戦をするにも負けとか勝ちとか
荻元に会う時間になったため、少し着飾った服で向かった。スマホに映し出される地図に導かれるままにいった。大きなビルにあふれた場所にあるということなのだろうか。小さな店が連なっているところにあると表示されている。豪華なビルにつくとポストのところを見ると、荻元法律事務所と書かれていた。入口には厳重に受付の女性が生真面目に座っていた。
「すいません。日楽新聞の加賀美といいます。荻元さんと会う約束をしているのですが・・・。」
「荻元ですね。現在、所長室にいますので案内する人が来るまで少々お待ちください。」
女性はそう言って応接室へと導いた。応接室はゆったりとした空間で何処にも押し付けるような感じを感じなかった。それかそういう風に見せているだけなのかもしれないと思ったりしたのだ。応接室でコーヒーを飲んでいるとノックの音が響いた。応答すると黒スーツに銀縁眼鏡といったいかにもといった男性が現れた。
「日楽新聞の方ですか?」
「そうです。」
彼は名刺を出した。彼の肩書は所長代理となっている。何処かにいった時に彼が事務所としての決定権を持つという証のようにも思えた。加賀美も名刺を出すと、彼はじっと名刺を見つめていぶかしい顔をした。
「どうなさいました?」
「何をお聞きになりたいのですか?」
声色を少しばかり変えたのだ。怒ったようにもとらえることができるようにしているのだ。加賀美にとってはそんなのは朝飯前だった。
「事務所について聞きたいだけですよ。深く考えすぎではないのですか?・・・それとも聞かれては困ることでもあるんですか?」
「いいえ。」
彼は戸惑ったようで必死に手を横に振った。加賀美の最後の言葉が爆弾となったのだろうと思ったのだ。彼はそのまま、エレベーターへと向かう道を案内してくれた。丁寧に教えてくれたのだ。荻元光という弁護士は刑事事件において冤罪であることを証明してきた人間であるといった。その時に1度だけ破れた事件があったのだ。検事が上手であったこともあってか、対抗できなかったことを後悔して更なる上を目指してということで事務所を開いたのだという。
「負けたときの検事って黒岩隆吾ですか?」
「違います。黒岩幸吉といってかなりのベテランだった人みたいです。調べることもかなり詳しかったこともあって負け戦をさせられたと嘆いていましたよ。」
黒岩幸吉というのは検事の中でかなりトップの立場にある人物なのだ。物証もそろっていた事件であったのだ。




