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かみ合い参観 

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 つぶつぶは、取り繕うことって得意かしら? 個人的に、あまり好きじゃないんだけどね、ウソをついているみたいで。

 でも、素直に全部見せたら、ドン引きされるのは目に見えてる。ぶっちゃけ、家以外の空間じゃペルソナかぶりまくりね、私。こうしてつぶつぶと話しているのも、「つぶつぶ用ペルソナ」だし。

 

 ――ん? それって、俺に気があるってことか?

 

 ぷわーっはっはっは! 気は気でも、なんの気を期待しているのかしら? 

 ポジティブシンキングもいいけど、ネガティブシンキングも頭の片隅くらいに用意していて、いいと思うわよ。私にもいえることだけど。

 自分の考えていることと、相手の考えていること。合致していればいいけれど、違うときにはなかなか悲惨。

 私も昔に、そんな経験があってね。自分の意にそぐわない気持ち悪さと、意に沿っちゃったときの「まずった」感がひどかったわ。

 その思い出話、聞いてみないかしら?

 

 

 私は昔から自分の時間が、ものすごく大切だった。

 必要最低限の用事だけこなし、あとは休むなり遊ぶなりで、自分の時間を使う。その際、誰かに邪魔されるのが、このうえなく嫌いなの。

 記憶にないけど、そうやって無理やり何かさせられそうなときの私は、手足をめちゃくちゃに振り回し、泣いて暴れたそうなのね。両親としても、そうやって「いやいや」されては、強く出ることができない。

 それを「好き勝手やっても構わない」と、小さい私が理解するのに、時間はかからなかった。おかげで今以上にわがままを振るっていた私は、身だしなみなどを気にしない、ガキ大将気質な女の子に育っていたと思うわ。



 そんな私が小学校にあがったころ。恒例の授業参観の日が近づいてきた。

 ギャラリーがいるとなると、目立ちたくなるのもまたガキ大将。まじめに答えて優等生アピールもいいけれど、わざとボケ解答をしてウケを狙っても面白そう。

 ひそかに考えを巡らせる私の前で、母親は前日、やけに大わらわだったわ。いつもはバランスのとれている夕飯も、その日はインスタントもの――嫌いな野菜を食べさせられない分、私にとってはひそかにうれしかったけど――で、夜にどこかへ出かけていった。私が寝るまでの間、帰ってこなかったの。


 そして翌日。

 いつもより1時間も早く母親に起こされた私は、不機嫌むんむんな態度で、文句を立て続けにぶつけたわ。そうすれば、母親はほどなく折れて、私が好き勝手できるターンだと、身体にしみこまされていたから。

 でも、その日の母親は頑固だった。私がその場を動かないとみるや、別室から姿見を運んできて、手ずから寝間着を脱がしにかかってくる始末。


「たくさんの人に見られるんだから、この日くらいはちゃんとしないとだめよ」


 もっともな言葉だろうけど、当時の私には腹の立つ説教にしか思えない。

 参観といえど、ギャラリーがいる以外は、普段の授業と変わりないはず。それにこれまでの参観のときだって、私を放っておいたくせに。

 今回に限っては、やれ服を整えろ、やれ髪をとかせだの、妙に「いい子ちゃんぶりっ子」しろという。

 自分の時間を侵されている感覚に、私は胸がむかついてくるのを感じていたわ。


 ――これで答えまで整えてやるなんか、面白くもなんともない。だったら、ひねくれ戦法でいくわ。



 昼休みを挟んでの5時間目。

 ぞろぞろと集まってくる保護者たちと、それを見て自分の親がいるかどうかで、ざわつき出すクラスメートたち。

 私は朝からやさぐれモードで、親たちの方を一顧だにしない。自分の親がいるかどうかも確かめず、ただひたすら授業のへんてこな答えだけを考えている。


 ――私を怒らせたんだから、今日一日、まともに口を聞いてあげないわ。後悔しなさいよ。



 やがて授業が始まった。

 理科の顕微鏡で見る、微生物のことだったわ。顕微鏡各所の名前を確認した後、先生がラミネート張りした微生物の写真をいくつか黒板に張り、私たちの誰かに当てて、答えを求めてくる。


