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紺碧のサジタリアス  作者: はちろく
3/5

反転の灯火

公共株式会社Rosenria・company

新興企業であるものの、ローゼンリア連邦がローレンルシアから独立する際に裏ルートから手にしたローゼンリア連邦大手企業スホーイ設計局の設計図を入手し流用している。

今まで確認された機体としてはSu-35のパチモンであるRoz-35s。

Su-35に限り無く近しいがなんかコレジャナイ感が凄かったりするがミサイル搭載数やステルス性が向上しているらしい。

元スホーイ勤務の研究所を高額で雇用しているという噂もあったりだがその多くは謎に包まれている。

多くの国がこれを警戒し、新しい噂が生まれる度に各兵器メーカーが対抗機種の開発を煽られる羽目になる厄介な存在だ。


「なんやこの航空巡洋艦ていうのは。」


「航空機も運用できる上、攻撃、防衛面でも巡洋艦程の性能を発揮する船です。」

かえでの疑問に美鈴がテキパキと答える。

「でこの写真に写っとる黒い点みたいなんがRoz-57なんか?えらいショボそうやな。」

現像された満瑠の撮った写真を眺める。

「そんなことないってば!普通にしょうかくほど大きかったし…。」

「そしたら何でわざわざ垂直着陸なんや?」

「多分武装の加減で甲板面積が小さいんじゃないか。ローレンルシアのキエフ級とかもそうだろ。」

負けじと私も話に入り込んでいこうとマニアックな知識を叩き込む。

「そんな重武装なんかいそれって。」

「この写真では武装は確認できませんね。」

副官がメガネのフレームを弄りながら答える。

昔からの癖でこの時は5のうち3.8程焦っている。

「ていうか、哨戒機からの写真は無いのかよ。」

今まで気になっていた疑問をぶつける。

「それが、定点カメラがミサイルの衝撃波で壊れてしまったようです…。どうにか中身だけ取り出せないか努めています。」

「可能なら私の方にも回してくださいできる限りの事はやってみます。」

美鈴も引き続きパソコンの資料を整理しているようだ。

「了解しました。解析班に連絡しておきます。」

伊丹基地副長官の彼女、沢良宜一稀さわらぎ いつきは実のところ私の兵学校からの仲。

同じ年齢にして全く同じ時期に入隊したのだが、いつの間にか彼女は副長官になんかなっていた。

理由に関しては言わずとも完璧な性格に桁外れの戦略を持っている。

まぁ私がサボりすぎたって言う方が大きい。

実際のところ今までAlphaEAGLE隊ってのは新入りの他には問題児しかいない。

その新入りも問題児ではあるが。

半分懲罰部隊みたいな感じもある。

フリゲート艦潰しとその連れと、P1インメルマンターン滑走路スモーク撒きやら頭のネジがベイルアウトした奴ばっかりだ。

でもとびきりの腕の持ち主が多い傾向で訓練ではよくF15JAでF35等第5世代戦闘機を余裕で撃墜している。

陰では"音速の奇行士"という異名で通っているとかいないとか。

「んにしても、いつの情報なんや?それって。」

「最初に掲載されたのが5か月前です。」

「それならまだ開発段階やろ?流石にな…。」

「設計図が5か月前に流出したとは限りませんよ。」

なぎやんが軽く舌打ちして頭を抱える。

なぎやんとは渚かえでのことで、喧嘩する前までは1番近くに居た彼女に私が初めてつけたあだ名。

向こうは普通に接してくれてるのに、こっちだけやけにつんつんしてしまって情けない。

出来るなら、昔の私に戻りたい。

出来るならね…。

「とりあえず情報を整理しなければなりません、対策本部を設立することが先程決まりました。編成を行うので皆さんはしばらく待機をお願いします。」

「分かった。ほな、しばらく休んでくるで。」

そう言い捨てて部屋を出ていったなぎやんに着いて部屋を出ていく。

そういえば奏羽ちゃんはもう帰ったのかな。

