5,はじまりの覚悟
契約の固有宇宙。その言葉に、僅かな沈黙が流れる………
それは、単に俺が自覚していないから……ではない。俺は確かに、はっきりと自分自身の固有宇宙について自覚している。いや、つい先程自覚したばかりだ。
自覚したのはつい先程、つまり目を覚ます前———無を認識したその時だ。
「その表情だと、どうやら自覚はあるらしいな」
「俺の固有宇宙が、その怪物を討つ可能性があるのか?」
俺の言葉に、シリウスは首を僅かに横に振った。どうやら違うらしい。
「正確には、僕と君の二人だけがその怪物を討つ可能性がある。原初の無と直結する固有宇宙を持つのは僕と君の二人だけだから……」
「貴方も、原初の無と……?」
「ああ、無限の広がりと多様性を求めた僕と、本当に大切な何かの為に他を切り捨てた君。その違いこそあるが根本的には僕と君は同質の固有宇宙を持っている」
無限の広がりと多様性を求めたシリウス=エルピス。
本当に大切な何かの為に、他を切り捨てた俺。
しかし、その根本は同じ。原初の無と直結する俺と彼は根本的には同質の存在なのだろう。
そして、だからこそ……
「根本的に同質の固有宇宙を持つ俺だからこそ、貴方は俺を選んだという事ですか?その怪物を打倒する為に必要だから?」
「ああ、だが今の君ではどうあっても奴には勝てないだろう。それほどまでに奴と僕達の間には圧倒的なまでの力の差があるんだ」
「力の、差…………」
「だから、君に問おう。もし、今より力を求める気があるなら僕と共に来ないか?」
「貴方と一緒に行けば、今より力を得られると?」
「約束しよう」
その言葉は、恐らく俺を試しているのだろう。此処で迷うようならきっとどのみちその怪物には勝てないだろうから。だから、彼は此処で振るいに掛ける気なんだと思う。
なら、俺は此処で覚悟を決めるべきだ。そう思い……
「分かりました、貴方に付いていきます」
この時から、俺とシリウス=エルピスの間に師弟関係が成立した。