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落掌  作者: 実嵐
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昔が今へ

 正美は当時、父親の死に対して飲み込むことができなかった。いってもまだ小学校の高学年に上がって、弟の伯は中学年になったといってもまだ低学年から外れたばかりで全くといって受け入れることもできなかったのだ。その時、警視庁で行われた葬儀に来ていた温和な顔をした住職が念仏を唱えているようだった。

「いいかい。今は受け入れることはできないかもしれない。けど、何時かは受け入れて前へと進むしかなくなるんだ。ダメになってもいいさ、人に頼って進むんだ。・・・早いに越したことはないよ。難しく考えないことだ。難しくなると受け入れるだけならとも行かないから。」

「わからないよ。」

「今はわからなくなってもいいさ。いずれわかる。・・・まぁ、うちの寺で遊びなさい。人も多いしいいよ。」

彼はそう言って笑っていた。笑っていたとしても何処か寂しそうな顔は外さなかった。伯は母親に泣きついているばかりだった。だが、父親になついていたのだ。面影が何処か父親に似ている気がしたのだ。その交流があってから母親に言って弟とともに寺に遊ぶようになった。葬儀に現れた住職は加賀美幸信といって、奥さんは楓といって着物を着ていた。彼女は赤ちゃんを抱えていた。その時、彼女は赤ちゃんに対して『仁』といっていたのだ。

 「姉貴・・・姉貴。」

「何をぼーっとしとんねん。うまい飯が冷めてしもたら元も子もないやろ。」

「そうね。昔ね。寺にいった時に仁とかいう赤ちゃんがいたなぁって思ってね。」

正美にとって失ったものを失ったままでも受け入れてくれた場所だったのだ。伯もまた同じだったのだろう。似たような痛みを持つ子供が多かったりしていた。寺で遊ぶ子供は近所の子供も交じっていて、痛みについては突っついてこないのだ。そのこともあって学校で何かを言われても逃げる場所があることを覚えた。寺では住職が念仏を唱えているのをそっと見ていると彼はこっちにおいでというように手招きをした。彼は唱えていた念仏をやめて彼女の隣に来た。

「逃げる場所は必要だが、立ち向かうことも必要だよ。此処でじっくり悩んで選びなさい。ただなってはいけない人間にはならないようにね。」

彼女は黙ってうなずいた。そこに赤ちゃんが乱入してきたのだ。暴れるようにしていても彼は笑ってみていた。

「子供は笑っていればいいんだ。いたずらもして覚えるべきなんだよ。その時になりたいものもきっと見つかっているよ。」

そこで暴れていた赤ちゃんが目の前にいることになる。彼の進むべき道を知っているのだとなる。逃げる場所もあってきっと間違えることもなかったのかもしれない。そして、今は警視庁で経理担当として勤務しているのだ。

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