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1.『ハンナの日記』一部抜粋

・3月3日晴

 今日は私にとって最高に記念すべき日! あの憧れの皇太子殿下、オストアンデル様との婚約が内定した日で、一生の記念日になるわ。最高にハンサムで、それでいて優しい。非の打ち所が無いとはこのことね。あの方に似合う相手はこのマースト=カートル帝国広しといえども私、ハンナ・モーゲラ以外に絶対あり得ない!


 嗚呼、この幸福を誰にも邪魔はさせないわ。公爵家という名門中の名門、そして美貌、知性、教養。誰が叶うもんですか。もし誰かが私の邪魔をしようものなら何があっても排除してやる!



・4月1日晴のち曇り

 今日は学院の入学式があった。可愛らしい新入生を見ているとつい虐めたくなっちゃう。なーんて、心の広い私はそんなことは絶対にしない!


 私の寮に入って来た新入生達はみんな良い子ばっかり。公爵令嬢にして、未来の皇太子妃の私に対してどの子も明るくて礼儀正しく挨拶してくれる。とっても良い気分。


 でも一人だけ大人しい子がいた。あのスワルテ・バートルとかいう子。何だか気に入らないから後で困らせちゃおうかな。



・4月3日晴

 スワルテと初めて話した。伯爵家の出身だけどそんなことはどうでも良い。生まれはカートルだそう。それだけで私は無理と思った。だってそうじゃない? 都会で文化あふれる我らがマーストに対して、カートルは田舎も田舎。ド田舎なんて言葉が生易しいくらいの辺境なんだから。


 私は知ってるわ。あそこ未だにレンガ造りの家が無くって掘っ立て小屋に住んでるって話よ。それに鉄じゃなくて石器を使ってるって聞いた。本当あり得ない。


 一番ひどいと思ったのは字も知らない野蛮人ばっかりってこと。そんな人間がどうしてこの名門学院に入学できたのかしら。きっと裏口から泥棒みたいにこっそり入ったに違いない。本当あり得ない。



・4月29日雨

 新入生達も学院での生活に慣れて来たみたい。序列や秩序というものを理解して来たのか、みんな私に我先にと挨拶してくれる。感心感心。でもあのスワルテだけは違う。表面上は同じく挨拶してるけど、絶対私のこと妬んでる。目付きからしてわかるもの。絶対後で懲らしめてやる。



・5月3日曇り

 スワルテが図書委員になったと知った。生意気よね、字も読めないようなカートル出身のくせに。だから私はちょっと虐めてやろうと思った。それで夜、校舎へ忍び込んでわざと図書室の本棚にある本をみんな床へ落としてみたって訳。図書委員なら全部きれいに並べ直さなくっちゃね。本当可哀想。



・5月4日晴

 朝から良い天気。でも気分は最悪だった。昨日の夜散らかした本がどうなっているか気になって見に行ったらスワルテが片付けてる。それだけならまだ良い。オストアンデル様まで一緒になって片付けてるってどういうことなのかしら。


 あの人はそれだけ心が優しい方だから放っておけないってことなんだろうか。やっぱり私にピッタリの人だと思う。でもちゃっかり仲良くなってるスワルテだけは許せない。



・5月17日晴のち雨

 スワルテをどうしたら困らせてやれるか、そればかり考えてしまう。でも良いことを聞いた。あの子、蛇が大の苦手だそうね。私も苦手だけど、こんなことでも一緒なのは嫌な気分。小間使いに小銭を握らせてスワルテの机の中に入れてやった。あの子の怖がる顔が見てみたい。



・5月18日曇り

 朝からあの子の絹を裂くような声。本当いい気味。朝から気分が良くなっちゃった。


 でもまたオストアンデル様がやって来たの。あの子のために蛇を机から出して外へ逃がしてやった。あの方は動物好きで優しい方なのね。それに比べてあの子はブルブル震えてオストアンデル様に近付いて。何様のつもりよ。



・6月3日雨

 今日も朝から雨。本当気が滅入りそう。滅入ると言えばテストの結果が発表になった。私は下から数えた方が早い位置。うちの学年の一位はまたオストアンデル様。あの方、優しいだけじゃなくて勉強もできる本当に素敵な方。


 それはそうとして、あの子が問題なのよね。ちゃっかり一年生の一位を取っちゃって。それだけで誇らしげな顔してすごく生意気。しかも一位同士ってだけであいつがオストアンデル様と親し気に話しちゃって。本当に今日は嫌なことばかり。



・6月9日晴

 学院の中庭であいつがオストアンデル様と話してるのを見てしまった。なんで私とじゃなくてあいつとばかり話したがるんだろう。しかも野良猫を一緒になって撫でている。オストアンデル様もあんな奴と一緒になるのやめれば良いのに。


 動物くらい私だって可愛がれる、と思って野良犬にエサをやろうとしたら逆に噛まれた。なんで私ばっかりこんな目に遭わなきゃいけないの?



