです。これを受けアメリア海軍第七艦隊が全艦当該海域に派遣されました。ローゼンルシアの国防省の友人に聞いた限りですが、太平洋艦隊にも動きがあるそうです。何より大事なことはテロを起こした集団が前大統領の残党です。日本が動かないわけにいきません。」

いつの間にそんな情報を得たのだろうかというような情報をいつの間にかかき集めてくる彼女。

めーりんの様子に呆気に取られていたのだろうか参謀の彼女はしばらく遅れて返事をした。

「分かった、こちらから米軍に問い合わせよう。」

「それだけでは跳ね返されます。アメリアは先の戦争で大国としての威厳を失いつつあります。なんとしてでもアメリアは単独で阻止しようと考えているでしょう。」

「遠征打撃軍の演習を早める。明日の早朝、4時に出港させよう。伊丹基地は艦載機を全てずいほうに戻すように行動してくれ。演習であればアメリアも関われないだろう。」

「ちょっと電話を貸してくれへんか。」

基地司令が悪そうに受話器を受け取る。

「ずいほう航空隊なんですが、今日配属されてまだ1度も出撃したことのないような隊員もおりまして…。」

「これは演習だ。演習はそのためにあるのだろう?」

「やけれども…。」

「彼女達ならやってくれますよ。」

参謀の彼女はそう言って電話を切った。

何か確証でもあるのだろうか…?

