起点を動かす
彼女に聞くと検察一家である黒岩という家はかなり立場を持つ人達の集まりなのだという。隆吾だけは何処か違ったらしく、法科大学院に通っているときに裁判官になりたいといっていたのだ。その言葉に怒った父親は勘当することを条件になるか、それとも検事になってそれでもなりたければなっても構わないが、時間が経った後にはいなかった存在にするとなっていたのだという。
「その話を聞いたときには私にとってはどちらも同じではないかと思ったんですよ。・・・まぁ、彼自身は美大を目指していたくらいですからね。それもいろいろ言われてあきらめたみたいです。長男じゃないから家を継ぐことも考えなくてもいいが、検察には入れと言われたようです。検事をやめたのは結婚したから見たいです。」
黒岩の奥さんが検事でもかなり上の立場の人がいる家計であったことを利用して検事をやめて結婚したのだ。父親もぐうの音が出ないようにしたのだろう。その奥さんはしたいことをすればいいといって黒岩を見ているのだという。奥さんは弁護士となって給料が下がることも考慮した上で仕事を続けているのだという。奥さんにとってもよかったのが仕事をすることにぐちぐちいうことなく働ける環境になっていたのだ。
「黒岩隆吾の奥さんって大手企業の幹部になるらしくって、黒岩はその恩義で顧問弁護士になっているのではないかという根っからの噂ですよ。奥さんに対しては逆らうことができない現実があるのでしょう。」
あの時に警視庁に行っていたのは奥さんが幹部の会社だったからではないのかと思ってしまったのだ。そして恨まれることはないようにしていたのかもしれない。ブラックリストは警察にとっては進まない事件で加えて容疑者を取り逃がした原因の人物が弁護士として現れたらと思ったら少しぞっとしてしまったのだ。頭が上がらないままになってしまっているのだ。黒岩は弁護士としては売れてないのだ。無罪判決の出る事件を担当したわけでもないからだ。
「大手の事務所も見くびったじゃないんですかね。・・・黒岩に刑事事件を担当させなかった事務所も可笑しいと思いますよ。検事だった人間が検察の手を知らないわけじゃないんですから。」
彼女はそう言って小さな笑みを浮かべてパソコンのほうを見つめた。何故、大手弁護士事務所は刑事事件を扱わせなかったのだろうか。検事だった経歴を調べたうえでさせていたのではないのかと思ってしまうしかなかった。