食道を出てから帰ったのだろうか、彼女の姿はどこにも無かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

152ずいほう航空隊 ”愛称未定” 夙川奏羽


ヤバい。完全に忘れてた。

コンビニでみんなの分の飲み物やらを買ってくるのを約束したのだ。

入隊早々色々ありすぎて凄く混乱している。

そういえば、ユキミさんたちは中央解析センターに行ったきりだ。

どうなっているのだろうか。

何を買えばいいか忘れたもので適当に買ったいちごパフェやら何やらを持ってそっと自室の部屋を空けて中を覗いた。

「あぁ!ズルいって!!」

「戦争でも同じことは言えませんよぉ!!」

やけに楽しそうな声が聞こえてきた。

テレビに映っているのはファイティングコンバットというテレビゲームだ。

昔流行った戦闘機のゲームだが、なかなかクオリティが高く本場のパイロットの間でも親しまれているらしい。

「…!あ、奏羽!お前何してたんだ!?」

蓮巳が若干キレ気味で私のもとへ駆け寄ってきた。

「い、いやそのぉ、道に迷って…?」

「なんだよ、心配させんなってば。まぁ一緒にやろうぜ、奏羽。」

このどんちゃん騒ぎのことを心配しているというらしいが、迷惑かけた側なので何も言えない。

「そういえば、もうすぐ集合時間ですね。」

未來さんが腕時計を見て呟く。

「何やるんスかね。」

「とりあえず行きましょうか。」

「てか奏羽、お前苺食えないんじゃなかったか?」

蓮見が腕を組みながら私の手元のいちごパフェに視線をやる。

返事に困り苦笑いするのだが。

「てかパンって言わなかったか。」

追い打ちをかけられてしまった。

こういう時はしょんぼりとした顔をして俯くのが最有力手段だ。

「…、間違えちゃったんだな…?」

優しい問いかけに私はゆっくり頷いた。

それに対して蓮巳さんは慣れたようにため息をついた。

「…。ま、まぁ、今は急ごうぜ。」

「行っくよー!!」

いつ間にか外に出ていた紅莉が室内の私たちに向かって叫ぶ。

「あぁ、そうだな。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

伊丹基地隊員宿舎中央ロビー


なんだろう凄い個性的な面々が揃っている。

みんな散々としているが、何の集いなのだろうか。

「集まれと言われただけだからな…。」

軍全体を通して報連相が上手くいってないのが印象的だ。

何かわからずおどおどしていると後ろから肩に腕を乗せられた。

「わぁ!」

驚いて思わず大きな声を漏らしてしまった。

慌てて後ろを振り向くと、何やらイケてる女性の姿があった。

「お嬢ちゃん、新入りさん?」

「は、はい。」

制服の代わりに緑のフライトジャケットを着ている。

右腕に大きな日本国旗と胸元の部隊名、どうやらファッション用のものでなく正規の軍服のようだ。

部隊名をよく見るとZUIHOUと書かれている。

その女性はジャケットのポケットから煙草とマッチ箱を取り出し、素早く擦って火をつけた。

煙草を咥えると私の肩から腕を下ろし、慣れた手つきで火をつけると、1度大きく吸ってから指で挟んで口から離した。

「結構当たりの部隊を引いたかもね。新入りさん、よろしく。」

「よろしくお願いします。」

どうやらずいほう航空隊の招集のようだ。

私はずいほう航空隊にこだわりがあった訳では無いが、いざ肩書きを得るとやたらと嬉しいものだ。

日本海軍ずいほう型強襲揚陸艦1番艦ずいほうー。

日本は島国であり、その分離島も多い。

そのため島嶼防衛作戦はこの国にとって最重要のシナリオだ。

その作戦の中核をなすのがこの強襲揚陸艦隊。

もともと海上自衛隊の輸送艦おおすみ型にVLSやらアスロックランチャーやらを装備して補強された強襲揚陸艦おおすみ型が誕生したもの、1番艦おおすみがローゼンリアの極超音速ミサイルを受け轟沈、残されたのは「しもきた」と「くにさき」のみとなってしまった。

