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聖約のスレイ  作者: ネツアッハ=ソフ
3,おしまいの契約
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3,スレイという名の英雄

 固有宇宙の融合。概念宇宙の統合(とうごう)。それは、遥か永い無限(えいえん)の時を生き続けた彼ですら知らない全く未知の新たな概念だった。それは、新たな異能(ちから)の発現。新たな概念を既存宇宙に刻み込むに等しい。


 概念創造、融合術式———それはこの原初宇宙に新たな概念として(きざ)み込まれた新たな体系だ。


 そして、それは多元宇宙を旅する中でシリウス=エルピスが編み出した回答(こたえ)でもある。はじまりの怪物を打倒するには、既存の方法をなぞっただけでは不可能(ふかのう)だ。何故なら彼が全てのはじまりに位置している限りは全ては彼の掌中にあると断定して良い。


 故に、彼を打倒するには最初から未知の事象で(いど)む他無いのだ。故に、その回答こそが三つの固有宇宙を概念的に融合、統合して三位一体(トリニティ)化させる事。


 三位一体化させた固有宇宙は概念宇宙としてより上位の異能へ昇華(しょうげ)する。


「……こんな異能。いえ、こんな概念は流石に知らないですね。まさか、このような術式を開発していたとは思いもしませんでした」


「永い間、封印状態にあったお前だ。その間、俺達人類は研鑽(けんさん)を詰んできた。お前はただそれを知らなかっただけの話だろう?」


「…………ええ、確かにそうですね。ですが、この程度(ていど)ではじまりの怪物を(たお)せるとでも?」


「倒せない道理(どうり)はない」


 そう、倒せない道理などない。その覚悟と自負(じふ)こそが、スレイが英雄(えいゆう)たる所以なのだ。


 スレイという名の英雄。彼の英雄物語なのだ。


 ……さて、此処(ここ)でスレイの固有宇宙についてもう一度だけおさらいしておこう。スレイの固有宇宙とは契約の固有宇宙だ。彼の魂は全てのはじまりの無と直結(ちょっけつ)しており、それ故にはじまりの無と対等の契約を交わす事により彼は無謬(むびゅう)の力を得るのである。


 では、此処で疑問を一つだけ投げ掛けよう。彼は、スレイははじまりの無との契約により何を捨てて来たのだろうか?スレイははじまりの無に契約として何を(ささ)げたのか?


 スレイは今まで、自身にとって不要(ふよう)となる全てを捨てて来た。


 では、スレイにとって不要な物とは何か?逆説的に有用な何かとは何か?


 スレイが捨てて来たもの。それはスレイにとって大切な存在(すべて)、つまりスレイの周囲に居る全ての人に対して抱いた想いとそれを無慈悲に(うば)う者に対する憎悪。それ以外の全てだ。


 それ以外の全てをスレイは捨てて来た。自身は大切な人達を守る為の(けん)である。無慈悲に奪う者を切り裂く為の剣である。自身はそれで(かま)わない。


 そして、それを成し遂げる為の契約を今まで遵守(じゅんしゅ)してきたのだ。


 それは、その契約は並大抵の覚悟では成し遂げられない。故に、スレイは人としての(せい)を全て捨てて来たのだという。人としての生を捨てた、それは文字通りの意味(いみ)だ。


 スレイが捨てたものは多岐(たき)に渡る。


 例えば、食欲。彼は契約を結んで以後は食事を取っていない。


 例えば、睡眠欲。彼は契約を結んで以後は一切(ねむ)っていない。


 例えば、性欲。彼は契約を結んで以後は一切の性欲を断っている。


 例えば排泄欲。彼は契約を結んで以後は排泄をしていない。


 そもそも彼は、スレイという人外ははじまりの無と契約を交わして以後は人として生きる上で欠かせない全ての欲求と行為を捨て去った。それは、並大抵の覚悟(かくご)ではない。


 そもそも、人として生きる上で大切な欲求を()て去れば。文字通りその先に待っているのは衰弱死という残酷な未来(みらい)だろう。


 しかし、その未来すらスレイは人知を遥かに超えた意思(おもい)の力により封じ込めた。


 それ故に、彼は人外(バケモノ)であり一振りの(つるぎ)なのだ。


 そして、それ故に彼の意思は人知を遥かに凌駕(りょうが)する。もはや通せぬ意地などない。


 彼は、大切な全てを守る為の一本の剣なのだから……

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