「そこの若いの、ずいほうの航空隊か?」

基地司令が部屋の隅であたふたしている奏羽とチームメイトの子に声を掛けた。

「は、はい。」

「なら話は早い、他のみんなに指示を出してくれ!それとかえではん、あんたらAlphaEAGLE隊って言ったやんな?」

急に基地司令が燃え始めた。

「はい。」

「今から4機でスクランブル発進や。領空をしっかり守ってくるんやぞ!」

「え?で、でも。」

「攻められてからやと遅いんや!はよせい!」

「は、はっ!」


伊丹基地14R滑走路ー


『Hold short of runway.』

一応管制官は居るが、かなり簡略化されとる。

「全員体調は万全やな?」

私は一応隊長やから周りのことを気遣うのは癖や。

「問題ありません。」

めーりんはいつも通り最速のレスポンスを発揮する。

「ねむぃよ…。」

満瑠は午前の疲れからかやけに眠そうだ。

「ん?えぇと、あぁ大丈夫。」

続けてユキミが呑気に返事する。

結構寝ぼけているが昼もぼけているから問題ないだろう。

私に続いて全員1列に並んで滑走路進入許可を待つ。

「夜間出撃なんて久々ですね。」

「満瑠、身体は異変ないのか?」

「ねむい。」

「ドラッグシュートで飛び出てその日の夜には戦闘機を飛ばせるパイロットなんて満瑠しかいねぇよ。」

なんやかんやこれが1番好きな時間だ。

「F-16の調子は良さそうですか?」

「うん。ばっちり。」

満瑠のF-15は海面でぐちゃぐちゃになったことにより稼働可能なF-15が伊丹に居なくなったのでめーりんが趣味で弄ったF-16を編成に組み込んだ。

「F-15に着いてこれるのかよ?」

「まぁ見ててくださいよ。」

めーりんが自信満々に言う。

「ファイティングファルコンはあんまり得意じゃないんだけどな…。」

やけに満瑠は不安そうだ。

「美鈴カスタムや、安心せい!」

『Runway is clear』

管制の離陸許可が降りた。

滑走路に4機交互に並び最終確認を行う。

「OK?」

「いけるぞ。」

「行きましょう。」

「行けるかな…?」

スロットルを最大まで押し込んでブレーキを解除した。

アフターバーナーの音が宵闇を切り裂く。

一気に機体は加速しあっという間に離陸可能速度に辿り着いた。

F-15のエンジン推力は単純計算F-16の2倍や。

めーりんはそれを補えるカスタマイズをしたのだと言うら驚きだやな。

直ぐに2番機3番機とウチの後にひっついて飛んでくる。

「満瑠はどうや?Alpha3。」

「ピッタリくっついてきてますよ。」

「これやばいです私の知ってるファイティングファルコンじゃありません!!」

後ろの様子は分からないが、満瑠の動揺から見てめーりんがおぞましいものを作ったのだと悟った。

「何でイーグルに着いてこれんだ?」

「ハヤブサが鷹より速いのは当然です。」

と、自慢げな声で返事をするめーりんだが一体どんなトリックを使ったやろうか。

「何をしたんや?めーりん?」

「先の戦争で墜落して粉々になったF-35からエンジンだけ引き抜いてきました。一発でF-15以上の出力が出ます。」

「それってありなのかよ?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

自室に向かう道に着いて走っていると、昼過ぎのロビーで見かけた人が何人か忙しそうに通り過ぎて行った。

いつずいほうが大阪湾に帰れるか分からないから私達も乗せる方針になったらしい。

流石に着艦、ましては夜間となると私達に操縦桿を握らせてはくれないようだ。

私は自室の扉のドアノブを握り、勢いよく開けた。

「みんな…!」

「何やってたんだよ奏羽?召集がかかってる。行くぞ!」

蓮巳が私にキツめの口調で言う。

初日にルームメイトとご飯を食べてなかったりと散々なことしておいたから当然私に怒っているのだろう。

「ごめんね…。」

「何謝ってんだよ?」

「その、わ、私一人だけ別行動しちゃって…。」

「他に友達が出来たんだろ?いい事じゃない。桂川ちゃんとも仲良くなれたの?」

少し困った顔をしていた彼女だったが、いつの間にか優しく私に微笑みかけてくれていた。

「え?ま、まぁ。」

「なら良かった。ほら急げ。」

「う、うん。」

私達4人は私を先頭に部屋を飛び出して正面玄関まで向かった。

「一体何が起きたっていうんスかね?」

「明日の午前4時にずいほうが出港するからそれに乗るの。」

「本当なのか?」

「えぇ。」

「誰から聞いた?」

「参謀本部です。」

「えぇ?」

ロビーに着くと既にずいほう隊のメンバーがほぼ集まっていた。

エナドリをストローで飲んでいる桂川の姿もある。

「あ、桂川ちゃんじゃん。」

蓮巳がやけに桂川に興味を示している。

「え?あ、あのさっきの。」

「私、高槻蓮巳。よろしくな!」

蓮巳が気さくに話しかけるも桂川は彼女を睨みつけ怪訝そうな声を吐いた。

「人に性格悪いとか言っておいてその態度なんなの。おかしくない?」

「悪かったって気にすんなよぉー。」

やはり性根は桂川だ。腐ってる。

「桂川。」

私が彼女に声をかける。何かいじってやりたくなった。

「っ…、何だよ。」

「好きだよ。ほたるちゃん。」

「なあっ!!」

顔をオーバーヒートさせながらジタバタする彼女。

蓮巳も反応に困っていた。

そんな可愛らしい様子を見ていると昼間とは全く様子の違う隊長がやってきた。

髪はボサボサで大きな目も殆ど空いていない。

何より着こなしが無茶苦茶だ。

「今から寝ようとしたとこなのに…。もぉ。」

「何があったのか説明しろ。」

朱音さんの声がした。

「先にその煙草消しなさいよ。」

「眠気覚ましにはちょうどいいだろ?」

「チッ、まぁ説明するとねー、今から船乗るよ。船。だからベテランの皆さんは艦載機までF-3を運んでねー。 入隊したばっかの人はバスで移動するからその間にでも寝ててね。」