ここで立案されたのが強襲揚陸艦ずいほうだ。

ずいほう型は1番艦「ずいほう」、「ちとせ」、「ほうしょう」から成り、初期から本格的な強襲揚陸艦として設計されたこの船は日本の技術力をローゼンリアに見せつけた。

国産の新型誘導弾やら新形ファランクス等といった優れた兵器を搭載、その上輸送能力も並外れている。

何より極めつけは電磁カタパルトである。

日本の川崎重工製のカタパルトは凄まじいパワーを発揮し、戦闘機を一瞬で空にほおり投げる。

強襲揚陸艦にカタパルト、もはや空母と言っても良いほどの逸品だ。

私たちが乗る予定のF-3コミットゼロもこのカタパルトのお陰で離陸が可能なのである。

実際のところ中国地方の島嶼奪還において、上々の戦果を挙げ作戦を成功させた。

そんなこんなでみんなが惚れてしまうような船だ。

「もうすぐ隊長さんが来ると思うよ。いっつも5分遅れてくるのよね。彼女。」

淡々としたように聞こえる彼女の口調だが、どこか温かみがある。

パッツンな前髪と腰ぐらいまでありそうな純黒の髪は1つに括っている。

いや、低めのポニーテールというところだろうか。

黒で分かりにくいが、少しアレンジが加えられていて根元でクロスされている。

何歳ぐらいなんだろうか、何歳にでも見える系の顔つきである。

整った顔にきりりとした目つき、かっこよくて、可愛くて、盛りだくさんだ。

「どうしたの?」

私が彼女の顔ばかり見ているのを気づかれてしまったようだ。

「え、えーと、すごく綺麗だなと思って…。」

「そう?私なんてもう今年で32よ。」

「えぇ!?」

「こんな老いぼれと話したくないって?」

悪戯に笑う彼女。この表情、写真を残したいほど雅やかだ。

「いやいや、すごく若いなって思って。」

「冗談はよしてよ。まぁ、戦闘機に乗ってるとあまり老けないっていう迷信もあるけどね。あ、私の名前は桂川朱音、ずいほう隊で10年やってるの。」

朱音さん、頼れる先輩っていうオーラが溢れ出ている。

「私は夙川奏羽です。今日からよろしくお願いします。」

私がぺこりと頭を下げた時、どこぞのスピーカーから鋭い高音が私の耳を斬り裂いた。

「!?」

みんな一斉に驚いて腰を抜かす者までいた。

戦闘機の轟音に慣れている彼女らにとってもスピーカーのあの音は耐性がつかないらしい。

次の戦略兵器はスピーカーになるのでは無いかと思ったが何を考えているのか分からず頭がブレイクした。

「もう、これどういうことなの?」

奥の方にいる金髪の女性が怪訝そうに叫んだ。

よくみるとマイクを持っている。

彼女が隊長なのだろう。

「あーあー、いける?」

マイクテストの後に咳払いした彼女は真剣な眼差しで口を開いた。

「ずいほう航空隊の皆さん。隊長の鴫野ナターリアです。」

こんな真剣な人がふざけた名前を名乗る訳も無さそうなので、恐らく本名なのだろう。

だがナターリアはローレンルシア圏の名前である。

例の遅れてくるルームメイトちゃんと同じようだ。

「新しく入隊された方もいると思われますので、自己紹介をさせていただきます。名前の通り、私はハーフで父が日本人で母がローゼンリア人です。」

1回は聞き流したものの、自分の耳を疑った。

ローレンルシアでなく、ローゼンリアだったとは。

よく見ると目がグリーンの混じった青色だ。

ローゼンリア方面の民族はそんな目をしている。

すごく綺麗で、昔から憧れていたりもした。

「目はカラコンを入れています。可愛いですよね?」

「え。」

思わず声に出たその1文字は静寂の中に響き渡りあちこちに散弾した。

しばらくの静寂の中、耐えきれなくなった私は慌てて朱音さんを見た。

「…。」

彼女も知らないフリをして気まずそうに目を逸らした。

私たちのルームメイトちゃん達はお前詰んだなみたいな目で私を見てくる。

ところどころ笑い声を堪える姿も見受けられる。

仕方なく隊長に目をやると、マイクを切って何やら1人でぶつくさ言っていた。

すごく怖い。

彼女が顔を上げて演説を続けようとするも、フェラーリとぶつかったのかと思うようなロッソコルサっぽい赤い顔はすごく可愛かった。

ちなみにロッソコルサとはフェラーリの純正塗料である。

なんでこんなことだけ知っているのだろうか。

「で、えーと私は日本軍の軍人として精一杯尽くしてきました。私の願いは、日本の平和主義を取り戻し、この世界恐慌を一刻も早く抜け出すことです。私はこのずいほう隊はその目標を達成するための第一人者だと考えています。実際、制空戦闘、近接地上戦闘において大きな戦果を残し、日本の領域の奪還に大きく貢献してきました。結局のところ何が言いたいかと言うと、皆さんは日本国民の希望なのです。これは全軍人に言えることですが、特にあなたたちには大きな期待が掛けられています。国民の期待に応える為にも訓練を大切に、日々励んでいきましょう。」

今までも何回か言われたようなテンプレートだが、正規軍ゆえの重い圧がかかっているような気がする。

「明後日、午前5時、我が強襲揚陸艦ずいほうが、大阪南港を出航します。新隊員にも乗船してもらう予定です。」

まさかの一言に心がときめいた。昔、学校での実習の時に1度だけちとせで活動したことがあるが、今回は隊員としての乗船だ。

戦闘機には乗れないとしても、凄く嬉しい。

「カタパルト発艦、着艦演習が予定されています。勿論、新隊員の方々にも早速ですが参加して頂きます。」

…!?

