セーラー服とバルカン砲
17年前、太平洋上ー
「敵ミサイル、真っ直ぐ6発本艦に突っ込んで来ます!!」
「6発…!?」
「総員対空戦闘用意、1発でも多く迎撃しろ。」
「左舷より魚雷接近を確認!迎撃が必要です!」
「こんな時に魚雷まで…!?」
「私達も随分と嫌われたもんだな。SeaRAM発射準備!」
「発射準備完了、斉射!!」
「インターセプト5秒前…。」
「魚雷の迎撃開始します。」
「了っ。」
「3秒…。」
「頼む間に合ってくれっ!!」
「1秒、マークインターセプト!」
「2発迎撃失敗!間もなく直撃します!」
「CIWS残弾ありません!!衝撃に備え!!」
「砲雷長…!!」
「魚雷迎撃、間に合いません!!」
「そ、そんなァ…!!!」
「みんな、私が悪い、私のせいだ。ワタシは、戦闘と言うモノを理解していなかったっ。赦せ…。」
「私達も…。」
「衝突3秒前ッ!!」
「戦争が…始まってしまうのか…。」
「1ッ!!」
大平洋上ー海上自衛隊巡洋艦ゆきやまは国籍不明の魚雷3本、対艦ミサイル2本を浴び、轟沈。
ローゼンリア連邦の日本侵攻による犠牲者数は述べ日本人口の半数を超えー
休戦状態に入ったもの九州地区、四国地区のほぼ全域が占領されておりー
日本の主力艦船の一部がローゼンリアに鹵獲されたとの情報も入っておりますー
日本とローゼンリアが開戦した原因は17年前、海上自衛隊巡洋艦ゆきなみが海中調査中に国籍不明の無人機による特攻を受け、ゆきなみが無人機を撃墜したところから始まった。
国籍不明軍はこの行為を戦争行為とみなし、ゆきなみへの総攻撃を開始。
結果、護衛艦ゆきなみはミサイル2発、魚雷を2発の直撃を受け太平洋に沈んだ。
よっぽど第三国には知られたくない情報があったのだろうか。
その真相は闇の中であり、大量殺人兵器だとか人工地震だとか挙句の果てにはエイリアンとの共同開発施設だとかもはや言われ放題だ。
原潜辺りが妥当だと私は思っている。
ひょんなことから始まったこの争い。
第三次世界大戦までには至ることなく、他国の仲介によって休戦となったのだが、日本はその領土の半分近くを失ったままである。
私の母、奏歌は海軍の砲雷長で私が2歳の時、戦死した。
そう、巡洋艦ゆきやまの砲雷長だった。
あの時、突撃してくる無人機にミサイルを撃ったのは母だった。
母は艦船を、乗組員を守ろうとした。
昔から勝負に出る性格で気が強かった母。
彼女の行いは正しいものだったことに間違いは無い。
だが、戦争の引き金を引いてしまったのは無慈悲にも事実であった。
その後私は親戚に引き取られ、現在に至る。
まだ幼かった私は、世間が母にどのような態度を示したのかは知らなかった。
物心着いた時には爆弾の中を逃げ回る日々。
左足には当時の火傷跡がくっきり残っている。
母の行いなどはとっくに戦禍に掻き消され、混沌とした時だけが過ぎ去って行った。
そして今私は、この場所に両脚で立っている。
海軍航空隊入隊式ー
母と同じ海軍に入ったことに躊躇いは無い。
だが複雑な気持ちは拭い切れないことは確かだ。
日本海軍の航空隊は近年劇的な進化を遂げ、大型原子力空母を2隻、強襲揚陸艦ほどの空母4隻を保有。
艦載機には主にF35、純国産戦闘機F3等が運用され、休戦に大きく貢献した。
航空隊に入ったのは父の影響だ。
父は空軍で輸送機の操縦士をしている。
滅多に家に帰ってくることはなく、もう半年も会っていない。
休戦といっても戦線は厳しいのだ。
そんな父だったが彼自身は、私が軍隊に属することを拒んだ。
妻を戦争で亡くし、妻が国際社会において非難の嵐に晒されていることに直面した。
そんな父が唯一の家族である娘を軍に入れるなんて考えもしなかっただろう。
だが私の体内を流れている血液は母と同じ。
私はどうしても母の意思を受け継ぎたかった。
母が命を代償に世界に示したローゼンリアの非行。
娘である私が、ローゼンリアを沈黙させる。
8年前の私は幼いながらも誓ったのだ。
最終的に私は父を説得し16歳で海軍士官学校に入学した。
入学当初は私が奏歌の娘であるということで周りからどのような扱いをされるのか少し心配だったが、チームメイトのみんなは私に優しく接してくれて最高の青春だった。
けど、友達の何人かは戦争で帰らぬ人となってしまった者も居た。
胸が締め付けられ、自分で自分を深淵へと追いやった。
戦争が始まっていなければ死ぬことの無かった命、第1、彼女達は普通の高校に進学し、彩り豊かな人生を送るはずだったのだ。
時には母を恨んでしまうこともあった。
しかし両親の背中を追ってここまで辿り着いたのだ。
退く訳にはいかない。
私は決意を胸に、門を潜ろうとしたのだが…。
