すっとのっけ
金城には重い話だったかもしれないのは感じてしまうのだ。何処かで生まれてしまっても救えないと思われても仕方ないのだ。少しだけでも思ってしまった。彼の心を覗いているつもりでもないのかもしれない。
「見える世界だけが全てやないんや。ネットで描かれる世界もあるし、そこだけで浮き出される世間もあるんねん。最後に悪口を書いたところでかえって来るのは自分やねんから、匿名だからと高をくくっても仕方ないのだ。」
金城はそう言っていた。匿名だと思っているのは思い違いなのだ。しょせんは探ったらばれるのだ。それすらもきっとわかっていないのに・・・。嘘を描いたとしても何処かが真実か見こせない小ささを感じてしまっている。編集をするということはどうなっても責任を持つということになるのだ。見えていることになるのだ。
「加賀美は偉いんや。新聞記者としての誇りもあって、文化部からいきなり入ったのに社会部としての活動をしているからな。したがらないやつはやらないだけで何もならへんのや。羽鳥さんが気に入っていたわけが分かったわ。」
加賀美にとっては文化部にいたころは必至だったのだ。事件を追っているわけでもないので、地方の祭りに出向いたりして情報を集めることに注視していたのだ。認めてもらいたいとかないのだ。耐えられないものが別段、あったわけではなかったのだ。張り切った時に見えてしまうものがあったのだろうか。晴れて新聞記者になったとしてキチンとできないといけないと思ってやめた部分もあったのだ。
「金城さんが思っているほど俺はすごくないですよ。新聞記者としてやり止めないといけないと思っているまでです。何時か終わってしまう仕事があるのだとしか思えないんです。その何時かが明確になった今、でたらめにしてやって終わったら後悔しますから。羽鳥さんも諏訪さんも俺を何かすごく見すぎなんです。そんな人間じゃないです。」
それでも金城はそうじゃないという代わりに首を必死に横に振っていた。示すことがあるのだろうかとも思ってしまうのだ。定めがあると知っている人間のほうが理に対して敏感なのかもしれないとも感じた。
「そないなことを言うのはよくないで。・・・黙って受け取っておくことの大切さがあんねんな。俺もそんなことを言っていた時期があったんや。そこまで否定してしもたら自分も否定しまう可能性があるからな。そこそこにしときや。」
そういって彼はドアを開けてすっといなくなった。




