5,討つ
怪物同士の戦いは拮抗していた。いや、意外にも徐々にスレイの方へと傾き始めていた。その状況に初めて少年の表情が困惑へと変わる。
何故?これは一体どういう事なのか?本来、どれほどの進化を果たそうと始まりの怪物であるアーカーシャの立つ次元へと到達するのは不可能だ。何故なら、彼の創造した世界で生まれた異能や固有宇宙は全て彼の持つ力の劣化でしかないから。
だが、それでもスレイは追いすがる。食らいついてくる。まるで、そんな事など意にも介さないとでも言わんばかりに。まるで、そんなものは知らんとばかりに。
この怪物は、それでも食らいついてくるのだ。
「何故だ―――」
思わず漏れたその疑問。それに対し、少年の脳裏に直接響くように声が聞こえた。
『———分かりませんか?』
「っ⁉」
頭に響いた声。それは、アーカーシャという本来の人格だった。
分かりませんか?そう、アーカーシャが少年の頭に直接問い掛けてくる。少年はその表情を初めて明確な苦痛へと歪めた。それは、致命的な隙となる。
当然、それを見逃すようなスレイではない。
スレイの斬撃が、少年の身体を袈裟に断ち切った。
「がっ⁉」
決着は一瞬だった。あまりにもあっけない幕引きに、少年は目をこれでもかと見開く。
そんな少年に、再びアーカーシャの声が響いてきた。
『私が撒いた種は、私の期待に応えて大きく芽吹いてくれた。貴方はそれを信じる事が出来ずに慢心をしてしまっただけの事です』
———馬鹿、な。
そう、声にならない声を上げ。少年はその人格を根幹から断ち切られ消滅していった。
そして……
「ありがとう、貴方のお陰で私は本当の意味で救われた……」
そう言って、現れたのはアーカーシャ本来の人格だった。