「だーれだっ?」
私の視界が急に奪われ顔にほんのりと他人の体温が感じられた。
「あ…はすみ?」
手を振り払い、後ろを向くと立っていたのは士官学校のルームメイトであった「高槻蓮巳」だった。
常にポジティブで弱みを見せたことは1度としてない。
成績も良く、みんなからよく慕われていた。
そして何より彼女は私の大の親友であった。
長めのオレンジ色の髪の毛は無造作に重なり合いところどころに入っている黒のインナーカラーがいいアクセントになっている。
入学初日、軍というものの重厚さに威圧され、私は途方に暮れて格納庫の前で気を失っていた。
バカバカしい話だが本当であり、いま思えばすごく情けない。
そんな私に初めて声を掛けてくれたのが彼女。
彼女の父も私の父と同じ部隊で輸送機を飛ばしているらしく、彼女とは話が合った。
私が他人と共通の話題で盛り上がれたのは生まれて初めてだった。
「どうしたの?待ちに待った入隊式だよ。」
「いや、なんていうか…その…。」
「キンチョーしてんだな、安心しろよ、今日に至るまで私らは充分頑張ってきたじゃないか?」
「そうだな…。」
蓮巳は全く緊張していないようだった。
「はすみんー!!」
「ん…?」
両手を高く上げて振りながらこっちに向かってくる1人の少女。
彼女も私の良きルームメイトだった、「柴崎紅梨」。
銀髪のショートヘアに暗めの赤いカラコン、最初に部隊で会った時は痛いやつかと思ったけど、思った通り痛いやつだった。しかし、母はなんと日本国主力原子力空母「しょうかく」の艦長だと言う。
世の中には未知がたくさんある。
何度か彼女の立場に優遇されたこともあった。
私たちが入学したての頃は既に軍人になったつもりで浮かれまくっていた。
ルームメイトのみんなで戦闘機の映画を見に行った日の夜。
銀髪が激しく映画の影響を受け無理やりみんなを引き連れて、戦争の標的となり放棄された航空基地に忍び込み、放置されていた小型レシプロ機をパクった。
もちろん普通のJKが操縦出来るわけなく、あっさり海に落ちた。
なんとか命は助かったもの、夜の海は冷たく、必死で岸まで泳いだのだった。
ここまでならまだ許せたのだが…。
だが、次の日、日本海軍巡洋艦が飛行機の残骸と衝突、航行不能となり1年ドック入りした。
最初は知らないフリをしていたが、事故調査委員会というものは恐ろしい。
1週間もせず私達の名前を割り出したのだ。
普通なら退学、いや、裁判沙汰だが厳重注意で済んだ。
まぁ、元はと言えばこれは銀髪が原因だったのだが。
今の彼女はというとある程度落ち着いたが、やはりトラブルメーカーでもある。
「よぉ、アカリ様。」
「からかわないで。」
充分賑やかな気もするが、私達の他にルームメイトは3人いた。
みんな個性豊かで持ちつ持たれつの関係だった。
どこかバランスが崩れてしまったような気もする。
「同じ舞台なのは3人だけなんだな…。」
「なんか寂しいよねー。」
「紗奈絵達も上手くやってるだろうよ。な?アタシ達もさっさと行こうぜ!アタシなんか楽しみでたまんねぇよ!」
「そうだね、言ってももうすぐ開式だし!行こ行こ!」
紅梨は私の腕を掴み、持ち前の瞬足で走り始めた。
「うわぁ。」
私はほぼ引きずられながら憧れの基地に入っていったのだった。
ー
基地内は質素でこれと言って特徴のない建物。
防衛基地と聞いてスターウォーズの宇宙船のようなものを連想したこともあったが、やはり現実は現実。
モダンな丸出しの鉄筋コンクリートはひび割れ、白かった壁は黒ずみ、ホームページの新築とは全くの異なるものだった。
正直とてもやる気の出るようなものでは無い。
「他の基地は昭和から使ってるやつもあるんだとよ。まだいい方だぜ?」
「お父さんの施設なんて爆撃で屋根がなかったりするらしいよ。何にせよこのご時世だから直す余裕もないらしいんだ。」
「そうなのか…。」
基地内を進み看板に従って進むと、既に何人かの新隊員の姿があった。
今期、この部隊に配属されたのは私たち含めて15人。
部隊名は402海軍飛行隊。
日本海軍軽空母「ずいほう」の艦載機を受け持つ。
制空戦闘・対艦戦闘共にこの部隊の役割だ。
私達が操縦する機体はマルチロール機であるF-3MBアリオン。
製造されてから数十年経つが、まだまだ現役である。
「この並びはなんだ?」
「海軍服?」
入隊式の前に制服の支給があったらしい。
確かに案内にそういう記述があった気がする。
まぁ国内のライフラインはほぼ切断されているからこうするしかないのだろう。
「うーんと、上着以外はどこに?」
「悪いが上下は無い、何にせよどの部隊も資材が足りていない状態でな。軍隊として最低、規律を正すために上着だけ調達した。インナーは自宅ホワイト系のものを流用してくれ。」
