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落掌  作者: 実嵐
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飲まれていく色

加賀美は日楽新聞に戻った時に見おぼえるのある姿があったために声をかけた。

「すいません。」

「あれ?加賀美君じゃない。」

声をかけると快く答えてくれるのだ。彼女はそっと邪魔にならないところへと向かったのだ。

「伯がね、加賀美君を珍しく止めたっていう話を諏訪さんから聞いたのよ。あの子はブラックリストとs時計台の事件に真剣に取り組まない人間ばかりに会ってきてうんざりしたんじゃないの。親のこともあるしね。・・・そうだ。こんなところで話すのもなんだからカフェでも行かない?」

正美は笑顔で言った。聞くところによると警視庁での仕事が休みになった上に卜部恭介がなくなったことも折り重なってしまって心配で来たのだという。様子を見たかったが会うのも気が知れたので、受付で終わらせようとしたときに諏訪に会い、応接室で深く話したのだという。日楽からも程近いカフェに寄った。店員が何処かで駆け足で抜けていくようでもあった。カフェの隅のほうに座った。

「伯は正義感があれほど強かったわけじゃないの。泣き虫だった。父親がよくなだめていたわよ。困った弟とも思ったこともなかった。かわいかったから。父が殺されたときは家族全員が壊れそうになったの。その時に救ってくれたのが、貴方のお父さんよ。逃げる場所も教えてくれたの。・・・じゃなきゃ、警視庁の経理担当であろうと警視庁に入ろうだなんて思わなかった。・・・嫌だった。」

正美はケーキセットを頼んでいたので好みのケーキを選べると知って喜んで頼んだのだ。加賀美もそれを頼んだ。警視庁という場があったから父親は死んだのだとも思っていた時があったのだという。警察という組織にいた父を憎むことになりかけたのかもしれない。

「貴方のお父さんはそれを言う場所を与えてくれた上に答えてくれたの。そのままでいいとは思わないってね。母親は黙って聞いていたわ。恨むことを間違えると業というのは誤った方向に向いてしまうから、安易にするなってね。」

前に会った時に見た喜々とした目を思い出した。自分を救ってくれた人間の子供が弟と同じ職場で働いていてその上、部下になったことを知ったのだ。恩返しもしたくなったのかもしれないのだと。

「私も警視庁にいる分、まだ伯のことは気になるわ。だけど、卜部恭介が殺されたことを知って殺した犯人を恨んでいるわ。釈放されて出てきて殺されることを思って出てきたんだってわかっているからよ。心っていうのは面倒で厄介よね。」

彼女はケーキの前に出てきた紅茶にレモンを入れた。

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