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落掌  作者: 実嵐
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やけどの跡

「貴方って案外、重い荷物に弱いのね。・・・記事は簡単に書いているわけじゃないでしょ。」

「そうですけど。俺もまさか犯人にたどり着くとも思っていなかったんです。金城さんに言われて調べ出してそこからわかっているんです。」

加賀美はコーヒーカップを眺めた。そこに映るのは水面に映るだけの映像なのかもしれないのだ。沼田は笑うことなく、真剣な顔をしている。

「私からしたらそのほうがいいわ。無駄に強がって壊れていくのを知らずに眺めるなんて性に合わないもの。大きな記事を書けるのは敵だと思っている部分があるから書けるわけじゃない。それでも求めている人がいるものなのよ。」

彼女はパフェをつつきながら時折考えるようにしているようにしている。沼田彩芽は後悔という言葉を告げた。週刊誌にいたときには必死になっているだけで今のように落ち着いてみることなんてままならなかったのだ。その時に上司から指摘を受けることなく週刊誌の記者として名乗っているようになってしまったことに後悔があったのだ。丁寧に取材をすることを身に着けたのは日楽の新聞記者になってからなのだ。

「此処のほうが前にいたときより声をかけてくれることも多いの。以前いた週刊誌って出来高制ってこともあってか、嘘を書くことも躊躇しなかったの。今は違うわ。真実をいかに認めてもらうかとか周知してもらうかのほうが大切だから。」

「人を傷つけていたんですね?」

「そうね。・・・生活のためって言い訳を作ってね。エゴも甚だしいこともあるけど。週刊誌の時に人を1人殺したようなものよ。」

沼田は加賀美に対してためらいもなく話をし始めた。ある学者を取り上げることになったのだ。その時にその論文が嘘であると書いたのだ。有名になりたくて書いたものであると書いてしまったのだ。それをマスコミが注目をしたのだ。テレビがこぞって取り上げたのはそれなりに有名になった時に書いたこともあったのだ。

「それでその学者さんはなくなったのよ。自殺よ。遺書には嘘を書いた覚えはないって書かれていたけど、その時にはテレビでは取り上げられなかったのよ。その残酷さを思い知った気がしたのよ。」

嘘を書いてしまったことで消してしまった灯の重さを知ったのは新聞社に入ったからだった。重要な研究をしていた人であったために、その研究の取次が出来ぬまま死んでしまったのだ。

「それが私の世間に取り上げられない過ちよ。後悔しかないわ。」

じっと見つめているしかなかったカップが揺れた。

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