そう言うと直ぐに大きな欠伸をした。

「船って、何に乗るんです?」

桂川の隣に居たピンク髪の女の子が隊長に問いかける。

「え?ずいほうに決まってるじゃん。簡単に言うとね、演習を早めて今からやるってことよだよー。」

「まじで!?」

それを聞いてピンク髪の人は嬉しそうに跳ねた。

なかなか良いビジュアルしてやがる。

その横で桂川は微笑しながら髪を解いている。

桂川がナルシストなのは結構有名だ。

どんな時もくしで髪をいじるのが一番かわいいと思っているらしい。

見てて心地悪い。

「まさか本当だったとはな。」

蓮巳が率直に驚いていた。

「へへ。」

「バスで一日何に費やしてたか聞かせてくれよ?」

「どうかな?」

新隊員のみんなは笑顔でわいわい騒いでいる。

すごく楽しそうで兵学校での何気ない日々を思い出させる。

思わず私も笑顔になった。

「おい、夙川!」

だが水を刺すやつがどの界隈にも居るのは確かだ。

「すすす好きだよって何なのさっきの!」

デレデレな彼女だが私はもうシナリオを考えている。

「分からないの?」

「えっーと、そそそれは可愛いってことか?」

少し浮かれているようで制裁が必要だ。

「な訳あるかバーカ。自分のことどんなけ可愛いとおもってんだこの昆虫。」

瞬時に場が凍りついて桂川は言葉を失った。

「おい、マズいんじゃないか?」

蓮巳が心配そうに呟く。

確かに硬直したまま喋らなくなった。

「おーい、桂川?」

しばらく様子を見ていると、彼女は急に涙を流し始めた。

「え、ええええ?ちょ、ちょっと!」

「やりすぎたんじゃねぇの。まぁこいつにはこれぐらい言っといた方がいいのかもな。」

蓮巳が天を仰いでそう言った。

「すきだよっ…てい…てくれ…じゃ…。」

「ごめんごめん。あまりにもあんたのこと見てたら腹立ってきて。」

「フォローになってないっス。」

ルームメイトのほか2人も周りに詰め寄ってきた。

「どうしたのーはやくバスに乗ったのったー。」

不味いことに隊長さんまで来た。

泣かせたなんて思われたら私の評価は桂川以下になる。

「どうしたの泣いてんの?」

隊長の呼びかけにも桂川は応じない。

「早く乗ってちょーだい、ほらほら。」

彼女は桂川の腕を掴みバスまで引きずっていった。

「まぁ、行こうぜ。」

この場にいてもどうにもならないので仕方なくみんなでそれに着いて行った。

玄関から出ると古めのマイクロバスが止まっていた。

隊長が桂川を空いていた後ろ寄りの2人がけ席の奥に置いた。

「責任取って仲直りしてこいよ。」

蓮巳にそう言われてしまった。

「えぇ…。」

「早めに仲直りしたほうがいいですよ…。」

未來さんにまで言われてしまった。

「わ、分かりました…。」

仕方なく桂川のところまで歩いていった。

おそるおそる桂川を覗き込むと死んだ目で窓にもたれかかっていた。

まったく生きようとする努力が感じられない様子だ。

「あのさ…さっきのは冗談だからね?ほたるちゃんは可愛いよ?ね?」

どうせ何も帰ってこないと思っていたのだが。

「え?そうなの?」

予想外にも枯れた声で返事が返ってきた。

バスで寝ようと思っていたが、これはどうやら寝れなくなりそうだ。

面倒なやつに面倒なこと言ったのがいけなかった。


走行中バス内ー

バスは伊丹を発車して高速道路を走る。

昔は旅行者で賑わっていたこの道路だが、あちらこちらで破壊されておりどうにか軍基地から港まで繋がっている状態だ。

舗装状況も悪く気まずそうな顔をする桂川と一緒に揺れている。

「桂川ちゃんはどこ出身なの?」

「京都。この辺りは昔旅行帰りとかによく使ってた。」

「へぇ。」

まばらな明かりがうっすらと夜道を照らしている。

どうやら隊長が運転しているようだ。

かなりのハードワークだ。

「食べる?」

桂川は懐から取り出したキットカットを半分に割って私に差し出した。

