漏れる声
荻元は所長代理がいなくなった後に何処か取り繕った態度を示しだしてきた。新聞記者がそばで見ていたことを思い出したのだろう。
「先ほどの藤沢社長というのは・・・?」
「藤沢隆です。Fフーズという食品会社なんですよ。商品の裏に明記されているものを書き換えていることも裁判にかかっているんですよね。それとかなり国内で製造と書かれているのに国内ではなく、海外で作られていることについてあるんです。その責任を逃れるために裁判に受けないといって来たりもする人なんです。」
荻元は急ぐように言った。Fフーズというのは老舗といわれる企業なのだ。かなり冷凍食品など多くのものを取り扱っていることもあって選ばないことがない会社だとも言われているのだ。食品に明記されていることが違うと週刊誌に書かれたのだろうと思われる。それで明かした社員をクビにしたのだろう。全てが見えてきてしまったのだ。藤沢隆はそれから逃れるために裁判にも出ないといっているのだろうかと思った。民事裁判ですらもえり好みをしているようにしか思えなかった。広告などでは親身に相談を受けるなど謳い文句を言っているようだが、全くの違いを感じてうんざりしてしまった。加賀美としても聞くことは聞けたので出て行ってもいいかもしれない。
「お忙しい中取材を受けてもらって有難うございました。これで帰ります。」
加賀美がソファから立ち上がると荻元が慌てた様子で加賀美に近づいて行った。
「このことは書かないでもらえませんか?事務所にはかなり腕利きの弁護士も在籍しています。もし、フリーならば私が第一に請け負いますので・・・。」
「俺はフリーではなく、会社に属していますので、安心なさってください。貴方のような利益のために相談者を切り捨てるような弁護士事務所の何処に安心なんですか?・・・黒岩さんだって黒岩幸吉という人が嫌なだけであって、黒岩隆吾っていう人は関係ないのに、刑事事件をさせずに顧問弁護士をさせてやめさせたに過ぎないじゃないですか?」
彼が矢継ぎ早に言うと荻元が狼狽させていった。誠実さよりも利益だけを見てきてしまったが故に失ったものが多いのだろう。
「卜部良助にはいい扱いをしたのは卜部商事との関係があったからだといっているのも同然ですよ。・・・この事務所はいずれつぶれますよ。依頼者を大切にしない弁護士事務所は存在してはならないと思っています。」
加賀美は荻元にそう告げて所長室から出て行った。ビルから出て緊張感がすーとなくなっていった。彼は携帯を取り出した。
「もしもし。」
「金城や。」
「卜部良助や黒岩隆吾の話はあとにして、面白い話が聴けましたよ。」
「そうか。かえってから聞くわ。」
金城は嬉しそうに受け答えをした。