管理担当の偉そうな人が気まずそうに言った。
その場で自分のサイズにあったものを軽く羽織る。
「奏巴!似合ってるよ!」
スカートに軍服、SFファンタジーでしか見たことない制服だ。
「そ、そう?」
ペラペラのネクタイを締め、コスプレ用品チックな肩章をボタンで止める。
何もかも安っぽい上、各所新品とは思えないほど傷んでいた。
絶対中古だこれ…。
でもかっこよさでカバーしているからOKか。
ちなみにネクタイかリボンが選べるらしい。
蓮巳、銀髪共に着替えが終わり、憧れの海軍服に身を包んだ。
17年前とは大幅にデザインも変わったようで、母の遺品のものとは全く違う。
「うわぁ…!!」
「アカリ、似合ってんじゃねーか!」
2人とも喜びを凄く率直に表現している。
しかし私の心は制服を着てもまだ晴れないようだった。
「緊張し過ぎだよぉ?ほら!未来のエースパイロットさん!!」
「そうだぞ、ずっとこの日を夢に見てたんだろ?」
「そうだけど…。」
そう、私は過去を彼女たちに明かしていないのだ。
数多い会話の中でも全く触れたことは無かった。
もう隠す必要もな無いかもしれないが。
「じゃ、行こ行こ!」
「うるさいっ!!」
再び銀髪に腕を掴まれたが思わず振り払ってしまった。
「っ…、奏巴ちゃん…?」
「なんでもない…。」
「ったく、嬉しいくせにツンツンしちゃって。」
あとの3人が居ないこともあってか今日の私には何かが足りない。
いつもの私じゃない。
それだけは自分にもこの肉体を通じてひしひしと伝わってきた。
入隊式まで時間があったので、私たちは気分転換に基地内を適当に歩くことした。
「おっ、すっげぇな。Fー104じゃねーか。モノホンだ。」
基地内には退役した歴代の機体が至る所に展示されていた。
どれも綺麗に保存されている様だ。
「これは…潜水艦かな?」
銀髪がFー104を見てそう言った。
何言ってんだこいつと思うかもしれないが、これはこいつのスタンダード。
そう、軍事に関しては全くの無知なのである。
爆撃機を戦車と言ったり、空母を豪華客船だとか言いたい放題だった。
「どう見ても戦闘機だろ。なんで潜水艦にタイヤが付いてんだよ。」
流石の蓮巳もこれには呆れた様子だった。
「素人に分かるわけないでしょお!!」
「お前はもう軍人だよ!」
的確にツッコまれる銀髪。
「君達…新しく配属の子たち?」
急に後ろから透き通るような声で喋りかけられた。
咄嗟に振り返ると高貴そうな女性が3人立っていた。
3人とも私たちと同じ服を着ており、すぐに海軍パイロットであると分かった。
「え、は、はい!」
「ふふっ、かわいっ。」
真ん中の膝近くまでの長くて艶のある白髪の人が私たちにほほ笑みかけてきた。
「えェ、私たちニモこんな時期がアリマシたヨネ。」
チームメイトだろうか。右側の黒髪ショートの人が懐かしそうにまじまじと私たちを見てくる。
「見てみて!この子の髪色、海上迷彩みたい。」
左側の茶髪で背が高い人が指さしてそう言った。
「確かに、かわいいやん!」
言われてみれば確かに海上迷彩だ。
意識したことは無かったけど自分にとってなぜかこの髪色じゃないと安心できないのだ。
「いや、そんなこと…。」
「お、おい奏巴、この人たち多分よ…。しょうかく航空隊の飛行士さんだぜ…!」
「しょうかくって…紅梨の?」
奏巴は静かに頷いた。
しょうかくの航空隊ということ。
それはつまり、日本最高の海軍パイロットということだ。
しょうかく航空隊に所属出来るのは上位の1パーセント未満とも言われている。
そんな人が3人も前に立っていることに蓮巳は気づいてしまったのだ。
「あ、あの!しょうかくのパイロットさんなんですか?」
彼女たちと関わることは軍に所属している人間もほぼ無いらしい。
こんなチャンス二度とない。
思い切って私は本人たちに尋ねてみた。
「え?あぁ、惜しいね。私たちはずいかくの航空隊だよ。」
「ず、ずいかくですか?」
"ずいかく"は"しょうかく"に続く大型空母であり、日本海軍の2番手的な存在だ。
戦争中アメリア合衆国から譲り受けた大型空母。
しょうかくがスキージャンプ式なのに対しずいかくはカタパルト方式で、発動はスリル満点で人を変えてしまうほどらしい。
確かアメリアではヨークタウンとか呼ばれてたような。
「そうなんですか!!」
「まァね、ショウカくに乗れなカッた人たちのアツマりだけど。」
「そんなことないですよ!!尊敬します、先輩!!」
銀髪が興味津々に大先輩に飛びつく。
彼女らは紅梨がしょうかくの艦長の娘であることは知らないであろうが、知ってしまったらどうするのだろうか?