「くれるの?」

「キットカットは人と分けてなんぼだからね。」

そんなことはないと思うがその場の空気に流されて私は頷いた。

彼女の体温で少し解けているがそれなりに美味しかった。

「私、お母さんに可愛い可愛いって言って育てられたから言ってもらえるとすごく懐かしい気分になるんだよね…。」

桂川が今までに無いようなおっとりしたトーンで言う。

「ホームシックっていうか…まぁ実家は京都なんだけどさ。友達も居ないし。誰かに可愛いって言ってもらいたくて。」

桂川の思わせぶりな態度にはそんな裏があったなんて初めて聞いた。

なんていうか情けないやつだけども憎めないやつだ。

「だから、夙川に可愛いって言ってもらえて良かった。」

「なんかごめんね。本当に…。」

「いやいや、馬鹿なのは私だから…。」

否めない。なんて返せばいいか分からない。

「うーん。そうだね。」

「…え?あ、えーと。うん…、馬鹿だよ私。」

そう言って俯いてしまった。

「ごめん…。」

それっきり港に着くまで彼女が顔を上げることは無かった。

「うぅ。」

「どーしたの?君?元気なさそうだね?」

急に左肩を刺激されたと思うと、ロビーに居たピンク髪の彼女だった。

「あっ、えーと。そんなことないっすよ。」

「えー?なんかドヨーンって感じだよ?ほーら、もっと元気よく!」

面倒な奴に捕まった。

「それを言うならこの隣のヤツに言ってくれ。」

「隣?あぁ、ほたるちゃんのこと?」

どうやら彼女を知っているらしい。

「知ってるの?」

「ルームメイトだからね。」

さっき隣に居たのはそういう経緯だったのか。

「名前はなんていうの?」

「私?逆瀬川鶯だよ。」

「さかさかわ?」

「せかせがわだよ。」

「う、うう、うる?」

「うぐいす!鳥の鶯だよ!」

逆瀬川鶯。なかなかな豪華な名前だ。

「君は?名前なんて言うの?」

「夙川奏羽、奏でるに羽根の羽だよ。」

「しゅくがわってさくら夙川駅の?」

「そうだよ。」

「そうなんだ!学生の時あそこから通ってたんだー。」

「へぇー、兵庫出身?」

「うん。君は?」

「私は大阪だよ。」

「そうなんだ。」

すごく気さくな女の子で、軍人だとは想像もつかない。

「今日からよろしくね!」

「こちらこそよろしく。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

大阪港南港ー


あれからどれだけ走っただろうか。

ウグイスちゃんとたわいのない話をずっとしていた。

ここが大阪南港だと隊長は言うのだがかつての面影は無く物騒なゴツゴツした船が沢山いる。

今となってはアメリアと同等の数のイージスを保有する日本。

その数確か75隻。

アメリアのお下がりが大半だが、その汎用性の高さを買われ全国に満遍なく配備されている。

バスから降りると暴風警報並の風が私を襲った。

「げ…。」

港の夜風はこれでもかというほど冷たい。

早く艦に乗りたい次第だ。

「すげぇ…。」

「やっぱり生で見ると迫力あるっスねー。」

先に降りていた2人が何やら上を見上げて何やら言っている。

「うわぁ…。」

どうやらこれが日本を代表する強襲揚陸艦「ずいほう」である。

昔アメリア空母を生で見たことはあるが、それに十分匹敵する大きさだ。

高すぎて甲板上は見えないが、恐らくカタパルトが真っ直ぐ堂々と通っているのだろう。

「全員降りたかな?」

まだ眠そうな隊長、あの調子でよくここまで運転できたものだ。

「じゃあ着いてきて~、多分艦長とかはもう入ってんじゃないかな?案内することが多いからね。早くおいで~子猫ちゃんたち~。」

「子猫ちゃんだって。そんなに可愛いかな私達。」

ウグイスちゃんが嬉しそうにぴょんぴょんする横で桂川は未だにどんよりしている。

絶対キットカットあげなきゃ良かったって思ってる顔だ。

ずいほうに呆気にとられて気づかなかったが、周りにいるイージス艦達もなかなかの代物だ。

