6,刹那の掃討戦
結果、決着は一瞬で付いた。比喩ではない。天地を埋め尽くす、文字通り地平線の彼方まで覆い尽くさんばかりの魔物の軍勢が、ほんの刹那の間に掃討されたのだ。
その光景に、さしもの国王も王国の騎士達も呆然としていた。無理もない、魔物の軍勢は天地を埋め尽くし地平線の彼方まで覆い尽くす程の圧倒的数を誇る大軍勢だったのだから。
なら、それほどに敵は脆弱だったのか?それも否だ。
敵は一体一体が文字通り強者の部類に入る魔物だった。それこそ、たった一体だけでも王国の騎士数名がかりで立ち向かう必要がある程度には。そんな大物が、圧倒的大群で攻めてきたのだ。
さて、それを踏まえて現状を見直してみよう。
一体一体が騎士複数名でかからねばならない程の魔物が圧倒的大群で攻めてきた。それも天地を埋め尽くす大軍勢でだ。それが、たった一瞬で殲滅された。
王国の騎士団長ですら。否、勇者であるマリスですら一切見切る事が出来ない。
神速だとか、あるいは圧倒的大規模攻撃だとかそんな小さな領域の話ではない。
かといって時間停止を行使したのかと言われればそれも違うと勇者としての勘が告げる。
しいて言うなら、どこか見ている世界そのものが異なるような。戦闘の瞬間、どこか違う時間軸へと三人がズレたような。そんな異様な雰囲気だった。
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時間は戦闘直前にまで回帰する。
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さて、目の前には圧倒的魔物の大軍勢が居る。地平線の彼方まで、天地の全てを覆い尽くさんばかりの極めて圧倒的な大軍勢だった。かといって、一体一体が脆弱な魔物の群れでもない。
恐らく、一体だけでも近隣の村を壊滅させうる大物の群れだ。それが、圧倒的大軍勢で一つの意思に統率され攻めてきた。状況は絶望的だろう。まさしく終末風景が現実と化した、そのような状況に絶望しない者は一人として居ない筈。
事実、この光景に騎士団は全員絶望を表情に浮かべている。マリスもだ。恐らく、誰もこの状況を打破出来るなどとはつゆほども感じてはいまい。
ああ、だからこそ。だからこそこの状況を打開出来ればそれは奇跡なのだろう。
そもそも、俺達三人は誰もこの状況で一人として絶望を感じてはいないのだから。
無論、俺もだ!
刹那、俺達は同時に武器を構えた。俺と師匠はそれぞれ剣を、そしてランスは身の丈程の長槍を手に一斉に戦闘態勢に入る。
瞬間、意識が戦闘用に切り替わった。同時に俺達の時間軸が周囲から隔絶される。誰もズレた時間軸に居る俺達を認識する事は不可能となる。
俺達は一斉に、魔物の軍勢に切り掛かる。極大化された斬撃が、一太刀で億千万もの魔物の軍勢を薙ぎ払い一瞬で大群を何割か削る。のみでは無論ない。
俺達はそのような大規模攻撃を湯水のように繰り出し魔物の軍勢を一瞬で徐々に削りゆく。
そして、体感一分もかからない内に天地を埋め尽くす魔物の大軍勢は殲滅された。