「はい、じゃあ次のこれは?」


 いつもよりめかし込んだ先生が、とうとう私にあててきた。

 大きい円のボディの中に、いくつも浮かぶ緑色の生殖細胞。ボルボックスね。

 けれど、ここぞとばかりに私は立ち上がるや、「ぴろ〜ん」と鼻の下に人差し指をあて、そのままほおをなぞりながら、虚空へ飛び出させた。


「おひげまわりよ〜、ぴろ〜ん」


 私が考えた、境界点がここだ。

 ボルボックスの和名は、「オオヒゲマワリ」。授業では習っていないけど、間違いはいっていないはず。そして、自分から一発芸を仕込むこの道化っぷり。

 どっと、瞬間風速的な笑いが出た。チラ見した保護者の中でも、くすくす笑う人もいて、母親は少し顔を赤くしている。私はちょっと、溜飲が下がるのを覚えたわ。


 けれど、先生が私を座らせ、別の人を指すまでの間。

 私の視界の端にただ一人、まっすぐに私を見据えて動かない保護者の方がいたの。

 その表情からは、なにも読み取れない。ぼーっとするにしては、私をガン見しすぎている。そして見間違いじゃなければあの人、ぜんぜんまばたきをしていないような……。

 腰を下ろした私だけど、いままでのように気楽には構えられなかった。さっきから背中のあたりが、チリチリしている。

 ちょうど体育とかのとき、間を開けないで人が背後に立った時と同じ。すぐにこすられたり、くすぐられたりするんじゃないかと、肌と毛が身構えちゃって、私は残りの授業時間を、服が汗に染みるのを感じながら過ごしたの。



 授業終わりの号令がかかったあと、私はすぐ振り返って保護者たちを見やる。

 この後は、すぐに帰りの会だ。抵抗がない子だったら、そのまま待っている保護者の方と一緒に帰ることが多い。

 でも私は自分の親よりも、あの気味の悪い保護者を探していた。


 ――どこにいるのか、知っておきたい。でも、もし見つけちゃったときに、目が合わないようにしたい。


 そんな手前勝手な願いのまま、教室を見回して気配がないことに、少しほっとする。

 母親の姿もなかった。家も近いし、きっと先に帰っちゃったんだろう。

 そう思うと、今度はさびしくなってきてしまう私。


 ――今朝から態度悪くしてるんだからさ。ちょっとは心配して、声をかけに来てくれてもいいのに。


 かばんをひっつかんで、ぶー垂れながら昇降口を出る私。保護者につられて帰る、他のみんなをちょっと恨めしげな顔で見送りつつ、肩を落とし気味に校門をくぐったときだった。



 ぬっと、校門の影から出た腕が、私の行く手をさえぎった。

 はっと見上げて、そこにあったのは母親の顔。

「待っていてくれたんだ……!」と、先ほどまでの不機嫌はどこへやら。その手をつないでしまう私。

 もう今朝のことは怒っていないんだ、みんなと同じように、一緒に帰れるんだ……!

 

 そんな期待もつかの間。

 握り返す握力のあまりの強さに、緩みかけた私の表情は、たちまちこわばり直す。

 母親の顔は私を見据えたまま、ぶるぶると震え出し、たちまち参観のときに私を見つめていた、あいつのものへと変わっていく。

 振り払おうともがく私の前で、あいつの顔やつかんでいる手には、緑色のジンマシンのようなものが浮かび上がり出したわ。それはちょうど授業で見た、先生の用意してくれた、ボルボックスの写真と同じような……。

 

 

 その瞬間、あいつの背後から出てきた別の腕が、こめかみを殴り飛ばす。

 横殴りに倒されたそれは、アスファルトへぶつかったとたん、ごろりと首が取れてしまったの。

 血を出さないその断面は、真っ黒い空洞。なおも広がる緑色のジンマシンだったけど、その真っ黒い瞳だけはやはりまばたきしないまま。


「だから、ちゃんとしなさいといったでしょ!」


 眉間へのしわの寄せ方、間違いなく母親のものだった。

 ぐっと手首をつかまれ、引っ張られるままの私はふと振り返ったけれど、首が取れてしまったあいつは、もう影も形も残っていなかったの。


 お母さんはいったわ。あのときのおちゃらけた態度が、たまたまあいつの目を引いてしまったって。

 取り繕うことは、なにもご機嫌取りばかりじゃない。目立たなくして、余計なものに注目されないためにも大切だとね。



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