1,それでも諦めない心
「まあ、この結末は分かり切っていましたけど」
そう呟くのは、いっそシンプルと言って良いだろう衣服を身に纏った少年だった。大体10歳かそこらにも見える見た目の少年。衣服は見た目相応の平凡なもの。
しかし、その足元に倒れ伏す三人の青年が少年の異彩さ、異常さを際立たせている。超然とでも表現するべきだろうか?或いは異質とでも表現すべきか?それとも或いは、そのどちらでも無いか?だがそのどちらであったとしても、やはりこの状況では意味はそう変わるまい。
現在、全多元宇宙で同時に発生した魔物の異常発生。その元凶と戦う為に挑んだ三人の戦士。
シリウス、アマツ、スレイ。その三人が同時に挑んだ。同時に全力の一撃を放った。
……そして、その瞬間に気付けば敗れていた。全くの同時に、全く認識出来ない、それも全く理解出来ない不可思議な攻撃により三人は同時に敗れたのだ。
意味が分からない。理解出来ない。何だこれは?
そんな不可解さ。しかし、そんな事を考えている暇などない。こうしている間にも、刻一刻と陥落していく多元宇宙は増えてゆく。
この原初世界を構成しているのは、究極集合とも呼ぶべき多元宇宙の集合体だ。
原初世界を構成する粒子の一つ一つが宇宙であり、木々が、星々の一つ一つが多元宇宙だ。
原初世界が崩壊してゆく。崩れてゆく。
その宇宙の一つ一つが、消滅していく。それ即ち、この原初世界も刻一刻とその規模を狭めていくという事に他ならない。完全なる虚無が、範囲を広げていく。
これまでの人類の歴史を嘲笑うかのように、全てが崩壊してゆく。消えてゆく。それはまさしく悪夢というべきかそれとも地獄と呼ぶべきか。
ともかく、此処で諦めれば全てはおしまいだ。
無論、それを認めるほど三人は諦めが良くない。
「おや?まだ立ち上がりますか。ですが、もう他の全ての宇宙も陥落寸前ですよ?貴方がたもそうそうに諦めた方が早いと思いますが」
「僕達が、そんなに物分かり良いと思うか?」
「残念ながら、俺達は其処まで優等生じゃないんでね」
「……此処で、諦めるという選択肢なんてとっくの昔に捨ててきた」
それぞれが、それぞれの啖呵を切って立ち上がった。そんな三人に、少年は笑みを向ける。
「そうですか。では、存分に足掻いて下さい。そのあがきが無駄と理解出来るまで僕は何時までも何時までも付き合いましょう」
「そうか、だがこの世に無駄なものは存在しねえよ」
そう言ったのは、無銘ことシリウス=エルピスだ。
彼は笑みを浮かべ、全てを覆すべく切り札を切る。
「スレイ、全てを託す。上手く使えよ」
「了解した」
「概念創造、融合術式起動———」
そして、シリウスとアマツは光の粒子となり……スレイへと融合。概念的に統合した。
それは、固有宇宙という概念を超えて新生した新たな異能の誕生だった。




