剣を振るっただけで敵が消えた
「消えた……本当に……」
たったいま起きた現象に、俺は驚きを隠すことができない。
聖剣ヴァルボロス。
それすなわち――この世に存在しないはずの聖剣。
振るうだけで対象の存在を消すなんて、それこそ聞いたこともない能力だ。
でも――この剣はやってみせた。
この世に存在するはずのない、圧倒的な現象を。
「あれ? 消えた……?」
「お……おい、おまえ、なにをしたんだ……?」
さすがに驚いたのだろう。
残った兵士たちが、口々にどよめきを発している。
「おい外れスキル野郎! 答えろ! いまなにをした!」
「…………いや。ただ剣を振っただけなんだが……」
「はぁ!? ふざけんなよてめぇ、俺らをおちょくってんのか!」
「いやいや、そんな余裕ねえっての……」
こちとら、剣もろくに握ったこともないド素人だ。無我夢中で剣を振るっていたら、いつの間にか兵士が消えていただけのこと。
ちなみに兵士数は残り二人。
さっきはうまくいったが、正直、どうやって消すことができたかわからない。
そういう意味では、依然として油断のできない状況だろう。強力な武器があるとはいえ、いまの俺ではうまく使いこなすことができないからな。
「頼むから、引いてくれないか」
だから俺は、交渉に出ることにした。
「正直、無用な戦いは避けたいところでね。引いてくれると助かるのだが」
「む、無用な戦いだとぉ……!?」
しかし、兵士は怒り狂ったように目を血走らせるのみ。
「はん……余裕そうだなぁ? クズの分際でよ」
いやいや違う、そうじゃない。
ただ本当に引いてほしかっただけなのだが、兵士は煽られたと判断したようだ。
再び戦闘の構えを取り、俺に殺意のこもった視線を向けてくる。
「こりゃあ……参ったな……」
ルナを連れて、この二人から逃げられるとは思えない。後々のことを考えても、ここで戦うのが一番か……
そう判断し、俺も同じく戦闘の構えを取る。もちろん戦闘の心得など持ち合わせていないので、見よう見まねだ。
「はん……やはり素人か……!」
兵士が忌々しそうに口元を歪める。
「てめぇらみたいな《外れスキル所持者》はな、おとなしく俺らの玩具になってりゃいいんだよ! それが世界の常識なんだからな!」
「世界の、常識だって……?」
「当然だろうが! オルヴァー皇帝陛下がそうお決めになったのだからな!」
そう。
あいつの言う通り、俺やルナの境遇はすべてオルヴァー帝王の決めたこと。
外れスキル所持者は無用。
生きるに値しないゴミ。
だからどんなにこき使ってもいいと――国のトップがそんな声明を発しているんだ。
だから俺たちはずっと下に見られてきた。生きるに値しないゴミだから。
そしていま、ルナのように虐げられている者は多くいる。
「世界の常識だと……。ふざけるのも大概にしやがれよ……!」
俺は怒りに震える自分の声を聞いた。
「だったら……そんなもんひっくり返してやるさ! たとえ帝王が相手でもな!」
「なんだとぉ……!?」
かっと目を見開く兵士。
「はっ、やはりクズはクズだな! 帝王様は絶対! そんな世界の常識もわからねぇとは!」
世界の常識……か。
でも、たしかに俺はさっき《聞いた》んだよな。
この世にはいくつも世界があって、この聖剣ヴァルボロスのように、俺たちでは到底信じられない力を持つ物だって存在する。
いままで常識だと思っていたことが……別世界では見当違いの可能性だってあるんだ。
帝王の魔手が及ばない、平和な場所で暮らせたら……どんなに幸せだろうか。
「ふう……」
だが、いまそれを考えるのはよそう。いまだ予断の許さない状況だからな。
「死ねぇぇぇぇぇええ!」
そう思っている間にも、兵士がすさまじいスピードで突進をかましてくる。その勢いたるや、やはり素人の俺には手に余る。
――が。
俺が戸惑っている間にも、剣はほのかな輝きを発し。
残り二人の兵士に、細い可視放射を放った。
「ぬおっ……!」
「なんだ、これはぁぁぁあ!」
自身を見下ろしながら、それぞれ絶叫をあげる兵士たち。
そう。
さっきの消える現象が、またしても発生したのである。
「く、くそぉぉぉぉおおお!! 貴様、なにをした!」
「外れスキルの分際で、余計な――」
身体が完全に消えてなくなるそのときまで、兵士たちは大声をあげているのだった。
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