「練習機にはなりますがね。なんにせよ、いち早く実戦配備に着いてもらわなければなりません。機体を潰してでも慣れていただく必要があるのです。」

彼女の言ったことがまだ信じられない。

入隊初日にこんなことを宣告され、その上明後日出航…。

他のみんなも驚きを隠せずに居る。

「そのため、新隊員の皆様には直ちに講義室に移動して頂きます。それでは私についてきてください。他の皆さんは副長官から話があるようなのでこちらで待機をお願いします。では。」

「副長官って忙しいんだね。」

私の横で紅莉が呟く。

一方の鴫野隊長は紺色の高貴な制服をたなびかせて歩いていった。

やけに音が響くと思うと彼女は黒いハイヒールを履いるようだった。

軍服と言うよりミリタリーロリィタという方が近いだろうか。

髪色やら身なりやらで異世界仮想戦記感が溢れまくっている彼女。

軍隊でこれはありなのかと思うが彼女の歩くスピードはやけに速く、姿勢も乱れない。

「すご…。」

ちなみに私は未だにハイヒールは履けない。

昔友達から誕生日にもらって、ランチに誘われた時に履いていったけど友達のを替わりに履かせてもらった始末だ。

このずいほう航空隊のパイロットが断言すると、戦闘機操縦より難しい。

「奏羽、早く行くぞ!」

そんなことを思い出しながら隊長の姿を見ていると蓮巳に背中を叩かれた。

「う、うん!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ローゼンリア共和国 チェルネツォフ空軍基地


右肩を銃弾が貫通した。

懐かしい、あの頃のローゼンルシア製M74弾薬だ。

「何が目的…なんだよ!」

手足を拘束され身動きは完全にできない。

出来ることがあるとするならば銃口を向けてくる相手の言いなりになることぐらいかもしれない。

「言わずとも分かる筈だろ、大臣?」

「な、何が不満があるなら言え!あんたらの腐った望み!だいたい、誰なんだよお前らはよ…!」

縛られた手足が震えている。

涙も出て来そうだと思ったがとっくに泣いていた。

「これがこの国の大統領ね…。堕ちたもんだよローゼンリアも。」

この上なく悔しい。

父は先の戦争でアメリカ軍に暗殺された。

はっきり言って父親は最悪だった。

巡洋艦ゆきやまを沈めて日本を戦争に巻き込んだ張本人だ。

ローゼンリアを無茶苦茶にするだけしておいてしれっと死んでいった。

私が今こんな状況に置かれているのもあいつのせいだ、そうに決まってる。

「隊長、管制塔制圧しました。」

ドアの向こうに現れた兵隊が彼女らに向かってそう告げた。

まさかチェフネツォフが本当に陥落するなんて思ってもいなかった。

ここは先の戦争の際に計画された臨時防衛施設計画によって設立されたものの1つだったが、その立地条件の良さから隊員からの評価も高く、私が防衛費をふんだんに費やして強化した。

国の2番目の重要防衛拠点となったここには、最新鋭ステルス戦闘機やらステルス爆撃機やら極超音速ミサイルなど多数配備している。

また、海に面しているため、港湾部には多数の艦船も停泊してある。

こいつらに自由に使わせたら取り返しのつかないことをしてくれるかもしれない。

「ここを制圧したということは、どうなるか分かるな?」

「何をする気だよ…!」

そう問いかけると彼女はニヤけて私の顔をまじまじと見つめる。

「ここにあるミサイルが政治の中枢区画にドカーン。勿論、お前の部下も全員一瞬でパーだ。だが、安心しろお前を殺すことはしない。」

「何だって!?やめろ、絶対にやめ、」

そう言いかけた瞬間私の左腕に閃光が走った。

激しい音に硝煙と共に血が滲み出る。

声にならない程の痛みだった。

「殺すことはしないが徹底的に痛めつける。それが目的…でもないんだけどな。」

気味の悪い笑いを混じえながら彼女は私をからかう。

怖くてひたすら涙が出てくる。

「隊長、管制塔までお越しください。用意が整いました。」

何の用意だろうか。よからぬ事が起きるのは分かる。

彼女は兵隊に軽く会釈すると去り際に私にこう呟いた。


「あぁ、言い忘れたが、死ぬのはローゼンリア人だけじゃないってことぐらい分かるよな…?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