「そう言ってくれるとうれしいやん!」
「もうすぐ入隊式じゃない?ほら、行っておいで!」
時計を見ると既に10分前。
「あ!そうですね、行ってきます!!行くよ!みんな!」
紅梨が威勢よく答え一人で走っていった一方、蓮巳は名残惜しそうに声を震わしながら頑張ります!と言って去っていった。
ホントはもっと言いたいことがあるのに言葉が思い浮かばないような様子だった。
「ほら、ついて行かなくていいの?」
「あ、あの!私、絶対先輩みたいになって、国を守ります!!」
私の口は何も考えずにでも動いていた。
「ふふ、頼もしいわ。」
「マダこんな元気ナ娘がいてウレしいヨ。」
私はビシッと敬礼し、その場を駆け足で去った。
「名前ぐらい聞けばよかったな…。」
蓮巳が小声で呟く。
「私達が会えるようになればいいんでしょ!」
銀髪がやけに嬉しそうに言う。
入隊式が終わり、私たちは宿舎に向かっていた。
式では兵学校と余り変わらない内容を淡々と話され、銀髪は私にやけに絡んできて挙句の果て後半寝ていた。
何せ変わらないのが、誰が戦争の引き金を再び引いてしまうか分からないということだ。
それを心して訓練に励めと…。
「にしても、宿舎の部屋って何人制なんだ?」
「多分、6人ほどだったと思う。」
「あとの3人が楽しみだな。面白い奴だといいけど。」
学校のルームメイトは本当に楽しかった。
みんなで馬鹿騒ぎして、みんなで怒られて。
よく考えると普通のJKのままよりこっちの方が楽しかったかもしれない。
あとの3人は確か2人が横須賀、もう1人が佐世保に配属になった。
今頃、何をしているのだろうか。
「お、ここが宿舎か?いい感じじゃねーか。」
「改装されてるみたいだね!」
周りの建物よりかなり綺麗でデザインもそこそこ凝っている。
建物の中はビジネスホテルのような内装で"自衛隊"の宿舎とは全く異なるものだった。
3人並列して廊下を歩く。
「私達は106か…。」
「1階だと腹減ったらすぐコンビニ行けるな。」
蓮巳が満足そうに言う。
「ここだね。」
鍵は軍隊手帳と一体化されており、ドアノブの辺りにかざすとドアが開く仕組みだった。
「ワクワク…!」
私がゆっくり扉を開けると、中は電気が付いていなく真っ暗な状態だった。
カーテンも閉まっている。
「私たちが一番のりなのかな?」
「どうやらそのようだな。」
蓮巳が電気を一気につける。
2段ベッドが右側に2つ、左側に1つあり、真ん中には少し大きめのテーブルと硬そうなソファ。
小さいキッチンと冷蔵庫もある。
意外と綺麗だし、不自由は無さそうだ。
「ふあぁわ!?」
紅梨が突然声を上げた。
「誰か寝てますぅ!」
どうやら先客が居たらしく、彼女が指さす方向を見ると右手前2段ベッドの下に布団にくるまって幸せそうに寝てる娘がいた。
どうやら眼鏡っ娘らしいが寝相で肝心の眼鏡がズレている。
「起こさない方がいいのかな?」
「さぁな。」
対応に困っていると、玄関が開く音がした。
「…!あ、すみません…ちょっと外の様子を見てて。」
入ってきたのは長い黒髪の女の子。
これといって特徴が無い印象だった。
「あの…みなもちゃん知りません?」
「もしかしてこの娘かい?」
蓮巳が布団にくるまった娘に目をやる。
「あ、あれ!?何やってんの!みなも!」
「ふぇ?あええぇ、寝ちゃってたんでうか?」
「何でいきなり寝てるのよ…!」
「えへへぇ。」
どうやら彼女らも同じ学校からの仲のようで、凄く親しそうだった。
「あっ、私、嵯峨野未來っていいます!名古屋の方から来ました。」
「私は神通みなも、未來ちゃんと同じ学校でス。」
超清楚で真面目な大和撫子とオタク感漲る眼鏡っ娘。
如何なる組み合わせと思ったが、この2人結構好みかもしれない。
「私は夙川奏羽、私たちはここの兵学校から来たんだ。今日からよろしくね。」
「アタシは高槻蓮巳だ。誕生日は5月12日、よろしくな。」
「紅梨だよ!一緒に頑張ろっ!」
とにかく気難しい人が居なくて良かった。
結構キャラもバラついてなかなか面白くなりそうだ。
「もう1人も、未來ちゃんの友達?」
「いえ…知りませんね…。」
私は残りの1人を忘れていた。
「残りの1人ってことは、面識のある人間は居ないんだね…。」
