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落掌  作者: 実嵐
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消えぬ時計

金城は加賀美の隣で重苦しい顔をしていた。

「こりゃ、お前にとっては気持ち的にも重い事件やな。ブラックリストと処刑台の犯人を捕まえる手段をもっているわけやないのに、犯人が分かったところで何ができるんや。無力やろ・・・。」

彼の言葉の意味も分かっているのだ。確かに新聞記者が犯人をわかったところで何もできないのだ。住職がするように説法を唱えるくらいしかできないのだろう。それをしたところで効果があるのだろうか。良心を失った人間に通じるものがあるとも思えない。

「それでもできることはします。・・・マスコミというのは無力な部分が多いかもしれないですけど・・・。」

時が進むのは早いのだが、止まらないのだ。進んで行っては何処かで立ち止まって考える場所がないと何処か他のところへと向かってしまうのだ。

「お前は寺の住職になるんや。それもまた何かを生み出すんや。俺はもし何かあってもやめはしない。社会部にいたときに考えるんだ。俺は親父の仇を取るとか取らないとかいう話やない。ただ事件を追うことで見える世界が違ってくるのはよう知っとる噺や。」

金城はふっと目を閉じた。それには何も考えないという意味を含んでいるわけではないのだ。動いている事件について考えているのだろう。

「そういえば、金城さん。」

「なんや?」

「卜部恭介が殺されたと知った時にお姉さんは何か言っていましたか?」

純粋に聞いてみたかったのだ。殺される前に会っているのだが、多くは語っていなかったのだ。警視庁の経理をしているのだ。事件にはかかわらないとしても何処かで警視庁で働いているということはそういう意味なのだろう。

「姉貴は恨みを言わへんねんや。卜部恭介っていう男を俺が探ったまでやからな。境遇もわかった上で事件を起こして反省文を送って来とったけど、しょせんは裁判用のでたらめとかいうっていたんは姉貴やったし。本当に気持ちがあるんやったら親父の墓参りくらいはしてほしいと思っていたんや。」

卜部恭介が模倣囚として出てきて最初にいった場所が金城正一の墓だったことが分かったのだ。きっと彼の本心だったのだと思ったのだ。釈放されたときに殺されるまでの間に被害者の墓を回ろうとしていたのではないかと思ってしまった。

「せやから、心の何処かで許してるんや。彼だけが悪かったんやない。卜部良助のほうがよっぽど悪いんや。図々しく生きているだけや。悪事は今も続いているんやし・・・。」

金城はぽつぽつとつぶやいて空気と共に消えて言ってしまった。

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