プロローグ
そして、時は過ぎ去り。五年の年月が経過した……
かつての少女は、今年で十七歳になろうとしていた。
マリスは何とか精神を持ち直し、それでもかつての幼馴染を忘れる事が出来ず、数多くの魔物を討伐する日々を過ごしている。
或いは、それも心に空いた空虚な穴から目を逸らす為なのかもしれないけれど。それでも何もしないよりは遥かにマシではあった。
そして、そんなある日の事。マリスは仲間の聖女、ホリィと王都の酒場で昼食を取っていた。
少し早めの時間ではあるが、何故かマリスはそわそわと心が落ち着かないのだ。
理由は分からない。ただ、その酒場に居れば何かが起きるような……
瞬間、酒場のドアが開かれ二人組の男が酒場に入ってきた。一人は槍を携えた軽装の男。もう一人はフルフェイスの全身鎧を着込んだ大剣装備の騎士だった。
鈍い銀色の全身鎧もあって、騎士はかなりの威圧感を放っている。しかし、マリスは何故かその全身鎧の白騎士から目が離せなかった。
何故か?分からない。けど、それでも彼は何処か懐かしい気配を持っているような?
「だからよ、スレイ。やっぱりあの場面では俺が敵を引き付けるべきだったと思うんだよ」
「ああ、分かった分かった。さっきからそればかりじゃねえか、ランスは」
スレイ———その名に真っ先に反応したのはもちろん他でもないマリスだった。
がたんっ!勢いよく立ち上がった瞬間、周囲の視線がマリスに集まる。無論、二人の視線も。
マリスの目は、混乱と歓喜とよく解らない何かに支配されて僅かに涙が滲んでいる。
そんな彼女の視線を受けて、白騎士は……
「マリス、か……」
「やっぱり、スレイなんだね…………っ」
それまでだった。マリスが耐え切れたのはそれまで。
やがて、マリスの目に涙が溢れ。やがて声を上げてマリスは膝から崩れ落ち泣いた。