追放、そして外れスキルの覚醒
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「レイン・アルファルト。おまえに授けられたスキルは――《エミュレーター起動》だ」
……この日のことを、俺は一生忘れないだろう。
18歳の誕生日。
神官から告げられたその言葉は、あまりにも衝撃的だった。
通常、この歳になると誰もがスキルを授けられる。その能力に応じて、国から強制的に職業を割り振られるのが習わしだ。
戦闘系のスキルを持つ者は軍人に。
生産系のスキルを持つ者は鍛冶職人や商人に。
そのなかにおいて――俺に与えられたスキルは《エミュレーター起動》という前例のないスキルだった。
「神官様。これはいったい……どんなスキルですか?」
「わからぬ。発動してみるがよかろう」
「は、はい……」
スキル発動。
――エミュレーター起動。
言われた通りに、俺はスキル名を心中で唱えた……が。
なにも起きなかったのだ。
もちろん、攻撃力アップなど、スキル名を唱えただけで変化のわからない能力もある。
しかし……
このスキルを授かってからというもの、ついぞ詳細が判明したことはなかった。戦闘系や生産系など、ありとあらゆるパターンを想定してスキルを使ってみたが、さしたる変化は訪れず。
――外れスキル所持者。
ついに俺は、無能者として世間から冷たくあしらわれることとなった――
★
数ヶ月後――
「レイン・アルファルト! 貴様を我が国から追放する!」
兵士から告げられたその言葉は、あまりに現実味がなかった。
国から追放……?
どういうことだ……?
「つ、追放って……それはいったい……」
「口答えするな! 貴様に拒否権はない! とっとと出て行け!」
いや。
いやいやいや。
おかしいだろ。
いきなり小屋にやってきたかと思えば、国から出て行けだと? 意味がわからない。俺はこれからどうやって生活していけばいいのだ。
だがおそらく、俺に拒む権利などないのだろう。
――ウガバーン帝国。
兵士の言うことは絶対であり、逆らうことは許されない。拒否すれば間違いなく、《矯正所》という名の牢獄に閉じこめられる。そこに待ち受けているのは、語るも恐ろしい拷問の数々。
その兵士を統括しているトップが――オルヴァー帝王。
ウガバーン帝国における最高責任者であり、人民のすべてを恐怖で押さえつける絶対者。すこしでも反抗しようものなら、問答無用で処される。絶対的な支配者だ。
「帝王様が仰っているのだよ。我が国にいらぬゴミは追放せよ……とな。そのゴミのひとりが、貴様だったというわけだ」
「く……」
ゴミ。
ひどい言われようだが、その理由はよくわかる。
俺は俗にいう、《外れスキル所持者》だから。
無能者として、ろくな家も与えられず、こんなボロボロな小屋に押し込まれてきたから。
それでも、荷物の運搬など、できるだけの雑用はやってきたつもりだ。オルヴァー帝王はかなり過激な思想の持ち主なので、すこしでも国に貢献しない者は容赦なく処刑する。
だがその代わり、俺のような無能力者でも、一定の衣食住は享受できていたわけだ。
「俺のような人間はもう養えない……そういうことですか」
「やかましい! 外れスキル所持者の分際で……殺されたいのか!!」
「ぐっ……」
駄目だ。
なんのスキルも持っていない俺では、兵士に刃向かうことは絶対できない。この兵士も、間違いなくなにかしらの戦闘スキルを持っているからな。
このようにして、俺は家を――国を追い出され、なにもかもを失ったんだ。
★
「くっ…………」
呻き声を発し、俺はその場にうずくまる。
故郷を追放されて丸一日。
人気のない密林を、俺は行く宛もなくさまよい歩いていた。
国から追放するといっても、国外へのルートをつくってくれるわけではないようだ。
孤独感と空腹感を味わいながら、どこかで野垂れ死ね――そんなふうに言われているようにさえ思える。
実際、俺はもう体力の限界だった。最近支給された食事もかなり貧相だったので、もとよりろくな体力を持ち合わせていないのだ。
くそ、駄目だ……身体が、動かない……
湿った土の匂いが、俺の鼻につんと突き刺さる。
こんなところで死ぬのは嫌だ。
だけどもう、立ち上がることさえできない……
「やぁぁぁぁああああ! やめて!」
そのとき、ふいに女性の悲鳴が聞こえてきた。
「へへ、なに抵抗してやがる。俺たちと遊んでくれたらよ、国外追放をなしにしてやるってんだ。安い取引だろ?」
「嫌です! や、やめてくださいっ!」
この声は……聞き覚えがあるな。
ルナ・ミューゼ。
俺の幼馴染みにして、外れスキルの所持者だ。近くの小屋でつつましい日々を送っていたはずだが、会話内容を察するに、彼女も国外追放にあったのか……?
