空白の時間
彼女が現れたのは喫茶店に入って数時間経ったときだった。取材に手間取ることはなく、行えることもあって根気強く取材相手に押し入っていていたとしか考えられないのだ。
「すいません。遅れました。」
「いや、構わまないよ。こっちも急に来ただけやし、それにお前が東京地検に出向くなんてよっぽどやな。」
店主がタイミングよくミルクティーを出した。出されたミルクティーを全て飲み干す勢いで飲んでいる。彼女の週刊誌にいたときの貪欲さはやけに残っているようでもあった。
「それで彼は誰ですか?」
「お前はいなかったのか。加賀美仁や。同じ社会部にいてもう半年たつんやが、あと半年くらいでやめてしまうんや。惜しい存在や。」
「金城さんが言うのならよほどですね。それじゃあ何処かの週刊誌や出版社の途中採用ですか?」
矢継ぎ早に質問をしていた。金城は嫌がることなく答える様子を眺めているようになっている模様だ。それでも見えることもある。彼女は何処かで得たい答えを導くための質問を最初にすることなく遠巻きにしているのだ。
「違う。加賀美は前は文化部にいたんや。そこで会長賞を取ったことで部長がえらく興味を示して半年前に社会部に入ったや。入って普通だと書けない記事すら書くんや。それが荻元の記事やったり、ハローナイスの記事や。」
「そうだったんですね。その記事はてっきり金城さんが書いているのかとも思っていました。ああいう記事って金城さんが主に書いていたじゃないですか?」
「前はな。俺はブラックリストと処刑台を調べたときに知った内容を公にする心意気にほっとしているんや。権力に怯えへん人材がいたっていいんやって教えているんや。そのために今はおるんや。」
沼田は空になったカップを見て、店主に同じ奴を注文をしていた。部長から呼び出しを食らったこともあって経費で落ちるものと思っているのかもしれない。加賀美は彼女の眼に見えるほどの記者魂をまじまじと見せられているようにしか思えなかった。それでも話を聞いていて尊敬にもとれる態度に変貌しているようでもあった。
「文化部って羽鳥さんが部長をしているじゃないですか。そこで連載をもっていたうえに会長賞を取ったって言われるとほどの力があるとしか思えないんですが・・・。」
「ないんや。加賀美は寺の坊主の息子や。自力で勝ち取った居場所や。それで開拓するんやから、ひやひやしているもんもいるやろな。」
「そうですよね。面白くないって思うでしょうね。」
沼田はボソッと言って空になったカップを見た。




