消える傷
ジャッジマンと名乗った男性は何処か堅物そうな恰好で現れたのだ。そのこともあってか、須藤は驚いてしまったのだが、少しだけ口調が親しみやすさをにじませていた。
「それで話とは何ですかね?」
堅物な男性はすっと話し込んできた。須藤はそのまま、深くは入り込んではいけないと思って職業までは聞けなかった・・・。スーツにバッジがついているようにも見えた。
「貴方は何故、ジャッジマンと名乗っているんですか?」
「裁判を行っているようなものですよ。公開処刑とかいろいろあるでしょう。・・・裁判官の指図で野放しにされる犯罪者を放っておくほどのお人よしでもないです。」
彼の眼には輝きを持った光があるわけでもなく、影を抱えたような目をしたまま答えているようでもあったのだ。須藤にとっていろんな客と出会ってきたわけであるが、ジャッジマンと名乗った男のように深く闇を1人で抱え込んでいるようにしか見えなかった。須藤には言える言葉はなかった。かけるほどの安い言葉を連ねるしかないと思ったからだ。
「俺の手で始末しているとは今は思っていないんですよ。世間が味方に付いてくれているのだと思ったんです。犯罪者を見てきたわけじゃないですが・・・。真実を知ると驚いてしまいますよ。ある時に本当は自分で起こしていたと終わった後に告げるだとなんて卑怯な人がするんです。」
「それで書き込みを見てやるのも悪くないと時間が経つにつれて思うときもあるんですよ。時が良くも悪くも思うんです。」
彼が飲んだコーヒーには苦さが増すばかりで甘さも感じないようなほど黒く染まっているようでもあった。須藤にとっては苦すぎてしまって飲むをあきらめて、ミルクで黒さを薄めて言ったのだ。
「ただ本業のことを考えるとやめたほうがいいんですよ。だけど、やめられない何かが突き動かすんです。家族からの重さがのしかかってしまった結末とかも言えないんです。」
「ただ逃げたかったですか?」
「えぇ、それが此処まで大きくなるとも思えなかったんです。」
最初はただのうっ憤ばらしにやっていただけだが、時間が流れ、ヒーローのように扱われてしまってしまったのだ。それでそこから逃れる方法を探すのをやめてしまったのだ。ジャッジマンが背負ったものの大きさがあるのだ。それは伊達ではこなせないものの大きさでもあったのだ。ジャッジマンが逃げるために作ったものが世間からも家族からも追われることになったが重さは薄くなったのだ。
「面白いですよ。」
乾いた笑顔が須藤にとっては痛くなってしまった。




