書くための覚悟
加賀美が日楽新聞のビルに戻ると社会部がある階に行くとエレベーターホールで金城がどっしりと構えた姿でいた。缶コーヒーを片手に抱えている。
「面白い話を聞けたのは幸いやったな。」
「偶然の産物ですよ。まぁ、休憩スペースで話しませんか?」
彼はうなずいて、缶コーヒーを手渡した。金城はあいているソファに座るとその近くに加賀美も座った。荻元法律事務所で起きたことを告げた。見掛け倒しの法律事務所であることを伝えた。
「それはお前がかけ。記事にして載せて真実を明かす義務ってのがあるんや。嘘を書くんやない。それが事実なんやから、あっけらかんとして明かすほうがええ。責任は諏訪さんがとってくれるわ。面白い話やし、壊してしまっても後悔のないような場所なら余計にや。部長は嫌いやねん。偽善者気取りがな。」
「そうなんですね。」
少しだけ静まりかえった時を眺めていた。金城は言って自分の机に帰ってしまった。加賀美は少しだけ残っていたくて、休憩スペースに残っていた。すると、話を聞きつけた諏訪がのこのこと現れた。
「すごい産物を取ってきたって金城がうれしそうに言ってきたんだ。珍しいこともあるものだ。・・・加賀美、気兼ねなくかけ。これが仕事だってことを示したってくれ。荻元の悪事が週刊誌に載っていることもわかっているからな。」
「荻元って週刊誌に載っていたんですか?」
「あぁ、言っても1年前くらいの話だがな。何処かの別の出版社が書いたんだってさ。その時は力が強かったから、つぶされたって話だ。その出版社の記者は解雇に値するとしてやめさせられたらしいんだ。今もフリーのライターとして動いてるっていう噂だ。その真実が明るみに出るチャンスだとしか思えていない。」
諏訪はそう言って励ますように肩をたたいて行っていなくなってしまった。荻元の後ろに政治家がいたのではないかと思ってしまうしかなかったのだ。荻元の力は今となっては薄れている時期だとも言われているのだ。政治家さえも頼らない弁護士事務所となってしまったのだ。加賀美にとっては弁護士の仮面をかぶった悪党にしか映らなかったのだ。荻元の態度や周りの人間の動きが明らかに可笑しかったのだ。誰も唱えないものなら唱えることくらい容易なのだ。彼はソファから立ち上がって自分の机へと戻ったのだ。パソコンを開き、ボイスレコーダーを取り出した。隠していたボイスレコーダーが動き始めた。世間に知らせるための記事であると思ったのだ。