与えた目
加賀美は諏訪の言葉を聞いてすぐに取材を取り付けるために連絡をした。すると、簡単に了承をしてくれた。以前の取材が偽りなく新聞の記事として載っていたことを知っているからに違いない。信頼を得ている今のうちにしかできないことがあると思ったのだ。
「相手は弁護士です。それものうのうと生きているとしか思えないようにしか映らないんです。それなりの法律で戦ってくると思っています。」
「相手にうっすらと手の内を明かしているんだろうな。」
「はい、一度ジャッジマンについて聞いたことがあります。ヒーローになりたがっているのではないかと聞いたんです。」
諏訪は腕を組んだ。重い面になってしまったのだ。彼に問いかけられているのはショッピングモールの事件とブラックリストと処刑台の事件なのだ。悩んで当然と言ったところになってしまうのだ。彼の抱え込んでいる荷物を下ろす手段を加賀美も持ち合わせていないわけではないが、もっていないに等しいのかもしれない。
「お前の手でこの事件を終わらすのが金城が求める最終回だ。金城はきっと卜部恭介が殺されたときに喜んでいるわけではなかっただろうな。業を燃やすことはいけないが、何処かで燃やしてこその道ってことがある。」
金城は父親を慕っていたことを知っている。交番勤務しかしなかった父親を笑った人間もいたらしいが、それも逆に笑ってのけたほどの力だったのだ。卜部に立ち向かった勇敢さをたたえる新聞もあったが、何処かしっくりこなかったのだという。
「金城が言うには共感がない記事は被害者が読んでも共感がないといってな。ただ共感したのが俺の記事だったといっていた。その場の状況を並べた記事を読んだところで薄れるだけだといっていた。だからこそ、金城には卜部恭介を調べさせたんだ。加害者を知ることも仕事の一環としてさせたんだ。」
金城は最初は戸惑っていたのだという。被害者遺族であることを公に書くこともできない状態に陥っていることも知っていたのだ。記者としての覚悟を見せるために卜部恭介の生い立ちを調べたのだ。そこで浮かんだのは兄の小道具のようにして育っていたのだ。高校ですら行きたい高校に行けなかったこともあったのだろう。
「加賀美、立ち向かえ。無理にとは言わない。それが正義を追い求めた結果として残っているとすれば・・・だ。後悔で押しつぶされそうになったりしないようにしろ。それが俺の願いだ。・・・さぁ、俺も記事を書いて戦うかな。」
彼は言い終わるとパソコンに目を向けた。