「上手くやって行けるといいですが…。」
太平洋上ミッドウェー付近ー
「ローゼンリアの巡洋艦を確認しました。」
「降下して全景を撮影しておきたい。少し下げてくれ。」
「あれ巡洋艦ですかね?飛行甲板みたいなのが見えません?」
「いや、そんな情報は入ってない。」
「新造艦の航空巡洋艦の可能性もあります。」
「この時代に航空巡洋艦なんて新造するか?」
「それはなんとも言えませんが。」
「え、FC照射されました!」
「ちっ、こんなの毎回やってらんねえよ。」
《貴艦に告ぐ、こちらに攻撃の意図は無い。繰り返す、攻撃の意図は無い。あくまで国際法に乗っ取った偵察だ。》
《貴機は本艦に過剰接近している。今すぐ当空域から離脱しろ。》
《高度も距離も法の範囲内だ。今すぐレーザー照射をやめ、》
《貴国は戦争を始めたいのか?》
「っ…。」
「こんな脅しに屈してどうするんですか!」
《繰り返す、これは法の範囲内での活動だ、直ちに火器管制レーザーを…、》
「該船、ミサイル発射しました!」
「何だって!?」
「最大推力、右旋回します!」
「っ…!」
「フレア、フレアを撒け!」
「閃光弾!!」
…
「あの、未來さん?」
「どうしたんですか?」
「ここの案内とかっていつあるんだろうね。」
「確かにそうですね…。さっき見てきた限りでも直ぐに迷っちゃいそうでしたよ。」
宿舎の部屋に行ってから何も支持を受けていない私達。
「コーヒー入りましたよ。」
「お、さんきゅーな。」
「ありがとうです!」
彼女が注いだコーヒーを嬉しそうにみんな手に取った。
「奏巴さんは?」
「私、飲めない…。」
私はコーヒーが大の苦手、熱くて苦いものなんて私に飲めるわけが無い。
「あー、そ、そういうこともありますよね。」
未來さんが気まずそうに発した。
6人で机を囲み、紅梨が壁掛けのテレビを付ける。
「面白いテレビなんて無くなっちゃいましたね。」
みなもさんがぽつりと呟く。
「民放会社が爆撃されたりして、官営の放送ばっかりになっちまったもんな…。」
蓮巳はコーヒを飲むと、大きくため息をついた。
「もう1人はいつ来るんですかね?」
「確かに、あれから30分も経つよね。」
その時、扉のドアノブが下がる音がした。
「お?」
「106号、全員揃いましたかー?」
どうやら残りの1人では無いようだ。
階級章から見て中堅隊員のような人が勝手に私たちの部屋に入ってくる。
「一人足りないんですよ。」
「あぁ、そういえば今日は来てないんだった。実は残りの1人は海外の訓練生でねー。連絡によると輸送機が不調を起こして到着が数日遅れるとかー。」
「海外!?」
「あぁ、ローレンルシアと日本のハーフらしー。」
「ローレンルシア!?」
ローレンルシア連邦、東側諸国に属しており、技術が大変栄えている国で、17年前の開戦当初ではローゼンリアに武器を供給していた。
しかしローレンルシアから独立した国がローゼンリアだと言うことが問題だった。
「まぁ、今は1人でも多くの戦闘員が必要らしーよ。私もどういう基準なのかは知らないけどねー。まぁ、取り敢えずそれ以外は来てるねー?そしたら、1時間半後にロビーに集まってくれるかなー?」
やっと次の指示を得ることが出来た。
「わかりました。」
「それじゃー、仲良くするんだぞー。」
やけに語尾を伸ばす人はそう言い捨てて出ていった。
「ローレンルシアのハーフか…。」
「絶対可愛いよ!!マジで!!」
「それだけだといいですけどね…。」
未來さんが不安そうに呟いた。
「まぁ、それはそれで。1時間半あるんだし、自己紹介でもしねーか?」
話上手の蓮見が上手く場を和ませようとしている。
私なんかと違って、本当に頼れる人だ。
「確かにそうですね。」
「やりましょう!」
未來とみなもも乗り気のようで嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあ、まずは奏羽からだな?」
「ふぇ?私!」
「なんたって未来の海幕長だもん。」
「そんな…。じゃ、じゃあ、改めまして夙川奏羽です。18歳で…えーと…。」
自分の情報を淡々と並べる自己紹介はうんざりするものだ。
何かここは1つ考えなくては。
「えーと…。」
時間を掛けるのは余計ナンセンスだ。
