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聖約のスレイ  作者: ネツアッハ=ソフ
1,はじまりの契約
1/23

プロローグ

聖約のスレイ、はじまります………

 その村には一人の少年が()た。


 固有宇宙という異能(いのう)を誰しもが保有している世界で、少年だけが異能を持ち合わせていない。完全無欠なる無能者という烙印(らくいん)を押されていた。少年は、村の皆から馬鹿にされていた。


 しかし、そんな少年にも味方(みかた)は確かに居た。少年の両親と幼馴染の少女だ。とりわけ、少女は少年に対し常に味方となり(かば)い続けた。


 少女は少年に言った。


()い?スレイ。この世界で固有宇宙を持たない人間(ひと)なんて一人も居ないの。だから、きっと貴方にも素敵な異能を所持している筈。今はそれに気付(きづ)いていないだけだから」


「………うん、そうだね」


 けど、少年スレイからすればそんな事はどうでもよかった。


 例え、固有宇宙がなくとも。例え、完全無欠なる無能者であったとしても。それでも両親と幼馴染さえ居ればそれで良いと思っていた。それさえあれば、後はどうでもよかった。


 けど、そんな想いは容易(たやす)く砕ける事となる。想いは(かな)わない。


          ・・・・・・・・・


 ある日、王国首都にあるお城から国王直々に命令が(くだ)る。


 ”勇者の証”を持つ少女に、王城へと出頭(しゅっとう)するよう命令が下った。騎士三名に一般兵士十数名からなる集団が村に来たのである。もちろん、その少女とは幼馴染の事だ。


 ”勇者の証”とは、幼馴染の保有する固有宇宙だ。きわめて強力(きょうりょく)な固有宇宙で、彼女一人で王国の全軍すら上回る力を単独(たんどく)保有する。それほどに強力な力だ。


 村人たちは、幼馴染を村の(ほこ)りと大層喜んだ。しかし、幼馴染だけは()かない顔だ。


 その理由は、俺には分かっている。きっと、 俺の身を(あん)じているのだろう。


 だから、俺は彼女に精一杯(せいいっぱい)の笑顔で言った。


「行ってきなよ。俺なら大丈夫、マリスが帰るまでこの村で()っているから」


「………でも、」


「そんなに俺は(たよ)りないか?もっと信じてくれよ。俺なら大丈夫だ」


 そう言って、俺はそっと彼女を()き締めた。彼女を安心させる為、頭を優しく()でながら。


 心の中の、一抹の(さみ)しさを押し殺しながら。彼女(マリス)への想いをひた隠しながら。


「………スレイ」


「俺なら大丈夫だ。だから、俺を安心(あんしん)させるというなら必ず(かえ)ってきてくれ」


「うん、必ず!必ずスレイの(もと)に帰ってくるから!必ず帰って、また一緒に———」


 それは、きっと幼稚(ようち)なだけの口約束。でも、きっとそれが俺にとって原初の契約(けいやく)だった。


 そう、それが俺にとって。本当の意味(いみ)ではじまりだったんだ。


 ……


 ………


 …………


 そして、そのひと月後村は突如発生した魔物の大群によって壊滅(かいめつ)した。


          ・・・・・・・・・


 ()えている。村が燃えている。どこもかしこも火の海だ。


 そんな中、母は俺を連れて()げていた。父は、魔物の大群を食い止めるため戦っている。村の大人たち全員が一丸となり戦っている。


 戦闘経験のない村人とはいえ、全員が固有宇宙持ちだ。無能力者の俺など()ではない。それこそ大人たち全員が集まればそこそこの戦力(せんりょく)になりうるだろう。


 しかし、それでも()されている。それでも食い止めきれない。


 それほどに、魔物の大群は強大だった。そして、


「っ‼?」


 逃げた先には、漆黒(くろ)の外骨格に身を(つつ)んだ人型の魔物が居た。


 他の魔物たちとは決定的に異なる。何処(どこ)か異質な魔物だった。


 母親が、俺を(かば)うように前に立つ。母が持つ固有宇宙は戦闘向けではない。むしろ、後方からの支援に向いているサポート向けの異能(ちから)と言えるだろう。


 だが、それでも母は俺の前に立つ。我が子を、俺を(まも)る為に。


 ………しかし、それでも魔物には()てない。勝敗は一瞬で付いた。


 いや、それはもはや勝負とすら()べないものだった。


「っ、あ………」


 胸を手刀で貫かれ、母は物言わぬ死体と成り果てた。即死(そくし)だった。


 その顔は、絶望(ぜつぼう)に染まっている。いや、或いはその方がよほど幸せだったかもしれない。


 何故(なぜ)なら、我が子が殺されるのを見ずに済むのだから。子が惨殺(ざんさつ)される姿を見ずに済む。それだけでまだよほどマシというものなのかもしれない。


 ただ、守れなかったという絶望さえなければの話だが。


 魔物の爪が、鋭く(ひらめ)いた。それは狙い違わず俺の胸を引き()く。


 ………ああ、彼女との約束(やくそく)を守れなかった。


 最期に、そんな事を考えながら俺の意識は落ちていった。


          ・・・・・・・・・


 そして、それからしばらく後。王城に村の壊滅(かいめつ)が知らされた。


 当然、その知らせはマリスも()いている。


「あ、ああ………っ」


 膝から(くず)れ落ちるマリス。その目からはらはらと溢れるように涙が(こぼ)れ落ち、


「あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああぁぁぁぁぁっーーーーーー‼‼‼」


 絶望に満ちた慟哭(どうこく)が、城内に(ひび)き渡った。

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