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落掌  作者: 実嵐
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過去の導き

それでも彼女の道は途切れなかったのは熱意があったからだろうか。ホテルにいた経歴について聞かれることが度々あったのだという。有名ホテルだったこともあってそんな器じゃないと断った店もあったのだという。

「料理を作ってみないと器じゃないかとどうか判断できないでしょ。そんなことを言う店には何も言わずに出て行ったわよ。店にいったとしてもとりあえず料理は食べるだけどね。店の割にはというところが多いのよ。料理人が育っていない証拠と思っていたわ。」

試しでもといって雇ってくれる場所が現れたときにはほっとしたのだという。それほどの自信と熱意があったのだと思った。

「伯君が来た時には此処はそれほど栄えていなかったのよ。けど、日楽新聞で取り上げてもらうように言うって言ってくれて、文化部の確か・・・羽鳥とかいう人が来てね。書いてくれたのよ。あの人すごいのよ。写真も撮ってちゃんと食べて感想も聞かせてもらった上で書いているから安心するのよ。」

羽鳥という人が何故部長としてやっていけるのかも感じ取れる。おかみさんは前菜がなくなったと思ったら新たなものを出した。大皿料理であるが何処か小皿っぽさがあったのだ。それが今までの経験が生み出したものであったのだろう。金城のビールジョッキが空になったのを見て彼女はそそくさと新しいものを出したのだ。

「おかみさんはあんなことを言っているけどさ、本当は何処かで海外で修行してするつもりだったんや。それでもお客を見捨てるのは料理人としてはいけんと思ってやめたんや。それくらい度胸のあって愛情深い人やねんって。俺が導いたんとちゃう。羽鳥さんにじきじきに頼んで広まらせたかったんや。それでも時間の流れには負けるんやね。」

最後の言葉を独り言のようにつぶやく彼を加賀美は何も言えなかった。加賀美にはそれにこたえる器がまだ備わっていないようにも思っているので黙っていることしかできなかった。彼も小さな笑みで答えるようにしていた。

「本当に難しいのは続けることだって俺は聞いたことがあります。」

「そうやね。続けて還元するのも手や。少しでも立ち止まったとしてもいいといってくれる人が現れることも大切やと思うんねん。」

彼は言い終わるとビールを飲んで喉を潤した後に大皿に乗った料理を食べた。うまいとつぶやく姿が本当の彼の素顔であるように思えた。父親の事件のことを忘れたことがないからこそ、新聞社の記者として動いて入れるのだろうと真摯に思った。

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