何故か知らないがすごく顔が熱くなっている。
恥ずかしい…。
「その…JKです!」
我ながら訳の分からないことを言ったと思う。
何の変哲もない情報な上JKでも無いことに言ってから気づいた。
私の軍人生はもう終わったのだ。そう。
「こ、こいつ緊張しててな、仕方ないぜ。な?奏羽?」
「うぅ…。」
何故か涙が出てきそうになった。
涙を流したのなんてお父さんが墜落事故で生死をさ迷った時ぐらいだったのに。
よっぽど私、緊張してるんだ。
「私は高槻蓮巳。こいつら2人とは同僚で持ちつ持たれつで今までやってきたんだ。私の母は軍の医療部隊に勤務しているけど、数字が苦手なもんで医療部隊には入れなかったんだ…。でも、操縦の腕には自信あるぜ。よろしくな!」
流石蓮巳、私の作った変な空気を無事撃墜してくれた。
名誉勲章ものだと思う。
「私は篠崎紅梨!軍のことはあんまり詳しくないけど、お母さんは海軍の船に乗ってるよらしいよ。好きな物はチョコレート、嫌いなものはコンソメスープかな!」
相変わらず勢いで乗り切る銀髪。
「嵯峨野未來です、昔から軍隊が好きで自衛隊に入りたかったのですが、今に至ります。結構兵器とか詳しいと思うんで…その…困ったことあったら聞いてください!」
私と同じミリタリーファンということで、かなり興味深い…。
「神通みなもッス、生き甲斐はプラモデルっス。よろしくお願いしまス!!」
プラモデルなら私もよく組立てることがあったりする。
2人とも結構仲良くなれそうかもしれない。
「今日からみんなで仲良くやっていこうね!」
紅梨が幸せそうに微笑んだ。
こんな普遍的な日常も戦争が始まってしまえば跡形もなく消え去ってしまうのだ。
戦時下で育ち、日々、色々なモノを見てきた。
友達だって何人も死んだ。
幼くして私は戦争の残虐さを目の当たりにした。
もう何も失いたくない。
「あの、ちょっといいッスか?」
そう言うとみなもさんは部屋の隅にあった段ボールから何やら大きいものを取り出した。
「何だ、それ?」
「塗装ブースっス。プラモデルには必須ッスよ。この角に置かせてもらいますっス。いいっスか?」
「勝手にこんなことしてごめんなさい!!」
未來さんが申し訳なさそうに言った。
「全然私は構わないよ。」
「おう、結構だぜ。」
「ありがとうございまっス!」
そう言うとみなもさんはせっせと仕事を始めた。
私は思い切って未來さんに声を掛けることにした。
いつも相手から話してもらうのを待っている私だけど、趣味の合いそうな人には率先して声を掛けてしまう。
「あの、未來さんはミリタリー好きなんですよね?」
「え?は、はい…。女子では珍しいですけど…。」
「私も大好きなんです!好きな戦闘機とかありますか?」
「うーんと、みんな好きだけど、特別好きなのはF-111ですね。性能はパッとしない部分もありますけど、ごつい機体で可変翼ってのがそそります!」
これは中々コアな趣味の人間に出会ってしまった。
私の心の扉がどんどん開かれていく。
「わかりますぅ、最高ですよね!!」
「奏羽さんは何が好きですか?」
「F-4ファントムです!」
「なるほどなるほど!往年の名機ですね!」
会話がヒートアップし始めたその時、外から大きな音でサイレンが響いた。
「!?」
「スクランブルですね…。」
未來さんがそう呟き、窓を駆け寄る。
私も窓から外を除くとそこは1面滑走路であった。
「うわぁ、滑走路だあ!」
呑気に銀髪はルンルンしている。
「一体何があったんだ?」
「ここ数日はスクランブルなんて起きてませんでしたよね…。」
しばらく覗いていると、耳を聾するような轟音が基地に響き、ハンガーから4機のFー15が顔を出した。
前の戦争で個体のほぼ半数が失われたF-15、実戦で明るみになった弱点を改良し現在運用されている機体は全てF-15JAとなっている。
「悪い知らせが無ければいいんだけどな。」
「何があったんスかね。」
すると紅莉が付けていたテレビの軍事放送が何やらざわめき始めた。
《ローゼンリア海軍船が日本空軍P-1B哨戒機にレーザー照射、ミサイルを発射したとの情報が入りましたー。ミサイルによる機体の損傷は確認せず、当該機よりF-15JA4機がスクランブル発進を要請を受信。》