ズイズイの後ろに張り付いているのは先の有事で最多撃沈数を記録した海自時代からのスーパーイージス艦「はぐろ」だ。

はぐろと大きく書かれた横断幕の掛かったタラップの

下で何やら偉そうな服を着た人が誰かと話している。

「艦長、早朝予定していた兵装の搭載が間に合いません。」

「お願い、間に合わせて!」

「ですが…。」

「そこを何とか、ね?」

どうやら彼女ははぐろの艦長のようだ。

緊急出港ということもあってか港はやけにジタバタしておりさっきからビュンビュントラックが走っている。

忙しいのは隊員だけじゃ無いんだなとつくづく思う。

「行くぞ、奏羽。」

蓮巳に押され私は艦内へと続くタラップに足を踏み入れた。

隊長があのザマなので意識することは無かったが今回の乗船は今までの社会見学とは違い、1人の戦闘員として命を懸けているのだ。

生半可な気持ちで乗艦とか言っているがこれで良いのだろうか。

演習は太平洋で長期に及んで行われる。

出航日には父が見送ってくれる予定だったけど、こうもなれば別だ。

そう考えた瞬間知らず知らずの内に涙腺が緩んだ。

昔からホームシックに陥りやすい私、艦内での生活が容易に想像できる。

みんなと上手くやって行けるだろうか。

そんな初歩的な疑問が浮き彫りになってくる。

少し歩調が遅くなる。

揺れる海面を見ながら胸を詰まらせているといつの間にか灰色のガッシリした地面に変わっていた。

頼りがいのある鋼鉄の船体が不安を少し和らげてくれた気がする。

こいつに乗ってたら沈むことは無い。

どこにも確証は無いがそう思えるのだった。

「ずいほう、乗艦だな。」

蓮見が誇らしげに私に話し掛ける。

私は軽く会釈して艦内に目をやった。

一言で言うとバカ広い。

旧世代の駆逐艦、いわゆる護衛艦と呼ばれていた部類の艦艇に比べると約2倍の通路幅だ。

操作システムの改良などが重なりかなり余裕が出来たということは聞いていたがこれならストレスなく過ごせそうだ。

「中は結構広いんだね。」

桂川がどこから取り出したのか分からない1Lの牛乳パックにストローを突き刺して咥えながら喋る。

「これから簡単に案内するからちゃんと覚えるんだぞ~。」

隊長が先導しそれに続く形で艦内を歩いていく。

綺麗な艦内というだけでかなりテンションが上がる。

不安要素は残るものの意外と楽しみかもしれない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

アメリア第7艦隊ミサイル巡洋艦シャイロー艦長

パトリシア・V・ジェンキンス


私の生まれはアメリアの片田舎だった。

両親はそこそこ有力な農家でかなり恵まれた生活をしていた。

そのまま事が順調に進んでいたら私は今頃あの田舎ででかいトラクターを転がしていたことだろう。

私の運命を変えるあの小さな海軍分遣隊の基地に行ったのは10歳の時だった。

オリバーハザードペリー級フリゲートが寄港してそれを父に見せに連れていってもらった。

当時は艦船に関しては全くの無知だったのでフリゲート艦にも感動したものだ。

初めて見るもの尽くしですごく興奮したのを覚えている。

その日は朝から夕方までフェンスにしがみついて舐めまわすように船体を見ていた。

1週間後に港を出ていくまで毎日そこに通い続けた。

そしてとうとう最後の日になった。

昼過ぎに港に向かい、今までと同じポジションで船を眺めていた。

そんな時、急に肩を誰かに触られ声をかけられたのだった。

振り向くと、そこには白い制服を着たお姉さんが立っていた。

そう、フリゲートの艦長さんだった。

最初は怒られるのかなとか思っていたのだが、毎日見に来ていた私のことを思って艦内に入れてくれることになった。

海軍軍人という存在に惚れてしまったのはその時だった。


「パトリシア?大丈夫?」

「え?」