伊丹前線防衛基地 海軍航空隊訓練センター


私たちの他に隊長さんに着いてきた新隊員は5人だった。

それに隊長の横を腕を組みながら歩く人が一人いる。

階級章を見ると恐らく隊長級の人であることは間違いない。

「あれ誰かな?」

「さぁ…副隊長じゃねえのか?」

勿論、蓮巳も知らないようだ。

「ここが海軍の訓練センターになります。では、早速説明をと言いたいのですが…、戦闘において大切なのは仲間の存在です。実戦に出るとことごとく分かりますよ。私も皆さんのことを知りたいですし、簡単な自己紹介でも…。」

詰んだ。もう自己紹介はしたくない。

私の他にも嫌そうな顔をしてる連中が居ないかと探してみるもみんな嬉しそうだった。

そんな中に1人だけ私と同じような顔をしてる奴がいた。

しかも何故か彼女、見覚えがある。

「あ…。」

数秒悩んで答えは出てきた。

彼女は兵学校時代の知り合いだった。

確か名前が…桂川とかいったっけ。

なんにせよ彼女とは卒業する4日前に大喧嘩した。

そんな私は彼女を忘れたくて記憶から揉み消した。

今から考えると馬鹿馬鹿しい。

「どうしたんだ、奏羽?あの人が気になるのか?」

嫌なことを思い出しながら桂川を見つめる私に蓮巳が

質問をぶつけてくる。

「ほら、見たことあるでしょ?桂川さん。」

「桂g…、あぁ、お前の友達だっけ?」

「いや、そんなことない。」

そんな会話をしていると、こちらに気づいたのだろうか桂川がこっちを見てきた。

「やばい!」

こちらに顔を向けた彼女は核ミサイルでも見たのかというような顔をすると、今の状況をものともせずにこちらへ1歩ずつ歩み寄ってきた。

「あ、あの…さ。」

なにか喋っている。

独特のキツイ香水が懐かしい。

すぐそこまで来ている。

おそらく今から私は殴られるだろう。

背筋が凍り、体が咄嗟に動いた。

「すみません、ちょっと気分が悪くなったので!」

私は右手を上げて大声で周りに響くように叫んだ。

「ちょっと待てって…!あ、私も!」

桂川が同じ文句で追いかけてきた。

彼女のことだから追ってくるだろうとは思っていたが完全に詰みだ。

もう諦めた方がいいのかもしれない。

「どうしたんだろ、あの2人?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

アメリア軍駐日泉州基地


「指揮官、ローゼンリア軍基地で小規模な反抗が起きたようです。」

「いつものことよ。あの国は安定しないわね、特にあの大統領になってからは。」

「ええ、全くですよ。最近は反政府組織が力を拡大していますからね。まぁ、恐らくすぐに鎮圧されるでしょうけどね。」

「だが、少し心配よ。この前から活動がエスカレートしている傾向があるわ。」

「えぇ、先日の爆破テロもありますし。」



「電話。少し待ってちょうだいね…。アラバスタよ。何かあったの…って、情報は確かなの?分かったわ、至急、巡洋艦と戦闘機を出して当該空域に向かうよう指示して。」

「し、指揮官。一体何が?」

「ローゼンリアの民間機が撃墜されたわ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

太平洋上ー


アメリア海軍第七艦隊 タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦 CG-67 "シャイロー"


CIC内ー

「自国の民間機を撃墜してなんの意味があるんです?」

「あぁ、全く意味は無いよな。つまり、誤射ってことだろ。実際のところ、撃墜されたのは個人所有のセスナってところだとさ。ほら、テロだとするならば、もっとでかいの狙うだろ。東側の年代物兵器じゃよくある事なんじゃないの?」