「嘘だろ…、ローゼンリアがまた動き出したのか…?」
私達が慌てふためいていると、勢いよくドアを蹴り飛ばし、服装を乱したさっきの隊員さんが入ってきた。
「大変だ、人手が足りん誰でもいいからミサイルの装備を手伝ってくれー!!アンタら全員着いて来い!」
「わ、私達がですか?」
「あぁそうだ、分かったならさっさと来い!!」
彼女は勢いで落ちてしまった帽子を拾い、被ることもなくさっさと駆けていってしまった。
さっきまで能天気そうだった名も知らぬ隊員さんがやけに焦っている。
それほど恐ろしいことが起きたのだろうか。
「とりあえずみんな、行くよ。」
私は部屋の全員に声を掛け、遠くに見える先輩さんの影を追った。
「にしても、私、兵装なんて弄ったことないんスけどォ!」
「今はとにかく動くしかねーだろ!」
しばらく走るとあんなに速かった隊員さんに追いついた。
「若いな…。私はもう限界だよ…。良く考えれば、私がアンタらみたいな頃はこんなことになるなんて全くもって予想してなかったな…。」
息が切れて途切れ途切れ放たれる彼女の言葉はどこかもの寂しそうな様子だった。
「そこを左に曲がってくれ、そこのドアから外に出れる。」
サイレンが鳴り響く廊下を駆け抜け、彼女がドアを蹴破ると部屋から見たF-15JAの轟音が響いていた。
数人が忙しそうにミサイルを動かしている。
「そこのAMRAAMを4発Alpha3に運んでくれ。扱いは慎重だが迅速にな!」
そう私たちに言い残し彼女は忙しそうに走り去ってしまった。
「AMRAAMってこれですよね?」
未來さんがハンガー寄りにある3本のミサイルを詰んだ台車に駆け足で近寄って行く。
「うん、後ろ持つから前持ってくれない?」
「わかりました!紅莉さん、みなも、着いてきて!」
Alpha3に向け、台車を転がしていく。
学校では模擬弾での練習は幾度か行ったが、実弾となると、やはりモノの重みが違う。
鼓動が早まり、足が震えていたが、無事Alpha3まで辿り着いた。
「台車から外して、4人で持ち上げるよ!せーの!」
紅莉とみなもさんも頷き、搭載箇所にミサイルを持ち上げた。
火薬が詰まった、ずっしりとした手応えを感じる。
落としたりしたら元も子もない。
「これであってるよね!?」
紅莉が震えた声で心配そうに呟く。
「習ったことを思い出せ!」
息を合わせて発射機に引っ掛けスライドさせる。
これほど近くでF-15に近付いたのは初めてだ。
「いけた!」
「いや、まだです!」
未來さんが電気信号用のケーブルを慣れた手つきでミサイルと接続させる。
「搭載完了、残り3基です!!」
凄く新鮮な感じだった。初めて会ったのに、こんなに息が合うなんて。
そして残り3基も、無事、同じ要領で搭載することが出来た。
「これでいいのか…?」
「訓練通りやったし、大丈夫だと思いますけど…。」
するとさっきの隊員さんが再び私たちの元に走ってきた。
だが少し様子が違うようだった。
「なぁ、もしかしてあの人ってさ…。」
緑色の耐Gスーツを身にまとい、右手にヘルメットを抱えている。
間違いない、パイロットだ。
「ありがとう感謝するよ、完璧だ。名前を言い忘れてたね。三越ユキミ。伊丹基地125航空隊アルファイーグル所属。無事を祈っててくれよな。」
彼女は私達に向かい、軽く敬礼しミサイルを搭載したF-15に乗り込んだ。
それに応え私達も全員敬礼する。
「全員下がれっ!!」
後ろの方から誰かの声がし、出てきたドアの辺りまで引き返すとラダーやエルロンが滑らかにパタパタと動き1番機を先頭に4機が動き出した。
「か、かっこいい…。」
決して喜ばしい事態では無いが思わず口に出たその言葉。
いつか純粋な心で言える日が来るのだろうか。
4機は滑走路に出るとアフターバーナーを盛大に焚いてあっという間に大空へと舞い上がった。
「無事に帰って来れますように…。」
未來さんも不安そうな顔で空を見上げて呟いた。
優美に力強く羽ばたいた爆弾を抱えた戦禍の鳥達。
これは、戦争が残した悲愴の側面なのか。
それとも、安息への希望なのかー。
125航空隊AlphaEAGLE 三越ユキミ
私が求めていたのは果てる事無き空だった。
縦横無尽に空を飛び、何にも囚われない。
