進むべき道を崖となして
須藤と話しているうちに加賀美にも思うところが浮かんできたのだ。ブラックリストと処刑台の犯人はきっとネット上でヒーローとして持ち上げられるのを喜んでいるのだと思った。
「そろそろ会社に戻りますね。」
「えぇ、いつでもきて構わないですよ。さえない喫茶店の店主が役に立っているんだと実感する時間なんです。それに親父の置き土産だとも思っています。」
彼はそう言ってうれしそうな顔をしていた。笑った顔は何処か幼げに見えて、確信をつくとこわばった顔をするのだと思ってしまった。父親が刑事として働いていた姿を見ていた子供というのは偉大だと思っていたのだろう。退職してもなお、刑事だった功績を消せなかったことすらも嫌だとも思えなかったのだろうから。
「ユリの花のように人は強くないとも言えないといっていたんですよ。欲望に駆られることも少なからずあるんですけど・・・。」
「そうですね。植物のように強くなっているんですよね。何処かで吐き出し口さえあればそれで構わないんです。間違いを犯さないということも条件です。」
須藤にそう言って加賀美は喫茶店を出た。彼はさえない喫茶店の店主だといっていたが、心意気はさえないどころか刑事と同じように熱をもってやっているようにしか思えなかった。加賀美はスマホを取り出した。金城に連絡をするためだ。
「もしもし、加賀美です。」
「加賀美かいな。どないしたんや?」
「いえ、会社に戻らずにネットカフェで少し観察しようかと思ったんです。卜部恭介が死んだことで新たなターゲットが上がっていないかと思ってしまったんです。金城さんも思うところがあるでしょうけど・・・。」
加賀美が含みたっぷりに言うと金城は何処かでふっと笑った感じがあった。金城にとっては父親を殺した犯人が死んだなのだ。恨みも隠したままで生きていたのだ。
「そりゃないわ。俺にとっては卜部恭介の行いに恨んどっただけや。親父はかえって来ないのもわかっているんやし。ブラックリストも処刑台も終わったわけやない。俺だけの個人的な感情だけで思うんは場違いや。なら、俺は社会部の記者なんかしとらんわ。」
豪快な言葉で加賀美が思っていた不安を取り除いていた。金城にとっては一時の悲しみだけではならないだろう。いくら卜部を恨んだとしても彼も殺されてしまったのだ。卜部自身も死ぬ覚悟で出てきたとわかっているからこその思いなのだろうと思った。
「そうや。加賀美。」
「はい。」
「加賀美が使うネットカフェの名前を教えてくれ。あと部屋番号をな。・・・止めんとおえんから。」
加賀美はカードケースからネットカフェの名前を言って番号は後々という形で伝えた。




