行方不明の言葉
黒岩隆吾に会う約束の日になった。黒岩がやっている法律事務所はさびれたところにあるようである。立地のことも考えてか警視庁の近くに表示されていた。細い路地へと向かったのだ。荻元についても話そうと思うが、黒岩自身はどう思っているのかと計り知れないところに入る気がしてならなかった。古びたビルの郵便受けのところに黒岩法律事務所と書かれてあった。2階にあるのだろう。昔ながらの少し急で細い階段を上がっていった。そこには法律事務所の札がかかったドアが見えた。ドアをノックすると黒岩が顔を出した。
「すいません。日楽新聞の加賀美です。」
「言わなくても結構ですよ。知ってますからね。それで取材ですよね。」
加賀美と来るとなってか急いで資料とかを机の上から取り除いた感じがした。黒岩の隣に若い男性が座っていた。
「彼は弁護士になりたいという子なんですよ。いくら法学部にいたとしても弁護士になった時に苦労するかもしれないから見てほしいといわれたので、アルバイトとして雇っているんです。弁護士という職は世にあふれていますからね。いい腕の弁護士とそうでない弁護士もいるのも事実です。」
ソファに座ると若い男性がお茶をもって来た。アルバイトだとしてもパラリーガルとしても雇っているのも同然なのだろう。加賀美はその話の中で荻元の話をするのはためらった。新聞を読んでいるため、知っているとしか思えないのだが・・・。
「加賀美さんの初めての記事が荻元先生のところだったんですね。」
「えぇ、その場で起きた出来事を書いたに過ぎないんですよね。これしかできないですし、藤沢さんもかなり見放されているようにも思えて・・・。確かに偽装とかはいけないですけど、それも仕事ではないかと思ってしまって・・・。」
「確かにそうですよ。荻元先生は暴力団とかと手を組んだりとか平気でしていたんです。その癖、外面はよくしようと大企業の顧問弁護士になるんです。大きな訴訟とか起きたときは見捨てるんですよね。守らないのがモットーな感じがしていたんです。私も検事をやめたこともあって大きな事務所は雇ってもらえなくて、どうにか荻元先生のところで雇われたのはよかったんですが、卜部良助が顧問弁護士として腕を磨いていた過去があったんです。」
荻元はそれでも黒岩隆吾をこき使っているのだろうかと思ってしまう。卜部は顧問弁護士としている会社は今はもうないと黒岩は言った。卜部は弁護士として生きていけないように弟は思ったのではないかといった。
「荻元法律事務所は弁護士を育てる組織ではないですから。給料だけはよかったです。」
漏らす言葉の裏にあるものを必死に加賀美は探した。