セスナの操縦資格を22歳で取り、初めて一人きりで空を駆け回ったことは忘れることの無い瞬間だった。
縛られ続けた青春から、ようやく抜け出せたような気がして。
そのことは多分、他人に話すようなことではないだろう。
とにかく空が広かった。
何も無い大空に独り投げ出されたあの時、自分の存在がようやく分かった。
けれども、幸せはいつか絶えることは世の摂理。
爆撃機が火を撒き散らし、戦車が建物を踏みにじり、ジェットの轟音が耳を斬り裂く日々の中、航空機の操縦資格を所持している私は、ある日空軍に予備兵として登録された。
しかし、空軍の人員不足は深刻化し、開戦して3年目、私は空軍のファイターパイロットとして正式に登録された。
私が最初に搭乗したT-4練習機、プロペラとは大違いの機動性が体全身を刺激し、空の上から放り出された、そんなような感覚だった。
基礎的な訓練が終わると、直ぐに実機訓練ということで、F-15Jを担当することとなった私は、日々練習を積み重ね、色々な人と交流を深めた。
今は生きてはいない人が殆どだが、彼らのことは決して忘れないだろう。
そして、私達はは初の実戦に出陣するのであった。
ー
空が狭かった。
あれだけ私を受け入れてくれていた広い空が、私を拒絶し始め、精神を蝕んでいった。
ミサイルの警告音が鳴り響き、もはやブレイクすることさえ忘れそうになる。
制空権やら防空網やら、この空という空間を制圧する。
そういう概念がやけに馬鹿馬鹿しく思えるようになった。
初陣において私は1機サイドワインダーで撃墜し、垂直尾翼付近に数発バルカン砲を撃ち込まれた。
損害は軽微なものの、少しでも羽が欠けると安定して飛ぶことは出来ない。
着陸時の安定感が皆無になり、未熟な私は前輪ギアを折ってしまい、前方胴体を地面に擦り付けて着陸する形となった。
自分を自分で制御出来ないという恐怖が私を襲い、その日から当分戦闘機が苦手になってしまった。
《哨戒機合流まで3分だ。Alpha1、2はP-1の護衛を、Alpha3、4は当該巡洋艦へ向かえ。》
《Alpha1、了解。》
《Alpha2、了解した。》
《Alpha3、了解だ。》
《Alpha4、り。》
離陸時は曇っていたのに雲を抜けると晴れ、何年も飛んでいるがこれだけは何故か慣れない。
哨戒機が確認したローゼンリア船は航空巡洋艦だとかいう話だ。
恐らく新鋭艦だろう。
随伴艦は2隻、ローゼンリア海軍駆逐艦ミェーチ、巡洋艦グラースのようだ。
《航空巡洋艦だとしたら護衛機が発艦している可能性もありますよね。》
《そうですね。管制さん、なんか写ってますか?》
《こちらで機影は確認していない。》
《らしいぞ。》
《Alpha1,2、哨戒機合流まで数秒。護衛体制に入れ。Alpha3,4、細心の注意を払って当該船舶に接近し、情報を入手せよ。》
Alpha1と2がP-1の方に機体を傾け雲の中に消える。
《Alpha4、レーダーに写ってないがステルス機が出てくる可能性もある。ミサイル警報に注意しろよ。》
《Alpha4、了解しました。》
私がそんな忠告を僚機にした時だった。
《Alpha3、レーザー照射されました!!》
《チッ、不味いチャフ、フレアをバラ撒け!!》
Alpha4が急旋回し、炎を撒き散らす。
《管制、すぐそこまで敵の戦闘機が聞てる!ステルスだ、Su-57か何かは分からんがレーザー照射を受けている!一刻も早く哨戒機を領空へ!》
《哨戒機は既に日本領空に入った、これ以上は危険だ、Alpha3、4基地へ帰投しろ!》
《Alpha3、了k...》
私の機体に張り付くようにして真っ黒な機体がどこからともなくやってきて、Alpha4に向かいアフターバーナーを光らせながら突進した。
《不味い…!Alpha4、回避しろ!》
《えっ、》
バルカン砲の音がした。
ローゼンリア機と思われる機体がAlpha4の右翼に向け数発打ち込んだようだ。
《右翼に被弾!!避けられない!》
フルスロットルで再び雲に消えたローゼンリア機、鼓動が早まり、手が震え始めた。
撃墜される恐怖では無く、それは戦争が始まる恐怖だった。
《ロックオンされました!》
《Alpha4、回避しろ回避っっ!!》
暑い雲の中を一筋の閃光が切り裂いた。