4,失われる命とそれでも守りたい想い
戦いは佳境に入っていた。統一王国での戦いは現在、苦境に立たされており既に戦死者は十万を超えて更に増えていた。それでも、人々は諦めない。挫けない。
此処で挫ければ、全てが本当に終わってしまうから。そう弁えているから。だから、人々は決して諦めないし挫けない。此処で諦めてなるものかと猛る。
だが、それでも圧倒的物量差は覆せない。圧倒的戦力は覆せない。
故に、徐々に呑まれてゆく。絶望が、来る。
魔物の爪がマリスへと振り下ろされる。だが、その爪は間に割って入った別の人物を引き裂き真っ赤な血の花が咲き誇った。統一王国の第一王子であり、騎士団長のモルドだった。モルドはマリスを守れたことを誇るかのように笑みを浮かべている。
その姿に、マリスは目を見開いた。慌ててモルドへ駆け寄るマリス。だが、それをモルド騎士団長は片手で止める。
「今は私に構っている暇など無いでしょう?さあ、早く行って下さい……」
「しかし、モルド騎士団長———‼」
「私はもう、どちらにせよ駄目です。それに、貴女の目指す先は私ではないでしょう?」
「……っ、ごめんなさい‼」
涙を滲ませて去って行くマリス。その後ろ姿を見送りながら、モルド騎士団長はそっと自嘲の笑みを浮かべ言葉を漏らした。
「……そう、貴女の目指すべき場所は私ではない。あの男の隣の筈です。それが、一つだけ心残りではありましたけど。それでも、貴女を守れたことは私の誇りなのですから。せめて、それだけを胸に散るとしましょう」
そう言って、ゆっくりと騎士団長はその身体から力を抜いた。
———最後に一つ、貴女だけを愛していました。
そう、言葉を漏らして。統一王国第一王子であり、騎士団長モルドはその命を散らした。
その顔は、とても満足そうで誇らしげだった……
・・・・・・・・・
玉座の間、其処で統一王国国王は自身の息子であるモルドの死を察した。
「……そう、か。モルドよ、よくぞ頑張ってくれた」
「王よ、此処はもう危険です。どうかこちらへ避難を……」
「何処へ避難するというのだ?もう、何処にも避難する余地など無いわ。それに、実の息子が戦地で散ったというのに、父親である私が逃げる訳にもいくまい」
「ですが、王よ!」
「私が逃げれば、どの道指揮が乱れる。ならば、私も此処に残り続けるよ」
「……分かりました。では、私も最後まで戦い続けます」
「うむ、済まんな……」
「いえ、もったいなきお言葉」
そう言って、王の側近は剣を持って部屋を出ていった。その目には覚悟が灯っている。
そう、この世界で誰もが覚悟を心に灯して戦っているのである。そんな中、誰も逃げる訳にはいかないのだろう。だから、王も決して逃げる訳にはいかない。
そして、王にその覚悟を決めさせたのは実の息子のモルドなのだった。