6月30日曇り

 オストアンデル様がピアノを披露してくださると聞いて喜んで音楽室へ行った。そしたらあいつがいた。なんで婚約内定者の私だけじゃなくてあいつまで呼ぶのか、ちょっとその神経があり得ない。


 しかも伴奏に合わせて歌えって言うの。私が音痴なの知ってるくせに。それでいてあいつは声が綺麗で歌が上手い。これじゃ私の面目丸つぶれじゃない。



7月18日雨

 また憂鬱な試験がやって来る。今度はあいつには負けられない。と言っても今更勉強したって成績じゃ勝てっこないのはわかってる。ならやることはもうこれしか無い。職員室から試験問題を事前に盗んであいつのカバンに入れてやるんだ。そうすればもうあいつは身の破滅決定。本当、なんでこんな簡単なこと思いつかなかったのか馬鹿みたい。



7月19日雨のち曇り

 昼頃、一年生の教室で騒動が起こっていた。そりゃそうよね、私が仕組んだ通りなんだから。でもあいつが困ってるところを見たくなって、つい顔を出しちゃったのよね。そしたらもう大爆笑したくなるのを抑えるのに必死なくらい、あいつが顔を真っ青にしてるの。本当いい気味よね。


 駄目押しで「この形式の図形解析は難しいから、つい問題用紙も盗みたくなるわよね」って言ってやったの。そしたら先生から「どうしてお前がそれを知ってるんだ」って言われてすごく怒られた。なんで私が怒られなきゃいけないの? 納得行かない。



7月20日晴れのち曇り

 問題用紙を盗んだ件が大事になったらしくて父上や母上からの雷が落ちた。おまけにしばらく学校にも行くなって言われた。貴重なオストアンデル様との学院生活が一日二日と無駄になってしまう。



8月1日曇り

 あれから学院へ行くことも無く夏休みに入ってしまった。ずっと家に籠りっぱなし。本当に静かで退屈。と、思っていたら居間で父上と母上が言い争う声。本当うるさくて嫌になる。



8月8日晴

 夜中に父上と母上に起こされた。重要な話があるという。眠い目を擦って起きる。


 何でも父上が投資していた会社が不渡りを出して、保有していた株が全て紙くずになったそうだ。このままだとうちのお屋敷も抵当に入るということで一先ずトチ=メンボ―にある別荘へ避難することになった。



8月27日晴

 この別荘へも見慣れない男たちがやって来るようになった。新聞を読んだら、我がモーゲラ公爵家の破産がかなりのスキャンダルになっているそうだ。あちらこちらに借金をしていてそれを踏み倒していたらしい。



9月2日曇り

 新聞で知った。我が家のスキャンダルで皇帝陛下が大変お怒りらしい。貴族の体面を汚すとして公爵位はく奪も考えているとのこと。そうなって来ると私とオストアンデル様の婚約は一体どうなってしまうの?



9月21日雨

 朝から雨。私も泣きたいくらい。ほとんど身一つで外国へ行くことになった。私の元婚約者オストアンデル様にせめて一度くらい会いたかった。でももう無理。馬車に揺られながらこれを書いています。でももう書くことも無いと思う。


 ただ言えることはあいつが憎い。本当に憎い。私がこんな目に遭っているのに、あいつがのうのうとオストアンデル様の傍にいるのかと思うと本当に悔しい。悔しい。殺してやりたいくらい。

 

 神様、私が何か悪いことをしたと言うのでしょうか。本当にあり得ない!

沢山の作品の中から本作をお読みいただきありがとうございます。


第三話でオチが付きますので、是非そこまでお読みくださいますよう願います。


また後学のため感想等いただけますとありがたいです。

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