壊れた日
加賀美は指定されたカフェへと先に向かった。受付をしていた女性の言葉が引っかかった。林良助こと卜部良助は弁護士としてハローナイスにいたはずだが、弁護士の資格をはく奪されたみたいなことを言っていたのだ。再びカフェへと行くと少しだけ席が詰まっていた。
「加賀美さん。席は空いていますよ。ハローナイスのほうから先ほど電話がかかって来たんですよ。何時もの席を取っておいてくれって。諏訪義之の請負人だから下手な席にするなって。・・・むしろ逆ですよ。卜部良助ごときにそこまでいい席なんていれないです。」
マスターが言ういい席というのはカウンターとカウンターとの間にあるテーブル席のことだ。そこは何処か狭いようにも感じてしまうが、広々と感じてしまう位なのだ。柱がちょうど境目のようにもなっているのだと。個室のようにもなってしまう。
「うまいコーヒーはよりをかけて入れますから待っていてください。」
マスターはそう言ってカウンターのほうへと消えた。此処のカフェはケーキも売りにしているのか、ケーキだけを買いに来る客も時たま訪れるのだ。カフェのドアが重々しく空いたときに座っていた客がみな、ドアのほうへと顔を向けた。電動車いすを走らせていた。電動車いすの上にはパソコンが載っているのだ。
「すいません、お待たせしました。」
声を震わせた音ではなく、何処か機械が作り出した音が鳴らしていた。マスターはその様子を見て、テーブル席においてあった椅子を回収した。周りの人達は何処か怪訝そうな顔を繰り返すばかりだ。
「いえ、それほど待っておりません。」
「そうですか・・・。この生活を繰り返して毎回いうようにしているんですよ。なんせ弁護士資格をはく奪された人間を受け入れてくれる会社なんですから感謝しないと・・・。」
「はく奪されたというのは?」
「荻元光の元で弁護士の経験をしている中で暴力団とのかかわりがあったと認められた弁護士には東京弁護士会からはく奪されるという決定が下されて実行されたんです。荻元弁護士事務所にいて無事に弁護士ができるのは1人しかいません。」
卜部良助がパソコンで打っている文字を見た。黒岩隆吾と書かれていたのだ。理由も言っていたのだ。荻元が黒岩幸吉の件で黒岩を嫌っていたこともあって、闇の組織に関することは一切させなかったのだ。表向きの弁護士業務しか行っていなかったことが功を奏したともいえるのだ。
「貴方はそれでよかったんですか?兄弟が壊れてしまったのだろうとしても貴方はそれで・・・。」