そう私に問いかけて彼女は優雅に紅茶を飲む。

「確かに…そうですね。」

彼女はシャーロット・O・パーキンソン1等海曹。

私の2つ上の先輩でこの船のCICで5年前からご一緒している対潜要員さんだ。

シャーロットとか可愛い名前して可憐な振りしてるけど実践となれば獰猛で無抵抗の相手でも徹底的に潰す、そんな性格だ。

「そういえば、デューイの彼女と上手くいってる?」

「えーと…、それは、まだ…。」

「なるべく軍隊じゃ仲間と仲良くした方がいいわよ。」

「ですよね…。」


同アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦 DDG-105 "デューイ"


「なんでアメリアの海軍は同型艦を70何隻も作るの?」

「そりゃ汎用性が高いからでしょ。」

「でもジャパンの海軍は色んな形がありますよ」

「そりゃあ非効率で仕方ないだろうな。設計も面倒そうだ。」

「でも、もがみ型とかカッコイイよ。」

「ズムウォルトがあるでしょう?」

「2隻しかないじゃん。」

「アーレイ・バークで十分なのよ。」

「へぇ。」

1等海佐からあまり納得の行かない説明を受けた。

こんな防空の薄そうな駆逐艦でローゼンルシアの飽和攻撃に耐えられるのかが未だに分からないでいる。

「レーダーに機影です。」

レーダー要因がぼそっと呟く。

「左弦より真っ直ぐ2機こちらに向かってくるようです。かなりの低高度ですね。この速度だと15分で本艦上空を通過します。国籍は…恐らくローゼンリア機2機です。」

「分かった。総員、対空警戒を厳となせ。」

「いつもの挑発だろうにな。シャイローの方、どうだ?」


アメリア海軍第七艦隊 タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦 CG-67 "シャイロー"


「なんだと思います?この機体?」

「この速さだとSu-35か、それかRozの変異種だろ。」

「あの、パーキンソン海曹?」

フェリシア・G・ミドウスジ1等海尉が神妙不可思議な顔をしてパーキンソン姉貴を覗き込む。

左手にアメリカンコーヒーを持って、どこかだるそうな風貌だ。

基本軍隊ってのは頭脳派と脳筋の2つにしか分けられない。しかし、日系人の彼女はどちらにも当てはまることなく頭の中が脳筋というレベルでなく、艦隊内で1番クレイジーで頭がおかしくて異常である。

入隊は大体同期で彼女の武勇伝は数え切れない。

ここで一昔前の話をしよう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

オホーツク海か東シナ海らへんの何処ぞー。


彼女とは以前、ヴェラ・ガルフで同乗していた。

タイコンデロガの中では早めの寿命だったが、安心と信頼で流石のいい船だった…、のだが。

「魚雷はどこから来てんの!?なんでソナーに映らねえの?対潜ヘリは何やってんのお!?」

『こちらヴェラ・ガルフCIC、何やってるミドウスジ?魚雷が命中したぞ!?潜水艦はどこにいる、攻撃指示を…。』


ヴェラ・ガルフ 哨戒ヘリコプター SH-60k


「いいか回避機動ってのはこうやるんだ。」

「今はソナーが優先ですが…。ここに来るまで予定より30分遅れています。SH-60にバルカンを付けようとか変な話してるから道に迷ったんですよ。」

「所詮訓練だ。同じこと繰り返すだけなら新しいことを1つでも先輩から覚えようとしろよぉ?」

「先輩って言っても2ヶ月ですよ。違う養成所から来てますけど同期です。貴方の養成所では自艦の防衛よりそんな風なことを習ったのですか?その上これは普段の演習とは違う国際演習です。向こうにはクイーン・エリザベスも居ますしP-1哨戒機やらも飛んでます。こんなことして恥ずかしくないですか?」

