変わりゆくもの
その飲んだコーヒーがまずかったわけではなく、ただ人生の苦しみのように苦味を飲み込んでしまったように思えたのだ。
「羽鳥さんは基本、信頼をして託すというよりは厳選して記事をしているので、何処か人が変わっても残ってほしいと思っている部分があるんだと思います。」
「期待が大きくなるんですよね。それに耐えきれなくなってしまって文化部に離れるという人もいるみたいですよ。諏訪さんは違いますよね。」
諏訪は適正を探っているようにも思えてならなかったのだ。それすらもかからなかった人は地方に飛んでもらって本社を目指すようにしているのだ。相沢はそれを経験したこともあったのが、何時か本社に戻れるだろうと思える決意もなかったのだ。
「何時の間にか本社に戻った時には文化部に異動がかかっていた時は抵抗しました。諏訪さんは言うんです。此処では無理だから別の道を探しただけだって言われました。」
彼は戸惑って文化部に入った時に文化部にいた人間の重さを知ったのだ。社会部に異動になった人間が会長賞をもらっていて文化部に新しい風を吹かせていることもわかった矢先だったのかもしれない。引継ぎの話が持ち上がったのだ。会長賞を取った記事だと告げられた。本人に会ってもらうといわれたのだ。
「貴方に会うときは緊張しました。社会部にいても何もなせなかった俺が責任を負ったしか思えなかったんですよね。それも心の何処かでうれしかったんです。認められた気がして・・・。」
彼のこぼす笑みは寂しくも懐かしむ表情を含んでいた。それがうぬぼれだと気づくのは時間はかからなかったのだという。周りの人間からは特別期待はしていないといった心ない言葉に何処か立ち向かえるものがなかったのだ。
「この経験があったからこそ、今の会社で頑張ろうと思えているのかもしれません。もともとコネで入社したことでよく思っていない人のほうが多かったですから・・・。父親の会社を継ぐほどの決意もなく、ただ別の会社に行って働いていたかっただけかもしれません。曖昧な動機のまま、記者になって後悔はありません。」
晴れた笑顔になった時はコーヒーを少し飲んだ時だった。深みのある甘味を感じることができるものに変わっていたからだ。
「加賀美さんに会ったから変われる人も多いと思いますよ。俺もその1人です。今の社長には期待は少ししかありません。」
誇りのない会社はないのだろうと思った。相沢隆成の声は張りのあるものに徐々に変わって言った。




