羽織ったジャケット
翌日になり、加賀美は狭い部屋で起きることになった。少しだけでも狭い部屋に慣れているのかもしれないと感じた。彼は思い出したかのようにブラックリストを覗いた。そこには佐藤の名がずらっと書かれていたのだ。佐藤敏夫の情報にあふれかえっているのにおののくこともなかったのだ。その掲示板を見ながら、イヤホンを耳に付けた。ジャッジマンの何処か特徴のある声に聞き覚えがあったのだ。
「正義っていうのは貴方は何だと思っているんですか?」
「悪を排除するだけでは終わらないんです。悪を生み出す側にもそれなりの責任があるんです。例えば、黒岩幸吉とかね。有名なんですよ。黒岩幸吉は伊達の弁護士すらも負かすくらいの人物であるが故に悪がはびこっているんです。」
ジャッジマンは平然と言っているように聞こえるのだ。須藤の時々息の飲む音がするのだ。それほどの言葉を毎回発しているのだともとらえてしまえるのだ。
「それは貴方の希望の穴埋めに過ぎないじゃないのですか?」
「最初はそうだったかもしれません。ですが、今は違うんです。ネット上において俺の活躍を求めている人がいるんです。懺悔をすることなく、のうのうと生きている犯罪者を見つめていると嫌気がさすんです。これっぽちの反省がなく、何処か正義面した顔を出してテレビカメラの前に映ると笑顔を見せる覇気違いの奴もいる。それを正すための行動なんですよ。」
語尾を強めて言っているところを聞いていると興奮しているのだろう。テレビに映る犯罪者の行動を見ているといらだつときもあるが、それも新たな行動として浮かび上がってくると考えたのだ。
「次のターゲットとかあるんですか?」
「ないですよ。もっぱらネット上に書かれた犯罪者を探るまでです。情報提供してくれる人もいるので、探す手間が減ってうれしい限りです。」
ジャッジマンが席を立つときに伝票をもっていったのだろう。須藤に対してこれは口止め料であるとでも言ったのではないかと思ったのだ。公になった時に明かすことがないようにしておきたい人物となってくるのだ。検察官についても詳しかったこともかんがみるとおそらく弁護士だろうと思った。忙しくて時間がないのに殺人に時間をかけていたのだ。過去の新聞を掘り返すよりも今はネットのほうが速いのだから。
加賀美はすっと立ち上がってジャケットを羽織った。少しだけ着飾った衣装にしたのだ。これはあくまでも会社に行くための準備に過ぎないのだ。