「他に任せりゃいいんだよ、それに養成所なんてとこはろくな事を教えねぇ。フライトシュミレーターこそがパイロットのトレーナーだ。分かるだろ?」

「いい加減にしてください。」

「おいミサイルが来たぞ!お前ならどうする?」

「フレアを撒きますが。」

「おいおい、ミサイル1発ごときにそんな無駄なことはしねぇよな?後で空中戦になるかもしれねぇ。こいうい時はな?」

「やめてください!!!」


「なんか頭の悪いことやってます。止めようがありません。」

「魚雷、来ました!」

「迎撃は無理だな…。」

「ヴェラ・ガルフ、轟沈判定…。」


『もしもし聞こえるかCIC、今からディッピングソナーを落とす、対潜警戒を厳となせっ!ってな。ははははははh』

「無線を切れ。私たちは死んだんだ。」

「ど、どど、どうするんですか?」

「死人に口なしだ。」

「えぇ…。」


「ミドウスジさん、どうやら沈んだようですよ。」

「はははh、え?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

とまぁこんなような事がありましてミドウスジはヘリコプターから下ろされた訳なのだが未だに1等海尉である。

理由はと言うとだが、何事にも鋭い。

僅かな変化にもすぐ気づく。

機器の不具合や、天候の変化、何事にも敏感でまさに生けるSPYレーダーだ。

ミドウスジ曰く、生まれつきの経験の豊かさらしい。

日本人の丁寧さとアメリカ人の積極さの良いとこ取りという現場に置いて重宝される人材であり、実戦経験こそないものの、本番となれば存分の力を発揮するだろうと艦長からの期待を掛けられている。