私が過去の感傷に浸っていると副艦長のアディソンが話しかけに来た。

フルネームはガルシア・S・アディソン。

短髪だけど左前髪だけ長い白髪碧眼の彼女。

中性的な性格で声は私に似ている。

だが私のように臆病になったりすることは無く立派で欠点の無いオトナだ。

「CICの子たちの対処は適切だったと思うわ。心配することないですよ。」

正直私はシャイローのCICの人間が苦手だ。

どちらかと言うと固めの艦橋と噛み合わないことが多く、お祭り騒ぎのCICはあまり気に入らない。

「まぁそうだよね。」

「まだCICの子たちが慣れないの?」

アディソンが神妙な顔で私に聞く。

「そんなこと…。」

「その様子じゃダメみたいね。」

どこか情けなそうな表情を交えて私の顔を覗き込む彼女。

「私はいい船だと思うけどね。シャイロー。」

いつもの優しい声で私に語りかける。

「あなたも昔みたいに心開いていい頃なんじゃない?」

アディソンの言う昔は彼女の母が知る昔だ。

彼女とは幼なじみでもなんでもない。

この艦に配属されてから出会っただけだ。

そう、彼女の母は私が一目惚れしたフリゲートの艦長だ。


ヘリ甲板に続く道を特に何も言わずに歩く。

「甲板は無事なようですからご安心を。」

アディソンが急に呟く。

確かに後部のレーダーが全損したと聞いた。

アーレイ・バークと違いタイコンデロガはバラバラな場所にレーダーがあり左弦と後部は格納庫の上にある。

みんな大好きSH-60はその中だ。

「ヘリは無事ですが、1つ問題がありまして。」

気まずそうにアディソンがドアノブに手を掛ける。

格納庫へ繋がる扉を開くと一気に光が差し込み、元気そうな白い機体が見えた。

シーホークはいつも通りピカピカだ。

さっきもローゼンリアパイロットを救出していた。

彼女の言う問題とは何なのだろうか。

「ヘリパイロットのグロリアさん達がさっきの衝撃で頭をごっつんしてしまいまして医務室に運ばれていきまして。命に別状は無いらしいですが。」

「つまりそれって…。」

前も同じことがあり、かなり嫌な予感がした。

この艦に居るヘリパイロット、そうミドウスジだ。

「艦長?」

後ろから聞き覚えのある声がした。

「丁度いいところに来てくれましたね。」

「いたいた、艦長!目覚ましましたよ。パイロットの彼女。」

来てしまった。ミドウスジだ。

やけに息を荒くしている。

「本当なの?」

アディソンが目を細めて聞く。

「何が目的で嘘つくんだよ。」

「分かりました。艦隊司令に連絡します。」

ミドウスジのヘリに乗せられることでいっぱいで気づかなかったが、異常に屈強なパイロットだ。

第1あんな爆発の仕方して生きているのがおかしい。

それに30分ほどで意識が戻るとかロゼーンリアバイアスが行き過ぎてる。

「本当なのか、ミドウスジ。」

念の為聞いてみる。

「本当だよ。まぁ、こればっかりは疑われても仕方ないわ。」

どうやら彼女も信じ難い様子だ。

「今はパーキンソンが付き添ってますから安心してください。」

「お、おう。」

パーキンソンはそれなりに真面目なやつだと思っているが自分のことをなんだと思っているのか知らないが恐ろしく立派な色気で関わるのがしんどいという印象だ。

さっき絡まれた時も我ながら少し焦った。

「艦長!」

アディソンが連絡を終え帰ってきた。

「司令官直々こちらまで来るそうです。」

ひとまず安心だ。

これでミドウスジのヘリに乗らずに済む。

だが、そんなことで安心している場合では無い。

ローゼンリアのパイロットの元へ今すぐ向かわなくては。

私の艦と乗組員を傷付けたのは誰であろうと許さない。

世界を治める大国の軍隊としてローゼンリアの闇を暴き悪事を一刻も早く止める。

それがシャイローと第七艦隊の存在意義だ。


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