「へっへっへ、いい女じゃねえか。前からすげえすげえとは思ってたがよ」
……だが彼女の場合、すこしばかり状況が違うみたいだな。
なまじ見た目がいいだけに、兵士の欲望の対象にされているようだ。彼女の望みは関係なく、ただ兵士たちの欲を満たすためだけに……
「…………」
我ながら、本当にどうかしてるよな。
身体はもうボロボロなのに――それでも立ち上がっちまうなんてよ。
「やめろ……」
俺は兵士たちのもとへ歩み寄ると、できる限りの大きな声を発した。
「やめろーーーーっ!」
「ん……」
兵士たちの視線がひたと俺に据えられた。
「オレンジ色の服……なんだよ、誰かと思えば《外れスキル所持者》か。どうした、なにをしにきたんだ? ん?」
「ルナを……離せ……」
「離せだとぅ……? くく、ははははははは!!」
いっせいに笑い出す兵士たち。
「《外れスキル所持者》の分際で! もしかしてこの女を助けにきたのか? んんんー?」
よほど愉快なのか、ひとりの兵士がこちらに歩み寄ってくる。
「レイン……! 駄目、逃げて……!」
ルナの悲痛な叫び声が響きわたる。
この後に及んで僕の心配をしてくれているのか。
相変わらず呆れた優しさだ。だからこそ、俺なんかよりも、彼女には生きていてもらわないと……!
俺は拳を握りしめるや、兵士たちへ走りだす。
勝てるとは思わない。
けど、すこしでも隙を見出すことができれば――!
「はっはっはっは! 泣かせるねぇ! お涙頂戴かよぉ?」
だが。
両者の実力差は、俺が考えるよりはるかに開いていたようだ。
俺ができる限りのスピードで振り下ろした拳が、いとも簡単に受け止められる。
「俺にはどうしても許せねぇもんがあってなぁ……。なにもできねえクズのくせに、女をたらしこむクソ野郎……くっそ、なんで俺だけモテねえんだぁぁぁぁぁああ!」
意味不明な奇声を発しながら、兵士の拳が俺の腹部に突きつけられる。
「ぬごっ……」
「くそっ、くそぉぉぉぉ、死ねよぉぉぉぉおおおお!!」
兵士の暴走は留まることを知らない。日頃の鬱憤を晴らすがごとく、俺に容赦ない殴打を叩き込み続ける。
「くぅうう……」
元より満身創痍だった俺は、この数発だけで死にそうだった。意識が朦朧とし、視界がぼやけてくる。
「ははははは、あいつ暴れすぎだろ」
「仕方ねえさ。最近も振られたばかりみたいだしよ?」
僕が生死の境をさまよっている間も、他の兵士たちは笑い声をあげるばかり。隙など作れるはずもなく、ルナは依然、兵士の腕のなかだ。
「レイン、やだ、やだ、死なないで……!」
――ル……ナ……
彼女の名前は、しかし僕の口から発せられなかった。声を出すほどの余裕もなかった。
俺は――死ぬのか。
なにもできず。
なにも成し遂げることができず。
いいように扱われて。
ゴミのようにこき下ろされて。
それでも、俺なりに頑張ってきたのに――
なあ。
俺は、本当に、生きる価値もないゴミだったのかよ……
そのときだった。
俺の視界に――見覚えのない文字列が浮かんできたのだ。
――――――
完了。完了。
スキル《エミュレーター起動》の使用準備が整いました。
世界の操作が一部可能です。
行いますか?
――――――
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