「何がおかしいミドウスジ?」

「この期待の動き、見てくださいよ。エレメントを組んでるにしては動きにまとまりがなくないすか?」

「航空ショーじゃねぇんだからそんな綺麗に飛ぶもんじゃないだろ?」

「そうだといいんですが、何か違和感が凄いんすよねー。ほら、この動き。回避行動にも見えますよ。」

得意げにそう言って注ぎたてのコーヒーを躊躇せず口に流し込む彼女。

「とりあえず国際周波数で警告してみますか。」

対空要員が無線機を合わせ警告するようだ。

『あー、こちらアメリア合衆国巡洋艦シャイロー。貴機は高度が低すぎる。上昇しろ。本艦に対する過剰接近だ。』

すぐに返事がくることはなく数秒のノイズの後に何かがうっすら聞こえ始めた。

『っ…、撃墜してくれ。私の後ろのヤツを撃墜して!』

「何があったんだ…。」

一気にCIC内がざわつき始める。

『国籍を明らかにし、状況を説明しろ?』

『ローゼンリア空軍666航空隊だ、ヤツに追われている。早く、頼むから撃墜してくれ!まだ死にたくないっ!』

『機体の状況は?』

航空要員が喋った瞬間、無線内にバルカン砲の音のようなものが響いた。

『っ…、見ての通りだ、エンジン推力は残っちゃいるが左翼がボロボロだ。どうしようもない!』

『後ろは何者だ?』

『知るかそんなもん!訓練中にいきなりどこからともなく飛び込んで気やがったんだ。』

『国籍は分かるか?』

『私の見た限りでは、ローゼンルシアだ。そうに違いない。』

不穏な空気が漂い始める。

航空要員が少し時間を置いて再びマイクに向かう。

『悪いが撃墜はできない。当国とは無関係の事象である。関与することは認められていない。』

『なんで、目の前の人間を助けるのが海軍じゃないのかよ!?』

『残念だが…。』

『お前らアメリア人はこれだから嫌いなんだ!』

無線が切断され、彼女の叫び声の余韻だけが響いた。

みんな俯いてまじまじと担当のモニターを見ているだけだった。

「総員対空戦闘用意!攻撃してこないとも限らない。対空警戒を厳となせ。」

「到達まで後5分です。砲雷長。」

『こんなとこで死んでたまるか!』

無線の向こう側からけたたましい声が聞こえたと思うと、レーダーの機影の前後が入れ替わっていた。

「木の葉落し《マニューバ》に成功したようです。」

『嘘…だろ!?』

空戦機動が成功したとは思えないような絶望に染った声で呟く彼女。

『何があった?』


『操縦士が、居ないんだよ!』


背筋が凍りついた。

普段のお気楽CICとは違う、異様な雰囲気が漂っている。

『UAV…か!?』

『見間違いかもしれない…、だが!』

火器管制システムがロックされた音が聞こえる。

『ロックした。撃ち込んでやる!』

「まもなく本艦上空到達します!」

「艦橋に伝えろ!」


同艦ウイングー。


「来ました例の戦闘機です。」

「何に見える?」

「羽の大きさから今照射されてる方がRoz-35sだと思いますよ。もう一機が普通のフランカーですね。」

「対ショック姿勢を。来ます。」

『CICより艦橋へ当該戦闘機がミサイルを発射する。外の者は迅速に艦内へ避難せよ。』

「早く逃げましょう。」

「ここで動画を撮影して勲章をもらおうと考えているのは私だけじゃないよな?」

「えぇ…。」

『本艦上空まで5秒、3…。』

「光った!」

「ミサイルだ。Roz向かって真っ直ぐ!」

耳を聾する轟音が艦と艦の間に迫る。

もう純分なほどの衝撃波が体全身を伝わる。

『2、1、』

「っ…!」

激しい爆発音と共に無数の炎が目の前で飛び散った。

シャイローとデューイの丁度真ん中、もう少しで衝突というところ。

「撃墜したのか?」

「いや、フレアだ!Rozはまだ居る。」


同艦CICー。


「っ…!」

計器類がガタガタ揺れ、立っているのが精一杯である。

日本に来てから何度が大きな地震を経験しているが、船への衝撃というものは揺れ方が異様だ。

揺れが収まって数秒、すぐに無線通信が再開した。

『野郎が消えやがった!』

「撃墜したのでは?」

その言葉により一層危機感が強まる。

「いや…、上だ!」

ミドウスジが無線を奪い、マイクに向かって必死に叫ぶ。

『上だっ!上から来るぞ!気を付けろ!』

『っ…!』


激しい衝撃音が艦内に響くと次の瞬間、無線が途絶え、レーダーからスホーイの機影が消失した。

残っているのはRozだけだった。


「一体何があったったっていうの…。」

パーキンソン海曹が頭を抱え、レーダーから目を逸らす。

沈黙の続く中、僅かにノイズ音が聞こえ、再びどこからかの無線が繋がった。

『こちらウイング、スホーイのベイルアウトを確認!』

「マジかよ。やるなあのローゼンリア人。」

ミドウスジが意気揚々と唸る。

アメリア軍艦に乗る日系人がローゼンリア人の操縦を誇っている。

これは私の考えすぎかもしれない。

「対潜警戒に当たっているUH-60を現場まで飛ばしてください。一刻も早い救助を。」

『こちらCIC、本館の付近でローゼンリア国籍の戦闘機が墜落した。指定座標に向かって救助作業を頼む。』

『無線は聞いたわ。了解、すぐに向かいます。』


「Rozがこっちに向かってきます。右舷!」

「何をする気なの…!?」

レーダーを見ると確かに一旦離脱したRozが再びこちらに向かって旋回している。

「不味い、アタシらを消す気だ!直ぐにレーザー照射される、対空戦闘用意しろ!」

ミドウスジが砲雷長に向かって大声で叫ぶ。

砲雷長が軽く会釈し、CIC内に緊張が走る。

「対空戦闘用意!」

その数秒後だった。

「敵のミサイルです!本艦に真っ直ぐ突っ込んできます!到達まで30秒!」

「チャフをバラ撒け!」

「チャフ発射。」

軽いロケット砲のような音が鳴り、空中で炸裂する。

「CIWS射程圏内、AAWオート。」

「これは間に合うはず…。」


数秒の沈黙の後、それなりの爆発音が聞こえた。

「目標インターセプト。」

「次弾は?」

「ありませんが、機体が軌道を変えません。真っ直ぐこっちに来ます!」

「何をする気なの?」

「突っ込む気だ。UAVなら躊躇しないはずだ!ミサイルを打て。」

「ですが、有人の可能性も。」

「有人なら回避機動をとるはずだ!急げ!」

ミドウスジの一言にCIC全体が静まり返る。

「し、シースパロー発射初め!」

「シースパロー発射!」

「目標到達まで10秒。」

「8、7、6…!」

二初発射されたシースパローがRozの正面に向かって突き進む。

たが、何かおかしい。

こればかりは私にでもわかる。

レーダーに映るだけでもミサイルの挙動が不自然だ。

まるで何かに翻弄されているようで目標にたどり着こうとしていない。

「なんで真っ直ぐ飛ばないです砲雷長!」

「ジャミングを受けているんだ…。」

焦る砲雷長に代わりミドウスジが答える。

「主砲とCIWSだ。使える防空兵器をフル稼働させろ!」

「CIWS、攻撃始め!」

20mmバルカン砲の音がCICにまで伝わる。

今となっては珍しい二門の速射砲が激しい音を立てて火を吹く。

「なかなか当たらないわね…。」

「回避行動が上手い、当たっても被害が最低限度になる当たり方をしている。それも俊敏なバルカン砲に対してな!」

「ダメだ、来ます!突っ込んできますっ!!」

「対ショック姿勢で神様に祈れ。」


「3、2、1…!」





























































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